ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方   作:amon

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第18話『勇者の猛特訓!!眼鏡を掛けた竜、現る!?の巻』

 

 

 

 世界の異変に気付き、俺がデルムリン島に駆け付けた時には、当初考えられた問題はほぼ解決していた――。

 

 島はアバンさんが張った聖なる結界で守られ、偵察と思しきガーゴイルは俺が始末して、ダイやバラン達に一切怪我は無し。

 

 

 一段落して落ち着いてから、色々と事情を聞いた……。

 

 やはり魔王が復活した事……倒したアバンさんが言うんだから、間違いないだろう。

 

 それに伴い、アバンさんがパプニカ王家からの依頼で、ダイを鍛えにやってきた事――ダイがそれを受け入れ、やる気満々な事も聞いた。

 

 それと彼に預けたはずの俺の義弟ヒュンケルがいなかった事について――アバンさんの話によれば、ヒュンケルは飲み込みが良く、1年程で教える事がなくなり、立派な一人前の戦士となって無事に卒業し、旅に出たそうだ。

 

「君を探すと言っていましたから、今もきっと世界を旅して回っている事でしょう」

 

 俺もヒュンケルと別れてから15年間、世界中をあちこち歩き回っていたから、多分すれ違っていたんだろうな。まあ、同じ空の下に生きている以上、いずれどこかで出会うだろう。

 

 

 またそれとは別に……バランの事も、彼が『竜の騎士』の力を失ってしまった事も聞いた。

 

 長らく信じてきた『人間こそ守るべき存在』という考えが、人間を知れば知るほど本当に正しかったのかどうか分からなくなった。その迷いが『竜の紋章』を封じてしまったのだろう、と言っていた……。

 

 バランは厳つい顔に似合わず純粋な心を持っていた様だ。だから、余計に傷ついたんだろう……。

 

「厳つい顔で悪かったな……」

 

 失礼――。

 

 ともあれ、バランが戦えない……戦いたくないと言う以上、無理に『戦え』なんて俺は死んでも言わない。

 

 戦いたい奴、戦う気のある奴が戦えば良いんだ。俺や、ダイみたいな、な……。

 

「さてと、特訓のコースですが……なにしろ時間がないっ!世界中の人々が今こうしている間にも魔王軍の猛攻に苦しめられているはずですからね……!」

 

 そう前置きをして、アバンさんが提示したダイの育成プラン――

 

「そこでダイ君にはズバリ!1週間で勇者になれる『特別(スペシャル)ハードコース』を受けてもらいます!!」

 

「ゲェーーッ!?『特別ハードコース』!?」

 

「ええっ!1週間で勇者になれんの!?やったぁーっ!」

 

 アバンさんが連れていたポップとかいう魔法使い見習いの少年は顔をムンクの叫びにし、ダイは短期間で憧れの勇者になれるという事に顔を輝かせる。

 

「1週間て……んな馬鹿な」

 

「ふざけているのか、あの男……?」

 

 上が俺、次がラーハルトだ。幾ら元勇者のアバンさんが教えると言っても、1週間で勇者になれるなんて信じられる訳がない。大体、もし仮にそんな事が出来てしまったら、アバンさん自身の立場はないだろうに……。

 

「……ゴニョゴニョッ(おい!絶対やめとけっ!!『特別ハードコース』ってのはな!今まで誰もやり通した事がないんで有名なんだ!そんなのやったらお前、死んじまうぞ!!)」

 

 ダイの首根っこを抱えてゴニョゴニョ言ったポップの声は、近くにいた俺には聞こえていた。どうでもいいが、他にも受けた奴いたらしい……その『特別ハードコース』とやら。

 

「ポップ」

 

「うぎっ!?」

 

「あなたも参加して良いんですよ~?後輩に追い抜かれちゃったらかっこ悪いでしょ~?」

 

「じょっ、冗談じゃないっスよ!!オレは、通常の特訓で十分ですから!!」

 

 どうやらこのポップとかいう小僧、あんまり根性はなさそうだ。こういう奴はあんまり好きじゃないな……。

 

「オレ、やるッ!」

 

 ダイはやる気満々で『特別ハードコース』受講を決めた。

 

 

 

 特訓はその翌日から始まった――。

 

 

「うおおおおおおーーーっっ!!」

 

 先ずは早朝の特訓――自分の半分ほどもある岩を3つ、ロープで繋がれて島外周を全力ランニング。俺は走るダイを見守っている。

 

「ゼェ、ゼェ、ヒー、ヒー」

 

 何周か回って、体力が尽きたダイが砂浜に座り込む。岩を引き摺ってこれだけ走り回れるなら、一般的な12歳の男子と比べれば凄まじい体力だ。

 

ズンッ、ズンッ……

 

「ぬ?」

 

 何やら重々しい足音が近づいて来るので振り返って見ると、アバンさんが巨大な岩を抱えて歩いて来ていた。具体的には、ダイが引き摺っていた岩の数十倍はありそうな大岩だ。

 

 アバンさん……見かけによらず腕力あるじゃないか。これでも年齢と自分の修行を怠けた所為で、全盛期より多少衰えていると言うんだから、伊達に勇者じゃなかった訳だ。っていうか、アバンさんでこれならロカさんはどれだけ怪力だったんだ?

 

「ダイ君。これ、剣で割って下さい」

 

「ええっ!?こんなにデッカイ岩を……!?」

 

 事も無げに言うアバンさんに、ダイが目を剥く。

 

「これが初日の課題です。今日中にクリアしちゃってくれないと困ります。なんせ1週間で勇者になれる『特別ハードコース』ですから♪」ニッコリ

 

 笑って言う事じゃないって、アバンさん……。

 

 ともあれダイは、少し前にやった兵士の剣――俺が昔使っていたヤツを軽く修理したのをやった――を構え、大岩に斬りかかる。

 

「でやあああッ!!」

 

ガキンッ!!

 

「うわっ!?」

 

 ダイの力任せの剣は大岩に弾かれ、勢い余ってダイはよろけた。

 

「く、くそぉ~!だあああッ!!」

 

 ムキになって大岩に剣を叩き付けまくるダイ……しかし、大岩には傷がつくだけで一向に割れる気配がない。余談になるが、兵士の剣は大分刃毀れしてしまった……まあ、だからどうという訳ではないが。

 

「ハア、ハア……ダメだ……全然割れないや……」

 

「ふぅむ……まだ無理みたいですね。それじゃあ、また後でという事で……」

 

 見かねたアバンさんがストップをかけ、大岩を片付けた。

 

「では、通常の特訓コースに突入しまーす!アー・ユー・レディー!?」

 

「ハア、ハアッ、ゼェ、ゼェ……」

 

 既に肩で息をするダイだが、目からやる気は失せてはいない。

 

 

 ともかく、その後はアバンさん曰く通常の特訓コース――

 

 

 基礎体力作りのトレーニングから始まり、剣術・格闘技の特訓。

 

 昼メシを挟んでモンスターや技・魔法のお勉強、魔力を高める瞑想、呪文の実習。

 

 

 ここまでが通常の特訓らしい。

 

 そして、『特別ハードコース』を受けるダイは、これらが終わった夕方から再び猛特訓が始まる――。

 

 やるのは主に剣の指導――ダイは、真剣にアバンさんの指導を受けていった。

 

 俺は、『特別ハードコース』とやらがどれ程のものなのか興味があって参加していたんだが、あんなに真剣なダイは、今まで見た事がない……やっぱり、パプニカのお姫様を救う目標があるからだろう。

 

 それに引き換え、ポップは……授業に居眠りするわ、魔法の詰めは甘いわ……1年以上アバンさんに教わって、多少強力な呪文が使える様だが、真剣さはまるで足りない。

 

 俺は気になってその事を指摘したのだが、アバンさんは苦笑いを浮かべた。

 

「あの子は、中々本腰を入れて修業してくれないんですよ。ちょっと厳しい課題を与えると、すぐ諦めてしまうんです」

 

 だったら、強く叱るなり、強制するなりすればいいじゃないか――そう言うと、アバンさんは真剣な表情でこう言った。

 

「確かにそれも1つのやり方なんでしょうけど、私はポップに自分の意志で修業に取り組んでほしいんですよ。私に強制されて修業するより、自分でやる気になってする方が上達も早いですし、何よりポップの為になりますから」

 

 甘いんだか厳しいんだか……。

 

 まあ、ポップは別に身内じゃないから将来どうなろうと自由だし、アバンさんに任せる事にする。

 

 で、身内のダイの事だが……やはり呪文より剣の方が素質がある様だ。

 

 なんと朝に割れなかった大岩を、夕方には剣で割ってしまったのだ。アバンさん曰く――

 

「人間無茶苦茶疲れると。1番楽な動きをしようとします。つまり、1番自然で無駄のない動きです。ダイ君の剣には無駄な動きが多かった……元々ダイ君には、このくらいの岩を割る力があったんです」

 

 理屈は分かるし尤もだが、言う程簡単な事ではない。

 

 ただ疲れさせるだけなら、太刀筋がブレたり、力が入らなくなるだけで結局岩を割る事なんて出来やしない。

 

 アバンさんはダイの体力を『無駄な動きをさせず、且つ岩を割れる』ギリギリの所を見極めて削り、基礎トレーニングや剣術特訓の中で無駄な動きを矯正していったのだ。

 

 その成果が、ダイがその日の終わりに真っ2つに斬り割った大岩――たった1日で、ダイは正しい太刀筋を身に付けてしまった訳だ。

 

 教えるにしろ教わるにしろ、こんな事、俺には到底出来ない……アバンさんの指導力、ダイの学習能力、どっちにも脱帽するしかない。

 

 

 

 2日目も同じ特訓メニュー――ダイの成長は目覚ましく、無駄な動きのない太刀筋を身に付けたダイは剣の特訓において、アバンさんを追い詰め、木刀を持たない左手で受け止めさせた程だ。

 

 そんなダイに、アバンさんはある必殺技を見せた。『アバンストラッシュ』――逆手に持った木刀に闘気を込めて、背後に引き絞った体勢から振り抜き、溜めた闘気を斬撃に乗せて一気に放出する技……アバンさんが編み出した『アバン流刀殺法』の奥義にして、アバンさんの最強の必殺技だそうだ。

 

 ダイは更にやる気を滾らせ、その日の内に『アバン流刀殺法』の初歩――力で相手をぶった斬る剣技『大地斬』をマスターする。

 

 

 そして『特別ハードコース』は3日目に突入する――。

 

 

 その日の早朝は、アバンさんが特別訓練をするからとダイを連れ出した。何をするのか気になるので、俺も同行している。

 

「この先にお望みの大きな洞窟がありますが……そこで一体何をなさるおつもりじゃな?」

 

 そう言ったのはブラスさん――アバンさんが、広くて大きな洞窟はないかと尋ねたので、心当たりの洞窟まで案内してもらっているのだ。

 

「なに、少々派手に暴れますんでね。他の動物達に迷惑が掛からない様に……と」

 

 派手に暴れる……ダイと本気の模擬試合でもするのだろうか?

 

 今朝のアバンさんの様子はいつになく真剣な感じだ。それほど気合いの入った修業という事か……。

 

「ダイ、心して掛かれ。どうやら今日の修業は、これまでとは訳が違うらしいぞ?」

 

「大丈夫!勇者になる為なら、どんな辛い修行も耐えてみせるよっ!」

 

 俺の忠告に、意気込みを露わにするダイ。

 

 

 そうこうしている内に、俺達は山の東側に開いた洞窟に到着した――。

 

 

「ダイ君、君は『大地斬』を覚えてしまいました。従って今日はその上の技を覚えてもらいます」

 

「やったぁ!」

 

「ただし半端じゃないですよ?」

 

「はい!覚悟はできてますっ!」

 

「下手をすると……君は死にます!」

 

「「「!?」」」

 

 アバンさんの口から出たとんでもない一言に、俺とブラスさんとダイは揃って目を丸くする。

 

 一体、どんな凄まじい修行をさせる気なんだ?アバンさんは……。

 

「ブラスさんとゴメちゃんは、危険なのでここまでで遠慮して下さい」

 

「ええっ!?」「ピピィ!?」

 

「俺はいいのかい?アバンさん」

 

「エイト君の実力なら問題ないでしょう。ですが、くれぐれも手出し無用でお願いしますよ?」

 

「分かった」

 

 とはいえ、本当にダイが死ぬ様な状況に陥ったら流石に助けるがな……。アバンさんも、その辺りの塩梅はちゃんと考えているだろうし……。

 

「っ、先生……!一体どんな修行をするんですか!?」

 

「……ついて来なさい」

 

 そう言って洞窟の奥へ向かうアバンさん。ダイもその後をついて行き、俺も後を追う。洞窟は結構深い、広い……俺もデルムリン島にはちょくちょく来ているが、こんな場所があるとは知らなかった。

 

 しばらく歩いたところで、アバンさんが振り返る。

 

「この辺りで良いでしょう。それでは、エイト君は少し下がって見ていてください」

 

「はいよ」

 

 アバンさんの指示に従い、俺は少し後ろに下がり、壁に寄り掛かる。

 

「緊張する事はありませんよ、ダイ君。今日の修行は簡単です」

 

「えっ?」

 

「私と戦うのです。ただし、私はある呪文を使いますから、君は真剣を使ってかまいません」

 

「真剣を……!?」

 

「そうです。たった今から私の皮膚は、鉄よりも固くなってしまいますからね」

 

 鉄よりも固く……?防御力を上げる呪文なら『スカラ』だが、それにしたって真剣を使えば斬れるはず……それに防御力を上げてアバンさんが戦ったとしても、ダイが死ぬって事はないだろう。第一、アバンさんともあろう人がそんな安直な修行を課す訳もない。

 

 とにかく、見守ろう――。

 

「いきますよ、ダイ君!……ふぬッ!!」

 

 アバンさんは突然、足を踏ん張り、歯を食いしばり、全身に力を入れ始めた。呪文を使うモーションではないが、魔法力の高まりを感じる……。

 

「むむむぅぅ……!!『ド・ラ・ゴ・ラ・ム』!!」

 

 呪文を唱えた瞬間、アバンさんの身体が炎に包まれ、次の瞬間その姿は変わった――洞窟いっぱいの巨体、鋭い爪に牙、背中に2枚の翼、頭に2本の角、でも何故か眼鏡はそのまま……。

 

「『グワアアァァァァッッ!!!』」

 

 変身したアバンさんが、咆哮が上げた。その姿を見て、ダイは恐れと戸惑いの声を上げる。

 

「ド、ドラゴンだあっ!!先生がドラゴンに……!!」

 

 火竜変化呪文『ドラゴラム』――ドラクエ3などでは、魔法使いや賢者が高いレベルで習得できる呪文だ。この世界においては、一応名前こそ残っているが、呪文の高度さとMP消費量の多さで使い手がいなくなって久しいと聞いた事がある。

 

 一握りの賢者にしか使えないはずの破邪呪文『マホカトール』に続いて、こんな呪文まで使えるとは……アバンさん、あんた元とは言え勇者だよな?

 

「ピピィー……!!」

 

「ん?」

 

 今の声は、ゴメか?あいつ、ダイが心配でこっそりついて来てたな。声が遠ざかったという事は、外に助けを呼びに行ったか……しょうのない奴だ。

 

「『ありとあらゆるモンスターの中でも最強の力を持つ種族、ドラゴン!それと互角以上に戦えなくては、真の勇者たりえません!私は私の意思を消し、あなたを殺そうとする1頭のドラゴンになります!死にたくなければ戦い、私を打ち倒すのです!!』」

 

「そんな……!?幾らなんでも無茶だよ!アバン先生っ!!」

 

 ダイが叫ぶがアバンさんは聞く耳持たず、その目からは知性の色が消え、ドラゴンと化したその巨体からは殺気が噴き出す。

 

「くっ……!」

 

 観念したのか、ダイは兵士の剣を引き抜き構える。次の瞬間――ドラゴンアバンさんの剛腕が唸り、ダイに襲い掛かった。

 

「っ!たあぁぁーー!!」

 

 ダイは攻撃をかわし、カウンターで剣を叩き込む……が。

 

ガキンッ!!

 

「うわあぁぁッ!!?」

 

 ドラゴンの皮膚は鉄より硬い――剣術がいくら上達したとは言っても、まだドラゴンの皮膚を斬れる程の威力はないらしく、ダイは弾き飛ばされた。

 

「う、くぅ……!」

 

 立ち上がるダイに、ドラゴンアバンさんはすかさず燃えさかる火炎を吐きかける――!

 

「『グワアァーーッッ!!』」

 

「うわあぁあぁッ!??」

 

 ダイが炎にまかれる。

 

 ドラゴンの強みは、鋼鉄以上の高度を誇る鱗とこの炎のブレスだ。半端な攻撃ではドラゴンの強靭な鱗に弾かれる。炎を吐かれれば近づく事も難しい。

 

「……なるほど、そう言う事か」

 

 アバンさんがダイに何をさせたいのかが分かった……。かなり無茶な方法だが、ダイの成長の速さを考えれば妥当と言えない事もない。

 

「あち、あちちっ!!ぅ……くぅ……!」

 

 

 さあ、どうする……ダイ?

 

 早いトコ、アバンさんの意図に気付かないと……本当に危ないぞ。

 

 

 


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