ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方   作:amon

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第1話『新しい家族との出会い!!の巻』

 

 

 

「98ぃ……!99ぅ……!100ぅ~……だはぁ!」 

 

 腕立て伏せ100回が終わり、俺は地面に寝転がる。

 

 

 この世界に転生してから、早いもので1年が経った――。

 

 あのスライムとの戦いの後すぐに、割りと大きな町に辿り着いた俺は、ひとまずそこを拠点に修業と情報収集に専念していた。

 

 しかし、最初は上手くいかない事の連続だった……。

 

 宿屋に泊まろうにも、5歳の子供1人という事で泊めてもらえないわ……。

 

 買い物ついでに店で話を聞いたら、やっぱり子供1人という事で怪しまれるわ……。

 

 仕方ないから、町に近い場所で野宿したらモンスターに寝込みを襲われて寝不足になるわ……。

 

 いやぁ、ホントに参った参った。

 

 こんな割りと命辛々な生活だが、俺は結構楽しんでいる。毎日台風の日みたいな緊張感があってワクワクする♪やっぱり俺は、平和な地球よりこういう世界の方が性に合ってるみたいだ。

 

 で、今日までの収穫として、先ずこの世界の現状が分かった――。

 

 今、世界はハドラーという魔王による侵略を受けている。

 

 魔王の魔力の影響を受けて凶暴化したモンスターが世界中で暴れて、人々は未曾有の危機に曝されている。

 

 そんな魔王に対して戦いを挑む若き勇者がいた。その勇者の名はアバン――彼は今も世界のどこかで人々の平和の為に戦っているという。

 

 とまあ、この辺はドラクエの定番だな。勇者の名前を初めて聞いた時は「ダイじゃないんだ……」とか思ったが、それは些細な事だ。

 

 次に、町の道具屋で世界地図を手に入れ、この世界の大まかな全体図と大陸の名前、主要な王国と俺の現在位置を把握した――。

 

 俺が今いるのは、ホルキア大陸のパプニカ王国圏内にある宿場町だ。

 

 ここから北上すると、内海を挟んで1番広い中央大陸のギルドメイン大陸があって、そこにはベンガーナ王国・カール王国・アルキード王国・テラン王国・リンガイア王国があり、更に北のマルノーラ大陸はオーザム王国が、西のラインリバー大陸はロモス王国がそれぞれ治めている。

 

 それらが描かれた世界地図を見て最初に思った事がある……。

 

「日本列島じゃん……」

 

 そう、この世界の各大陸は日本列島をばらして配置し直した様な形なんだ。

 

 ギルドメインは本州、マルノーラは北海道、東の大陸は九州……他にも佐渡島みたいな島があって、そこは『死の大地』なんて物騒な名前が付けられている。

 

 聞いた話によれば、いつも不気味な黒雲が空を覆い、生き物が全くおらず、草木1本すら生えていない不毛の大地で、近海には魚も近寄らない島なんだそうだ。しかも、その島に足を踏み入れて、生きて出てきた者はいないらしい。

 

 何とも、あからさまに怪しい……まるで「ここにラスボスがいますよー!」と言わんばかりだ。

 

 だが、魔王ハドラーの居城ではない。奴の城は、パプニカ王国のすぐ近く――つまり、俺がいる町にも近い所にある。

 

 だからか、町を離れて他の町や国に逃げ出す人も少なくない。

 

 俺もこの1年で、モンスターを倒しまくって随分レベルが上がったが、流石に魔物が大挙して襲ってきたらどうにもならないから、逃げないといけない。勇気と無謀は違うのだ。

 

 ちなみに今の俺のステータスは――

 

 

―――――――

エイト

性別:男

レベル:17

―――――――――

E銅の剣(攻+12)

E皮の鎧(守+12)

E皮の盾(守+4)

E皮の帽子(守+2)

―――――――――

力:43

素早さ:49

身の守り:22

賢さ:48

攻撃力:65

守備力:40

最大HP:131

最大MP:50

Ex:19286

―――――――――――――――――――――――――

剣スキル:22  『上級剣士』(剣 攻+10)

槍スキル:2

ブーメラン:0

格闘スキル:11  『期待の格闘家』(素手 攻+5)

冒険心:16  『怖れぬ冒険心』

―――――――――――――――――――――――――

エイト

HP:120

MP:38

Lv:17

――――――――――――

ホイミ キアリー

リレミト ギラ

ルーラ キアリク

ドラゴン斬り 火炎斬り

大防御

――――――――――――

 

 

 こんな感じだ――ちなみに、装備はいつも付けている訳じゃなく、状況に応じて着脱している。『ルーラ』はまだ今いる町しか行けないし、『リレミト』も覚えたはいいが近くに入れるダンジョンが無いので活躍の場が無い。最近良く使うのは、『火炎斬り』だな。MP消費もないし、斬りながら燃やすからダメージもそれなりに大きい。相手にはちょっとエグイかも知れないが、まあ、襲ってくる敵に情けは無用って事で。

 

 それはさておき……そろそろ、この町からパプニカの城下町に移ろうかと考えている。魔王軍との戦争の激戦区になっているだけあって、あそこには武器や防具の品揃えも悪くないはずだし、ゴールドもそこそこ溜まってきた。もう1段階、良い装備を揃えて行動範囲を広げ、更にレベルアップしたいからな。

 

 ん?竜神王の装備があるだろって?あれは、レベル40を超えたら必要に応じて使おうと思っている。そのくらいまで強くなれば、あの強力な装備に振り回される事もないだろうからな。

 

 それになにより……呪文契約の魔道書が欲しい。飛翔呪文『トベルーラ』を覚えたいんだ!この世界では『ルーラ』も結構難易度の高い呪文らしいから、派生呪文の『トベルーラ』も難しいとされているが、そんなものは練習すればいいだけの事。

 

 何しろ魔法版“舞空術”――自分で空を飛ぶ。人類の憧れが手の届くところにある!

 

 

 と言う訳で、日課のトレーニングを終えた俺は、休憩を挟んだら食糧や薬草を補充して、パプニカの城下町に向かうつもりだった……。

 

 だが――

 

ドカァァァァンッッ!!

 

「っ!?な、なんだっ!!」

 

 突然の爆発音に跳び起きて音の出所に振り向くと、町の方から煙が上がっていた。

 

「まさか……魔王軍か!?」

 

 いつか来るとは思っていたが、今日とは……。どうするか……、別にあの町に知り合いもいなければ、親しい人も皆無だ。寧ろ、怪しまれたり、冷たくあしらわれたり、碌な扱いをされなかった思い出の方が多い……いかん、思い出したらムカついてきたな。

 

 言い方は悪いかもしれないが、正直、あの町の人間がどうなっても悲しくない。悲しくないんだが……う~ん、何もせずに見捨てるのも気が引けるというか……自分でも矛盾しているのは分かっている。

 

 助ける義理はないけれど、見捨てるのは気分が悪くて嫌……か。我ながら身勝手だな……。

 

「まあ……いいか。やりたい様にやろう!」

 

 誰それに気兼ねする事もない。これもまた、冒険だ!……という事にしておく。

 

 

 とりあえず意を決した俺は、立ち上がって町に向かって走った――。

 

 

 

「「「わああぁ~~~ッッ!!?」」」「「きゃああぁ~~~ッッ!?」」

 

 悲鳴と共に我先にと逃げ惑う人々……。その向こうからは、魔王軍と思しきモンスター達が迫ってくる。

 

『『『グオォォーーーッッ!!』』』

 

 叫び声を上げながら物を壊して回る1つ目巨人――

 

「「「フゴッフゴッ!殺せ殺せーー!!」」」

 

 鼻を鳴らしながら、逃げる人々を追い立てる猪亜人共――

 

『『『カカカカッ!人間は皆殺しだーー!!』』』

 

 笑い声だか、骨同士が擦れる音だかよく分からない音を立てながら6本の腕で剣を振る異形の骸骨共――

 

 確か、サイクロプス・オーク・骸骨剣士だったか。あいつらは明らかに町の周辺に生息しているモンスターじゃない。魔王軍の兵隊モンスターに間違いないな……。

 

 来ては見たものの、やっぱりあの数じゃどうにもならない……少なく見積もっても20匹以上はいる。モンスターのステータスなんて詳しく覚えていないが、相手が2、3匹なら負けやしない相手だろう。だが、その2、3匹を相手している間に他の奴らに押し潰される……。

 

 やっぱり逃げるしかない……試合と戦争は違うんだ。残念ながら、俺にはどうする事もできない。

 

 建物の影に隠れていた俺は、自分の力の足りなさにやり切れない思いを抱き、一体何の為にこんな所に来たのかと自問自答しながら、その場を離れようとした――その時だった。

 

「ウエェェン!ウエェェェンッ!!」

 

「んっ!?」

 

 空耳か……?今、赤ん坊の泣き声が……。

 

 建物の影から少しだけ顔を出して辺りを見渡してみるが、辺り一面、モンスターに破壊されて瓦礫の山だ。赤ん坊の姿なんて見えない……。

 

「ウエェェェンッ!ウエェェェェンッッ!!」

 

「……やっぱり聞こえる!どこだ!?」

 

 よく耳を澄まして出所を探る……。

 

「ウエェェェェンッ!!ウエェェェェェンッッ!!!」

 

「……っ!あそこだッ!」

 

 瓦礫しか見えないが、間違いなくそこから泣き声が響いて来てる。幸い、周りの魔物はオークが2体……奴らが赤ん坊に気付いたら、きっと殺してしまう。

 

「くそっ!」

 

 俺は反射的に、そこに向かって走っていた。

 

「どけぇぇぇッッ!!」

 

 胴の剣を抜き、走りながら通り道にいるオークを斬りつける。

 

「フギィッ!?」「ギャアッ!?」

 

 流石に一撃では倒せないが、怯ませる事は出来た。その隙に脇を抜け、人の死体や瓦礫を飛び越えて、泣き声が聞こえた辺りに滑り込む。

 

「ウエェェン!ウエェェェンッ!!」

 

「どこだっ!?……いたっ!」

 

 泣き声を頼りに探して、幸い直ぐに赤ん坊を見つける事が出来た。瓦礫の影に隠れる様に、白い布に包まれた赤ん坊……周りに人がいないところを見ると、魔王軍の襲撃のどさくさで置き去りにされちゃったか。

 

「っ!考えてる場合じゃなかった!とにかく連れて行こう……!!」

 

 考えを中断し、俺は胴の剣を背中の鞘に戻し、両手で赤ん坊を抱え上げ、全速力で走った。

 

「ウエェェン!ウエェェェンッ!!」

 

「ったく!一応、命の恩人だってのに……そんなに泣く事ないだろうっ?」

 

 泣くのが当たり前の赤ん坊に、分かる訳がないのに文句を言いつつ、俺は道を走り、煙が立ち昇る町から逃げ出した――。

 

 

 

 

 

「はぁ……結局、俺が助けられたのは赤ん坊1人だけか……」

 

 日は完全に沈み、空に星が見えている。すっかり夜になっちまった……俺は町から大分離れた岩場で、焚き火を前に座っている。

 

 俺の腕の中には、町で助けた赤ん坊……。

 

「だあだあ……」

 

「こいつ……さっきまで泣いてた癖に今はご機嫌か、いい気なもんだ。そ~らよ!」

 

「きゃっ、きゃっ!」

 

 高い高いをしてやると、赤ん坊は楽しそうにはしゃぐ。こいつ、多分自分の状況なんて全然理解してないな。赤ん坊だから仕方ないが……。

 

「……それにしても、今日は何とも複雑な1日になっちまったな」

 

 赤ん坊をあやしながら、今日1日を振り返ってみる……。

 

 どうでもいいと思っていた町の連中を、わざわざ助ける真似事で町に行って、結局は建物の影に隠れて様子を窺うだけで……かと思えば、置き去りにされていた見ず知らずの赤ん坊をこうして拾って来て……何がしたかったんだろうな、俺は?

 

 町は燃えた……正しく、戦争の光景だった。何人もの人が死んでいるのも見た……老若男女、あらゆる人がモンスターに殺されていた。恐ろしい光景だった……。

 

 だが、恐ろしいと思っても動揺はしていない。実感が湧かない、なんて事は絶対にない。この目で見て来たし、家が焼ける匂いや人の血の匂いも感じた。

 

 なのに、『これはこういうものだ』と当たり前の様に思って冷静でいる自分がいたのが、今思い返してみると不思議だった。もっと動揺して、怯えて、身体が震えるもんだと思っていた。

 

 この世界に転生して、俺はどこかおかしくなってしまったんだろうか?こうやって考えを巡らせている今も、気分は馬鹿に落ち着いている……。どっかの惑星に仲間を助けに向かう途中の、優しくて戦いが好きなサイヤ人じゃあるまいし……。

 

 いや……ひょっとすると、俺は元々こういう気質だったんだろうか?前世の頃は、平和で平凡の日常でそういう事を意識する機会がなかったから、自覚できなかっただけとか?

 

 あり得ない事じゃないな……昔から両親や友達に「お前、冷静過ぎ」と良く言われたし。

 

「……まあ、いいか。冷静で悪い事なんてないだろうし、なぁ?」

 

「だあ?」

 

「ハハハ、お前には分からないか。そ~れ、高い高~い♪」

 

「きゃははっ!」

 

 結局、俺はそこで考えるのを止めた。

 

 今日起こってしまった事を1人でツベコベ言ってもしょうがないし、俺自身の事だって同じ事――確かに、俺は勇者の様に多くの人々を助ける事は出来なかったけど、それだって元々躍起になっていた訳じゃない。そんな俺でも、少なくともこの赤ん坊1人を助ける事は出来たんだから、俺の行動は全くの無駄ではなかったと思う事にする。

 

 要するに、ウダウダ悩んでゴチャゴチャ考えるのは止めたって事だ。誰に気兼ねする事もない……やりたい様にやって、生きたい様に生きる――それが俺のスタンスって事で良いだろう。

 

「明日になったら、最初の予定通り城下町に向かおう。そこで、お前ともお別れだ」

 

「だう?」

 

 赤ん坊は、教会か適当な孤児院に預けるのが1番だろう。俺自身が今は自分の事で精一杯なのに、赤ん坊の面倒なんか見てられないからな。前世でも1人っ子で、赤ん坊の面倒の見方なんて分からないし……こいつの為にも、ちゃんと面倒を見てくれる人に預けるのが最善なんだ。

 

 

 次の目的地を決め、俺は赤ん坊をどうにか寝かしつけて、焚き火を前に夜が明けるのを待った――。

 

 

 


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