ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方 作:amon
≪SIDE:バラン≫
「今の震動は……!!」
火山の噴火やただの地震とは違う……!感じられる邪悪な魔力の波動……間違いない、何者かがアバン殿の張った魔法陣を力尽くで破り、このデルムリン島に侵入してきたのだ。
「あなた……!」
不安げな表情を浮かべる我が妻ソアラ……。
その不安は、私も私なりに分かる。アバン殿が用いた『マホカトール』という呪文……詳しくは知らないが、聖なる結界魔法陣を敷く呪文であるのは間違いなく、並のモンスターでは1歩たりとも踏み入れぬはず。
つまり、これ程の轟音を立てながら力尽くで踏み入れる以上、侵入者は相応の実力を持つ魔の者という事だ。
魔王の手先か……、或いは……。
「……ラーハルト、ソアラを頼む」
「バラン様……戦われるのですか?」
「……必要とあればな」
今の私は『竜の紋章』を発動する事の適わぬ身……故に、戦うとなれば己の肉体と魔力、そして通常の闘気のみで戦わねばならん。
幾ら真魔剛竜剣があるとはいえ、この10年余りの間に、私も随分と鈍った……。雑魚ならばいざ知らず、今この島に侵入している敵に、今の私がどこまで通用するか分からん。
島にはエイトがいる。エイトは強い……私が戦う必要など、無いのかもしれない。だが、ここで何もせず、自ら友と呼ぶ男に全て押し付ける様な真似は、絶対にしたくない。
「ラーハルト、ソアラを頼む」
「はっ!この命に代えても、お守りしますッ!」
「命には代えるな。お前も、私達の大切な家族の1人なのだからな」
「っ、はいッ!」
ラーハルトの心強い返事を背に、私は家を飛び出す。
邪悪な波動の位置は捉えている――そこには、ディーノやエイト達もいる。
私は『トベルーラ』で空に上がり、その場所へ急いだ――。
≪SIDE:OUT≫
「ククク……久しいな、アバン。あれから長い歳月が経ったものよ……」
薄ら笑いを浮かべて、魔王ハドラーが口を開いた。その口からアバンさんの名前が出た事で、俺以外の全員が驚く。
「えっ!?先生、魔王に会った事あるの!?」
「……」コク
ダイの問いに、アバンさんは無言で頷いた。すると、ダイは再び驚きの顔になり、アバンさんとハドラーの顔を交互に見る。
「……お前の様な男がこんな所にいるとはな……。勇者アバン……!」
「ゆ、勇者アバンッ!?」
「せ、先生が勇者……!?」
ダイ、ポップの順にアバンさんの正体に驚く。驚いてばかりだな、子供達は……。
「かつて貴様は俺の前に立ち塞がり、もう1歩で達成するはずだったこの俺の野望を悉く打ち砕いた!あまつさえ、我が命をも奪った……ッ!」
「そ、そうじゃ!アバン……!その昔、魔王に戦いを挑み、これを倒して世に平和をもたらしたという伝説の勇者の名が……アバンじゃった!!」
ハドラーの言葉で、ブラスさんも思い出したらしい。考えてみれば、ブラスさんも元は魔王の手下の鬼面道士……アバンさんを知っていてもおかしくはないな。
「先生……!本当なの!?」
「……古い話ですよ」
「バレちまったな、アバンさん」
「仕方ありません」
そう言って、アバンさんは軽く笑う。
「えっ!?もしかしてエイト兄ちゃん、アバン先生の事、知ってたの!?」
「まあな」
何しろ、ちょうどハドラーが倒された時に地底魔城にいたからな、俺は。
「ぐぅぅ……!あの痛みと屈辱は決して忘れん……!!」
「お前は、その数百倍にも及ぶ人間の命を奪ったではないか……!」
「フン!笑わせるな。人間など、我々魔族に比べ様もない愚かな存在……例え数百万集まったところで、俺の命とはつり合わんわ!!」
随分とまあ、典型的な事をほざきやがる……。だが、実際に言われてみると、少~し頭にくるな……。
「変わらんな……いや、以前にも増して愚劣極まりない性格になった様だ……!!」
「なんだとぉッ!!」
目付きを険しくさせたハドラーの身体から、魔力の高まりで紫電が迸る。それに伴い、威圧感も増した……野郎、いっちょ前に怒っていやがる。
だが……この程度か。
「……アバンさん、ダイ達を連れて下がっていてくれ」
「エイト君……ッ!?」
俺は戦闘に意識を切り替え、闘気と魔力を高め、ハドラーを見据える……。
「あんたとハドラーに因縁があるのは重々承知している……だが、今のあんたじゃ多分、奴には勝てん。例え、全快の状態でもな」
「っ……!」
アバンさんは『ドラゴラム』を使ってMPを消耗しているが、そんな事とは関係なしに目の前のハドラーには太刀打ちできない。アバンさんが衰えたのか、ハドラーが力を増したのか、或いは両方か……ともかく、ハドラーとアバンさんの実力には小さくない差がある。
だが、それはアバンさんならの話……俺は違う。
「……分かりました。ダイ君!ポップ!下がっていなさい……!」
「そんな……!オレも一緒に戦うよ!!」
「いいえ、ここはエイト君に任せます。君達……いえ、私も含めて、この場にいればエイト君の足手纏いになるだけです……!」
「ええっ!?」
「早く!下がりなさい!」
「……っ!」
初めて聞くアバンさんの怒鳴り声で、ダイの声が止まった。そして、背後の気配が下がっていく。
さて……それじゃあ、始めようか。
竜神王の剣を抜き、切っ先をハドラーに向ける。すると、ハドラーは片眉(眉はないが)を吊り上げて怪訝な表情を浮かべた。
「……なんだ、貴様は?」
「俺はエイト。しがない冒険家さ」
「フン。気に入らんな、その目……貴様、まさかこの俺と戦うつもりじゃあ、あるまいな?」
「だったら……どうだと言うんだ?」
「フフフ……アーッハッハッハッ!!身の程知らずめ!よかろう、余興代わりだ。恨み重なるアバンの前に、貴様からあの世に送ってやるわ!!」
ハドラーは右手に緑色の光弾を作り出す。あれは爆裂系エネルギー……『イオラ』か……。
「この俺に刃向い、魔王軍の侵攻を邪魔する者は、誰であろうと許さん!消え失せろ――『イオラ』!!」
ハドラーの手から『イオラ』のエネルギー弾が放たれる――!
「兄ちゃーーんッ!!」
心配するな、ダイ。
「ッ!」
俺は空いた左手に魔力を集中し、ハドラーの放った『イオラ』を地面に叩き落とす。爆煙が巻き起こり、俺の姿を隠した。
「ッ!!」
間髪入れずにハドラーの懐に踏み込み――
「何ッ!?」
「『火炎斬り』ッ!!」
ハドラーの胴を燃える剣で斬り払う。
「ぬおぉぉッッ!!?」
ハドラーは慌てて後ろに飛び退る。だが――手応え有り、だ。
「ぐッ!?ガッ、ハッ……!!?」
完全には避け切れていない。黒いローブとその下の胸板に焼け跡と割と深い斬り傷が走り、魔族特有の青黒い血が流れ、ハドラーは苦痛に顔を歪めた。
「「や、やったぁ!!」」
後ろから、ダイとポップの歓声が響く。
「ま、魔王ハドラーが膝をつきおった!?」
今度はブラスさんの声だ。
「ぐ、ぐうぅぅ……ッッ、おのれぇ!!」
目を血走らせ、歯を剥き出しにしたハドラーが、羽織っていたローブを脱ぎ捨て叫んだ。蒼い肌だが、筋肉質な体つき……何かしらの格闘技を使うと見た。
「この、この俺の身体に傷をつけるとはぁ……!絶対に許さんッ!!粉々に打ち砕いてくれるわぁああッッ!!!」
たかがあの程度の傷で、ここまで激昂するとは……沸点の低い奴だ。ゲーム的ダメージに換算しても120くらいしか通ってないだろうに……。
思った通りだ。こいつ、大したこと無い。
「ぬうぅぅぅ……ううッッ!!」
今度は両手に、さっきより強力な爆裂系エネルギーを溜め始めた……あれは『イオナズン』だな。
「グゥフフフフッ!!砕け散るがいいッ!!」
怒りに我を忘れている、あのバカ魔王。俺を殺す事に夢中で、いきなり大技に出るとは……あんなモーションじゃ、避けろと言っている様なもんだ。
とはいえ、下手に避けると後ろのダイ達が危険だ。
「仕方ないな……ッ!!」
全身に力と闘気を巡らせ、足を踏ん張り、両腕を顔の前で交差する――格闘スキルから得た技『大防御』の構えだ。
「ハーッハハハハッ!死ねいッ!!『イオナズン』ッッ!!!」
放たれた最上級の爆裂エネルギーが、凄まじい勢いで向かってくる!
「ッッ!!」
そのエネルギーの塊が俺の身体に激突した瞬間――エネルギーが大爆発を起こし、衝撃と熱が俺を襲った―!
≪SIDE:ハドラー≫
「ハーッハハハハハハッ!!まともに喰らいおったわ!ガーハハハハハハッ!!」
俺の最強の呪文『イオナズン』――こいつをまともに喰らって生きておれるはずもない。最初のあの燃える剣の技には多少驚かされたが、終わってみれば他愛もない。
このハドラー様に逆らう者は、全員こうなるのだ!
「ハーッハハハハハハッ!!グフハハハ「何をバカ笑いしていやがる」――ハッ!?」
い、今の声は……!?
「グッ!?」
突如、爆煙が吹き飛ばされる。その先には――
「ば、バカな……ッ!?」
あの若造が、剣を構えて立っていた。所々、焼け焦げた跡はあるが五体満足、気力の衰えもまるで見られない……どういう事だ!?
奴は確かに、俺の『イオナズン』をまともに受けたはずだ!?その瞬間を俺は見ていた!避ける素振りも見せず、両腕を交差して……ま、まさか、防御して耐えたとでも言うのか!?
そんなバカな……!そんな事ができる人間などいるはずがないッ!この俺の最強呪文を耐え切るなど……人間に出来る訳がない!!
「敵を前にして考え事とはいい度胸だな!!」
「っ!?」
我に帰ってみれば、既にエイトとかいった若造が目の前まで迫っていた。奴の剣が振り下ろされてくる――い、いかん!!
「ぬうッ!!」
俺は咄嗟に左拳に必殺の『ヘルズクロー』を伸ばし、奴の剣を受け止める!
「ッ!」
お、重いッ!何という威力の斬撃……!?こやつの身体のどこにこんな力が……!!
「ぬぅぅ……ッ!こ、この俺様を……舐めるなぁ!!」
空いていた右拳にもクローを伸ばし、奴の顔面をぶち抜く為に繰り出す――が。
ガッ!!
「なッ!??」
奴は、事もあろうにこの俺の腕を片手で掴み、『ヘルズクロー』の一撃を阻止しおった!
「ぐ、ぬぅぅぅ~~……!!」
「むぅぅ……!」
は、外せん……!?奴に掴まれた腕が、凄まじい力で押さえられて振り払う事ができん。競り合っている剣の圧力も、この俺の力を持ってしても押し返せん!
このハドラー様が……こんな、こんなどこの馬の骨とも分からん人間の若造に、力負けしているだとぉ!?
「そ、そんな……!バカな事がぁ……!あってたまるかあぁーーーッッ!!!」
≪SIDE:OUT≫
「そ、そんな……!バカな事がぁ……!あってたまるかあぁーーーッッ!!!」
「うるせえッ!!」
上段の蹴りをハドラーの顔面に叩き込み、同時に掴んでいた腕を離す。
「グハァッ!!?」
ハドラーは洞窟の壁まで吹っ飛び、跳ね返って倒れた。
すかさず俺はハドラーに駆け寄り、剣で奴の心臓を狙う――。
「ハッ!?」
殺気に気付いたのか、ハドラーは地面を転がり俺の刺突をかわした。そのまま起き上がり、拳から生える黒い爪を振り上げて襲い掛かってくる。
「クソォォッッ!!」
目が飛び出しそうなほど剥き出している。明らかに冷静さを失っているな……口ほどにもない奴、動きが雑過ぎて目を瞑っても避けられそうだ。
ハドラーが繰り出した右腕を掴み、奴の脇を通して後ろに捻り上げ、そのまま足を払い――
「せいやぁッ!!」
関節を極めながら後ろに引き倒し、その腕をへし折った。
「ぎゃあぁぁッ!!?」
ハドラーは折れた腕を抑えて叫びながら、のた打ち回る。今のは特に技って訳じゃない。強いて言うなら、合気道の『四方投げ』に近いカウンター型の関節技だ。
「はうぅぅぅ……ッ!?」
まだ痛がっていやがる……本当に打たれ弱い奴だな。
「……腕の1本ぐらいでいつまでのた打ち回っていやがる!?てめえ、それでも魔王か!?」
いい加減イライラしてきたんで、思わず怒鳴りつけてやった。すると……。
「っ!……グフ、フフフフフ……ッ!」
何を思ったのか、ハドラーは急に笑い出し、身体を震わせながらも緩やかに立ち上がる。
「ゼェ、ゼェ……フフフッ、き、貴様らは、相変わらず俺が魔王だと、ぐッ、く……!お、思っている様だな……ハァ、ハァ……!」
腕が痛むらしく顔を歪めるが、懸命に強がる様が実に滑稽だ。
「な、なんだと……!?」
今のは後ろに下がっているアバンさんだ。狼狽える姿に余裕を取り戻したのか、ハドラーの顔に嫌ったらしい笑みが浮かぶ。
「俺は、あるお方の力で再びこの世に蘇ったのだ。以前よりも強靭な肉体を与えられてな……!」
「ほ~、そのザマでも一応、昔よりは強くなっているのか」
「だ、黙れぃッ!!き、聞いて怖れ慄くが良いッ!そのお方は、俺よりも遥かに強大で偉大なお方なのだ!!」
「ええっ!?」
「な、なんと……!」
「魔王より、凄い奴が……!?」
今のは順に、ダイ・ブラスさん・ポップだな。
「何者だ!?そいつは……!?」
今度はアバンさんだ。
こういう状況でもある程度、俺が冷静でいられるのは神様から貰った特典のおかげか、それとも前世のゲーム知識か……いずれにせよ、後ろの面々の反応が普通なんだろうって事は、俺も重々承知している。
「フッ、大魔王……バーン!!」
魔王の背後に大魔王か……王道だな。
「アバン、貴様に敗れ、死の世界をさまよっていた俺を蘇生させて下さった、偉大なる魔界の神だ!!バーン様に忠誠を誓った俺は、魔王軍の全指揮権を与えられたのだ!!今の俺は、バーン様の全軍を束ねる総司令官……魔軍司令ハドラーだ!!ワーッハッハッハッハッハッ!!!」
「……何という事だ……!」
アバンさんの震えた声……15年前、死力を尽くしてハドラーと戦い、どうにか倒したアバンさんとしては、その魔王が強靭になって蘇り、その背後に更に強大な大魔王がいると分かれば、狼狽えずにはいられないか……。
対して俺は、ハドラーと戦ったのはこれが初めてだからな。ハドラーより上だと言われても、あまり脅威を実感できないのが本音だ。
「……だから?」
「ハッハッハッハ……ッ!?何だと……?」
俺の発した一言で、ハドラーの馬鹿笑いが止まった。
「聞こえなかったか?俺は『だから何だ?』と聞いたんだ」
「……フ、フフンッ、理解できんか?大魔王バーンこそ我が主君にして全知全能の魔神!その軍勢は、かつての魔王軍とは比較にならんほど強大だ!如何にあがこうと、もはや貴様ら人間には太刀打ちできんという事だっ!」
「大魔王がお前より強いって事と、その軍団が昔の魔王軍より強大だって事は分かったさ。だが……それがどうした?」
「何……?」
「大魔王が強かろうと、新たな魔王軍が強大だろうと……今ここで、お前が俺に負けてる事とは何も関係ないだろう」
「な、なんだとッ!!?」
さっきまでの余裕がアッサリ吹き飛び、また冷静さを失くした顔に逆戻り――チョロい奴だ。
よし、もう少し挑発してやるか。
「大体、何が“魔軍司令ハドラー”だ。大仰に言っちゃいるが、唯の大魔王の使い魔じゃねえか……くだらん」
「つ、使い魔ぁ……!!ぐぐぐ……き、貴様ぁーーッ!!この俺を大魔王の使い魔と抜かしおったなぁーーーーーッッ!!!」
はい、完全に冷静さを失った。
「図星を突かれて怒ったか?」
「黙れぇぇッ!!も、もはや生かしてはおかんッ!!この俺の手で、八つ裂きにしてくれるわあああッッ!!!」
腕は1本折れてて使えないけどな。
「ガアアァァァァァーーーーッッ!!!」
怒り狂ったハドラーは猛獣の様な叫びを上げながら、我武者羅に俺に向かって突進してくる。
隙だらけだな……カウンターをくれてやる!
剣を地面に突き刺し、右の拳を腰だめに構えて力を溜める。
「死ねえええぇぇぇぇーーーーーーッッッ!!!」
繰り出されるハドラーの左の爪を、屈んで紙一重で回避――俺の目の前には、ガラ空きの奴の胴――すかさず、右の拳を叩き込む!!
「『正拳突き』ッ!!」
突き出した拳は正確にハドラーの腹にめり込み、衝撃を奴の身体に伝える――!
「グ、ガ……カ……ッ!!?」
瞬間、奴の胴が衝撃で“く”の字に曲がった。しかし、吹き飛びはしない――衝撃が完璧に奴の胴をぶち抜いた証拠だ。
近年稀に見る会心の一撃――恐らく、300~400に相当するダメージが入ったはずだ。
「ゴボ……ガハ……ッ!!」
ハドラーが口から蒼い血を吐き出した。内臓のどこかが破裂したのかもしれない……だが、俺は容赦しない。
「ハアアァッッ!!」
無防備になった奴の顎目掛けて、下から蹴り上げる――!
「グボォッ!!??」
渾身の力で蹴り上げ、ハドラーを奴が最初に現れた穴から外に吹っ飛ばす。
その後を追い、俺も剣を持ち直して外に出た。暗雲立ち込めるデルムリン島の上空を見れば、ハドラーが空中遊泳している。
「トドメだッ!!」
構えた剣に闘気を纏わせ、高める……!
キィィィィィ……!!!
剣が薄い緑色の光を放ち、周囲の石が舞い上がる……。
喰らえ、俺の必殺剣――!!
「『アルテマソード』ッッ!!!」
振り切った剣から、巨大な光の斬撃が飛び、ハドラーへと向かう――そして!
『ぐああぁぁぁーーーーーッッッ!!??』
ハドラーは両腕と胴が真っ二つに両断された。壮絶な叫び声が、デルムリン島の空に響き渡る。
『お、おのれぇ若造めッッ!!忘れんぞぉぉ!!この屈辱と……貴様の名はぁッッ!!』
「ッ!?胴斬りにされてまだ生きてやがるのか!?」
なんてしぶとい……!
『必ず!必ず殺してやるッッ!!殺してやるぞぉ!!エイトッッ!!!』
叫ぶハドラーを見れば、光る何かが奴の前に浮かぶのが見える。
あれは……『キメラの翼』っ!?
気付いた時にはもう遅く……ハドラーは瞬間移動の光に包まれて飛んで逃げて行った。
「くそっ!」
迂闊だった……奴の生命力を見縊っていたな。
まさか、胴を真っ二つにしても死なないとは……こうなると奴の息の根を止めるには、首を斬り落とすか、完全に消滅させてしまうかしなければ駄目そうだ。
いずれにせよ、これで俺は魔王軍の抹殺リストに加わってしまった訳だ。
もう、この島にはいられないな……。
「エイトーーッ!!」
「ん?」
声に振り返ると、バランが飛んできているのが見えた。さっきの震動で異変に気付いてやって来た様だな。
愛刀の真魔剛竜剣を携えている……必要があれば戦うつもりだったのか。紋章の力を失っているって言っていたのに……妻や息子、島の仲間達を守る為か。
ハドラーを撃退しておいて良かった。バランなら紋章が出せなくてもハドラー如き敵じゃないとは思うが、如何せんブランクがある以上、100%安心はできない。
親友に無理はさせたくないしな……。
「エイト!今のは……!?」
バランが聞きたいのは多分、ハドラーの事だろう。
「15年前にアバンさんが倒した魔王ハドラーだ。大魔王バーンとやらに復活させてもらって部下になり、魔軍司令とかいう地位に就いて魔王軍を指揮しているんだと」
「大魔王、バーン……!?」
「兄ちゃーーーんっっ!!!」
驚くバランに続いて、洞窟の中からダイの呼ぶ声がする。
皆で、今後の事を話し合わないといけない……。
新しい旅が始まろうとしている――大魔王率いる魔王軍との戦いという、“大冒険”が。