ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方   作:amon

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第2話『勇者との出会い!!!の巻』

 

 

 

 

「たあッ!やあッ!」

 

「ほらほら、どした?そんな単調な攻めじゃ、敵に動きを読まれるぞ。ほれ!」

 

「うわっ!?」

 

 俺がほんのちょっと力を入れて木刀を弾き返すと、“ソイツ”は大袈裟にひっくり返った。

 

「はぁ、はぁ、また負けた……“兄さん”はやっぱり強いなぁ」

 

「俺が特別強いんじゃない。お前がまだ弱いんだよ、“ヒュンケル”」

 

 俺を兄さんと呼び、俺がヒュンケルと呼んだ銀髪の少年――誰だと思う?あの町で助けた赤ん坊の成長した姿だ。

 

 

 

 光陰矢の如し(キングクリムゾン)――あの魔王軍の宿場町襲撃から、6年が経った。

 

 あの後、俺は赤ん坊だったヒュンケルを連れて、2日掛けてパプニカの城下町に辿り着いた。そこで、すぐにヒュンケルを預けられる教会か孤児院を探したんだが……このご時世だからか、どこも孤児で溢れかえっていて、食べ物も人手も場所も足りないという有様で、とても赤ん坊のヒュンケルを受け入れられる状態じゃなかった……。

 

 もし無理にあそこに預けても、ヒュンケルはきっと碌な暮らしが出来なかっただろう。今が碌な暮らしかどうかは、俺も自分で疑問だが……。

 

 とにかく、俺はヒュンケルを預けるのを諦めて、自分で面倒をみる事にした。例によって町の宿屋には泊まれなかったので、町の外れで野宿生活だが、幸いにして俺はモンスターを倒せばゴールドが手に入る。

 

 モンスターを倒せば生活費も稼げるし、俺自身のレベルアップも出来るから一石二鳥――そこまでは良かった……。

 

 だが……勿論、世の中そんなに何もかも上手くはいかない。金の心配はなくても、赤ん坊の世話なんてした事のない俺には、そっちの問題の方が大きかった。

 

 何しろあの頃のヒュンケルときたら……寝床に置いていこうとすると敏感に察知してギャーギャー泣き叫ぶわ、どこだろうと構わず漏らしやがるわ、夜泣きはするわ……モンスターと戦うよりよっぽど大変だ。

 

 それでも、どうにかこうにか今日まで育てる事ができた。苦労こそしたが、それも今となっては良い思い出だ。今では、俺の弟という事にして一緒に暮らしており、ヒュンケルの成長を見るのが楽しくなっている。

 

 ああ、ちなみに……“ヒュンケル”という名前は、町の本屋で立ち読みした本の中に“大昔にそんな名前の剣豪がいた”という記載があり、何となくカッコいいと思って名付けた。

 

 で、今さっきは何やってたかというと、剣の稽古ってヤツだ。2年ぐらい前に、ヒュンケルが俺に「剣のやり方を教えて!」と言ってきたのを切っ掛けに、ちょこちょこ教えてきた。と言っても、俺のは実戦で試行錯誤してきた我流の剣だから、ちゃんと教えられているかどうか……。

 

 現在の俺達のステータスは――

 

 

―――――――

エイト

性別:男

レベル:39

――――――――――

E鋼の剣(攻+33)

E鉄の胸当て(守+23)

E鉄の盾(守+20)

E鉄兜(守+16)

――――――――――

力:111

素早さ:100

身の守り:60

賢さ:157

攻撃力:169

守備力:119

最大HP:405

最大MP:189

Ex:481076

―――――――――――――――――――――――――

剣スキル:66  『ブレイドスター』(剣 攻+25)

槍スキル:18  『槍の達人』(槍 攻+10)

ブーメラン:5

格闘スキル:24  『黒帯格闘家』(素手 攻+5)

冒険心:70  『立ち向かう冒険心』(消費MP3/4)

―――――――――――――――――――――――――

エイト

HP:400

MP:189

Lv:39

――――――――――――

ホイミ ベホイミ

ベホマ キアリー

キアリク リレミト

ルーラ トベルーラ

トヘロス ザオラル

ギラ ベギラマ

ベギラゴン マホトーン

イオ メガンテ

ドラゴン斬り 火炎斬り

メタル斬り 隼斬り

疾風突き 一閃突き

大防御 石つぶて

正拳突き

――――――――――――

 

 

 ここに更に、剣スキルの称号『ブレイドスター』の効果で“剣装備時攻撃力+25”、槍スキルの称号『槍の達人』の“槍装備時攻撃力+10”、格闘スキルの称号『格闘の基本動作』(現在は『黒帯格闘家』だが)の“素手時攻撃力+5”、冒険心の称号『勇ましい冒険者』(現在は『立ち向かう冒険心』)の“消費MP3/4”――以上の常時スキルが加わる。

 

 ちなみに、どうやら冒険心のスキルで覚える魔法は『ライデイン』から『イオ』に差し替えられている様だ。随分、ランクが落ちたもんだが……まあ、この世界では『イオ系』より『ギラ系』の方が強力という事になっているらしいから、今や『ベギラゴン』が使える俺には大した問題じゃないがな。

 

 6年間昼夜を問わず、ひたすらモンスターを倒しまくったおかげで大分強くなった。この辺りには骸骨剣士やオークといった魔王軍の兵隊がウロついてる事もあって、倒す相手には事欠かない。竜神王装備の封印解除まであと1歩のところまできた。

 

 まあ、それも良いんだが……それより何より、念願の飛翔呪文『トベルーラ』が使える様になったのが、この6年で1番の収穫だな。最初はコントロールに苦労したが、今は自由自在に空を飛び回れる。素晴らしいぞ、空を飛ぶ気分は!

 

 残念ながら、合流転移呪文『リリルーラ』の魔道書は売っていなかった。調べてみたが、『リリルーラ』は大昔に失われた呪文で、契約の魔道書は今やどこに行っても見つからない代物だそうだ。失われた理由は『高度過ぎて使い手がいなくなった』『使う必要性が段々なくなって自然消滅した』など諸説あって、ハッキリとは分からないらしい。

 

 まあ、分からないものはしょうがない。その事は頭の隅に放り込んでおこう。

 

 さて、そんな事より……俺だけでなく、ヒュンケルも強くなった。ヒュンケルの現在のステータスはというと――

 

 

―――――――

ヒュンケル

性別:男

レベル:6

―――――――――

E銅の剣(攻+12)

E皮の鎧(守+12)

E皮の盾(守+4)

E皮の帽子(守+2)

―――――――――

力:20

素早さ:9

身の守り:21

賢さ:4

運の良さ:3

攻撃力:32

守備力:39

最大HP:48

最大MP:0

Ex:5807

―――――――

ヒュンケル

HP:47

MP:0

Lv:6

―――――――

 

 

 どうやら行動を共にする事で“仲間”と位置付けられるらしく、ヒュンケルのステータスも確認できる様になった。1年ぐらい前から、ちょいちょい俺が稽古の相手をして、時々モンスター狩りにも連れて行ってレベルアップしたんだが、どうも俺よりずっとペースが遅い様に感じる。

 

 経験値5000もあれば、レベル10は超えていても良いはずなんだが……いや、ゲームとは違って当たり前だし、ゲーム設定でレベルアップしている俺の方がこの世界ではおかしいのか。

 

 まあ、そんな訳で流石に1人ではまだ危ないが、俺と組めば問題なく戦える。身体も年の割に頑丈だし、戦士としての見込みは充分だろう。

 

 皮の装備を与えているのは、今のヒュンケルにはまだ鉄の装備は重過ぎて使えないからだ。ちなみに、皮の装備は昔俺が使っていたお古だ。サイズもちょうど良いしな。

 

 

「よぉし、朝の稽古はここまで。川で顔洗って水汲んで来い。朝メシにするぞ」

 

「はーい!」

 

 元気に返事をして、ヒュンケルはバケツを持って駆けて行った。

 

 さて、俺はメシの支度だ――。

 

 

 

「いただきまーすっ!」「いただきます」

 

 食前の挨拶をして、ヒュンケルと2人朝メシを食う。今日のメニューは、スクランブルエッグ・ソーセージ2本・レタスとトマトのサラダ・マッシュポテト・コッペパンみたいなパン――それぞれ木の皿と器に盛り付けてある。この6年ヒュンケルの面倒を見ていたおかげで料理の腕も多少上がったのだ。

 

「モグモグ……ンっ、ねえ兄さん。今日はどうするの?」

 

「んー、そうだなぁ……」

 

 特に決めてなかった。実際どうしようか?この大陸でのモンスター狩りもマンネリしてきたし、出来れば他の大陸にも行ってみたいんだが……海にもモンスターが出るとかで、中々余所へ行く船が出ない上に、仮に出ても例によって子供だからと乗せてもらえない。

 

 『トベルーラ』で飛んで行く手もあるが、ヒュンケルを連れて行くのは少し不安だ。

 

 レベルの事もそうだし、ヒュンケルはまだ6歳……しかも、結構な甘ったれだ。いつも俺の後ろをちょこちょこついて来て、「兄さん兄さん」言って甘えてくる。

 

 鬱陶しいとは思わないが、もう少し自立心・独立心を持って欲しい。

 

 果たして、このままヒュンケルを連れて旅に出て、俺が守ってやるばかりで、本当にヒュンケルの為になるかどうか……。

 

「…………」

 

「兄さん?どうしたの?」

 

「ん?ああ、いや、今日はどうするかな~って考えてたんだよ」

 

 駄目だ、すぐには考えが纏まらない。暫く、保留にしておこう。

 

 とりあえず、今日もいつも通りにモンスター狩りに……いや、待てよ?

 

「……ヒュンケル、今日は昼からちょっと、いつもと違う所に出掛けるぞ」

 

「いつもと違う所?」

 

「そうだ。お前もこのホルキア大陸の、この近くに魔王ハドラーの居城があるのは、前に教えたから知ってるな?」

 

「う、うん……」

 

「今日、ちょっと近くまで行って、その城を見物に行く」

 

「ええっ!?ち、『地底魔城』に行くのッ!?」

 

 ヒュンケルが目を向きながら叫ぶ。地底魔城とは魔王ハドラーの城の名前で、死火山を加工して地底に建造された、文字通り地底の魔城だ。

 

「ちょうど様子を見に行きたいと思ってな。ヒュンケルは怖かったら、留守番でも良いぞ?」

 

「こ、怖くなんかないよ!僕も行くっ!」

 

 多少無理してるっぽいが、まあいいだろう。

 

「よし!決まりだな。1度町で準備してから、地底魔城に出発だ!」

 

「お、おー!」

 

 

 

 予定を決めた俺とヒュンケルは、手早く朝メシを片付け、町に下りて薬草や補充の食糧を買い込み、それらを“ふくろ”に入れて、魔王ハドラーの居城『地底魔城』へと向かった――んだが……。

 

 

「……誰もいないね?兄さん」

 

「ああ、妙だな……」

 

 魔城の近くの岩場に身を潜めて様子を窺っていた俺とヒュンケルは、すぐにその異様さに気付いた。

 

 地底魔上は、死火山の火口に螺旋上に降りて行く階段を設置し、地下の城へと続く構造になっている。実は、ヒュンケルに内緒で前にも1度様子を見に来た事があるんだが、その時は階段の入口辺りにも骸骨剣士やオークが何匹か見張りに立っていた。

 

 だが今は、兵隊モンスターが1匹も見当たらないのだ。そもそも、ここに来るまでだって、戦闘を覚悟して来たのに魔王軍のモンスターに全く遭遇しなかった。何処かの町や国に侵攻に出掛けているとしても、仮にも魔王の居城に見張りの1人もいないのは変だ……。

 

「……ヒュンケル、中に入って調べてみよう」

 

「ええ!?」

 

「地底魔城に何か異変が起きているのかも知れない。古人曰く『虎穴に入らずんば虎子を得ず』――ここから眺めてても、何も分からないからな。これもまた冒険だ!」

 

「で、でも!外にはいなくても、中にはモンスターがいるかも……!」

 

「かもな。ヒュンケル、怖いなら今からでも家に戻って留守番してても良いぞ?」

 

 家ってのは、朝メシを食った所の事だ。これは別にヒュンケルを挑発している訳じゃない。実際、何が起きているか分からない以上危険かも知れないし、行きたくないなら無理に付き合わせる事もないと思って言ったんだ。

 

「う……こ、怖くないよっ!僕だって、たくさん剣の練習したんだ!足手纏いになんかならないよ!兄さんと一緒に行くっ!」

 

「……分かった。そこまで言うなら一緒に行こう」

 

「っ!うんっ!」

 

 俺について来たいって理由が強い気がする……。う~ん、やっぱりもう少し自立心・独立心が欲しいな。今度、その辺りをじっくり話し合ってみるか……。

 

「いいか?充分周りに注意を払うんだぞ?何か見つけたり、気が付いた事があったら、すぐ俺に言うんだ。分かったな?」

 

「う、うん……分かった!」

 

 ヒュンケルに警戒を促し、俺は鋼の剣を鞘から抜いて右手に持って、地底魔城への階段を下った――。

 

 

 

「に、兄さん……!」

 

「ああ……」

 

 地底魔城に入ってすぐ、俺達は兵隊モンスターがいなかった理由を知った。

 

 迷宮となっている魔城の通路に転がる、兵隊モンスターの亡骸……壁に背中を付けて座り込んだ状態で事切れたオーク、崩れかけの骸骨剣士、首を斬り落とされて横たわるサイクロプス……骸骨はともかく、オークやサイクロプスの血が乾ききっていないところを見ると、倒されてそう時間は経っていない。

 

 誰かがこの魔城に攻め入っている……。魔王の居城に攻め入る――そんな大胆な事をするのは、勇者と相場が決まっている。

 

「ヒュンケル、上手くいけば勇者に会えるかも知れないぞ」

 

「えっ?じゃあ、これは勇者がやったの?」

 

「ああ、ほぼ間違いないだろう」

 

 そして恐らく……勇者は更に奥に進んでいる。もしかすると、今頃は魔王と対決しているかも知れないな。

 

「とにかく、俺達も奥へ行ってみよう。さっきも言ったが、くれぐれも用心してな?」

 

「う、うん……!」

 

 ヒュンケルも銅の剣を握りしめ、緊張した面持ちで頷く。俺も鋼の剣を握り直し、いつ生き残りのモンスターが現れても良い様に構え、歩き出す。

 

 

 俺達は奥へと進んだ――進む方向は、モンスターの亡骸が教えてくれる。

 

 魔城の中は不気味なくらい静かだった……モンスターの気配がまるで感じられない。全て、勇者とそのパーティが倒したのだろうか?だとしたら凄いな。幾ら勇者が強くても、多勢に無勢だろうに……。

 

 どれくらいの時間を歩き回ったのか、果たして俺達は正しい道順を進んでいるのか、それとも知らない間に迷ってしまっているのか、全く何も分からない状況がしばらく続いた。

 

 ヒュンケルもモンスターの亡骸を見て少し気持ち悪そうにしていたが、弱音を吐く事無く俺について来た。

 

 

 そうして、更に奥へと進み……亡骸が徐々に少なくなってきた、その時――。

 

 

『ギャアアアアアアアアアアァァァアァァァァッッッッッ!!!???』

 

「「っ!?」」

 

 まるで魔城全体を震わせるかの様な、物凄い断末魔の叫びが響き、俺とヒュンケルは思わず身を竦ませた。

 

「に、兄さん!?何、今の……!?」

 

「わ、分からん……」

 

 野太くて喉をガラガラ震わせて出している様な声だった……まさかあんな緑色の大魔王や神様みたいな声が、勇者の声だとはちょっと思いたくない……。第一、勇者が断末魔の叫びを上げたら一大事だ。

 

「に、兄さん!見てあれ!」

 

「どうした?」

 

 袖を引かれて振り返り、ヒュンケルが指差す方を見る。

 

「あ……!」

 

 そこにあったのは骸骨剣士の亡骸だったんだが、それが俺達の見ている前でゆっくりと灰になって崩れ去ったのだ。

 

 それを見て確信が持てた。

 

「どうやら、さっきの断末魔は魔王の声だったみたいだな」

 

「どういうこと……?」

 

「骸骨剣士みたいなアンデットモンスターはな、魔王の魔力で作り出され、この世に存在しているんだ。だから魔王の魔力が途切れれば、この世に存在を留める事ができなくなり、ああやって灰となって消えるのさ。つまり……」

 

「魔王が、いなくなった……?」

 

「そういう事だ」

 

「っ!やったぁ!!」

 

 破顔したヒュンケルが跳び上がって喜ぶ。

 

 対して俺の気持ちはちょっとだけ複雑だった。平和は確かに結構な事だが……世の中が平和になると、冒険らしい冒険ができなくなる気がして、それはそれで寂しい。

 

 この先、大人しくしてるモンスターをわざわざ探し出して倒すのもどうかと思うし……何かしら、冒険の代案を考えておかないといけないな。

 

「とにかく奥へ行ってみよう。折角来たんだ、勇者か魔王の部屋のどっちかぐらい見てから帰ろう」

 

「うん!」

 

 

 俺達は更に奥へと進む。ヒュンケルはもう危険がないと知るや、さっきまでの緊張が嘘の様に無くなり、俺の横を悠々と歩く。現金な奴だ……。

 

 また暫く歩いて行くと 、禍々しい悪魔の彫刻が施された大きな扉の前に出た。その先は上り階段になっており、如何にも『この先魔王の間』という風情だ。

 

「っ!」

 

 中に踏み込もうとした時、人の気配が近付いて来るのを感じて、俺は立ち止まった。

 

「どうしたの?兄さん」

 

「シッ!前から誰か来る……」

 

「えっ!?」

 

コツ、コツ、コツ……

 

「っ!ホントだっ!」

 

 近付いてきた足音に気付いて、ヒュンケルもまた身構える。幾ら、さっき魔王が倒されたとしても、正体が分からない相手が近付いて来るとなれば警戒するのは当たり前だ。

 

コツ、コツ、コツ……

 

「……おや?」

 

 階段を下りて現れたのは、長めの髪を後ろで巻いてカールにするという妙な上方の剣士だった。

 

「(何故、こんな所に子供が……?)あなた達は?」

 

 彼は最初、俺達を見て怪訝な顔をしていたが、すぐに温和な雰囲気の笑みを浮かべて問いかけて来た。

 

「俺はエイト、こいつは弟のヒュンケル。俺達は、地底魔城の様子がいつもと違ったから、何かが起きていると思って調べに来たんです」

 

 俺は正直に答えた。勘に過ぎないが、この男は危険な奴ではないと思ったからだ。ちなみにヒュンケルは俺の後ろに隠れて、チラチラと男を窺っている。

 

「なるほど……。しかし、あなた達の様な子供がこんな危険な場所に近付いてはダメです。お父さんやお母さんが心配しますよ?」

 

「大丈夫ですよ。どっちもいませんから」

 

「っ!……申し訳ありません、無神経な事を言ってしまいましたね」

 

「気にしないで下さい。俺達も気にしませんから。ところで、あなたは?見た所、魔王の手下とは思えませんが」

 

「おおっと!これまた失礼、申し遅れました。私はアバン、アバン・デ・ジニュアール3世――昔、カール王国で騎士などやっていた男です」

 

「アバン……!?じゃあ、あなたが勇者アバンっ!?」

 

「ええっ!?この人がっ!?」

 

 後ろに隠れていたヒュンケルも、驚き声を上げた。すると、彼は――アバンさんは軽く笑う。

 

「ハハハ!まあ、人々はそんな風に呼んでくれますね。私はそんな大層な人間ではないつもりなんですが」

 

 そう言って謙遜するアバンさんには悪いが、俺も正直、彼がそこまで凄い人物なのかどうか分からない。レベルが上がって戦闘力が身についてきてから、俺も少しぐらいは相手の力量が感じ取れる様になった。慣れていないから正確かどうかは今一つ自信がないが、俺とアバンさんが戦えば、多分、俺が勝つんじゃないかと思う。

 

「まっ、こんな殺風景な所で立ち話もなんです!私も仲間と合流しなければなりませんし、エイト君達さえよければ、外まで一緒に行きませんか?」

 

「……そうですね。じゃあ、一緒に行きます」

 

 

 そうして俺達は、勇者アバンと連れ立って、出口へと向かった――。

 

 

 


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