ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方   作:amon

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第3話『弟との別れ!の巻』

 

 

 

 

 弟のヒュンケルを連れて地底魔城に忍び込んだ俺ことエイトは、厳つい門の前で、魔王を打ち倒した帰りの勇者アバンと出会った――。

 

 そして俺達は勇者アバンと連れ立って、地底魔城の出口へと向かう事に……。

 

 途中、後続の敵を食い止めていたというアバンさんの仲間達――戦士ロカ、僧侶レイラ、魔法使いマトリフが合流して、最終的には6人で地底魔城を後にした。

 

 ロカさんはアバンさんとカール王国騎士団時代からの同期の桜だそうで、“豪快”の一言に尽きる人だ。頭をガシガシ乱暴に撫で回されたし、背中をバシバシ叩かれた……。

 

 レイラさんは、優しくて穏やかな黒髪の美人――驚いた事に、ロカさんとは夫婦の間柄で、既に娘さんが1人いて、故郷に残してきたとか。

 

 マトリフさんは……なんて言うか、少し難しい人だな、偏屈というか……。言葉遣いは汚いし、目付きも良くない。だが、アバンさんが言うには、誤解されやすいだけで決して悪い人ではないと言う話だし、話してみると確かに思慮深い人だと思えた。

 

 で、そのままアバンさん達は、カール王国のフローラ王女――王位はまだ継承していないが、実質的に指導者として立っているそうだ――に魔王討伐の報告をするとかで、マトリフさんの『ルーラ』でカール王国に向かうと言うので、俺は無理を言ってヒュンケル共々同行させてもらう事にした。

 

 カール王国に着いてすぐ、俺とヒュンケルは王城に報告に向かうアバンさん達と一時別れ、アバンさんに手配してもらった宿屋で待つ事にした。まさか、俺達まで女王様とやらに謁見する必要はないし、第一、そんな偉い人になんか会いたくない。

 

「実は、アバンさんに聞いてもらいたい事があるんです」

 

 そう言って、用事が済んだら宿屋に来てもらう事になっている。

 

 もしかしたら、祝勝パーティーでも開かれて帰りが遅くなるかもしれない。だったら、別に急いではいないので明日でも構わない。

 

 

 そう思って宿屋の部屋で寛いでいたんだが――

 

 

コン、コン

 

「ん……?はい、どちらさん?」

 

『私です。アバン・デ・ジニュアール3世ですよ』

 

「アバンさん?開いてますから、どうぞー」

 

 俺が促すと、ドアが開いてアバンさんが入って来た。

 

「いやいやいや、すいませんね。遅くなりましたっ」

 

 出会ったときとは違い、赤い貴族の服を着て、黒縁眼鏡を掛け、髪のカールを両サイドに巻き直した格好のアバンさんがにこやかに入ってきた。

 

「いや、むしろ早過ぎると思うんですけど……お城でパーティーとか開かれなかったんですか?」

 

「いいえ、開かれましたよ。ですが、途中で抜け出して来ちゃいました♪」

 

「は?い、良いんですか?主役の勇者が抜け出したりして……」

 

「なぁに、ノープロブレムですよ♪私1人いなくなっても、皆さん、好き勝手に盛り上がっていますから」

 

 あっけらかんと言うアバンさん。ホントに大丈夫なんだろうか?

 

「実を言うとですね……」

 

 アバンさんは急にススッと俺の側に寄ってくると、口元に手を当ててヒソヒソ話し出す。

 

「……内緒の話ですが、私はこのまま旅に出ちゃうつもりなんです」

 

「……なんですと?」

 

 戦いを終えて凱旋した勇者が行方を眩ます――ドラクエ3のエンディングにあったパターンだ。思い返せばアバンさんのパーティは、勇者・戦士・僧侶・魔法使いの王道スタイル……まんまじゃないか。

 

 しかし、気になる事もある――。

 

「この国のお姫様と結婚して王様になったりとかはしないんですか?」

 

「(ギクッ)い、いやいや!私なんかに王様なんて務まりませんよ~。何しろ、剣と呪文と学問くらいしか取り柄がありませんからね私は~アハハハ~!」

 

 今、動揺したな。実はお姫様との結婚が嫌で逃げて来たんじゃないだろうな?

 

 まあ、そんな事より……アバンさんが旅に出ると言うのなら、俺としても好都合だ。早速、お願いするとしよう――。

 

「アバンさん、実はあなたにお願いがあるんです」

 

「私に?なんです?」

 

「弟のヒュンケルの事なんですが……」

 

 俺はベッドで寝ているヒュンケルの方を見る。悪く思うなよ、ヒュンケル……これも、お前の成長の為だ。

 

「あいつを、アバンさんの旅に連れて行ってやってくれませんか?」

 

「……どういう事です?」

 

 アバンさんは一瞬驚いた様に目を見開いたが、すぐに真剣な顔で俺に続きを促してきた。

 

 だから、俺は自分の考えを語った――。

 

 6年前、魔王軍に襲撃されていた町の中で、赤ん坊だったヒュンケルを拾って弟として育ててきた事を……今日まで苦労したものの、何とかここまで大きく育てる事は出来たが、近頃、ヒュンケルが俺に依存している傾向がある事を……。

 

 その影響か、人付き合いもあんまり上手くないし……今のまま大きくなったら、将来が心配だ。

 

 俺は兄貴として、ヒュンケルには自立心・独立心を養ってもらいたい……そして、他の人間ともきちんと接する事の出来る、真っ当で一人前の男に成長して欲しい。

 

 このまま俺と一緒にいても、そうしたヒュンケルの成長は望めない気がする……。それに全く自慢にならないが、俺は人にモノを教えるのが下手だ。剣にしろ、教養にしろ……俺よりカール王国騎士団出身で、自分でも“学問が取り柄”と言ったアバンさんに教えてもらった方が良いはずだ。

 

 ヒュンケルの将来の為、あいつを教育して、正しい大人に育て上げて欲しい――俺はアバンさんにそう頼み込んだ。

 

「……ヒュンケル君は幸せですね。あなたの様な、素晴らしいお兄さんを持って」

 

 アバンさんはそう言って、俺の頼みを快く引き受けてくれた――。

 

 

 俺は早速、ヒュンケルに手紙を書き、それを目覚めたら渡すようにアバンさんに託し、そのまま宿屋を後にした。

 

 思い立ったが吉日――出発も思い立った時にしてしまった方が良い。

 

「ヒュンケル、強く、立派な男になれよ。俺は、成長したお前に会える日を楽しみにしているからな……」

 

 

 町の入口から宿屋の方に向かって呟き、俺はカール王国を後にした――。

 

 

 

≪SIDE:ヒュンケル≫

 

 

「……ぅ、ううん……」

 

 あれ……?僕、寝ちゃってたのか……。

 

「ふ、ふわあ~~……!」

 

「グッドモーニング!という時間ではありませんが、良く眠れましたか?ヒュンケル君」

 

「あれ?アバンさん?」

 

 欠伸をしていたら、横から声がして、そっちを向いたら、会った時とは違う格好のアバンさんが椅子に座っていた。

 

「いつの間に来てたの?……あれ?兄さんは?」

 

 ふと気付くと、寝る前はいたはずのエイト兄さんがいなかった。買い物にでも出かけたのかな……?

 

「彼なら旅立ちましたよ」

 

「え……?」

 

 兄さんが、旅立った……?僕を置いて……!?

 

「そんな……そんな!嘘だっ!!」

 

「……これを」

 

「っ……?」

 

 アバンさんが静かに差し出してきたのは、1通の手紙だった。

 

「……」

 

 こんな時になんだよ……。そう思ったけれど、なんだかアバンさんの顔を見たら言い返せなくなって……大人しく手紙を受け取って開いて見た。

 

「……っ!兄さんの手紙……!」

 

「そうですよ。君が目を覚ましたら渡す様に、彼から託されたものです」

 

「……っ」

 

 僕はもう1度、手紙をじっと見つめ、書いてある事をちゃんと読んだ。

 

 

『ヒュンケルへ――

 

 この手紙を読んでいると言う事は、アバンさんはちゃんと手紙を渡してくれた様だな。

 

 突然、こんな事になって驚いただろう。先ずはその事を謝ろう。悪かったな。

 

 お前を拾ってから、早いもので6年が経った。お前は大きくなり、俺と一緒にモンスターと戦える程になった。

 

 その事が、俺はとても嬉しかった。だが……俺は嬉しい余り、お前を少し甘やかし過ぎてしまった。

 

 お前よりは年上だと言っても、俺も所詮は12歳の子供……俺自身、学ぶ事の方が多過ぎて、本当に大事な事を教えてやれなかった。

 

 このまま俺と一緒にいても、お前の成長の邪魔にしかならない……俺はそう判断して、お前をアバンさんに託す事にした。

 

 アバンさんなら、俺では教えられなかった色んな事を教えてくれる。お前を一人前の、立派な男に育て上げてくれる。

 

 ヒュンケル、アバンさんの元で学び強くなれ。俺は、一足早く旅に出る。

 

 今までずっと一緒だったお前と別れるのは俺も寂しいが、これも俺達がお互いに大人に成長する為には必要な事だ。少なくとも、俺はそう思って……そして、お前を信じて、行く事にする。

 

 いつか、逞しく成長したお前に再会できる日を楽しみにしている。

 

 アバンさんに失礼のない様にするんだぞ?

 

 じゃあな……また会おうぜ、兄弟!

 

 お前の兄貴、エイトより――』

 

 

「……兄さん」

 

 読んでいて分かった……兄さんは、僕を意地悪で置き去りにした訳じゃないって事が。

 

 最近、兄さんが僕の事を見て、何か考えているのは気付いていた……。それが、僕の事だとは思わなかったけど……。

 

「……っ」

 

 兄さんは、いつも優しくて、頼りになって……僕はそんな兄さんに憧れていた。

 

 剣を教えてもらったり、一緒にモンスター退治に行ったり……、兄さんはいつも僕を見守ってくれた。危なくなったら、助けてくれた……。

 

 だから、僕はそんな兄さんが大好きで……いつも甘えていたんだ。

 

 このままじゃいけない!今なら僕もその事が分かる。別れるのは辛いけど……兄さんは僕を信じている。僕が一人前の男になるって、信じてくれてるんだ!

 

 寂しくても、泣いてなんかいられない。強くならなきゃ……兄さんみたいに!

 

「……アバンさん!」

 

「なんですか?」

 

「僕を……いや、“俺”を鍛えてください!俺に、色んな事を教えてください!」

 

「……」

 

「俺は強くなりたいんだ!いつかまた兄さんに、胸を張って会えるように!!だから、お願いしますっ!」

 

 俺が頼み込むと、アバンさんはニッコリと笑った。

 

「勿論、最初からそのつもりですよ。エイト君にも頼まれましたし……何より、私は君が気に入りました!」

 

「え?」

 

「その真っ直ぐな瞳……君が真っ直ぐな心を持っている、何よりの証拠です。君ならばきっと、強く、正しい戦士になれる……私は、君やエイト君の様な少年達に出会えて嬉しい。私の持てる全てを活かし、君を導きましょう」

 

「……はいっ!お願いします!!」

 

「よろしい!今日から君は、私の生徒です!特訓はベリーベリーハードですが、耐えられますか?ヒュンケル」

 

「どんな辛い修行でも、耐えてみせます!!」

 

 そのくらいの事にも耐えられなければ、兄さんに会わせる顔がない。

 

「うむ!それでは……」

 

「……っ」

 

 早速、何か修行を言い渡されるのかな?よぅし、どんな修行でもやってやるぞ!

 

「今日はもう遅いので、明日からの特訓に備えて寝るとしましょう♪」

 

「だあっ!?」

 

 俺がコケてベッドから落ちたのを尻目に、アバンさんはベッドに潜り込んでしまった……。

 

「ZZZ……」

 

 もう寝てる……。兄さん、俺、本当にこの人に教わって強くなれるのかな……?

 

 すっとぼけたアバンさんの態度に不安を覚えつつ、俺ももう1度ベッドに入る。

 

「……(アバンさんが頼りにならなかったとしても、自分で勉強して、修行して、強くなってみせるぞ……!)」

 

 

 ベッドの中で決意をし、あれこれ考えていたら、俺はいつの間にか眠った――。

 

 

 


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