ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方   作:amon

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第7話『モンスターの島『デルムリン島』!!の巻』

 

 

 

≪SIDE:鬼面道士ブラス≫

 

 

「ずずぅ~……はぁ」

 

 平和な昼下がり――わしはお茶を飲みながら、のんびりしておった。隣りには、数日前にこのデルムリン島に流れ着いた赤ん坊『ダイ』が気持ち良さそうに眠っておる。

 

「すぅ……くぅ……」

 

「ふふふ、可愛い寝顔じゃ」

 

 この子を拾った時は、驚いたものじゃ……。

 

 数日前、島を嵐が通り過ぎ、わしは見回りを兼ねて海岸を歩いておった。すると、船の残骸と思しき木片が多数流れ着いているのに気付いた。きっと、この島に程近い海域を航海中にあの嵐に遭遇して難破してしまったのじゃろう。

 

 そして、海の方を見た時……1艘の小舟が流れて来るのを見つけたのじゃ。よく目を凝らして見れば、そこには1人の赤ん坊が乗せられておった。

 

 わしは急いで海岸に走り、流れ着いた小舟から赤ん坊を抱き上げた。大嵐に遭って衰弱しておるか心配したが、抱き上げた赤ん坊は目を覚まし、わしを見るや無邪気な笑顔を浮かべたのじゃ。その笑顔に、わしも思わず顔が綻んでおった。

 

 そして、その赤ん坊を家に連れ帰り、こうして面倒を見る事に決めた。誰よりも正しい心を持った大人に育てようと心に誓って……。

 

 わしは魔王ハドラーが世界を脅かしていた頃、魔王の邪悪な意志に操られ、多くの人間を苦しめてしまった。3年前、勇者様によって魔王ハドラーが打ち倒され、その邪悪な意志から解放されて後、魔王の手下として幾らかのモンスターを束ねていたわしは、そのモンスター達を連れてこの島に隠れ潜んだ。

 

 もう2度と、人間達を脅かさずに生きていく為に……。

 

 そんなわしの下に、あの子が流れ着いてきたのも、もしかすると神の思し召しなのかも知れん。

 

 わしはこの子に、『ダイ』と名付けた。揺り籠に、恐らくはこの子の名前が書かれていたプレートがあったんじゃが……最初の頭文字『D』の部分以外が削れてしまっていて、本名は分からなんだ。じゃから、わしはせめて頭文字だけでも同じ名前が良いじゃろうと、この子に『DAI(ダイ)』と名付けた。

 

 その方がこの世界の何処かに居るであろうダイのご両親も喜ぶじゃろうと思ったのじゃ……まあ、気休めかもしれんが。

 

「ダイよ、元気に大きくなるんじゃぞ?お前をこの世界に産んでくれた、ご両親の為にもな」

 

 良く寝ているダイを起こさない様に、しかし、言い聞かせる様にわしが声をかけた――その時。

 

『キー!キィー!!』

 

「っ!?」

 

 家の窓から、ドラキーが泡を喰って飛び込んできおった。

 

「な、なんじゃドラキー!?静かにせんか……!ダイが起きてしまうじゃないか……!?」

 

 眠るダイを気にしつつ、ドラキーに何があったのかを訪ねる。これだけ慌てておるのは、只事ではないはずじゃ。

 

『キー……!キィーキキー……!』

 

「何ぃ……!?『人間が空を飛んで来た』じゃと……!?」

 

 ドラキーの話では、海岸近くの森の上を飛んでいた時、海の向こうの空から人間の男2人と女1人が空を飛んでやって来たという……。

 

 翼を持たない人間が空を飛んだという事は、恐らく飛翔呪文『トベルーラ』じゃろう。しかし、あれは瞬間移動呪文『ルーラ』の派生呪文でかなり高度な呪文……扱える人間自体、今や大分少なくなったと聞いておる。

 

 このデルムリン島は南海の孤島……1番近いラインリバー大陸ですら相当の距離があるというのに、それを『トベルーラ』で空からやって来るとは……只者ではない!

 

「しかし……何故、今更人間がこの島に……?」

 

 魔王が倒れてからこの3年間、人間達はこの島を“怪物島”と恐れ、今まで人間がやって来た事など無かったというのに……。

 

「ドラキー、島の者達にその人間達に決して手出しをしてはならんと伝えるのじゃ!その人間達には、わしが出て行って話を聞く!」

 

『キー!』

 

 ドラキーが再び窓から飛んで行った。

 

「さて、わしもグズグズしてはおれん!話して分かる相手なら良いんじゃが……」

 

 今までのわしらモンスターと人間の敵対関係を思い、やや不安はあったが、わしは意を決して海岸へと向かった――。

 

 

 

≪SIDE:OUT≫

 

 

「へぇ~、良い所だなぁ」

 

 ロモスから『トベルーラ』で空を行く事、約30分――俺達・バラン・ソアラの3人はデルムリン島に到着した。

 

 白い砂浜、青い海、高い山に森……自然豊かでやや暑いぐらいの気温、吹き抜ける爽やかな風――楽園かっ!?

 

「ここに、ディーノが……!」

 

「ディーノ……!」

 

 バランは今にも走り出しそうな程、焦れている。ソアラも同じく、心配そうな表情で辺りを見回している……。

 

「2人とも、ディーノ君が心配なのはわかるが、焦るなよ?先ずは、あのやたら穏やかな顔をした鬼面道士を探して、話し合いだぞ?」

 

 いきなり襲いかかったり、ディーノ君を取り返そうとしたりしたら、敵と見なされて戦わなければならなくなりかねない。今や大人しく暮らしているモンスターを、わざわざ殺す事はない。勿論、向こうから襲いかかって来たら話は別だが……。

 

「わ、分かっている……!さあ、早くあの鬼面道士を探しに行こう!」

 

 本当に分かっているのか?バラン……そんな汗かいて、絶対暑さでかいた汗じゃない。果てしなく不安だ……バランが暴走したら、俺の力じゃあ止め切れないんだぞ?

 

 俺は不安に胃が痛くなる思いを抱えながら、砂浜から歩き出そうとした。だが――

 

「お前さん達か、空を飛んでやって来たという人間達は……?」

 

 森の方から声が聞こえ、そちらに振り返る。すると、森の中から鬼面道士が姿を現した――水晶玉に映っていた、あの鬼面道士だ。

 

「一体このデルムリン島に何しに来た?わしらモンスターを倒しに来たのか?わしらはただ、この島で静かに暮らしたいだけなのじゃ……決して人間達に迷惑は掛けん。もし、敵対する意志がないのなら、何もせずに島を出て行ってはくれんか?」

 

 警戒心を露わにして尋ねてくる鬼面道士……だが、こうして話し掛けてくるという事は、理性はちゃんとあるはず……。

 

「……(バラン、ソアラ、ここは俺に任せてくれ)」

 

 俺は今にも飛び出しそうな2人に目配せをし、2人が頷くのを確認してから、鬼面道士に向き合う。

 

「鬼面道士さん、聞いてくれ。俺達は、あんた達を傷付けに来た訳じゃないんだ」

 

「……では、何をしに?ここはわしらモンスターが暮らす以外、何もない島じゃぞ」

 

「この島に、人間の赤ん坊がいるはずだ……」

 

「っ!?な、何故それを……!?」

 

「やはりいるんだな!?」

 

 抑えていたバランが、身を乗り出して叫ぶ様に言う。

 

「待てバラン!落ち着くんだ!」

 

「しかし!ディーノが、ディーノがすぐ近くにいるんだ!!」

 

「分かってる!今からそれを話すんだ!もう少しだけ我慢しろ!!」

 

「ディーノ……?」

 

 必死にバランを抑えていると、鬼面道士の怪訝な声が聞こえた。

 

 俺は振り返り、事情を説明する――。

 

「あんたが保護してくれた赤ん坊の名前だ。そして、この2人はその子の両親なんだ」

 

「な、なんとっ!?」

 

 

 事情を理解してくれた鬼面道士のブラスさんは、俺達を快く家へ案内してくれた――。

 

 そして、バランとソアラは生き別れた息子のディーノ君と感動の再会を果たす……。

 

 

「ディーノっ!!」

 

 真っ先にディーノ君を抱き締めたのはソアラだった。嬉し涙を流し、ディーノ君に頬を擦りつける。

 

「ああ、ディーノ……!良かった、本当に良かったぁ……!」

 

「ディーノ……!」

 

 バランも2人の側で涙を止めどなく流しながら、再会を喜んだ。

 

「「ぐすっ……!ん?」」

 

 バラン達の心暖まる光景に鼻をすすっていると、横からも同じ様な音が聞こえた。振り向くと、ブラスさんと目が合う――涙目……どうやらブラスさんもうるっときたらしい。

 

 

 そうして感動の再会がひとしきり落ち着いたところで、俺達はブラスさんに全ての経緯を話した。

 

 バランとソアラの事……、ディーノ君が生まれ、生き別れになった訳……、俺が2人を連れ出してからデルムリン島を探り当てて、ここに来る事になった理由……。

 

 

「なるほど、そういう事情でしたか……。お2人とも、随分と辛い目に遭われたのですなぁ」

 

 全てを話し終えると、ブラスさんは心痛の表情でそう言った……。

 

 本当に、モンスターとは思えない穏やかさだ。鬼面道士と言えば、『ベホイミ』で回復するわ『メダパニ』で混乱させてくるわ、嫌らしいモンスターのはずなのに……。

 

 ブラスさんは、下手な人間よりずっと気持ちのいい心の持ち主だ。少なくとも、あのアルキード王国の連中とは比べ物にならない。情けない生き物だよなぁ、人間って……。

 

「バラン殿、ソアラ殿……わしは1つ、あなた方に謝らなければならない事がありますじゃ」

 

「謝らなければならない事?」

 

 バランが尋ねる様に繰り返す。

 

「……わしは、その子に、ディーノ君に勝手に別の名前を付けて呼んでいたんですじゃ。ディーノという立派な名前があったというのに……誠に申し訳ない」

 

「……」

 

 俺は思わず唖然とした。何を言い出すかと思えば……そんな事を謝って頭を下げるとは。本当にモンスターだよな?この方……鬼面道士に化けた聖人とかじゃないよな?

 

「謝らなければならない、等と言われるから何事かと思えば……ブラス殿、どうか頭を上げてほしい。何も謝る事などないのだから」

 

「そうですわ。感謝こそすれ、恨む気持ちなんて少しもありません。そうだわ!よろしければ、ブラス様がこの子に付けてくださったお名前をお聞かせ頂けませんか?」

 

「その子の揺り籠に付いたプレートの『D』の文字を取って『DAI(ダイ)』と名付けました……」

 

「まあ、素敵な名前だわ!ねえ、あなた」

 

「ああ、実に良い名だ」

 

 ブラスさんのネーミングセンスを褒めたたえるソアラとバラン……。だが、俺は2人を尻目に違う事を考えていた。

 

 “ダイ”……ブラスさんは確かにそう言った。

 

 かつて俺がこの世界に転生する事を告げられた時、案内人さんはこの世界を――漫画『ダイの大冒険』に酷似した世界――そう教えてくれた。だとすると、今、ソアラの腕に抱かれている赤ん坊が漫画の主人公……つまり、未来の勇者という事なのだろうか?

 

 まさか、こんな形で主人公に出会う事になるとは夢にも思わなかったな……。

 

「エイト、どうかしたのか?」

 

「え!?」

 

 声を掛けられ我に帰ると、バランがこっちを見ていた。

 

「先程から、ディーノの事をじっと見つめていたようだが?」

 

「あ、ああ、いや!ディーノ君、気持ち良さそうに寝てるなぁって思って、つい……!」

 

「ああ、確かにそうだな。よく眠っている……やはり、ソアラの腕に抱かれているのが、1番安らぐ様だ」

 

 バランがディーノ君に視線を移し、穏やかな笑みを浮かべる。ふぅ、何とか誤魔化せたか……。

 

 ディーノ君が大きくなったら勇者になって大冒険をするかもしれない――なんて、バランやソアラにはとても言えない。それに、今からそんな先の事考えて悩んでもしょうがないしな。

 

 それよりも、今は目先の事――バラン達の今後の方が重要だ。家族3人、安心して平和に暮らしていける場所が必要だよなぁ……。

 

 う~ん……あっ、あるじゃん。

 

「なあ?バラン、ソアラ」

 

「む?」

 

「何ですか?エイトさん」

 

 ディーノ君から俺に振り向く2人。俺は2人にアイディアを明かした。

 

「あんたら、ここに住んだらどうだ?」

 

「「え……?」」

 

 俺のアイディアに、2人がきょとんとする。

 

「ここならアルキード王国の連中もさすがに追ってこれないだろうし、ブラスさんもいるから島のモンスター達も襲ってはこないだろう?それに暖かくて自然も豊かで、良い環境だ。ここならディーノ君も伸び伸び大きくなれそうじゃないか!」

 

「……確かに、それはそうだが……」

 

「私達が良くても……」

 

 そう言って2人が視線を向けるのは、この島の長老的存在のブラスさん――なるほど、迷惑が掛かるんじゃないかって事だな。

 

「ブラスさん、どうかな?さっき話した通り、バラン達には行く所が無いんだ。この島に住まわせてやってくれないか?」

 

「いや、こんな辺境の何もない島でよろしければ、わしは一向に構いませんが……」

 

「……本当に、いいのか?私達が、この島で暮らしても……」

 

 バランが恐る恐るといった風に尋ねると、ブラスさんはニッコリと笑って頷いた。あ、歯欠けてる。

 

「勿論。わしとしてもダイ……あいやいや、ディーノ君とこれでお別れというのは、少々、寂しいと思っておりました。うむ、わしからもお願いします!是非、この島に居て下され!」

 

「ブラス殿……!ありがとう……ありがとう!」

 

 バランは泣いた……泣きながら、何度もブラスさんに礼を言った。

 

 想像でしかないが、バランはきっと、人間に追放された事が実はショックだったんだと思う。『竜の騎士』は人間ではないらしいが、心は人間だったんだ。

 

 だからこそ、人間を生かす為に命をかけて冥竜王なんて強敵と戦った……人間こそ、守らなければならない存在だと信じて。

 

 しかし、その想いは裏切られた……。

 

 人間は彼の心を知らず、ただ恐れて迫害するばかり……1人でそうなったらまだマシだった。1度は受け入れられ、愛を知り、その上で裏切られたからこそ、バランの心に深く大きな傷を残したんだと思う。

 

 今やバランの心の拠り所は、生まれて初めて愛し、また自分を愛してくれた女性であるソアラと、彼女との間に生まれた愛する息子のディーノ君……たった2人の家族だけだった。

 

 バランはきっと、心のどこかで恐れていたんじゃないだろうか?また拒絶されるのではないか……裏切られるのではないか、と。

 

 だから、ブラスさんが快く受け入れてくれた事が、一層嬉しかったんじゃないだろうか……俺は、そう思う。

 

 

 まあ、そんな憶測の話はともかく……バラン達をアルキード王国から連れ出して良かった、それは間違いなさそうだ。

 

 だったら、俺はそれで良い――それだけで充分だ。

 

 

 こうしてバランとソアラ、そしてディーノ君はこのままデルムリン島で、家族揃って暮らしていく事に決まった――。

 

 

 


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