「・・・」
「…なんだよ」
「…いえ、私も未だ悟りを開くには程遠いのだと実感いたしまして」
「…?」
同田貫は僅かに眉をしかめる。
「…あの子に味方するものが増えるに越した事はありませんが、あなたは
「あン?味方も何も、俺らは武器なんだから敵をぶった切るだけだろ。……まあ、小鳥は違う考えみてぇだが」
「刀を振るう為の躯と頭脳だけでなく、心まで私たちに在るのは何の為だと思うのです?…ただ敵を斬るだけの木偶で良いのなら、心など必要なかったでしょうに」
「んな小難しいこと言われてもわからねぇよ…」
「――同田貫はもう少し思考放棄する前に考える習慣を付けるべきだと思うよ?戦に関してなら頭も回るんだし」
僕も瞬間的な判断とかはあまり得意ではないのだけれど。
「考えたってわからないもんはわからないだろ」
「考える前に脊髄反射でシャットダウンするのは如何なものか、と言っているんだ。考えた結果わからなくとも、それはそれでいいんだよ」
「んなこと言われてもなぁ…」
小鳥は机の上に持ってきた碁盤と碁石を置いた。
「…碁、ですか?」
「正直、俺ルール把握できてないんだけどなー。シンプルに五目並べにしようぜ」
「自分が判るもん持ってこいよ」
「ボードゲームは大体ルールは把握してるけど定石とかは全然わからないのばっかりなんだよ。駒の動かし方しかわからないとか」
「じゃあ何でそもそも勝負しようって言い出したんだよ…」
「んー、なんか、こういうのって呪術的な意味合いもあるとかなんとか」
「はァ?」
「まあ、興味本位だね」
「・・・」
「たぁいしょv」
すぱぁんと派手に障子を開けて現れたのは、紅色の短髪の鮮やかな短刀…信濃藤四郎だった。朗らかな笑顔を浮かべているが、その瞳は他の粟田口の祟刀同様、血のような赤色をしている。
「懐、ガラ空きだよ!」
などと言いながら小鳥の懐に潜り込み、すりすりしている。
「…ええと」
信濃は小鳥と契約を結んでいない。というか、寧ろ初対面である。
「…誰かな」
「信濃藤四郎だよ。秘蔵っ子だから、もしかして知らない?」
「…いや、秘蔵っ子以前に俺がちゃんと知ってる刀剣はへし切長谷部と蜻蛉切くらいだからなあ」
この本丸に配属されて後、現在確認されている刀剣の資料がこんのすけから渡されているものの、殆ど目を通していない。交流のあるものをさらっと流し読みした程度だ。時間が出来たら読もうとは一応思っているのだが。
「そっか、残念」
「いや、残念、じゃないだろ。何やってんだお前」
「大将の懐に入ってる!」
「子供とはいえ、女性の胸に顔をうずめるのはいかがなものでしょうか…」
「お前、そいつと契約してないだろ」
「うーんでも大将は大将でしょ?霊力も繋がってるし」
小鳥は本丸の管理者権限はちゃんと取得している。そのため、本丸に所属している刀剣は本丸を通じて間接的に
「僕は小鳥だ」
「俺は信濃藤四郎。秘蔵っ子なんだ」
「…さらっと契約結びやがった」
「・・・」
「契約結んだんだから大将の懐に入っててもいいでしょ」
「…正直、意図が判らないんだけど」
「俺が大将の懐に入りたいだけだよ!」
「うん、だからその…懐に入りたがる理由と言うかなんというか」
小鳥は困惑している。
「大将は誰かの懐に入りたくならない?」
「えー………んー……恒次の懐ならちょっと入ってみたいかもしれない」
「んんんっ…」
「…大丈夫かあんた」
「…大丈夫、です」
「俺は一兄の懐も好きかな。でも、一番は大将」
信濃は小鳥に抱きつく。
「大将の懐、あったかい…」
「うーん、新手のセクハラかな?」
「え、俺邪な気持ちとかないよ。ただ純粋に大将の懐に入りたいだけだよ。懐刀だし」
「いや、だからその辺がよくわからないというか…なんかこの会話不毛な気がしてきた」
「おや、主さま、信濃藤四郎と契約を結ばれたのですか」
「いや…なんというか、気が付いたらそうなっていたというか、何故会話がドッジボールにしかならないのか解せぬっていうか…」
「おや、信濃藤四郎は顕現してからまだ日が浅いはずですから、祟化の影響も薄いはずなのですが…」
「…まあ、価値観の違いってやつかな…」
「あ、信濃の。一振りで何処行ってたのさ」
「大将のところだけど」
「え」
「大将の懐はやっぱりあったかかったよ」
「な、なにやってるのさ?!」
「…何でお前はそう考え無しに行動するんだ…」
「だって、別に遠慮する必要とかないでしょ?大将は大将なんだし」
「…そりゃあ、新しい主さんは悪い人じゃないと思うけど…」
「恒次、これ何?」
「それはお守りですね。出陣の際、刀剣破壊を一度だけ防いでくれます」
「でも、基本的には、重傷進軍しなければ折れたりしないんだよね?」
「…万一への備えですからね。何があっても折れてほしくない、という審神者の気持ちを示すためのものなのでしょう」
「…同田貫は嫌がりそうだね」
「・・・」
数珠丸は同田貫と髭切の様子をちらりと見る。同田貫は店にあまり興味がないのかだるそうにしているし、髭切は店に興味津々の様子の小鳥を微笑ましそうに見ている。
万屋での用事を終え、その隣の生協に入る。他の審神者と刀剣が品定めしているらしいのを尻目に、小鳥はきょろきょろと売り場を見ている。
「…買い物が好きなのか?」
「ううん。知らないものを見つけるのが楽しいだけ。必要品があったら買わなきゃな、とは思うけど」
「必要なもの、ねえ…」
同田貫は赤い瞳を細める。
「はぐれて迷子になったりしないようにね?こちら側は政府の管轄だから、拐されたりするような事は余程ないだろうけれど」
たぬきくんもだよ、と髭切は付け加えた。
「俺は迷子になんてならねぇよ」
「僕もそこまで注意力散漫じゃないもん」
「いやいや、この中じゃあ僕が一番強いし年も上だろう?偶には年長者らしいこともしてみようかなって」
「…まあ、今はそうですね」
「あんたの弟は別の奴だろ…」
「僕は妹弟はいても兄姉はいないから」
「うん、まあ君位になると、妹というより姪っ子とか孫とかになっちゃうよねえ」
「孫も姪も違うと思うんだけど」
「よぅ」
「…えっと、何と呼べばいいのかな」
「何でもあんたの好きに呼べばいい。まあ、無難に正国とかでいいんじゃねぇの」
「じゃあ、正国で。…何か俺に用事…ってことでいいんだよね?」
「あー…まあ、用事って程のことでもねぇんだが」
「うん」
正国はどっかりと小鳥の横に座る。
「…同田貫正国って刀剣男士は、元々特定の一振りの本霊がいて分霊が顕現してくる他の刀剣連中とは違うんだ。同田貫は量産の剛刀の代名詞みたいなもんで、色んな長さで作られてて、色んな奴に使われてっからな。大体無名の武士とかだが」
「そういう…まァ、言ってみれば同田貫って刀の集合体?ってのが俺たちの本質だ。つっても、普通ならその内の一振りが出てくる、ってだけなんだが…俺たちもあんまり難しい事考えるのは得意じゃねぇから、詳しい事はよくわからねぇんだが、この本丸の俺たちは、混ざっちまってるんだ」
「混ざってる?」
「これまでにこの本丸に顕現した、そして折れた同田貫の…全部なのか幾つかなのか、まあ、何振りか分の折れた同田貫の記憶の断片が、俺たちの中に残ってんだ。…でもって、あんたが同田貫って呼んでるあいつは、特に顕現してから日が浅かったからな。自分自身より折れたやつの記憶の方が多いくらいだったんじゃねぇかな」
「…だから、戦場で折れる事に拘ってる、と?」
「…さあな。だが、俺も…何で自分は折れてねぇんだ、って偶に思うからな。
「・・・」
「…でだな」
「…うん」
「…条件はよくわからねぇんだが、折れてない俺たちの間でも偶に記憶が混線するみてぇなんだ」
「…ほう」
「…で、なんというか…あいつからよくあんたに手を引かれたり頭撫でられたりする記憶が伝わってきてるんだが」
「どういう基準で伝わってるのかそれすごい気になってきたんだけど」
「俺たちも知らねぇんだって。記憶っつっても、その時の感情までは共有してるとは言い切れねぇから(思考は入ってくるが)」
「…その言説は一応予想はつく感じに聞こえるんだけどな?」
「…まあ、なんかしら、心が揺さぶられた時なんじゃねぇかとは思ってるが」
「ふぅん?…ってことはまあ、戦以外じゃ何も感じないってわけじゃないんだね」
「あいつは"わからねえ"だけだろ。つぅか、あんたもそう思ったからああして引っ張り回してるんじゃねぇのかよ」
「まあね。…戦に関する知識に乏しいとはいえ、隊を組むなら和を乱したり、一人で闇雲に突っ込んだりするのが拙いのはわかるよ。死を恐れない事自体はまあ、いいとしても、それで味方の命まで危険にさらしたりするのはいただけないよね」
「…あんた、意外と考えてるんだな」
「そりゃ考えてるよ、命に関わることだもん」