薄暗く不気味な部屋に薄明かりが灯り高笑いが響く。
その笑い声の主こそ悪の秘密結社バッドネス㈱の首領
ドン・サイーグその人である。
彼の姿を見たものはおらず、壁にかけられたバッドネスの紋章が掘られたレリーフが輝きその声だけがいつも響き渡るのだ。
「フハハハハハ!次の作戦を実行に移すぞ!来いサーマルキャットよ!」
サイーグが高らかに名前を呼ぶと闇の中から猫のような姿をした怪人が姿を現す。
怪人は姿を表すや否や壁にかけられたレリーフの前で跪いた。
「お呼びですか首領」
「ああ。次の作戦は貴様に任せようと考えている。やってくれるな?」
「はい。もちろんです。首領の期待に添えられるよう尽力します。それに騒ぎを起こせば噂の魔法少女も必ず現れるでしょう。私のこの爪で必ずや仕留めてみせます。」
サーマルキャットと呼ばれた怪人は得意気に爪を光らせる。
「貴様がそう言うのならば心強い。しかしここ数日だけでも怪人が何人も命を落としている。運良く生き残った者たちは口々に魔法少女を見たとは言っているが・・・最後は計画よりも自らの安全を第一に考えるのだぞ」
「はっ!ワラスボーグ、バーククジラの仇は必ずやこの私が・・・」
「よし!行けサーマルキャット!貴様の爪と能力でこの町を混沌に陥れるのだ!」
サイーグの言葉を聞き怪人は勇ましく部屋を飛び出していった。
サイーグとサーマルキャット恐るべき計画とは一体何なのか?
そして有希は怪人を殺めてしまったのだろうか?
それと同じ頃・・・有希はというと
僕がこの身体になってから一週間が経ち、未だに元に戻れる兆しも無いし何体か怪人と戦ったりもしたけど慣れと言うものは怖いものでそんな生活にも慣れ始めていた。
僕はけだるげに身体を起こすと朝一番に髪を整え服を着替える。
着替えると言っても佐江さんが用意してくれている服はただのTシャツと半ズボンで、お洒落に無頓着な僕ははじめのうちはそれでも良いやと思っていたけどこれがけっこう大変だ。
乳首は浮いちゃうし歩くたびに胸が擦れて痛いし・・・
それになんだか逆に街でも目立ってるような気がして改造人間になって感覚が強化されているからなのか人の視線がちくちくと刺さるように感じるようになってきた。
女物の服とかブラジャーとか買わなくちゃいけないのかな・・・
僕は胸元にずっしりと垂れ下がる大きな膨らみをまじまじと見つめた。
第一僕は男だ。
いくら外見が美少女になったからといっても正直そんな女性ものの下着や服なんて恥ずかしくて着たくもない。
ただでさえあんなフリフリで可愛らしい服を着て怪人と戦うのですらそうしないとどうしようもないから仕方なくであってすごく恥ずかしい。
幸か不幸か今まで戦った場所が人気のない河川敷や廃工場ばかりで人目にはついていないのが唯一の救いだ。
それにしたって怪人や戦闘員の舐め回すような視線を向けられている事にはかわりないし・・・
少なくとも変身していない状態でそんな視線を受けるなんてまっぴらごめんだ。
それならこんなTシャツなんかより地味な女物の服のほうが逆に目立たないかもしれない。
佐江さんに相談してみよう。
あ、そうだ。
早く朝ごはんを作ってあげなくちゃ
僕は部屋を出てリビング(って言って良いのかな?完全に秘密基地っぽい内装なんだけど家具と家電が置いてあって雰囲気ぶち壊しなんだよね)にある冷蔵庫から買いだめしていた材料を取り出し鼻歌まじりで朝食を作り始めた。
毎朝能登●美子みたいな声で鼻歌を歌っているとなんだか耳が幸せだし調子が良くなってくる気がするしこの声になったのも悪くないんじゃないかって思える自分がいる。
「よしっ!今日もいい出来」
今日の朝食は味噌汁と鮭の塩焼きだ。
いつも朝食どころかまともな食事をとっていなかった佐江さんを見ていたら放っておけないしこうやって朝食を作ることが僕の日課になっていた。
そして配膳を済ませしばらく佐江さんの部屋の扉を待ち遠しく眺めているとゆっくりと扉が開き佐江さんがのそのそこちらにやってくる
「ふわぁ・・・・毎度朝からご苦労なことだ。こんな匂いを嗅がされたら寝るに寝れないじゃないか全く・・・余程暇なんだな」
佐江さんが眠そうに目を擦りながら皮肉交じりな事を言うのも毎朝のことだ。
「はいはいおはよう佐江さん。冷めないうちに食べてね」
「ああわかったよ・・・君がどうしても食えというのならそうしてやろう」
佐江さんはそう言って味噌汁を一口啜った。
「どうかな・・・?昨日は味が薄いって言ってたからちょっと濃い目にしてみたんだけど」
「ん・・・?ああ。うま・・・・いやまあ昨日よりはマシと言ったところかな・・・・残飯が残るとゴミ出しが面倒だからなおかわりをもらってやる」
佐江さんは基本褒めてはくれない。
でも身体は正直で僕の出した料理を美味しそうに食べてくれる。
どうやら彼女は僕にそれを気取られていないと思い込んでるみたいだけれど誰が見てもわかると思うな。
そんな佐江さんの食べっぷりを見ていると作り甲斐があってこうして毎朝やることもないので僕は朝食を作ることにしている。
「何をニヤニヤしているんだ気持ち悪い・・・米が入っていないんだが?」
「ううん!なんでも無いよご飯のおかわりだよね?」
どうやら僕も佐江さんの食べっぷりを見て嬉しさからか笑みがこぼれていたようだ。
僕はそんな笑みをごまかすように佐江さんの茶碗にご飯をよそう。
そして朝食を一通り済ますと
「なあ君」
「ん?どうしたの佐江さん?」
「何故君はそんなに料理をするようになったんだ?」
「あれ?言ってなかったっけ?僕の家は父さんも母さんも共働きで忙しかったからいつの間にか自分で作るようになったんだよね。それで初めて母さんたちに料理を作ってあげたときに美味しいって言ってもらえたのが嬉しくって・・・それが癖になっちゃったのかな?それから日課になったんだ・・・父さんたちちゃんとご飯食べてるかな・・・」
そんな話題のさなか両親のことが過る。
できることなら今すぐにでも家に帰ってまた料理を作ってあげたいが僕は死んだことにされてるみたいだしこんな姿じゃ僕を家にすら入れてくれないだろう。
「うう・・・早く元の身体に戻りたい・・・」
「なんだ君はニヤニヤしたり半泣きになったり忙しい奴だな」
「仕方ないでしょ?一週間ちょっと前まで僕ただの男子高校生だったんだよ!?それが今はなにこれ?声も能登麻●子だしおっぱいは付いてるのに下は男のままだし・・そりゃ今すぐにでも元に戻りたいよ・・・ああ・・・めんどくさいと思ってた学校生活も今では恋しいよ・・・」
「君の感傷に付き合うのも面倒だが今君を元に戻すわけにはいかない。戻りたければさっさとバッドネス㈱を壊滅させることだな」
「うう・・・そうだよね・・・この街でバッドネス㈱の野望を阻止できるのは僕だけなんだ・・・でも壊滅させられたら本当に戻してよね?」
「ああわかったわかった・・・ふわぁ・・・飯を食ったら眠くなってきた。私はそろそろ寝るぞ」
「そろそろってまた徹夜してたの?ダメだよちゃんと寝なきゃ!」
「ああもううるさいな!君は私の母親か?私の生活に指図する権利など君にはないんだからな!!」
佐江さんはそう吐き捨て自室に戻ろうとする
ここで部屋に佐江さんが戻ってしまえば服の相談もできなくなる。
「あっ、ちょっとまって」
僕は部屋に戻ろうとする佐江さんを呼び止めた。
すると佐江さんはすごくめんどくさそうにこちらを振り向いた。
「なんだまだお説教か?私は寝ると言ったら寝るし夜は絶対に寝ないからな!!」
「いやそうじゃないんだけど・・・」
「じゃあなんだ!私は忙しいんだぞ?」
今寝るって言ったところじゃん・・・
「あ、あの・・・・着替えがこのTシャツだけだとちょっと外出たときとか恥ずかしいかなーなんて・・・僕もこんな身体になったわけだしTシャツじゃなくて女の子の服とかも持ってたほうが良いと思うんだけど・・・」
「はぁ!?なんだそれは色気づいたのか!?さっきまで元の身体に戻せとかなんとか言っておきながら・・・・あるいはもともと女装癖でもあったか?まあなんだ・・・他人の趣味に口出しする程他人に興味は無いんだが」
「違うよ!Tシャツ一枚だとあの・・・・乳首も透けちゃうし擦れちゃうしやっぱりその・・・・恥ずかしいというか」
「はぁ・・・やはりそんな非効率な肉塊をつけるべきではなかったな・・・全く男というのは凹凸のないフラットな身体こそ最も効率的で洗練されたデザインだと何故わからないんだろうか・・・しかたない。君をそんな非効率でめんどくさい身体に仕上げてしまったのはバッドネス㈱の意向とはいえ私の責任だ。製作者としてそのくらいの責任はとってやらなければな。ほら。これで適当に買い物でもしてくるが良い。そろそろ食材のストックも切れる頃だしそれのついでにな」
そういうと佐江さんは白衣のポケットから封筒を取り出した
「あ、ありがとう」
「それじゃあもう無いな次こそ寝るぞ?絶対起こすなよ?」
「佐江さんごめん!もう一つだけ質問・・・!」
「なんだ!?どうでもいい質問だったら君のそのぶら下がってる肉塊のサイズを二倍にしてやるぞ?」
こ、これ以上大きくされちゃったら僕どうなっちゃうんだろう・・・・
僕はそんな恐怖と好奇心が入り混じった感情を押し殺し佐江さんに質問を投げかけた
「あの・・・・僕の顔ってバッドネス㈱の人たちにバレてるよね?少なくとも首領とかあの場にいた戦闘員とかに・・・」
「ああ。そうだな」
「それなのに変装もしないで出歩いて大丈夫なの?これまで何も考えてなかったんだけどよくよく考えたらそれってマズイんじゃ・・・」
「何だそんなことか。この私が何も対策をしていないとでも?」
「えっ、それじゃあ・・・」
「ああ。君のメガネに少し細工をさせてもらった。そのメガネに認識を阻害する装置を組み込んでおいたんだ。だからそのメガネさえかけていれば君が天村有希だと奴らに気取られることはない。と言ってもメガネを外した状態を見られたり女幹部の姿に変身したところを見られてしまった相手には効力がなくなってしまうから気をつけるんだな。」
そ、そうだったんだ・・・・
唯一今手元にある改造される前から大事に使っていたメガネだと思ったらお前も僕同様知らないうちに改造されてたなんて・・・・
「う、うん・・・あれ?でも魔法少女の姿になったときってメガネ外れてるよね?」
「ああ。あの姿の時は衣装に認識阻害装置を組み込んである。君のあの姿を見た者は君を魔法少女だと何の疑いもなく認識する仕組みになっているんだ。もちろん君の今の姿とは別人だと認識するおまけ付きだ」
「え、ええ・・・・なにそのご都合主義すぎる便利機能・・・」
「そっちのほうが都合がいいだろう?ただでさえ顔丸出しで戦うことになるんだ。変身する前の状態で不意を突かれると面倒だからな。ただ変身前の姿を別人と認識する認識阻害は変身するところを見られたらこちらも効力がなくなってしまう。怪人に正体がバレるのは致し方ないとしてもあまり不特定多数の人間に見られた状態で変身するのは避けるのが得策だろうな。」
「うん。わかったよありがとう」
「もう気が済んだか?それじゃあ今度こそ寝るからな」
「うん。おやすみ佐江さん」
僕のその言葉に佐江さんは返事もなくの部屋へ戻っていった。
そして一人ぽつんと残された僕は朝食の後片付けをさっさと済ませる。
「ふぅ・・・おっぱいのせいかな・・・すごく肩が重い」
僕はここ最近今までにないほどの肩こりに苛まれていた。
力を完全にセーブした状態だからなのかもしれないけど改造人間でも肩ってこるんだな・・・
佐江さん曰く今の姿の状態では改造される前の僕と身体能力はさほど変わりないらしいけどこの大きな胸が行動の邪魔をする分改造される前より不便で疲れやすくなってる気がする。
それを佐江さんに相談すると魔じかる☆すまっしゃーにバイブレーション機能を付けてくれた。
この機能も100段階に出力が調整可能でバールのようなものの曲がっている部分を肩に引っ掛けてスイッチを押すとちょうどいい感じに調整した振動が肩のこりをほぐしてくれる
「はぁ・・・・♡電動マッサージ器ってこんなに気持ちよかったんだ〜」
なんだか変な声が漏れてしまうくらいに肩のこりがほぐされて気持ちがよくて僕はその振動が癖になりつつあった。
一通り肩や首元のマッサージを終え、せっかくお金も貰ったんだし早く買い物を済ませちゃおう。
そう言えば結構分厚いけど佐江さん一体いくらくれたんだろ・・・?
封筒の中身を確認してみると一万円札が10枚ひょっこりと顔をのぞかせた。
「じゅ・・・10万円!?こんなにポケットに入れてたのあの人!?」
高校生でアルバイトもしていなかった僕にはその額は大金だった。
これだけあればDXのおもちゃとかプレ●ン限定のフィギュアー●とかいっぱい買える・・・
ってちがうちがう。
これはあくまで佐江さんが服代と食費でくれた分だから・・・
でも服で10万円も使わないよね・・・?
ちょっとケチって何か買っても・・・
心のなかに邪な感情が生まれ、居ても立っても居られなくなった僕は急いで町に向かう。
と言っても町の中心街まで歩いていくには些か長い距離だ。
僕は地下室から飛び出すと
「魔じからいずっ☆」
慣れとは恐ろしいもので軽く決めポーズを取ったりしながら僕は魔法少女の姿に変身した。
この姿になると肩のこりや倦怠感が一気に吹き飛ぶし身体に力がみなぎってくる。
これでこそ改造人間たりうる証拠なのかもしれない。
僕は足に力を込めて軽くジャンプをしたり走ったりして人目のつかない屋根や塀を高速で移動しながら町へと向かった。
そして人通りの少ない路地裏で元の姿に戻り中心街へと繰り出す。
さすがにあの格好で人通りの多い町中に出るのは恥ずかしいからね。
そして女性向けの服屋が立ち並ぶ場所に足を踏み入れると辺りには当たり前だけどおしゃれな女の人や今どきの女の子が闊歩している。
本当に僕がこんなところに居ても良いのか不安になるしすごく視線も気になる。
なんだかあのコかわいいのに服だっさ〜いチョーウケる〜みたいな視線を露骨に感じるからだ。
僕はそんな視線に耐えかね逃げるように服屋に駆け込むと眼前には大量のブラジャーが広がっていた。
どうやらランジェリーショップに入っちゃったみたいだ。
どどどどどうしよう・・・僕が足を踏み入れていい場所じゃないよ
「あ、あの・・・なにかお探しでしょうか?」
露骨に挙動不審になってしまっていたのか店員さんが恐る恐る声をかけてきた
「へぇっ!?あ・・・えーっと・・・その・・・・ぶらじゃー・・・持って・・・無くて・・・こういうとこ初めてで・・・・何着か欲しくなって・・・・あっでも欲しいって言っても別に変な意味じゃなくて」
「そ、そうですか・・・」
店員さんは少し引き気味にそう言った。
やっぱり挙動不審だったかな・・・
「お客様?カップ数はおわかりですか?」
「へっ!?か・・・かっぷ・・・?わ、わかりません・・・ごめんなさい・・・図ったことなくて・・・」
そんな胸のサイズなんて図ったこと無いよ!
すると店員さんがメジャーを持ってきてくれた。
「それでは図らせていただいてよろしいですか?」
「は、はい・・・お願いします・・・」
店員さんは僕の胸にメジャーを巻きつけてきて乳首にメジャーが擦れる
「んっ・・・・!」
なんか凄く恥ずかしい・・・でも我慢しなきゃ
「えートップが99cm・・・・アンダーが72cmなのでHカップですね」
Hカップ!?大きいとは思ってたけどそんなに大きかったの!?あと1cmで1メートルじゃん!!
「そ、そうですか・・・」
僕は小さな声でそう言うしかなかった。
そして店員さんはHカップのブラジャーを何種類か持ってきてくれた。
「あ、あの・・・・ぼ・・・私、ブラジャーの付け方もわからなくて・・・」
「本当に今までノーブラでお過ごしになられていたんですか!?」
「・・・はい」
だって一週間前までこんなブラジャーなんかとは無縁な生活をしてたんですから!
僕が男だって言ったらつまみ出されるかな・・・
「それでは付け方を教えて差し上げますので試着室までお越しください」
僕は店員さんに連れられ試着室で下着を付けるレクチャーを受けた。
今まで歩くたびに揺れる胸がすっぽりと収まりなんだか心地が良い
「うわぁ・・・・」
こんな大きなのが今の僕に付いてるんだ・・・
改めてそんな事実を突きつけられると胸が鼓動を早めて行く
「と、とりあえずこれとこれください・・・」
僕はひとまずいまつけてもらったものと着替え用に数着ブラジャー・・・それに女性もののショーツを買った。
そしてランジェリーショップを後にして近くにあった服屋に入ってみると
「いらっしゃいませ〜どうぞごらんくださ〜い!なにかお探しな感じですかぁ?」
足を踏み入れるや否や店員さんが距離を詰めて僕に話しかけてくる。
僕こういうのすごく苦手なんだけどなぁ・・・
「あっ、あっ、えっと・・・あの・・・・」
急に話しかけられたらこうもなるよ!
だって僕コミュ障だし男なんだよ!?
「言わなくてもわかりますよぉ〜?お洋服お探しなんですよねぇ〜?おねーさんすっごく綺麗なのにお洋服そんなんじゃもったいないですぅ〜これなんかどうですかぁ?今年のトレンドなんですけどぉ〜」
僕が喋らなくとも店員さんは延々と服を持ってきては馴れ馴れしく説明をしてきたけど全然頭に入ってこないし話すタイミングもわからない。
そして一通り話が終わると
「で、どれにいたしますかぁ?試着してみちゃいますぅ〜?」
店員さんはそう切り出してきた。
「は、はい・・・・」
僕はひとまず持ってきて貰った服を適当に選んで逃げるように試着室へ駆け込んだ
「ふぅ・・・やっぱり狭いところって落ち着くなぁ・・・」
やっぱり僕にはこういう場所がお似合いなんだろうな。
しかし僕しか居ないはずの試着室に誰の視線を感じ、そこには髪の長い胸の大きな女の子が立っていた。
「ごっ、ごめんなさい!覗きとかじゃないんです!!!」
僕が反射的に頭を下げると相手も同じ様に頭を下げてきた。
あっ、これ鏡だ・・・
未だに気を抜いていると自分の姿を自分のものと認識できない時がある。
「これが・・・今の僕なんだよね・・・?」
鏡に写った一見すると巨乳の美少女が紛れもなく今の僕の姿なのだ。
やっぱり急にこんな姿になっちゃったら誰だってこうもなるよね・・・?
僕はそそくさと持ってきた服をしどろもどろに身に着けてみる。
だって女物の服の着かたなんて知らないし・・・
「・・・あれ?こうであってるよね?・・・うう・・・やっぱりスカートって落ち着かないなぁ」
そしてなんとか服を着終えて鏡を見るとやはり美少女がこちらを見つめている。
「・・・なんか訳もわからないまま着ちゃったけど・・・今の僕やっぱり可愛い?」
鏡に向けてにっこりと笑ってみると当たり前だけど鏡の中の僕もにっこりと笑う。
試しにあざといポーズを試してみると本当に目の前の美少女も同じポーズをしている。
(はぁっ・・・これが今の僕なんだ!すっごく似合ってて可愛い!)
まさか服を着替えただけでこんなに変わるとは思わなかったしお洒落も悪くないなって思えた。
やっぱり可愛いって楽しいかもしれない・・・肩こるけど
「すいませーん!これくださーい!!」
僕は意気揚々と試着室を飛び出し着ている服一式を買った。
結構驚く額だったけどまだ全然お金は残っている。
佐江さんが起きるまで時間あるしちょっと遊んで帰ろっと!
僕は柄にもなくスキップをして店を飛び出し町を歩くと男たちの視線を感じる。
ああっ・・・僕見られちゃってるんだ・・・
可愛いって思ってくれてるのかな?
それともこのおっぱい見られちゃってるのかな・・・?
そう考えると凄くドキドキする。
なんで見られてるだけでこんなにドキドキするんだろう?
僕なんだか変な趣味に目覚めちゃいそう・・・
視線を送ってきた僕と同い年くらいの男の子にニッコリ笑いかけてみたりして反応を見るのも凄く楽しい!
ああ・・・こんなにちやほやされるならこの姿も悪くないかも・・・
そんな事を思っていると
「待てー自転車ドロボー!!」
そんな声が聞こえてきた。
僕は半分野次馬の様にその声の方へ向かってみるとバッドネスの戦闘員が自転車を担いで走っていた
どうやら自転車を白昼堂々盗んでいるらしい
戦闘員の走ってきた方を見てみると猫のような怪人が爪で自転車の鍵やチェーンを切り裂いていた
「みゃっはっは!この辺り一帯の自転車はバッドネス㈱のモノだー!恨むなら駐輪禁止区域に自転車を止めたことを恨むのだー!!」
怪人は高笑いを浮かべながら流れ作業で自転車の鍵を破壊し戦闘員に運ばせている。
どうしよう・・・ここで飛び出して行ったら止めれるかもしれないけどこんな町の中であんな格好見られたら僕・・・・
でもこのままじゃ自転車がバッドネス㈱の手に渡ってしまう・・・
えーい!もうどうにでもなれ!!
僕は人の居ない物陰を探して急いでそこに向かうと
「魔じからいず・・・・っ!」
小声でそう口に出し魔法少女の姿に変身した。
そして戦闘員たちをなぎ倒しながら猫怪人の元へ走る
「なんだ!?全身タイツ集団の次はなんか魔法少女が出てきたぞ!?」
「何あれ痴女!?」
「胸デケェ!!」
道行く人々は僕の姿を見てそんな声を上げている
それだけでなくシャッター音も聞こえてくるから多分写真も撮られちゃってるんだと思う。
でも佐江さんの言葉を信じるなら正体はバレないはずだし今はあの怪人をなんとかしなくちゃ
「そこまで・・・よ!」
僕は怪人に声をかけた
「みゃー?貴様・・・何物だ!?」
怪人はギロリとこちらを睨みつけてくる
「ぼく・・・私は通りすがりの魔法少女!自転車ドロボーなんて許さない・・・わよ!」
「貴様が噂の魔法少女か。自分で自分のこと魔法少女って名乗る魔法少女なんて初めて見たぞ・・・それならば貴様がワラスボーグとバーククジラの仇!お前も二人の待つ地獄に送ってやるー!!」
怪人は目の色を変えてこちらにすごいスピードで飛びかかってきた。
「貴様があの二人を殺したんだな!そんな可愛いナリしてるくせに殺さなくたって良いじゃないか!」
怪人は怒りに任せて爪をこちらに向けてくる。
しかし僕はそんな怪人に合ったこともない。
それに僕は怪人を一人も手にかけて居ないはず・・・
「か、仇!?それにぼ・・・私そんな怪人しらないっ!それに怪人を殺してなんかない!」
僕は素早い怪人の攻撃を避けるしかなかったが怪人にそう伝えた。
「とぼけても無駄だ!生き残ったカンガエルーもXXレオンも魔法少女にやられたと言っていた。だから他の怪人もお前が殺したんだろ!」
「違っ!そんなことしてないっ!本当に知らないよ!」
だめだ。このままじゃ僕がやられてしまう。早く反撃しなきゃ・・・
「魔じかる☆すまっしゃー!!」
僕は高らかにそう叫ぶとどこからともなく魔じかる☆すまっしゃーが僕の手に収まるように飛んでくる
しかしそれが逆効果だったようで怪人は毛を逆立ててキバを剥く
「それが貴様の武器か・・・・そのバールのようなもので二人や戦闘員を殺したんだな・・・?」
怪人の怒りのボルテージを更に上げる結果になってしまった。
でも本当にそんな怪人も戦ったこともないどころか見たこともない。それに殺すなんてそんな事・・・・
そんな時ふと佐江さんの「能力が解放されてもキミはその力に耐えられなくなって自我を失うか最悪死ぬ」という言葉が過る
もしかして僕・・・知らないうちにあの姿になって怪人を殺しちゃってるんじゃ・・・!?
もしそうなら僕は・・・・やっぱりこの身体は凄く危険なんじゃ・・・
そんな事を考えると急に身体が震えだす。
だめだ・・・こんな状態じゃ戦えない・・・
僕は必死に怪人の攻撃から逃れてテナント募集と書かれた雑居ビルに逃げ込んだ。
幸い人はおらずここならなんとかやり過ごせるかもしれない。
「このサーマル様から逃げようなどと思っても無駄だ!」
追ってきた怪人から逃げるため僕は物陰で息を潜めた。
しかし
「そこか!」
気付いたときには怪人が目の前に居て僕のみぞおちに鋭いパンチが飛んできた
「ぐっ・・・・がはぁっ!!!」
僕は凄い勢いで壁にぶつかる。
なんで・・・!?僕には気配遮断の能力だってあるはずなのに・・・!
「その程度で隠れたつもりか?俺にはサーバルキャットの聴力そしてこのサーマルセンサーが付いている。温度と音その2つのレーダーが敵を確実に逃さないのだ。みゃーっはっはっは!我々の掟で貴様を殺しはできないが戦闘不能にしてアジトまで連れて行ってやろううみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
壁に打ち付けられた僕に向けて怪人が猛ダッシュで迫ってくる。
まずい。
あの一撃を次にモロに受けたらいくら今の身体でもタダじゃ済まない。
そう僕の研ぎ澄まされた感覚が叫んでいるような気がした。
この状況を打開するにはあの姿になるしか・・・
幸いここなら誰にも見られていないし・・・
でもあの姿になったら本当に怪人を殺してしまうかもしれない・・・
でも・・・このままじゃ僕は・・・・
僕は迫りくる怪人への恐怖から首元に手を伸ばし
「へ、変身っ!」
気付いたときにはそう叫んでいた。
するとチョーカーに付けられている石が禍々しく光り輝き身体を中からメリメリと作り変えられていくような感覚が全身に走る
「ぐっ・・・ああっ!!!あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
僕は悲鳴にも似た声を上げると身体にさっきまでの比じゃないほどの力がみなぎるのを感じ、着ていた服も可愛らしいものから露出度も高く悪趣味なものに変わっている事に気付いた。
この姿になるのはバッドネス㈱に改造された日以来のはずだけど・・・
これならあの怪人を倒せるはずだ。
僕にはそんな自信、そしてたかがこの程度の怪人ごときがこの僕にこれほどの深手を追わせた事に対する怒りがこみ上げてくる
「みゃ・・・き、貴様・・・その姿はまさか・・・」
怪人が変わった僕の姿を見るなり怖気づいたのか動きを止めた。
「ええ。そのまさかだよ。僕はバッドネス㈱に女幹部になるために改造されたんだもの。これが僕の本当の姿・・・フジュンヒルデ!」
僕はそう名乗った。
こんなダサい名前絶対に嫌だと思っていたけどなんだか凄く気持ちがいい。
「僕に楯突いた事を死んで後悔するといいよ」
僕は考えるより先に魔じかる☆すまっしゃーを振りかぶり怪人に向けて走り出す
「フンッ!所詮裏切り者の女幹部モドキに何ができる!この爪で引き裂いてやる」
怪人も虚勢を張ってこちらに向かってくるがさっきは避けるので精一杯だった怪人の動きが手に取る様にわかる。
すごい・・・これが僕の本当の力なんだ。
「うみゃっ!うみゃぁぁっ!!くそっ!何故攻撃が当たらないんだ!」
怪人の攻撃を僕はらくらく避けてみせるまるで手のひらの上でアリを転がしているようなそんな気分だ。
負ける気も当たる気もしない
「どうしたの?当てて見ても良いんだよ?フンッ!」
僕はそのスキを見て魔じかる☆すまっしゃーを怪人に叩き込んだ
「ぐえぇっ!!」
怪人は僕が打ち付けられていた壁の反対側の壁まで吹き飛び叩きつけられた
「あーっはっはっは!さっきまでの威勢は何処に行ったの?」
僕はそんな無様な怪人を見て高笑いが抑えられなかった。
そしてこの程度の怪人ごときが僕に一撃を食らわせた怒りが更にこみ上げる
「もう次で終わりにしてあげる!なんだか知らないけど他の怪人の所に送ってあげるわ!さあ・・・・死にたくないなら逃げれば?」
僕はもう一度魔じかる☆すまっしゃーを床に擦りながらゆっくり怪人に近づいた
「くっ・・・ここまでか・・・」
怪人が無念そうな表情を浮かべるのが愉快でたまらない。
僕の頬は自然に緩み気づけばニヤリと笑みを浮かべていた。
「それじゃあさよなら」
僕は怪人の目の前で思いっきり振りかぶり振り下ろす。
しかし振り下ろした先で感じた手応えは思った以上に固く
「・・・何?」
見ると槍のようなものが魔じかる☆すまっしゃーと怪人の間を遮っていた。
そして槍の先にはクトゥルフの様なイカのような顔をしている怪人が立っている。
「無様ですねサーマルキャット」
「ば、バッドナイト様・・・」
「行きなさい。ここは私が食い止めましょう」
そう言うとバッドナイトと呼ばれた怪人は槍を振り僕を突き放した
「バッドナイト様!この御恩は忘れません」
猫の怪人は身体を起こし逃げ去る。
あと少しだったのに僕のジャマをしたこいつは一体・・・
「誰か知らないけど良いところだったのにジャマしないでよ」
「フン、裏切り者の女幹部見習い風情がどの口を叩きますか。私はバッドネス㈱最高幹部バッドナイト。あなたごときに遅れは取りませんよ」
最高幹部!?
それならこいつを倒せばバッドネス㈱の戦力は相当削げるはず。
そうしたら僕が元の身体に戻れる日も・・・・
戻る?
なんで?
こんなに気持ちいいのになんで戻らなきゃいけないの?
それなら・・・・
「ふぅん・・・・あなたが最高幹部なんだ?それなら僕・・・いいえアタシがあなたを殺してバッドネス㈱の最高幹部になってあげる!」
アタシは目の前のいけ好かない最高幹部を名乗る怪人に魔じかる☆すまっしゃーを振り下ろす。
しかし持っていた槍はことごとくアタシの攻撃を弾きまったくダメージが入らない
「やはり経験が浅すぎます。その程度で私を倒そうなどと・・・良いでしょう。私の力の一端をお見せします。ナイトフォッグ!」
そう叫ぶとバッドナイトは口から煙幕で姿を潜めた。
「クソっ!生意気ね・・・・」
気配も全く探知できず身構えていると次の瞬間煙幕の中から無数の突きが襲いかかってくる。
アタシはそれを魔じかる☆すまっしゃーで防ぐのが精一杯だった。
「何?このアタシが防戦一方になるなんてっ!」
「ふんっ!やはりあなたはまだその程度!これでトドメです!バットライデント斬!」
突きの連打でガードが崩れた一瞬のスキにバッドナイトは槍でアタシに切りかかった。
幸いアタシは致命傷を追わずに済んだが斜めに大きな切り傷を追う
「きゃぁっ・・・・・!!や、やったわね・・・?このアタシに傷をつけるなんて・・・」
「ドン・サイーグ様の掟がなければ殺していたところだったが少し手加減をしすぎましたかね・・・まだそんな減らず口が叩けるとは」
煙幕の中からバッドナイトが現れる。
アタシに傷を負わせた生意気なイカ頭・・・
アタシの中から更に怒りがこみ上げる。
その怒りに呼応してチョーカーに付けられた石が更にどす黒く染まっていく
「アタシをここまで怒らせた事を後悔しなさい?もうアタシもどうなるかわかんないくらい身体の奥から力が溢れてくるの・・・もうどうなったって知らないわよ!!」
アタシは力に任せて魔じかる☆すまっしゃーをバッドナイトに向けて振り下ろす。
その衝撃で振動が走りガラガラと音を立てて雑居ビルが崩れる。
そして瓦礫まみれになったアタシは振り下ろした先を見るとバッドナイトは盾でアタシの攻撃を防いでいた。
「や、やりますね・・・さすがの私でもこのナイトシールドがなければ死んでいたところでしたよ・・・しかしっ!」
次の瞬間盾の隙間から槍が飛び出してきてアタシの喉元の石を貫いた
「ぐっ・・・あぁっ!!!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
アタシの身体から力が抜けていく。
ああ・・・だめ・・・もっと溺れていたいのに・・・・どんどん身体から溢れていた心地の良い力が抜け出していく・・・・・!
「力に溺れた戦い方は三流ですよ。あなたにバッドネスを任せるわけにはいかないようです。しかしこちらももう余力がありませんからここは撤退して差し上げます」
力が抜けていくにつれてアタシの意識もだんだんと薄れていく。
そんな薄れゆく意識の中
「最後にこれだけは忠告しておいて差し上げます。尼尽博士には気をつけることだ。あの博士は・・・・」
バッドナイトの言葉の途中でアタシ・・・僕の意識は完全に途切れた。
「・・・・ですか?大丈夫ですか?」
そんな声で僕は目を覚ます。
そして目の前には救急隊員が居て僕に声をかけていたようだ。
「あれ・・・?僕は一体・・・」
「無理に喋らなくても大丈夫です。無人の雑居ビルが突然崩落してそこにあなたは倒れていたんですよ?でもよかった・・・怪我も無いみたいで・・・立てますか?」
救急隊員の言葉に僕はハッとなる。
怪我がない・・・?
さっき思いっきりバッドナイトとかいう怪人に腹のあたりを切られたはずなのに・・・・
・・・・あれ・・・・?
僕は女幹部の姿になってからの出来事をはっきりと覚えていない。
ただ猫の怪人を追い詰めた時に凄く快楽を感じていたことだけははっきりと覚えていた。
僕・・・やっぱりあの姿になって力に溺れてたんだ・・・
それならもしかしてあの怪人が言ってた殺された怪人も僕が・・・
僕は知らないうちに誰かを殺めてしまったのかもしれないと思うと恐怖でその場には居られなかった。
僕は救急隊員の静止を振り切り逃げるようにその場を逃げ去った。
僕・・・やっぱりどれだけ力を抑えてても悪の女幹部にされちゃったんだ。
僕・・・やっぱり正義の味方になんてなれないんだ。
もう佐江さんの期待にも答えられないしこんな力じゃ町も守れないじゃないか・・・!
それなのに・・・それなのに魔法少女だなんて・・・正義の味方ごっこをしてたなんて・・・・
もう人間じゃない僕なんて・・・あんな破壊を楽しむ僕なんて居ないほうが良いんだ・・・・
ごめん佐江さん・・・僕・・・バッドネス㈱を倒せそうにないよ。
僕はあてもなく走った。
ただここじゃない何処か。
誰も傷つけない。
誰にも迷惑をかけない何処かを目指して。