薄暗く不気味なバッドネス㈱のアジト。
その象徴とも言えるエンブレムが彫られたレリーフの前で一人の怪人が跪いている。
かれはバッドネス㈱最高幹部バッドナイト。
コウモリとイカとオウムガイの力を併せ持つ上位怪人でその外見は夜道で出くわせば正気を失うチェックを受けなければならないような外見をしている。
「ドン・サイーグ様!バッドナイト戻りました!」
かれがそう言うとレリーフに光が灯り厳しい笑い声が部屋に響いた。
「どうしたバッドナイト。貴様ともあろうものが逃げ帰ってくるとはな」
「申し訳ありません首領。しかし逃げ出したフジュンヒルデのしっぽは掴みました。やはり例の魔法少女の正体は彼女・・・いえ彼だったようです。私としたことがこんな事に今まで気付かなかったとは・・・」
「そうか・・・尼尽博士のことだ。認識を阻害するジャミングでもかけていたのだろう。してバッドナイトよ。何故逃げ帰ってきたのだ?貴様ならば奴を連れ帰ることも容易だったはずだが?」
「・・・はい。しかし戦闘のさなか戦っていたビルが彼の攻撃によって破壊されその瓦礫にサーマルキャットが下敷きになってしまったのです。私の飛行能力で運べるのはせいぜい一人が限界。そこで彼を戦闘不能にすることには成功しましたがサーマルキャットを優先して連れて戻ってまいりました」
「・・・それで良い。尼尽博士が不在の今これ以上貴重な怪人をいたずらに失うわけにはいかんからな。それでサーマルキャットはどうなっている?」
「はい。戻ってすぐ治療室へ運びました。命に別状は無いそうです」
「そうか。ならば良い!他に被害は?」
「はっ!戦闘員が数名負傷。しかし戦闘で彼の気を逸らすことが出来たので最小限の被害だったようです。サーマルが時間を稼いだおかげで奪った自転車も無事に工場への運び込みが完了しておりますしかし・・・」
「なんだバッドナイト?言ってみろ」
「首領から頂いたナイトシールドが彼との戦闘で破壊されてしまいました・・・このバッドナイト一生の不覚・・・」
「気にするなバッドナイト!命あっての悪の秘密結社稼業だ!貴様とサーマルキャットが無事、そして作戦が着実に進行しているのだから貴様が気に病む必要はない。それよりも怪人殺しだ。あれをフジュンヒルデのせいだと断定するには些か気が早い気がしてならん。帰ってすぐで悪いがその調査を引き続き貴様に任せる。良いな?」
「はっ!おまかせを」
「ああ。しかし今の貴様はバッドシールドを失っている。あまり危険な真似はするなよ」
「はっ!」
バッドナイトはドン・サイーグの名を受け部屋を去っていった。
それと同じ頃・・・
僕はなにかから逃れるように走っていた。
元々運動神経最悪だった上に今は大きな2つの肉の塊が邪魔して上手く走ることができない。
それでも僕は息を上げながら走っていた。
しかしどれだけ走っても自分の得てしまった力からは逃れられない。
今まではそんな過ぎた力に少しは浮ついていた僕だったが自分のしてしまったこと、そして自分でもその力が抑えきれなかった事にただただ恐怖を覚えていた。
あの時確かに僕は怪人をいたぶる事を楽しいと思っていたしそれどころか快感にさえ思えていた。
今回は運良く変身は解除されたけどきっといつかあの力が制御できなくなって本当に僕は悪の女幹部になってしまうかもしれない。
自分が自分でなくなってしまう。
いくら上面だけで魔法少女だとか正義の味方ぶったところでやっぱ僕のこの力の本質は悪の女幹部
のもの。
力のルーツが悪の力のヒーローはたくさんいる。
でもその力を正義のために振るうということがどれだけ難しいことなのか僕は身を持って知ることになってしまった。
きっと僕が憧れたヒーローたちも同じことを恐れながら戦っていたに違いない。
でもそれが出来たのは彼らが強かったからだと思う。
それに今までは人より優れた力を手にした優越感に浸っていなかったと言えば嘘になる。
その力で怪人たちと戦うにつれて僕もヒーローみたいなことができてるんじゃないか?
そんな事を少しは考えていた。
しかし今となっては自分が普通の人間ではなくなってしまった事を痛感してしまい優越感よりも疎外感を覚えてしまう。
今思えばそれは本当は優越感なんかじゃなく初めて変身した時やさっきみたいに戦う事と壊すことを楽しんでいたのかもしれない。
さっきもそんな感情の高ぶりを僕は止めることが出来なかった。
もしまた戦う事になったら本当に僕は破壊を楽しむ悪の怪人に変わり果ててしまうかもしれない。
そう考えると怖くて怖くて仕方がない。
メンタルの弱い僕なんかが正義のヒーローになんてなれるわけなかったんだ。
このまま力に溺れて悪の怪人になってしまうくらいならいっそ僕なんか・・・
「うわっ!」
そんな考えが脳裏に過ぎった時僕は足を滑らせて盛大に転んでしまう。
さっき小さいとはいえれっきとした雑居ビルを壊した僕もこの姿では改造される前同様どんくさいままだ。
それに柄にもなく全力疾走したからか息も上がって立ち上がれない。
そんな自分が凄く惨めで情けなく思えて気づくと僕の頬には涙が伝っていた。
何処かわからないけどこんな未知のど真ん中で泣くなんて情けないにも程がある。
でも僕はそんなこともお構いなしにうずくまって泣いた。
すると
「ね、ねえあなた大丈夫?」
そう聞き覚えのある声が頭上から聞こえる。
僕はゆっくり起き上がり声の方に顔を向け涙でぼやけた目をごしごしと腕でこすって涙を拭った。
その視界の先に居たのは僕の母さんだった。
「女の子がこんな道端で泣いてたら危ないわよ?なにも出来ないかもしれないけどよかったらおばさんの家で少し落ち着くまでゆっくりしていく?」
母さんはそう優しく僕に声をかける。
辺りを見渡すとそこは見覚えのある道で、家まですぐの場所だった。
どうやら無意識のうちに僕は家に向かって走っていたらしい。
僕は今すぐにでも自分が有希だと伝えて心配をかけたことを謝らなければならないと思った。
「あ、あの・・・僕!」
しかし道の端にあったカーブミラーに写り込んだ自分の姿は以前の僕とは大きく違っていたことを思い出し口をつぐんだ。
「ん?どうしたの?」
「あ、いえ・・・なんでもないんです・・・なんでも・・・」
僕はゆっくりと立ち上がりその場を立ち去ろうとするが
「なんでもないわけないじゃない!こんな真っ昼間から道端でうずくまって泣いているこんな可愛い子をほっとけるわけ無いでしょう?訳を話して?もし必要なら親御さんとか警察にも相談してあげるから」
母さんはそう言って僕を引き止める。
きっと母さんは今の僕を有希だなんて夢にも思っていないだろう。
「で、でも・・・」
「いいの。おばさんも最近悲しいことがあったばっかりなのよ。だからかしらね・・・なんだかあなたの事放おっておけないのよ。大した事はできないけど家はすぐそこだから。ね?」
「・・・はい」
僕は母さんに言われるがまま道端で泣いていた少女として自分の家に帰宅することになった。
そして家に通されるとまだ一週間しか経っていないはずなのに家の玄関やそこに漂う家独特の匂いはなんだか懐かしささえも感じる。
「さ、気にせず上がって上がって」
僕は母さんにいわれるがままリビングへと案内された。
案内されずとも家の何処になにがあるかなんてわかりきってはいたけれど不用意に怪しまれるわけにはいかず素直に従うことにした。
リビングに通され椅子に座り辺りを見回すと一週間前とは変わらない風景が広がっている。
唯一違うことと言えば僕の遺影と花が手向けられた小さな台が置かれている。
いくら死んだことにされているとはいえ自分の遺影を見ることになるのは複雑な気分だった。
「さ、座って。今お茶入れるから」
母さんはそう言って緑茶を入れてくれた。
僕はそれをゆっくりと飲み、少しは気持ちが落ち着いた。
すると
「ちょっとは落ち着いたかしら?それでなんであなたあんなところで泣いてたの?ただ転んだだけには見えなかったけど・・・良かったらおばさんに言える範囲で良いから話してくれないかしら?少しは気が楽になるかもしれないわよ」
母さんはそう尋ねてきた。
しかし本当の事を言うわけにもいかず・・・
「えっと・・・ぼ・・・わ、私!とても大切な人が居て・・・その人が目の前に居るのに自分の気持ちを伝えられないんです・・・本当はちゃんと伝えなきゃいけないのに・・・そんな事も出来ない今の自分が凄く情けなくて・・・このまま一生そんな事も出来ずに居るのかなって思うと怖くて・・・」
僕は今の心境を母さんに吐露すると母さんはそんな僕の話をなにも言わずに頷いて聞いてくれた。
「大切な人・・・ねぇ。彼氏さんかしら?」
「ち、違います!」
「まあ他にも大切な人なんてたくさん居るわよね。でも伝えたい事は早く伝えた方が良いと思うわ。私、一週間くらい前に急に一人息子を亡くしてね・・・」
母さんはそう言って花が手向けられた台の方を悲しそうに見つめた。
あなたの息子はそこじゃなくていま目の前に居るのに。
でもそれは言ったところで信じてもらえないだろうしそれこそ母さんを傷つけてしまうかもしれない。
今の僕にできるのは他人として母さんの話し相手になってあげることくらいだろう。
「どんなお子さん・・・でしたか?」
「ええ。少し内気で人見知りな子だったけど私と夫の事を年の割によく気にかけてくれる優しい子だったわ。それが急に学校帰りに事故にあって死んじゃうなんてあの子が何をしたっていうのよ・・・」
母さんは声を震わせて言った
「あ、あの・・・おと・・・旦那さんはどうされて居るんですか?」
「変なこと聞くのね。あの人も相当ショックだったみたいだけどうちは共働きだったんだけどね。お前はまだ休んでていい。俺がその分も働くからって言って今日から仕事に行ったわ。あの子はあの人に似たのかもしれないわ」
「そう・・・ですか・・・あの!」
「何かしら?」
「もし・・・もしですよ?不快に思われたら申し訳ないんですけど・・・その・・・息子さんがもし生きててこの家に帰って来るとしたら・・・」
「面白い事言うのね。でも確かになんだかあの子が居なくなった気がしないのよ。急に死んじゃったからかもしれないけどなんだか凄くそばに居るような・・・そんな気がするわ。もし、ね。本当にそんな事が起こるはずは無いだろうけどもしあの子が帰ってきたら抱きしめてあげたいわね。それで私とあの人の子に生まれてきてくれてありがとうってそう伝えたいわ。ちょっと恥ずかしいけどね。でもあの子が生まれてからの16年間はあっという間だったけどいろんな事があって私にとってのかけがえのない時間だったから・・・だからそんな思い出をくれてありがとうとも付け加えようかしら・・・私ったら何言ってるのかしら」
母さんは少し頬を赤らめながらそう言った。
そんな話を聞いていたら僕まで泣いてしまいそうになってしまったがそこはぐっとこらえた。
こんな状況で母さんからそんな言葉が聞けるとは思ってもみなかった僕はやはりすぐにでも自分のことを打ち明けようか悩んだが僕にはその勇気を出すことは出来ず・・・
「ご、ごめんなさい。変なこと聞いちゃいましたよね・・・」
そう当たり障りのない返事を返すことで精一杯だった。
「良いのよ。あなたが大切な人に伝えたいことをちゃんと伝えられる手助けになれたならね」
「は、はい・・・!必ず・・・大切な人に私の気持ち・・・ちゃんと伝えられるようにがんばります!だからそれまで・・・待ってて」
「ん?なにか言ったかしら?」
「い、いえ・・・なんでも無いです。お茶ごちそうさまでした」
「私から呼んだのにこんなお構いしかできなくてごめんなさいね。すこしでもあなたの助けになれたなら私も嬉しいわ。あなた、なんだかあの子に似てる気がするから」
「そう・・・ですか」
「ええ。転んで擦りむいた所も大した怪我もしていない様だしすこしは気が紛れたかしら?」
母さんにそう言われ膝を見てみるとスカートが少し破れていた程度で膝には傷一つ付いていなかった。
やっぱりこの身体でいる以上母さんに僕が有希だと伝える訳にはいかない。
そのために一刻も早くバッドネス㈱を倒して元の身体に戻らないと!
未だに悪の怪人の力を制御しきれない恐怖を拭うことはできていないけど僕はそう心に誓った。
「あの・・・私そろそろ行かなくちゃ・・・」
「あら?もっとゆっくりしていってくれても良いのよ?私もあの子が居なくなって寂しいし」
「い、いえ。これ以上は・・・」
「あらそう・・・残念ね。そう言えばお名前聞いてなかったわね。私は天村深雪あなたは」
「あ・・・えーっと・・・ゆ・・・」
流石に天村有希です!だなんて言えるはずもない。
どうしよう・・・僕・・・なんて名乗れば良いんだろう・・・ゆうきはダメだし・・・
そうだ!
「ユキです!」
僕は自分の名前から一文字抜き、そして母さんの深雪の雪を取ってそう名乗った。
「ユキちゃんね・・・いい名前だわ。表情も大分明るくなったんじゃないかしら?」
「はい!かあさ・・・深雪さんのおかげで楽になりました。ありがとうございます!」
「そう。力になれたのなら嬉しいわ。大切な人にちゃんと気持ち伝えられると良いわね。頑張ってね」
「はい!それじゃあ・・・・行ってきます」
僕はそう母さんに告げて家を後にした。
次にここを訪れるのはバッドネス㈱を倒して元の身体に戻った時になるだろう。
その時まで僕は僕で居られるだろうか?
いや僕は母さんと父さんのためにも僕で居続けなければいけない。
いくら姿形が変わろうとも悪の力を使おうともそれだけは手放しちゃいけないんだ。
僕はあの力に負けず意思をしっかりと持とうと心に決め慣れ親しんだ家を後にした。
母さんに被害が及ばない為にもまずはあの自転車を奪っていった怪人をなんとかしなくちゃ!
戦うことに必死で結局その計画自体を止めることはできなかったし・・・
僕はひとまず昼間に怪人たちと出くわした場所に戻ってみることにした。
その道中さっきの壊れたビルには規制線が張られ、マスコミもちらほらと取材をしている。
あれ・・・僕がやったんだよね
まじまじと目にすると更に自分の持ってしまった力が恐ろしく思える。
でも・・・この力がないとバッドネスには対抗できない。
だから使い方を間違わないようにしなければいけないということを僕は身を持って痛感する。
現場に戻ると一部だけ自転車が残っている場所があった。
その場所と自転車が奪われた場所の違いはを僕は必死に考えた。
そして自転車が残っている場所は駐輪場、そしてそれ以外の場所には駐輪禁止区域と書かれた立て札が置いてあることに気付いた。
どうやらバッドネス㈱は駐輪禁止の場所に置いてあった自転車を根こそぎ奪っていったらしい。
ということは他の自転車が大量に置かれている駐輪禁止区域へ行けばそこにあの怪人が現れるかもしれない。
僕は一度駐禁を食らったことがある駅前へ走った。
駅には駐輪禁止と書かれた立て札や注意書きが大量にあるものの自転車が何台も置かれている。
ここで待ってさえいればバッドネスが現れるかもしれない。
僕はそこから少し離れたところにあるベンチに座り見張る事にした。
それからしばらくするとあのバッドネス㈱のマークがでかでかと描かれたトラックが数台止まり
そこから黒ずくめの戦闘員、そしてあの猫の怪人が現れた
「みゃーっはっはっは!俺様はバッドネス㈱の怪人サーマルキャット2様だ!先程は遅れを取ったが2になってパワーアップした俺様の力を思い知らせてやる!行け!戦闘員共!このエリアの自転車を根こそぎ奪うのだ!!」
怪人がそう言うと戦闘員たちがキョー!と声を上げて自転車を荷台に積み込み始めた。
このまま見過ごすわけには行かない
僕は手頃な物陰を見つけて首元に手を伸ばす。
僕は本当にあの怪人を止められるだろうか?
もしまた自分が自分で抑えられなくなってしまったら?
そんな恐怖が僕の手を止める。
でもあの怪人を今止められるのは僕だけ。
それに・・・
僕は元の身体に戻らなきゃいけないんだ!
元の身体に戻って母さんにただいまって・・・ただいまって言うために僕は戦う!
僕は決意で腕を動かし
「魔ジカライズ!」
と叫び魔法少女の姿に変身した。
「そこまでだ!」
僕は威勢よく怪人の元へ飛び出す。
「なんだあれ!?」
「胸デケェ!」
「映画の撮影かな?」
町ゆく人々は僕の格好を見ては指をさしたりスマホで写真を撮ったりしている。
しかし今はそんな事を気にしている場合じゃない。
とにかくあの怪人の計画を止めないと!
「誰かと思えば裏切り者の女幹部じゃないか!その姿のお前など2になった俺様の敵ではない!戦闘員!さっさとあいつを追い詰めて化けの皮と服をはいでやるのだ!」
怪人の号令と共に戦闘員が僕めがけて飛びかかってくる。
それを僕は軽々とあしらいながら戦闘不能にしていく
「すげえ!あの魔法少女コスの痴女強えぞ!おっ、いまパンツ見えた!見えたよな!?」
「なんだかよくわからんけどいけー!」
「もっとハイキックしろー!」
町の人々は僕が戦闘員を倒す度に口々に声を上げた
「ぐぬぬぬ・・・小癪な!所詮貴様はヒーローごっこをしているだけの悪の女幹部!そんな中途半端な奴にこのサーマルキャット様が負けるわけがないだろう」
確かに怪人の言う通り僕はヒーローの真似事をしているだけなのかもしれない。
でも。
たとえ僕が本当は悪の女幹部フジュンヒルデだとしても・・・
雪の様に脆くすぐ融けてしまうような僕の正義感でも・・・
それでも母さんを・・・この街の平和を守れるなら!!
ヒーローごっこだって構わない。
この姿の僕は魔法少女なんだから!
ヒーローの真似事だって・・・やってみせる!
「違う!僕・・・・私は!魔法少女魔じかる☆スノウ!あなたの悪事もフリーズさせる!来て!魔じかる☆スマッシャー!」
僕はそう名乗り魔じかる☆すまっしゃーを呼ぶ。
この名前ならフジュンヒルデよりはマシだろう。
とっさにユキと名乗った様に心だけは黒く染まらぬ雪の様に白いままで居たい。
「フンッ!いくら名前を変えた所で何だと言うんだ!こっちは2になって更に能力が強化されたんだ!お前をアジトにつれて帰って助けてくれたバッドナイト様への手土産にする!行くぞ!」
猫怪人はそう言うと凄まじスピードで僕に向かって飛びかかってきた。
たしかに怪人の言う通りさっき戦った時よりも早い。
この姿じゃ守るので精一杯だ。
やっぱりフジュンヒルデになるしかないのか・・・?
でもあの姿には絶対にならない。
こんな人の多い場所であの姿になってしまったら見ている人たちを巻き込んでしまうかもしれない。
「どうした?動きがさっきより鈍いぞ!!」
思考を巡らせていたせいで隙が生まれてしまったのか怪人の拳が防御をすり抜けみぞおちに命中する。
「か・・・はぁっ!!」
僕はそのまま吹き飛ばされ倒れ込んでしまう。
・・・ダメだ。
やっぱりこの姿のままじゃ勝てないのか・・・?
でも・・・でも・・・・!
そんな時僕を見ていた人たちの声が聞こえた
「な、なんかわからんけど頑張れー!」
「自転車泥棒を止めてくれー!」
「負けないでー!」
全く・・・見てるだけなのに好き勝手に口々に身勝手な人たちだ・・・
でも・・・なんだろう?
すごく胸が熱くなってくる。
応援が力になるなんて正直今まで半信半疑だったけど僕を信じてくれてるんだ。
そんな人達を悪の女幹部の姿で裏切る訳にはいかない。
この姿で勝つ方法を考えるんだ!
僕は魔じかる☆すまっしゃーを杖のようにしてヨロヨロと立ち上がった。
「ほう。まだ立てるのか!早くあの姿に変身してこいつらにもお前の力をみせつけてやったらどうだ?」
怪人はそう僕をまくし立てた。
「・・・僕は・・・・私はこの姿で・・・自分のままであなたを倒す!」
僕は怪人に対しそう見栄を切って見せた。
何も根拠はない。
自信だってない。
でも応援してくれる人たちの為にも絶対に勝つんだ!
この怪人は猫の怪人・・・そして僕を熱と音の2つのセンサーを使って追い詰めてきた。
それならその2つを逆手に取ってやれば・・・!
「魔じかる☆ナスティ!!」
僕はそれっぽい技名を叫んで思いっきり口から裏声を発した。
僕がサキュバスの怪人ならきっとこの羽根の元になったコウモリのちからも使えるはず!
この音はきっと人の可聴域を超えた超音波になるはずだ。
「ぐおおぉぉ!耳が・・・耳が壊れる・・・!」
僕の声を聞いた怪人は案の定苦しみ始め動きを止めた。
よし!今だ!
「魔じかる☆だいなみっく!!!」
僕は技名を叫んで魔じかる☆スマッシャーを勢いよく振り下ろす。
しかし怪人はすんでの所でそれを受け止めた
「フン・・・!耳が使えなくともその程度動体視力と熱センサーで手にとる様にわかるぞ!」
ここまでは想定通りだ。
きっと片方のセンサーを潰されたらもう片方のセンサーに頼るしかなくなる。
それにサーマルセンサーは視覚的なものだ。
それを使ってる間は普通の視覚は制限されるはず・・・
それなら魔じかる☆すまっしゃーが怪人に触れている今がチャンスだ!
「魔じかる☆ヒートハリケーン!!」
僕は魔じかる☆すまっしゃーのマッサージ機能とドライヤー機能の出力を最大にしてスイッチを押した。
すると魔じかる☆すまっしゃーの先端から熱風が竜巻のようにして吹き出し怪人を空高く吹き飛ばした。
「な、何だこれは!?辺りの熱が一気に上昇して・・・!クソッ!これでは奴が補足できない!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!魔じかる☆だいなみっく!!!」
僕は浮かび上がった怪人の死角めがけて飛び上がり再び魔じかる☆だいなみっくを見舞った。
「おのれぇぇぇぇぇ!!!2になったのは負けフラグだったかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
怪人はそう叫びながら変身が徐々に解除されていく。
しっかりあの怪人の変身機能を破壊できたようだ。
しかしこのままでは怪人は地面に生身で落下してしまう。
いくら改造人間とは言え変身していない状態で高度のある場所から落ちてしまえばひとたまりもないかもしれない。
僕はとっさに魔じかる☆すまっしゃーの温風を怪人とは逆の方へ放ちジェットエンジンの様にして怪人に急接近してなんとか落ちる寸前に受け止めることができた。
「くっ・・・情けをかけたつもりか・・・この怪人殺しめ・・・」
「違うよ。僕は殺してなんかいない。きっと・・・それに僕のしなきゃいけないのは怪人を倒すことであって殺すことじゃないから」
「お前・・・思っていた程悪いやつじゃなさそうだな・・・」
そう言うと人間の姿に戻った怪人は気を失った。
すると
「うおぉぉぉぉすげえええ!」
「なんかわからんけど怪人を人間に戻したぞ!」
「なんか竜巻とか出したし本物も魔法少女だ!」
「ありがとう!真星町の平和は守られたぞ!」
人々は僕に向けて歓声を上げる。
なんだかそれを聞いていると嬉しい反面凄く恥ずかしくなってしまい僕は顔をかぁっと赤くした。
「ごっ・・・ごめんなさいっ!」
僕は気配遮断能力を使ってその場から逃げ去った
この気配遮断能力は佐江さん曰く女幹部としての能力で、幹部クラスの怪人が突然現れたり突然逃げたりするのは実は瞬間移動ではなくその場で気配を完全に消し、逃げていると仮定した上で備え付けられた能力らしい。
女幹部も大変だなぁ・・・
「うう・・・勢いよく出て行っちゃったけどやっぱり恥ずかしいよ・・・あっ!」
色々ありすぎて忘れていたが佐江さんに貰った服代のお釣りと買った服の着替えが無い!
一回目の戦いの時に変身したっきり何処かに行っちゃったんだ!
これ聞いたら佐江さん怒るよね・・・?
でも黙ってたらもっと怒られそうだし・・・
僕は変身を解除し一旦佐江さんのいるアパートに戻ることにした。
事情を説明して謝らなきゃ・・・
それに怪人殺しの件も聞かないと
僕はアパートに戻ると佐江さんは起きていて何やらニヤニヤとこちらを見つめてきた
「おお帰ってきたか・・・私が寝ている間に派手にやったようだな」
「えっ・・・!?」
「ネットニュースになってるぞ?」
そう言うと佐江さんは持っていたスマートフォンを見せてくる
そこには
【痴女か天使かその正体は?自称魔法少女真星町に現る!?】
という見出しで僕が戦っている時に町の人達が撮ったであろう写真がまとめられていた。
「なんだ。結構ノリノリじゃないか。やっぱりそういう趣味があったのか?」
「ち、違うよ!ただこうするしか無いと思っただけで・・・それに町の平和を守りたいのは嘘じゃないし・・・」
「ほう・・・?こんなクソみたいな町守りたいとは思わんがな。まあ私は怪人さえ減らしてくれれば文句はない訳だが」
「あ、あの・・・佐江さん?その事なんだけど・・・」
僕は服を買いに行ってから怪人と出くわし女幹部の姿で戦って暴走してビルを一つ壊してしまったこと、そしてそこに現れたバッドネス㈱最高幹部を名乗るバッドナイトの存在、そしてサーマルキャットを倒したは良いものの貰った10万円や着替えの入った袋をなくしてしまった事、そして怪人が何者かに立て続けに殺されている話を怪人から聞いた事を話した
「ほう・・・そんなことが。君の買った服と金なら無事だぞ?」
「えっ!?」
「変身した際に持っていたものは自動的にあの衣装と交換される形でここに転送される仕組みになっているんだ」
「そうだったんだ・・・よかった・・・」
「まさかブラジャーをあんなに買い込むとは・・・やはりそういう趣味だったのか?」
「違うって!よくわからなかったからサイズだけ図って適当に買っただけだから!!」
「そうか・・・?まあ良い君も盛りのついた年頃だしとやかく言わないでおいてやろう。それとな、怪人殺しの犯人は君ではない。これは断言できる。」
「どうして?」
「私は君がフジュンヒルデの姿に変身した反応を知らせるアラートで目を覚ましたんだ。そのアラートは今日はじめて鳴ったんだ。だから君があの姿になって自我がなくなるほど暴れた記録もない」
それなら怪人殺しは僕じゃなかったんだ・・・
僕はひとまずその事実に胸をなでおろした
「しかし誰だ私の作品を壊して回ってる奴は・・・」
「えっ、それって僕もそうじゃない?」
「いやあれはあくまで私が作った最高傑作である君が最も私の作品の中で優れている事を証明する実験も兼ねているんだよ。ただ壊すだけの輩と一緒にしないでもらいたい」
やっぱりこの思考はマッドサイエンティストと言わざるを得ないけど確かに戦闘不能にはしても命までは取らないのは佐江さんなりの優しさなのかもしれない。
「ところで・・・」
「どうしたの佐江さん?」
「飯はどうした?」
「あっ・・・・」
「ほう・・・一番用事を忘れるとはいい度胸だな・・・」
佐江さんはニヤリと笑みを浮かべどこからかメスを取り出した
「ご、ごめんなさい!だってお金も全部どっか行っちゃったから!!」
「うるさい!分かったらさっさと買い物行って来い!!」
「ひーん!色々あったんだしせめてちょっとだけ休憩させてー!!」
こうして魔じかる☆スノウとしてのこの町を守りつつ元の身体に戻るための僕の戦いは本格始動したんだ。
それと同じ頃バッドネス㈱のアジトの一室に戦闘員が駆け込んできた
「ドン・サイーグ様!報告します!フジュンヒルデが再び現れ戦闘を開始したサーマルキャット2並びに戦闘員が負傷した模様です!なおフジュンヒルデは魔じかる☆スノウと名乗っていた様です!!」
「ほう・・・そうか。して負傷者の容態は?」
「はい!戦闘員はほぼ全員が軽症、サーマルキャットは変身機能を破壊されはしましたが命に別状はありません!」
「そうか・・・やはり怪人殺しの犯人は他にいると考えるのが妥当だろうな・・・サーマルキャットたちはバッドネス㈱の息がかかった病院に速やかに搬送させて適切な治療を受けさせよ!」
「キョー!」
それから数時間後、有希は食料の買い出しの為再び町の中心部にやってきていた。
もう日は傾き辺りは暗くなり始めている。
「はぁ・・・佐江さんったら人使いあらいよね・・・食材は買い込んだけど今日はかんたんに済ませようかな・・・それにしてもこんなにいっぱい買ったら重くて持つのも大変だよ・・・そうだ!魔法少女に変身すればこの食材も転送できるんじゃ・・・いやいやそんな些細なことにこの力を使うのはなんかダメな気がするなぁ・・・仕方ない。持って帰ろう」
有希が両手にレジ袋を担いで歩いていると
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
路地裏から女性の悲鳴が聞こえてきた
「な、なに!?」
有希はその声を聞いて以前なら関わらずに素通りしていただろう。
しかし今の有希はそうはしなかった。
(誰かが困ってるなら助けなきゃ・・・!たとえ僕の正体が悪の女幹部でもせめて魔法少女らしく・・・!)
有希は悲鳴のした路地裏へと走った。
そこで先では筋肉が異様に膨れ上がった身の丈三メートル超えの四本の腕を持った怪物とそんな怪物に今にも握りつぶされそうな女性の姿がぼんやりと街頭に照らされていた
「い、いや・・・・誰か助けて・・・・」
女性は消え入りそうな声を発している
「クキ・・・グギギィ・・・・!」
怪物は声にならない声を上げ、まるで恐怖する女性を見て喜んでいるようにも見える。
(なんだあいつ・・・あれもバッドネス㈱の怪人なの!?)
有希はそう思ったが今までに戦った怪人とは何かが違った。
まずバッドネス㈱怪人の共通デザインであるバッドネス㈱のエンブレムが見当たらず、どこか気の抜けて愛嬌のある姿もしていない。
それに会話はおろか意思疎通すら叶わない様に見えるその行動は有希の強化された感覚が告げるのか誰が見てもそう思えるのかただならぬ危険なものであるという事を告げていて、その怪物はただ殺意と恐怖だけを求めているようにも見えた。
考えているうちにも女性が握りつぶされてしまうかもしれないと考えた有希は恐怖を押し殺し魔法少女の姿に変身し、魔じかる☆すまっしゃーを思い切り怪物目掛け投げつけた
「グッ・・・ギィ・・・?」
魔じかる☆すまっしゃーは腕に命中し、注意が有希の方に向いたのか怪物は女性を手放した。
幸い怪物の動きは素早くはなく、有希はすかさず女性の方に走った
「大丈夫ですか?後は私が食い止めますから逃げてください」
有希はそう声をかけて女性を路地裏の外へ誘導した。
それを追って怪物が迫る。
(これ以上先に出したらどうなるかわからない・・・ここで僕が食い止めなきゃ)
有希は魔じかる☆すまっしゃーを拾い上げファイティングポーズを取った。
怪物はそんな事を気にすることもなく有希に向かってくる。
しかし怪物の動きは大ぶりで遅い為回避することは難しくなく、有希は怪物の攻撃を避けながらダメージを与えていく。
そして怪物には疲れの色が見え始めた。
「よし・・・今なら!魔じかる☆だいなみっく!!」
有希は怪物目掛け魔じかる☆すまっしゃーを振り下ろす
「良し!決まった!」
これでこの怪物の変身機能は破壊され元の姿に戻るはず。
そう思った有希だったが
「グ・・・・グギギ?」
「嘘!魔じかる☆だいなみっくが効かない!?」
怪物の姿に変化は起こらない。
それどころか驚く有希のスキを突き大きな腕で有希を掴んだ
「ぐあああああああああ!」
有希の身体はギリギリと締め付けられていき身体が軋む
「だ、駄目だ・・・腕の自由が効かないからフジュンヒルデの姿にも変身できない・・・それにあの力を使ったら僕は・・・ぐあああああああああ!」
有希を掴む腕の強さは更に力を増していく。
それはいくら改造人間とはいえ耐え難いものだった。
(このままじゃ僕・・・握りつぶされちゃう・・・!僕もうダメなのかな・・・)
有希が半ばあきらめかけたその時、何かが有希の頭上を掠め、怪物の頭にぶつかった
「グギィ!」
あまりの衝撃に怪物は吹き飛び有希はその腕から開放される。
そして有希の頭を掠めた何かが怪人と有希の間に軽やかに着地をした。
「あ、あれは・・・」
有希が見たそれは黒いボディに真っ赤な目をしたバッタのような姿をしたなにかだった
「グぎぃぃぃィィ!!!」
それを見た怪物はそのバッタ男(?)に向かっていく
「フン!言葉すら話せない下等なバケモノが俺に勝てるわけ無いだろ?なんせ俺は悪に終焉を告げる者なんだからなぁ!ヘイアヘッド!アバドンカリバーを転送しろ!」
バッタ男(?)は腕についた液晶パネルをタッチしてそう叫ぶと手元に剣が現れる。
それを握ったバッタ男(?)は剣を一振りして怪物の腕を一本切り裂いた。
「か、かっこいい・・・!」
有希純粋にそのギミックや剣を持ったバッタ男(?)の姿に男心をくすぐられていた。
まるで本当に日曜の朝に出てくるヒーロの様に見えたからだ。
「グギァァァァァァァあぁ!!」
怪物は苦しそうな声を上げると口から煙幕を吐き凄まじい勢いで飛び上がった
「ゲホッ・・・ゲホッ・・・!クソッ!逃したか・・・」
バッタ男(?)は辺りを見回すが怪人の気配はない。
彼の言う通り何処かに逃げたようだ。
そんなバッタ男(?)は有希に気付いた。
「お嬢さん?そんなカッコで路地裏なんかに居たら危ないぜ?俺が来なかったらどうなってたか・・・」
「お嬢さん・・・って僕のこと?」
「はぁ?アンタ以外に何処にいんだよ?何?コスプレイヤーかなんか?」
「えーっと・・・そちらこそそれは仮面●イダーのコスプレかなにかですか・・・?オリジナルの」
「はぁ?ちげーよ!俺は・・・・・そうアバドン!悪に終焉を告げる者さ」
「アマ●ン?」
「ちげーア・バ・ド・ン!とにかく女が夜に独り歩きしてるんじゃねえぜ?まだあのバケモノが近くに居るかもしれねぇ。俺は奴を追うから気をつけて帰んなよ!じゃあな」
そう言うとアバドンと名乗ったバッタ男(?)は夜の闇の中に消えていった。
有希はただただそんな黒い人影をしばらくの間ぼーっと見送ることしかできなかった。
突如現れた正体不明の怪物、そしてそのピンチに颯爽と現れ嵐の様に去っていったアバドンと名乗る男は何物なのか?
有希の魔法少女生活に新たな苦難が降りかかろうとしていた。