歴史修正主義者なるものがいるらしい。具体的に何をどう変えたのかは知らないが、それで町一つ分、まるごと歴史が変わってしまったらしい。
そう、町一つ。僕の住んでいた町は、歴史改変の影響をもろに受け、住民の全てが別人に代わってしまった。一人として、僕の知る人がいない、建物さえも異なる町になってしまった。同じなのは地形くらいなものだ。そしてそれは、僕の家族だって例外じゃない。家も、家族も、見覚えのない別物になっていた。否、その人たちも僕の事を家族と認識はしなかったのだけど。
気が付けば僕は、天涯孤独になっていた。というか、両親どころか祖父母たちも存在しないのに、何故僕だけが存在し続けているのかがわからない。
僕一人残っても意味なんてないのに。
「なーお」
ああ、そうだった。正確には僕一人ではないのだ。何故だか、くるみだけは僕と一緒に改変をまぬかれていたのだ。だから今は、くーちゃんだけが、僕の残された家族なのだ。
現在僕は、時の政府に"保護"されている。改変をまぬかれるものは、審神者の力を持っていることが多いらしい。よくわからないが。落ち着いたら、審神者の力に関する検査を受けてそれ如何で何処の部署に配属されるか決まるそうだ。まあ、ただ飯ぐらいを養う義理なぞないのだ、仕方ない。身一つで戸籍さえおぼつかない僕はそれに従う他ない。…己に超能力とかがある気はしないのだが。まあ、確かに、予知夢的なものは偶に見るが、大して役に立つものでもないし。
「…くーちゃんといられるところに配属されるといいんだけど」
具体的な情報はまだ与えられていない。否、もらってもよくわからないかもしれないけれど。
…普通なら、修正主義者に対して、怒りとか憎しみとかを持つ境遇なのだろうとは思う。文字通り、私の知る世界の全てを奪われたも同然なのだから。だけど、僕はそういうものは全く湧いてこなかった。ただ、ひたすら、自問自答を続けている。"僕の記憶は本当に確かなのか"、と。本当は天涯孤独の孤児か何かで、こんな家族がいたら、と夢想していただけなのでは、とか。世界か、己か、どちらかが間違っているというなら、それは当然僕が間違っているに決まっている、はずだ。だけど、自分の記憶を否定するということは、確かにいたはずの家族の存在を否定するという事に等しい。それは、したくなかった。だけど、僕は世界で一番信用できないのは己の記憶だと思っている。物的証拠は一つたりと残っていない。
だったら僕は、何を信じればいい?
なんだかよくわからないが、刀の霊を降ろして目覚めさせればいいらしい。正しくそれができるのなら審神者に、できなければサポート要員に回されるのだと。
言われた通りに、見よう見まねで依代刀を手に取る。試験用に、打刀に合わせて用意されたもの、らしい。上手くいけば初期刀になるのだとか。
…争うのは、嫌いだ。だけど、生きるために戦わなきゃならない時があるのは知っている。
「…かしこみもうす」
柏手を打つ。依代刀が光を帯び、姿を変える。リン、と鈴の音が響いた。姿を変えた刀を手に取り、鯉口を切る。桜吹雪が弾け、目の前に何者かが現れる。
「小狐丸と申します。私が小、大きいけれど!」
「こぎつねまる」
でかい。というか、何で人の形してるんだろう。いや、刀は人が人を斬るための道具だけれども。
小狐丸は嬉しそうに、満足そうに笑って、姿を消した。この依代刀は長く顕現できない仕様なのだと聞いているからそこに不思議はない。
「これでいいんですか」
さっきからずっと黙ったままだった試験官に問う。それとも実は、さっきのは別物だったりするのだろうか。
「あ、ああ。文句なしの審神者適合者だ」
ということは、さっきのは刀の霊で間違いないのか。もっと…なんというか、殺伐としたイメージだったのだが。まあ、アレのユーモアについていけるかはわからないが。
初期刀の準備が出来るまでの間、軍本部で座学の授業を受けることになった。まあ、少しは気がまぎれるから文句はない。およそ一週間は最低でもかかるそうだ。まあ、一週間で覚えろというなら、出来る限り覚えるしかない。元々、勉強は嫌いじゃない。好きかと言えば、興味のある分野なら吝かではない、くらいだが。