帰る場所   作:ペンギン隊長

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「再契約しにきたぜー…って、どうした?」

「よりにもよって、よりにもよって…!」

碧猫は室の隅で丸くなっている。同田貫はそれに面妖なものを見る顔をした。

「おーい、アオ?」

「へぁっ?!…え、あ、同田貫さん、どうかされましたか?」

「いや、お前がどうしたんだよ。何か変なもんでもくっ…てるわけないか」

「拾い食いなんてしません。…いえ、なんというか、久しぶりに安眠できたことだけは良かったんですが、ちょっと…はい」

「…?」

「それで、同田貫さんは僕に何の用ですか?」

「ん、おう。そろそろ戦に出ねぇと体がなまっちまうし、再契約しにきた」

「戦、ですか」

「ゲートで過去に行くのは審神者と契約した男士じゃなきゃ駄目だとさ。ついでに出陣に付き合ってくれそうな奴も連れてきた」

「…慣れ合う気はないが、手を抜くつもりもない」

「お初にお目にかかります、蜻蛉切と申します」

「源氏の重宝、膝丸だ」

「長曽祢虎徹という。贋作だが、本物以上に働くつもりだ。よろしく頼む」

「カッカッカッ。拙僧、山伏国広と申す」

「え、あ、はい。碧猫です。よろしくお願いします」

「(…小さい)」

「(やはり小さいなあ)」

「(確かに小さい)」

「碧猫殿は、歴史改変について、どう思っておられる?」

「…山伏」

「カッカッカ。念の為の確認と言うものだ」

「ん、えーと…正直、よくわからない、です」

「よくわからない」

「それで、人が消えてしまうことがあるのだとは、聞きましたけど…そうやって変えて、一歩間違えたら自分自身だって喪ってしまうかもしれない事を、自分からしようと思う意味はわかりません」

「一般論ではあるが、現状に不満があり、過去を変えたいと思うからそうするのではないか?」

「でも、思い通りに変えられるわけではないでしょう」

碧猫は小首を傾げる。

 

 

 

「…危い子だな」

「否。あの主は絶対に改変はせぬだろうな」

「…根拠は」

「主は歴史に価値を見出していない。否…寧ろ、価値あるものと思っているものがあるか疑わしいかもしれぬな」

「・・・」

「価値のないもののために命をかけるものはござらぬ。故に、主は自分から動きはしない」

「…それなら、守ろうとも思わないのではないでしょうか」

「…あいつには、正しい歴史を守ろうと思う理由はあるはずだ」

「…いや、よく考えると、もしかしたらあいつ、改変された歴史がどうしたら元に戻せるかわかってねーんじゃねぇか?」

「…!」

「どういうことですかな、同田貫殿」

「…詳しいことは管狐に口止めされてンだがな。アオは歴史改変の被害者だ。それで家族を喪ったから審神者になった」

「…孤児か」

「…アイツ、可哀想扱いされるの嫌いだぞ」

 

 

 

「アオちゃんちょっといいですか?」

「え、は、はい」

「そんな緊張しなくてもとって食ったりしませんって」

鯰尾は苦笑する。

「…アオちゃんは俺の事嫌いだったりします?」

「いえ。……遺憾ながら、昨夜しっかり安眠できた原因の一つはあなたにくっついていたことだと思いますし。僕多分抱っこされるの好きなんです」

「遺憾なんだ…」

「ほぼ初対面の相手に、というのはやはり」

碧猫は目を逸らす。

「俺はそんなに気にしてないですよ。一兄がいないと、俺が粟田口の長兄みたいなものですからね」

頭撫で撫で

「アオちゃんは弟たちとあまり変わらないですし」

「弟」

「同じ刀工に作られた刀は兄弟みたいなもんです」

「…かなり、多いですよね」

「藤四郎の短刀は縁起物としても人気がありましたからね。"本当は"偽物もあるかもしれないですけど…まあ、そういう細かい事は気にする必要ないですよね」

 

 

 

「へし切長谷部、といいます。主命とあらば、何でも斬ってさしあげますよ」

「しゅめー」

「はい、主の思うままに」

「さしあたって、これを斬ってほしい、というものはないですけど」

「刀として主の望むものを斬るのは当然の事ですが、それ以外にも、主命とあらば何でもこなしましょう」

「…ですか」

「はい」

 

 

 

「おや、へしべではありませんか」

「妙な呼び方をするな」

「あるじさまは…しつむちゅうですか?」

「?執務というか、テキストを読んでいただけですよ。僕に何か用事ですか?」

「どうせなので、いわとおしたちもあるじさまとちゃんとかおをあわせたほうがよいとおもいまして」

「あ、はい」

「俺は岩融、武蔵坊弁慶の薙刀よ」

「石切丸という。加持祈祷なら任せてくれ」

「碧猫です」

二人とも大きいなあという顔。

「おぬしは俺たちに比べると小さいなあ」

よしよし

「ふひゃ」

「あなたのようにおおきなにんげんはそもそもそうはいないそうですよ、いわとおし」

「そうだね、長谷部君や三日月くらいの背丈の人間ならば見た事があるけれど。それに、女人なら彼らくらいでも滅多にいないそうだよ」

「俺は小さきものも好きだぞ」

「主くらいの背丈も愛らしくて良いと思いますよ」

「…僕だって、後10cmくらいは背が欲しかったですよ」

 

 

 

 

碧猫に対して特に悪感情のないもの大体再契約しに来た。

「今日は何かありましたっけ?」

「今日何が、というより、昨日だね。そろそろ様子見はやめて動く頃合いかなって」

「ご迷惑、でしたか?」

「いや、迷惑とかではないんですけど、一度にたくさんは覚えられないと思うので、間違えて覚えたりしたら申し訳ないなあ、と」

眼鏡にインテリジェントグラスの機能とかあるので、ズルもできんことはないのだが。

「まあ、なんとかなりますって」

「大丈夫大丈夫、あだ名ってことにしちゃえばいいよ」

「…ですか」

 

 

 

「実際会ってみたら、案外平気でした」

「そりゃ、物吉君だって人間が嫌いになったわけじゃないからねぇ。人の子が好きで、嫌われるのが怖かったから不安だったのさ」

「アオちゃんはなんだか俺たちが守ってやらないと、って感じがしますよね」

「あー、わかる。ちっちゃいし、簡単に死んじゃいそうって思った」

「うんうん、ちょっと頼りない感じもするけど、だからこそ支え守ってあげないと、って感じだよねぇ」

「はい、今度こそ主さまに幸運を届けます」

「アオちゃんはどんな幸運なら喜んでくれるかな?」

 

 

 

「あの、碧猫さん」

「なんですか、五虎退君」

「僕、本当は、虎を退けてないですけど、そんな僕でも、大丈夫でしょうか」

「別にいいと思いますよ。虎が倒せなくても。短刀はそもそも虎を倒すためのものではないでしょう」

平然と碧猫は言う。

「刀は、人を斬るためのものでしょう?」

「っ」

「つっても、戦場で実際使われた短刀は、俺っちや厚、後は乱とかくらいだからなあ。大体は守刀として伝えられてたもんだ」

「そうなんですか」

まあ、短刀は間合いが狭いですしね。

「打刀や太刀の旦那方は実戦で使われてた猛者が揃ってるな。例外は神社に奉納されてた大太刀の旦那と、伝承の刀である小狐丸の旦那とかか」

「っていっても、石切さんも太郎さんたちも奉納される前は実際に戦場で振るわれたことがあるらしいぞ」

脇差以上で本当に戦場に出てないのは小狐丸くらいなんじゃないかなあ。

「じゃあ、小狐丸は例外みたいなものなんですね」

「そんな感じだな」

「話題を戻しますとですね」

「お、おう」

「過去に何を成したか、成さなかったか、というのはそこまで重要ではないと思います。大事なのは、今、これから、何をするか、何をしようとしているか、じゃないですかね」

そして虎を退治していないことが気になるのなら、これから倒しに行ったっていい。

「虎退治なんて、無理です!だって、虎が可哀想なんで…」

「僕も虎とか猛獣は好きなんで実害がないのであれば無理に倒しに行く必要はないと思いますよ」

「それはつまり、害があれば倒すということですか?」

「必要と実力があれば」

僕に虎退治が出来る戦闘力はありません。

「…まあ、必要とあらば虎退治もやってのけるやつは揃ってるだろうしなあ」

「でも、そもそも日本に野生の虎はいませんからね」

 

 

 

「アオは俺たちが戦場で何と戦ってるか知ってるか?」

「…えっと、確か、そこうぐん、でしたよね」

「おう。やつらは歴史を変えるため、変わった状態を保つために出てきやがる。…此処までいやあ、わかるか?」

「………!なら、原因になった改変を元に戻せたら」

「…ま、そういうこったな」

「…でも、今すぐそうできるわけじゃないですよね」

「…まあ、俺たちが今までに行ってる戦場は歴史上の大きな転機になった事件とかだからな。アオの関わった改変がそん中にあるってことはねーだろ。そっちは改変を阻止し続けてるはずだしな」

「・・・」

「けど、政府も馬鹿じゃねぇんだ、改変された歴史があるってんなら、そのままにはしとかねぇだろ。いつかは特定して、そこへ行けって任務が下されるはずだ」

「・・・」

碧猫は真剣な顔で考え込んでいる。暫く考え、碧猫は言う。

「戦う理由ができました」

僅かに微笑を浮かべ、碧猫は同田貫に言う。

「教えてくれてありがとうございます。…僕にできる限りのサポートをしますので、僕の敵(・・・)を倒す手助けもしてくれますか?」

「おう、良い顔になったじゃねぇか。俺は雅な事とかはわからねぇが生粋の実戦刀だ。主《あんた》が斬れっていうなら、何だって斬ってやるぜ」

「はい、よろしくお願いします」

 

決意一つで人は此処まで変わるものか、と彼は思う。ひ弱な幼子にしか見えなかった子が、己の成すべきことを見据え自ら立つことを決めたら化けた。未だ実力は伴っていないので危なっかしいが、その決意を含んだ凛とした眼差しは、一人の将のものだ。いずれはこの人の子についてゆけばよいと、そう思わせる人間になるという予感を覚えさせる。

 

「僕、覆水盆に返らずだと思っていました。でも、どうにもならないというわけではないんですね。…抗うことができるんですね」

碧猫は笑う。

「戦うのなら、備えることも必要ですよね…学ばなきゃいけないことも、あるけど、それよりまず…」

母屋の方を見る。全ての刀と契約が更新されているわけではない。それは、よくないことだろう。

「…同田貫さん。堀川国広さんと大和守安定さんは、僕が今から向かって契約の話をした場合、どうなると思いますか?」

「ん、あー…俺より和泉守の方がその二振りとは仲が良いぞ。前の主の時からの付き合いだしな。…けど、あいつらとは審神者の話はしないからなあ」

「成程、蔑ろにされてるんですね、僕」

「・・・」

「ところで、僕がこの本丸に来てそろそろ一ヶ月になりますし、改めてお話しさせていただこうかと思うんですけど」

「…まあ、少なくとも契約したやつは聞いてくれるんじゃねぇの」

「和泉さんに頼めば二振りも引っ張り出せますかね」

「…まあ、出てくるんじゃねぇの」

「ふむ。それじゃあまあ、善は急げと言いますし、動きますか」

 

 

 

「短刀とはいえ、ぞろぞろ連れてれば威圧感があると思いますので…そうですね、前田君と平野君だけついてきてもらえますか?」

碧猫が初めて自分から出ようとすることに彼らは驚き心配するが、碧猫は平然とそう返した。大きく変わり過ぎな位だ。

「どうされたのですか、主君」

「動く理由ができましたので」

「動く理由…ですか?」

「はい。僕、実はやられたらやり返す主義なんですよ」

にこにこと笑みを浮かべる碧猫に短刀たちは戸惑いはするものの、主が元気になったのは良い事だと思いなおす。それに、一期が彼女に直接顕現されることになれば、それが一番いい。

 

 

 

「…主?」

「あ、歌仙さんこんにちは」

「………もしや君は、多重人格とやらだったりするのかい」

「うーん…まあ、広義にいえばその気はあるかもしれませんが、この本丸に来てから人格交代があったという事実はないですよ」

さらっととんでもない事を言う碧猫に歌仙は困惑を隠せない。

「そんな与太話はともかく…歌仙さんは和泉さんが今何処にいるかって知ってます?」

「うん?…この時間なら、道場か、書庫あたりだろうけれど…あの子が何かしたのかい」

「いえ、僕が顔を合わせていない二振りが和泉さんと縁深いと聞きましたので」

「…ああ。彼らは、仕方ないんだよ」

「あ、そういうのいいです。僕、そういう話がしたいわけじゃないので」

むっとした歌仙に碧猫は肩をすくめて言う。

「不幸だったら誰かに酷いことしていいわけじゃないですし、だとして、僕にはやり返す権利があります。まあ、不幸を免罪符にする気もさせる気もないですけど」

笑って、碧猫は言う。

「俺、自分の不幸に酔ってるやつは嫌いなんですよね」

 

 

「…碧猫さん?」

「ん?ああ、五虎退君、薬研君、こんにちは」

「何か、あったんですか?」

「うーん…まあ、何もなかったわけではないですけど、特に悪いことがあったわけじゃないですよ」

「…憑き物が取れた顔してるじゃねぇか、碧の大将」

「戦う理由ができましたので」

碧猫は二コリと笑う。

「…いや、うん。あんたはそうやって笑ってる方がいいんじゃねぇかな」

「ありがとうございます」

 

 

 

「あ、和泉さん」

「…碧猫?なんでお前が此処に」

「一応、確認しておこうかと思いまして」

「確認?」

「一応、こんのすけから色々言われてはいたんですよ。その時はピンとこなかったんですけどね。…なにもかも、どうでもよかったから」

「・・・」

「あなたと、そちらのお二振りは、僕と契約を結ぶつもりはありますか?」

「!」

「…脅すつもり?」

「真っ先にそう思考が向かう時点で、立ち位置がわかりますよね」

碧猫は肩をすくめる。

「別に、今すぐ契約を結べと要求しにきたわけじゃないですよ。無理強いは趣味じゃありませんし、きっと、短い付き合いじゃ終わりませんから。…でも、はなっから僕と再契約をする気がないというのなら」

こてん、と首を傾げて碧猫は続ける。

「この本丸に留まっていただく理由はないですよね」

「…僕らを追い出そうって?何の権利があって」

「あなたたちが今顕現を保つために使っている霊力は僕のものですよね」

「っ」

「僕の霊力を使って此処にいるというのなら、相応の対価をもらう権利がある。違いますか」

「・・・」

「だから、教えてください。あなたがたには、僕の敵と戦うために手を貸してくれるつもりはありますか?」

にこり、と碧猫は笑うが、その瞳は虚言は許さないと言っている。もっとも、真っ当な神ならば偽りを口にすることはできないのだが。

「ないのであれば、この本丸から立ち去ってください。余所の本丸に行くのでも、とうかいとやらでも、御随意に」

 

「兼さん」

堀川の呼びかけに和泉は悲しそうな顔をする。相棒だから、わかるのだ。彼がどう思っているのか。だから、無言で首を振った。

「…僕は、人間を信用できない」

大和守が碧猫を敵意を持った目で見て言う。碧猫はそれに微笑を返す。

「僕は別に引き止めませんよ。背中を刺される趣味はありませんし、どうしても"あなた"じゃなきゃならない理由もありませんし」

「なっ」

「僕の目的は一朝一夕に実るものではありませんし、もしかしたらこの子たちが練度限界を迎えても達成できていないかもしれないくらい、当てのないことです。ですので、今現在の強さは必須事項ではありません」

縁があれば、他のあなたも来てくださるでしょうし。

「それに」

ふっと、碧猫は嗤う。

「人間が信用できないからなんだと言うんです?そもそも、何の利害の一致もなくやさしくしてくれる人間がいるとでも?…僕は自分に縁もゆかりもない他人のモラルの欠如の尻拭いをする気はありませんよ」

「なんで、縁もゆかりもないって言い切れる。僕たちを、そんな簡単に斬り捨てられる」

「だって、僕"あなた"のこと知りませんもん。知らない相手と手を切る事に、何で躊躇わなくちゃいけないんです?相手と良い関係を築けそうもないのに」

「後、前任に関しては本当、縁のない人間だと思いますよ。誰か知りませんけど」

「…何で知らないのにそう言い切れるんだ」

「だって、僕が僅かにでも縁を持った人間は、今この世界には存在していないそうですから」

いっそ朗らかに、碧猫は言う。

「兄弟家族、親戚は勿論、ご近所さん、かつての学友、いじめっ子、電車で隣に座った人、宅配便の配達人、それから…うーん、まあ、内訳はいいか。とにかく、僕の存在を認識した事のある人は、一人残らず、歴史改変に巻き込まれて、存在が消失しているか、別人に置き換わっているらしいです。だから、縁ある人だったとしても、改変で別人になってるので知らない人です」

「…家族だけじゃ、なかったのか」

「らしいですよ。少なくとも町一つ分は丸ごと変わってしまっているらしいです」

住んでる人も、建物も。

「ね、だから」

碧猫は小首を傾げてみせる。

「僕に不幸自慢みたいなこと言わないでくれます?"可哀想な僕"にやさしくしてくれ、って主張したいなら、他の人に言ってください。僕、不幸を免罪符にする気もさせる気もないんですよ」

「・・・」

「僕は、不幸自慢とか、憐れまれたいとか、思ったわけじゃ…」

「何処が違うんです?僕はこんな不幸な目にあってきた可哀想な刀なんだから、配慮してしかるべきだ、という主張以外の何だって言うんです。あなたが人間を、僕を信じられようがられまいが、仕事さえきちんとこなして他の方に迷惑をかけなければ僕は構いませんよ。他者の心の中まで縛るつもりはありませんし、自分が人に好かれる性質だとは思いませんから」

 

「俺は、碧猫を悪く思っちゃあいないさ。だがな、こいつらは俺の"仲間"だ。どうでもいいとは、言えねえよ」

和泉は碧猫に歩み寄る。

「何でいきなりそんなこと言い出したんだ」

「三日月さんは、少し時間が必要だ、と言っていました。実際、他の方は今日までで概ね、僕と向き合いに来てくれました。そこの二振りだけなんですよ、ちらりとも交流のない方は。…後は、僕にも戦う理由ができたから、ですね」

にこにこと碧猫は笑う。

「僕、やられたらやり返す主義なんですよ。やり返すことに意義を感じなければ無視することもありますけど。争うことが好きというわけではありませんから」

「それだよ、突然何と戦おうと思ったんだ」

「同田貫さんが気付かせてくれたんです。審神者と刀剣男士は遡行軍…歴史改変を成そうとするものと戦うためにいる。…それなら、僕の家族を消失させた改変を正す機会も、いつかは巡ってくるはずだって」

「…え、まさか、気付いてなかったのか?」

「刀剣男士は遡行軍と戦うためにいて、僕は歴史修正主義者なるものに命を狙われる危険があるとしか言われていませんでしたから」

「マジか…」

「兼さん、兼さんはその子と再契約するつもりでいるの」

「…そうだな。最初にこいつに遭遇して、抱え上げた時にはそう思ってたかもな。今思えば」

己は、この小さな人の子を守ってやるべきだと。

「えっ」

「だったら、何でそれを話してくれなかったの」

「だってお前、言ったらこいつのこと闇討ちしにいってただろ」

「・・・」

「俺が相棒の考えることもわからねぇと思うのか?…仲良くする気がねぇなら近付くなつったら、本当に近付かねぇしよ。…俺らが現世に降りるのは審神者、人間の力になるためだろ?そういう気持ちは、お前にはもうねぇのかよ」

「…それでも僕は、もう兼さんや兄弟の折れるところは見たくないよ。そうなるならいっそ、僕が」

「何で俺が折られる前提なんだよ…」

和泉は深く溜息をついた。

「こいつが刀を折るような采配をするような人間かもわからないだろ。いや、そもそも、お前は新しい審神者(あおねこ)がどんなやつなのか知ろうともしなかっただろ。審神者ってだけで敵だって決めてかかって」

「じゃあ兼さんはそうじゃないって言い切れるの」

「国広、俺たちはあくまで刀だ。人間の真似して鈍らになるために此処にいるわけじゃねぇんだよ」

真剣な顔で和泉は言う。

「正直、俺も碧猫がどんな采配をするかはわからねぇ。けど、こいつが俺たちの意思を蔑ろにするやつじゃないのはわかる。だったら十分だろ。こいつが間違いそうになったら俺たちで止めてやりゃあいい」

「それじゃあ不十分だよ」

「意見を変える気がない人は、何を言ったって意見を変えませんよ。迷いなく自分の意見を盲信してる人には何言ったって無駄です。自分の信じたい事しか信じませんから」

碧猫の言葉に堀川はむっとする。

「君に、何がわかる」

「僕は、自分の知ってることしかわかりません。知らないことはわかりません」

肩をすくめる。

「残念ですけど、僕の刀になる気がないというのなら、お三方で余所へ行っていただいて構いませんよ。こんのすけに手配させますので」

「碧猫」

「僕、あの時和泉さんが気遣ってくれたことは、素直に嬉しかったですし、安心しました。…無暗に僕を嫌うヒトばかりではないんだな、って」

「でも、そちらのお二振りの方が付き合い長いそうですし、心配でしょう?僕の事は見捨ててくださっても結構ですよ」

「…お前のそれは、わかっててやってんのか、無意識なのか、どっちだ」

「それ、とは?」

「…俺は他の本丸に移る気も、勿論刀解を選ぶ気もねぇ。再契約するってさっき言っただろ」

「兼さん?!」

「国広、本当なら、こいつが来た時にはもう選んでなきゃならなかったんだよ、俺たちは。このまま此処に留まるか、留まらないか、ってな。でもって、留まるってのは当然もう一度新しい審神者を信じてみるってことだ」

「…兼さんは、僕に刀解を選ぶべきだって言うの」

「俺だって相棒にこんなこと言いたいわけじゃねぇよ。…だがな、道理を曲げて意地張って周りを困らせて、それでトシに俺はあんたの刀だって胸張って言えるのか」

「・・・」

「士道不覚悟は切腹だ。違うか」

「…違わないよ、兼さん」

「…じゃあ、僕も切腹ってわけだ」

「安定君」

「…本当は、清光の事この子に任せていいか不安だけど、そこの二振り見てる限り、余計なお世話だって怒られそうだし。…もう、いいや。僕は一足先に本霊に還ることにするよ」

 

 

「・・・」

「僕は、謝らないよ、和泉さん。…契約してくれて、ありがとう」

「…寧ろ、謝るなって言おうと思ってたところだよ」

 

 

 

 

「三日月さん、僕と契約してくれますか?」

「…他の刀剣たちは、選んだのか」

「はい」

「…俺に恨み事やなんかはないのか」

「別に、恨んでませんよ。三日月さんは、他の刀剣は少し時間をおいて落ち着けば、僕を利用する為に向き合うんだって、教えてくれただけじゃないですか」

三日月は眉尻を下げる。

「俺はそのようなつもりで言ったのではないのだがなあ」

「別に、人を利用すること、己の利のために動くことそのものは悪いことではないと思いますよ。相応のリターンを返すのであれば、ですけど」

「そのような殺伐とした関係では気が休まらぬだろう」

「何故殺伐としてると決めつけるんです?承認欲求、依存、助け合い、幸福の共有、自己満足、優越感、使命感、愛玩、性欲愛欲、自己肯定…幾らでも即物的でなく本人以外価値の定義できない利はあるじゃないですか」

「…そうか、そなたには、お互いを思いやって行動するというのも利己的な関係の一種なのだなぁ」

「誰かに何かをしてあげる、というのは、承認欲求か、褒められたいか、自己満足か、といったところでしょう。してもらった側の返礼に対する反応でわかります」

「そのように考えるのは虚しくならぬか?」

「何故です?」

碧猫はきょとんと首を傾げる。

「うまく言えぬのだがな、その考えは、殺伐とし過ぎているように思う」

「まあ、後ろに、"だから利害が変化すれば裏切るものがいるのも当然のことである"という結論が付きますからね。否定はできないでしょう」

「・・・」

「別に、三日月さんが気にすることないですよ。僕のこの考えは此処に来るより前からのものですから。ただ、刀剣男士にも人間と同じように適応できるのだとわかっただけです」

「刀剣男士は、基本的に主を裏切れん。そういうものだからな。…主があまりにもどうしようもない時は引導を渡すことはあるが」

「はあ、そうですか」

 

 

 

三日月と再契約した後、碧猫は刀を安置している社に向かった。

短刀達が置かれていた刀掛台はそれぞれが自室に持ち帰っているので、空間だけが空いている。

碧猫は順番にその場の刀を顕現する。

「骨喰藤四郎だ」

「鎌倉時代の打刀、鳴狐と申します。私はお供の狐にございます」

「よろしく」

「俺、加州清光。よろしく、主」

「…山姥切国広だ」

「私は太郎太刀、といいます」

「俺は獅子王。よろしくな、主」

「数珠丸恒次、と申します」

「私は一期一振、誠心誠意お仕えいたします、主」

「碧猫です。よろしくお願いします」

碧猫はへにゃりと笑う。その頬はほんのり朱に染まっている。

「こうして主に手ずから顕現されたということは、母屋の刀剣とは和解された、という事で良いのですかな」

「ええ、まあ…全員と再契約を結ぶ、というわけにはいきませんでしたが、一応」

「それは重畳です」

「…なんだか、随分嬉しそうですね」

「それは勿論「当然でしょ、だって漸く主に喚んでもらえたんだから。こうして主の目に映って、お話しして、お互いに触れられるのはすっごい嬉しいことだよ」…加州殿」

「一期一振ばっかり主と話してたらずるいじゃん」

「…僕の何処にそこまで価値を感じる要素があるんです?」

「だって、主は主だよ?俺たちにとって、主より価値ある存在なんて、よっぽど存在しないからね」

「主にもわかりやすいよう説明するのなら、そうですな…主は、刀剣男士として今此処にいる"私"の親のようなものですからな。主も、子が親を慕う感情はおわかりになるでしょう」

「…成程」

実際には微妙に違うのだが、それを言うのは野暮というものである。

「主と対面したらしたいこととか、ずっと考えてたんだぜ。…あーでも、今から、って感じじゃないかな」

「獅子王殿…」

「俺だって主と遊びたい」

「あ、俺も。でも、俺は寧ろ、主を可愛くしたり、可愛くしてもらったりしたいなー」

「そんなこと言ったら、私だって主を甘やかしたいです」

碧猫はぽかんとしている。…否、ぼーっとしている。

「…主?」

偵察の高い骨喰が異常に気付き、碧猫に近付いて手を伸ばす。ゆっくりと碧猫の躯が傾く。

「!」

骨喰が慌てて抱きとめると、その躯は随分熱い。どうやら、発熱している。

「主?!」

「医者?!」

「我々が慌ててもどうにもなりません、他のものへ連絡を」

「主君、しっかりしてください」

「室に連れていってやった方がいいんじゃないのか」

「疾病平癒の加持祈祷は専門外なのですが…」

阿鼻叫喚である。

 

 

 

「無茶したら駄目だって言っただろ、大将」

「無茶をしたつもりは、なかったんですけどねぇ」

碧猫は苦笑する。

「食事は取れそうでしょうか」

「うーん…あまり食欲はないですけど、食べられないということはないと思います」

「でも、今日はもう夕餉を取ったら大人しく休んでてくれよ。大将が指名したやつが近侍として側につくからな」

「だったら…誰か戦に詳しい方に出陣についての話をお聞きしたいのですが」

「大人しく休んでくれって、俺言ったよな?そういう、頭使うのはなしだ!」

「えぇ…」

 

 

 

「倒れた?…一度に何振りも契約を書き換えたり、顕現したりした疲労か?」

「いや、どうも熱を出したらしい。風邪、というわけでもないらしいが…」

「熱とは確か、病にかかった時に出るものなのだろう?大丈夫なのか?」

「霊力に大きな乱れはないし、休めば元気になると思いたいが…そもそも、此処に人の病に明るいものがいないからな」

「…まあ、明日になっても伏せっているという話を聞いてから心配することにするか」

「…俺たちは何もできないからな」

「…そう思うと、あいつは丈夫だったんだなあ、あいつが倒れたとか体調崩したとか、そんな話になったことなかっただろ」

「いや、二日酔いでいつもより機嫌が悪い、なんてことはあった気がするぞ」

 

 

 

 

 




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