デストロイヤルif 和解出来てない状態で一兄顕現
「選択する猶予は、十分にありましたな?さて。つけは清算させていただきましょうか」
一期一振はそう言って微笑した。その後ろでは、加州と骨喰が気だるげに、乱が不敵な笑みを浮かべて刀に手をかけている。
「同族殺しは趣味じゃないけど、まあ主の害になるんじゃ仕方ないよね」
「…主のために動けなければ、降りた意味はないからな」
「できれば自分で蹴りを付けてほしかったけどね」
「…何のつもりだ?」
「何のつもりも何も、言われなければわかりませんか?…この本丸に、主に仕える気のない刀剣が必要ですかな」
にこにこと笑みを浮かべ、一期は言う。
「人の子のため、今を守るため、戦うのが我らの役目。それを放棄した輩に存在する価値があると?主の手を拒むというなら、さっさと本霊の元へ還ればよろしい。主と共に戦う気のないものが、主のための刀剣の居場所を奪う権利などありません。今一度主の方からあなたがたに手を差し伸べろと?その手を拒み、本丸の片隅に追いやっておいて、更なる献身を求めるなど、何様のつもりだ。仲間も居場所も持ち合わせているくせに、おこがましいんですよ。己の縁を、己の物を、己の存在の全てを奪われ、政府の元で審神者となる以外の選択肢を与えられず、ただ安心して眠る事も出来ない主に、これ以上何の関わりもないあなた方に献身せよというのですか。主を安心させる事も出来ない癖に、まだ自分の力で立つことくらいはできるはずのあなた方は主に身を削れというのですか。…冗談ではない」
「まあ、一期はごちゃごちゃ言ってるけど、要するに、お前らの所為で俺たちが顕現を後回しにされて、弱っていく主を見ていることしかできないのって、すっごい不条理だよねー、ってところかな」
加州はひらひらと手を振る。
「主に仕える気がないならさぁ、何でお前らこの本丸に留まってるわけ?俺たちは主のために色々してあげたいって思って顕現される時を待ってたの。俺らが皆こうなんだから、主に顕現される刀は皆そう思うはずだろ?ね、"俺たちの仲間"のために、主に仕える気のないやつはこの本丸からいなくなってよ。そうしたら、俺たち皆ハッピーじゃん?お前らがいなくなったら、その分主にちゃんと顕現してもらって"俺たちの仲間"が主に仕えられる。仲間じゃない奴が同じ本丸にいても邪魔なだけなんだよね」
「――」
「いち、にい…」
「私の"弟"は、この場には乱と骨喰だけですが。主と契約を結んでいるのは、この場にはこの二振りだけですからな」
「そんな言い方ないだろ」
「何故ですかな。世には数多と粟田口の刀剣男士がおり、藤四郎の刀と一期一振がある。その全てを同列に扱う訳にはいかんでしょう。となれば、同じ主に仕えるもののみを"私"の愛する弟として扱うというのが、適当な所ではありませんかな」
「"五虎退吉光"が"一期一振"の弟であるのは確かですが、そこの五虎退は"私"の弟ではない」
「っ…」
五虎退が声にならない嗚咽を噛み殺し、崩れ落ちる。乱は声に出さずに、"だから言ったのに"と呟いた。
「…で、お前らは何をどうするって?」
「とりあえず、主に仕える気のない刀は折ります」
「別にぃ?今からでも主と再契約するって言うならそれはそれで、止めたりはしないけどね。あくまで俺たちは、この本丸に"仲間"じゃない刀がいるのが嫌なだけだし」
「主のため共に戦う仲間を拒む理由はない」
「練度1四振りで俺らが折れるって?」
「おや、気付いておられませんでしたか。今朝、こんのすけに頼んで、本丸と刀剣のパスを切断していただきました。主と直接パスの繋がっている私たちには関係ありませんが、主と縁の繋がっていない方は遠からず顕現が解けるはずです。…そうなったら、練度の差など関係ありませんな?」
「…!」
「そもそも、契約を結ぶ気もないのに主から霊力を奪って顕現を保つというのがふざけている。主が本丸に来てから今日まで、あなた方が顕現を保っていられたのは主の無知と優しさにつけ込んだ搾取だったと言っても過言ではないでしょう。…時間も、正す手段もあった。実行しなかったのはそれ自体が過失です。私は、それが腹立たしい」
一期の顔から笑みが消える。
「私は主の不安を拭い去ってさしあげたくてもできないのに、それができるはずのあなた方は主を支えるどころか搾取するばかりで、与えられたものを返す素振りもない。…何故ですかな?主に何の罪があるというのです。あなた方に、何の権利があるというのです」
乱、他、契約した短刀達のおかげか、碧猫の睡眠状態と精神状態は緩やかに改善してきている。といっても、まだ完全に良くなってはいないのだが。特に日中は、寧ろ気が抜けたのかウトウトすることも多くなってきている。心身ともに疲弊しているために、躯が休息を求めているのだろう。特に、何がどう作用したものか、不動が傍にいるとすぐ彼にもたれかかって眠ってしまう。安心するらしい。不動はとても複雑な顔をしているが。
「…どうなると思います?」
「全滅ってことはないんじゃねぇの?三日月のじーさん抜きにしても」
「大倶利伽羅さんなどは契約は結んでいないなりに主君のことを気にかけてくださっていたようですしね」
一期は皆顕現が解けるような言い方をしていたが、碧猫はこの本丸に来た時点で極端に縁を喪っていた。それ故、それこそ、顔を合わせ一言二言話しただけでも多少なりと縁が形成される状態である。
また、短刀たちがそれとなく、碧猫を主にする気が少しでもあるのなら、一度は顔を合わせ、碧猫に認識されるよう促していた。睡眠不足で目減りしていても、碧猫の霊力は膨大だ。特に霊力を使用する状況になければ、余剰の霊力が薄い縁から流れる程度の余地はある。
なにより、彼らが顕現したのは、碧猫に直接触れられ、彼女が呪術で形成した掛台に安置されていた、という薄い縁から伝わってきた霊力を溜めこんでのことである。同様の事ができないわけがない。
「けど…チビどもとかは、駄目なんじゃないか?」
「彼らが主君の刀になることがなくとも、すぐちゃんと主君に仕えてくれる刀が現れますよ」
粟田口の刀剣の大半は、簡単に顕現される。前田たち自身も、大量の同じ刀が受け取り箱に入っていたくらいだ。まあ、受け取り箱に入っていた被りの刀は既に皆処分されてしまっているのだが。
「縁がなかったのであれば、仕方ありませんからね」
別に彼らは、必ずしも母屋の刀を許せないわけではないのだ。彼らが正しく契約を結び仲間となればわけ隔てなく接するつもりはある。仲間にならなければただの同族だが。
数珠丸、獅子王、太郎、鳴狐、山姥切が碧猫と顔を合わせ契約を結んだのは昼前の事である。
「アオ、俺と遊ぼうぜ。そうだな、将棋とか囲碁とかはどうだ?」
「ん、えーと、将棋は、駒の動き方は一応わかりますけど、定石とかはさっぱりなんです。囲碁も、ルールとかあんまり…」
「…そもそも、道具そのものがあるのか?」
「ないのか?」
「僕の行動範囲には、ないですね」
「そっかー…良い考えだと思ったんだけどな」
「…大将棋なら倉庫で見かけたぞ」
「大将棋…?」
「ん、古いからアオには難しいか。そうだ、五目並べとか弾き将棋とかにしよう。それなら簡単だから覚えられるだろ」
獅子王がその倉庫に案内してくれ、と不動を引きずっていく。
「では、獅子王たちが戻るまでの間、手遊びでもしていましょうか」
「てあそび?」
何か幼児扱いされてるような気がする、と、僅かに釈然としないものを碧猫は感じるが、口にはしなかった。馬鹿にされているというわけではなく、彼らなりに碧猫のことを思っているのだとはわかるからである。釈然としないが。
意図は掴めないが、彼らが碧猫を慈しみ守ろうとしてくれる"やさしい神さま"なのはわかる。若干ピントがずれていても、気遣ってもらえるのは嬉しいのだ。ズレてなければと思うのは詮無きことである。
「一期一振と申します。藤四郎は私の弟たちですな」
「骨喰藤四郎だ」
「俺、加州清光。よろしくね、主」
「碧猫です。えっと、よろしくお願いします」
「ねぇ、主さん、今日は母屋の方でごはん食べようよ」
「えっ…でも…」
「主さんも知ってる刀ばっかりだし、主さんと契約する気のない刀剣は本丸を出たから、心配しなくても大丈夫だよ」
「本丸を出た、んですか?」
「そっちは主さんは気にしなくていいことだよ。だって、嫌々一緒に暮らす方がお互いストレスでしょ?それだったら、他の主さんのところでやり直してもらう方が良いに決まってるよね」
「そう…ですね」
変な話、そう言われて碧猫の胸のつかえのようなものが一つ取れたのも確かだった。
「いなくなった刀がいるのは残念だけど、縁があれば新しく本丸に来てくれるだろうし、他の刀もいい機会だからちゃんと主と契約結び直したいって言ってるからさ。ね、いいでしょ」
加州もそう言って笑う。碧猫は少し考え、頷いた。
「(好き嫌いの話は…しない方がいいんだろうなあ。嫌いなものが出ないといいんだけど)」
実の所、碧猫が母屋の刀剣と食事をともにしないのはそれがメインである。かっこわるいので関係を第一にあげてはいたが。