初鍛刀 ドロップ刀(かぶり)自体はこれ以前にもあった
碧猫は少しずつ日課任務をこなすようになった。本日挑戦するのは鍛刀である。日課任務としては一回と三回になる。鍛錬所は最大解放されている。本日の近侍は愛染である。で。
「三時間、二時間半、三時間」
「どっちも被る確率の方が高いし…手伝い札、使うか?」
短刀レシピでないのは、現在確認されている短刀は皆揃っているからである。
「うーん…まあ、待ってるとすっかり忘れちゃうってこともありそうですし、使いましょうか」
式神に札を渡し、完成したのは大太刀が二振りと槍が一本。
「あっ」
「知り合いですか?」
「おう。すっげぇなぁ、主さん。早く顕現してくれよ」
「わかりました」
蛍丸、次郎太刀、御手杵の三振りが顕現された。
「…ちっちゃいなあ」
「あなたが大きいんですよ」
碧猫はむぅ、と不満そうな顔をした。
「アオ!」
「あれ、そんなに慌ててどうしたんですか?膝丸さん。えっと…確か、あなたは今日は出陣…白刃隊として何処かの戦場に出ていましたよね」
「うむ。それは生憎賽の目が振るわず敵将には辿りつけなかったのだ。だがな、その道中でだな、兄者の依り代を手に入れたのだ!」
「膝丸さんの兄者さんというと…ああ、それで早く顕現していただくために持ってきてくれたんですね」
「うむ、頼む」
膝丸は碧猫に太刀を渡す。碧猫はそれを受け取り、一拍置いて静かに鯉口を切った。
「源氏の重宝、髭切さ。君が今代の主でいいのかい?」
「碧猫と言います。よろしくお願いします」
「うん、よろしくね」
「久しいな、兄者」
「おお、弟の……久しぶりだね、弟よ!」
「兄者!!」
「…膝丸さんは髭切さん相手になると語彙が無くなるんですか?」
「あはは」
「そ、そんなことはないぞ。ただ、色々と胸にこみ上げるものがあって言葉にならなかっただけだ」
「(…僕も、また会えた時にはそうなるのかなあ)」
「…弟丸、僕にこの本丸を案内してくれるかい?」
「案内は構わないが、俺は膝丸だ兄者」
「うん、肘丸」
「兄者!!」
「…あるじさまがししおうのくっつきむしになっているとは、めずらしいこうけいですね…」
「まあ、珍しいことではあるよな。…あ、別に嫌ってことはないからな」
碧猫は獅子王の腰に後ろから抱きついて…いや、しがみついて?いる。ぐずっている、とまでは言わないが。
「ま、主もそういう気分の時はあるよな」
「みたら、すねそうなかたなが、なんふりかいますけどね」
「何だか、主ちゃんは現世に根付いている存在という感じがしないねぇ。兄貴は何か知ってる?」
「…主は、歴史改変によってそれまでの縁を全て喪ってしまっているようです」
「縁を?」
「少なくとも、主が現在縁を繋いでいる存在が、この本丸の刀剣以外にいないのは確かです」
「ふぅん…なんだかちぐはぐな感じがするのも、それでなのかねぇ」
「ちぐはぐ、ですか?」
「兄貴にはピンとこないかね。主ちゃんくらいの年になると、女の子は色気づいてくるもんさ。けど、あの子は化粧っけも見目を気にする様子も全然ないし、振る舞いも幼子のようだろう。それが悪いとは言わないけれど…心配ないとは言えないねえ」
「何故獅子王なのですか主…」
「…こういうのって普通の本丸だと長谷部さんのポジションだよね」
「一兄は…いわゆる亜種だろうからな」
「…だよねぇ」
この本丸の(というより、"碧猫の"と称した方が良いかもしれない)一期一振は、碧猫に頼られ、碧猫を甘やかすことを至上の喜びとする、考えようによっては変態である。そんな性格になってしまったのはひとえに環境の所為と言えるだろうが。
「それにしても、実際なんで獅子王なんだろ?そりゃ、まごうことなき主さんの刀だろうけど」
自嘲混じりに鯰尾がこぼす。骨喰は肩をすくめた。
「そもそも何故少し憂鬱になっているのかがわからない。…誰かが変な事をした、というわけではないとは思うが」
「確かにそれはねー」
基本的に、なんだかんだ言ってこの本丸の刀剣は碧猫に甘い。その理由は多少個刃差があるが、碧猫が我儘や道理に合わないことを言う事が少ない事もあり、碧猫の望みを否定することは少ない。精々、偏食に苦言を呈すものがいるくらいである。
「…もしかしたら、憂鬱の理由と、獅子王を選んだ理由は繋がっているのかもな」
具体的に何なのかは骨喰にはわからないのだが。
獅子王はコミュ力高そうだしぼっちにはならなさそうだけど、こいつとは絶対仲良いって繋がりがない