「よっ、俺みたいなのが突然来て驚いた、か…」
「何故あなたが此処にいるのです?」
「三日でか?いや、巡り合わせだから、例え一時でも縁があれば来るものではあるが、だからって、だからってっ…」
「タッチ差というやつですな」
一期が笑う。碧猫は首を傾げている。先程鍛刀されたばかりの鶴丸国永と鶯丸がひょいと顔を出す。
「主、
「
「鶯丸さん、それは客間に通してから持ってくるものです」
「そうか?まあ、細かいことは気にするな」
「鶴さんが撃沈しちゃったから僕の方から説明させてもらおうと思うんだけど…聞いてくれるかい?」
光忠が苦笑する。
要するに、引き取られた先でゴネて、再契約を拒否し、あの子がいいと我儘を言った結果、そこまで執着してるならそいつに任せるしかないんじゃね、って事になったということらしい。しかも、先程までは鶴丸国永は所属していなかったし。
「そんなに執着されるなんて、君は一体
「もらってくれと言われて断固拒否した以外に特に何をした覚えもありませんが」
「うん…多分、それが原因なんだよね」
「えっ」
「この鶴さんは二つ名持ちなんだ」
「二つ名…?」
「"そういうもの"がいる事自体機密レベルだから、君は知らないかな。簡単に言ってしまうとね、主に降ろした審神者の妄執から、特殊な性質を持ってしまった刀剣のことを言うんだ。それも、大抵は人を狂わせるようなものが多い。彼の二つ名は"誘惑"。人に彼を欲させ、惑わせる魅了の魔力みたいなものを持ってる」
「…ああ、僕がそれに引っかからなかったことが興味を引くことになったと」
「君に向けて魅了を使おうとされた時には肝が冷えたよ。…それでも塩対応だったからには余程の抵抗力を持ってるんだろうけど…」
「魅了封じの枷が付けられているからな。それで耐性が高めで影響を受けないのかとも思ったが、俺の目を見ても全く反応はないし、心を揺らした様子もなかっただろう。あんな、路傍の石以下の反応をされたのは初めてだった!」
「枷のない時は老若男女、いずれの人間も存在を認識したものはしなだれかかってきた俺にだ、驚きだろう」
「…変態さんですか?」
「不愉快だったなら何故自害しなかったのか理解に苦しむな」
「命は大切にするものだぞ、鶴丸」
「主には絶対近づけたくない御方ですな」
刀剣たちも塩対応だった。まあ、ある意味一期は通常運転だが。
少し考え、碧猫は誘惑の鶴丸の耳元で囁く。
「俺がお前を要らないと言ったのは、俺が必要としているのは、俺と共に俺の敵と戦ってくれるものだけだからだ。俺の敵を屠るために役に立ってくれない刀ならいらない。…お前にそういうつもりはないんだろう?」
「俺は俺の刀剣に俺の敵を屠る以外を求めないし期待もしていない。斬れない刀ならいらないんだよ。それで、お前は僕に何を望み、何をするつもりだって?」
誘惑の鶴丸は腰砕けのようになって、頬を染め、潤んだ目で碧猫を見上げる。
「主に、一生ついていく」
「「「?!」」」
「そんな話はしてないんだけど」
「主の目に映してもらえるのなら、幾らでも敵を屠ろう。誉を奪い首級を上げよう。君が俺を刀として、戦の駒として必要としてくれたら、そんな嬉しいことはない。主に刀として武器として愛されることが俺の望みだ」
「待て待て待て、主の鶴丸国永は俺だ。この本丸の鶴丸国永は一振いれば十分だ。そうだろう、主」
「まあ、同一の刀は同一の部隊に配置できませんし、特に同一の刀を複数運用する必要性はありませんね」
特に刀が不足しているということもない。そもそも軍は複数運用は推奨していない。禁止まではしていないが。
「そもそも私は、主を裏切りかねない刀が主に近付くことそのものに反対ですが」
「・・・」
鶯丸は難しい顔をしている。
「こちらとしては、この本丸で鶴さんを引き取ってもらえる方が助かるんだけどね…」
とりあえず一週間から二カ月程度様子を見ようということになった。それで合わなければいっそ刀解してくれ、というのが誘惑の鶴丸の弁だが、刀解は困ると光忠に返された。何やらしがらみがあるらしい。二つ名持ちは通常の分霊より本霊に近い可能性があるとかなんとか。健やかに育っている二つ名持ちは滅多にいないのがアレだが。
とりあえず、誘惑の鶴丸の事は区別も兼ねて"夕鶴"と呼ぶことになった。
いうて"誘惑"に負けたらそれはいらないものになるので相当面倒臭いやつだぜこいつ 実は刀剣同士でもその気になれば効く 刀剣の元々の性質からかけ離れた二つ名にはならない