誘惑はどちらかというと性欲肉欲方面だから…ってのもある ある意味呪いがえしくらってるに近い状態
鶴丸と夕鶴はいまいち仲が良くないが、それ以外はさして大きな問題もなく、夕鶴は本丸に溶け込んだ。いや、しいて言えば、鶴丸以外にもなんとなく夕鶴を避けるものもいるのだが。主に大太刀。逆に、三日月は夕鶴のお目付け役を名乗り出てこなしている。
「っ、はぁ、あるじっ…」
空き室で一人、夕鶴は自慰に耽っていた。
碧猫に会うまで、彼は自らの劣情を持て余した事などなかった。いつも、劣情を募らせるのは相手の方で、彼はそれを受け止めるばかりだったのである。
それが今は逆に、彼が
夕鶴の碧猫への気持ちは、恋などという甘く可愛らしいものではない。性欲色欲だけということも勿論ないが、そうした気持ちを強く持っていることも確かだ。夕鶴は碧猫を強く欲している。彼女に求められ、滅茶苦茶にされたい。けれど、これまでの主のように夕鶴と色欲に溺れるような事があれば失望するであろうという事も判っていた。
「あぁ、あるじっ…」
「夕鶴、妖横町の見世にいくか?」
「………いや。俺の"誘惑"で大変な事になるだろう。何しろ、人にしか効かないわけじゃないからな」
ただし、碧猫の霊力に満たされた碧猫の領域である本丸では打ち消されてその効果が現れることはない。今では本丸内でなら枷を外しても問題ないと見做されているくらいだ。
「自分の
「・・・」
というか、そもそも、その提案は彼が性欲を持て余しているという認識があってこそのものである。ざっくり言うと、ばれている。
「…なあ三日月、君は何を見た、或いは、聞いた?」
「主をあのような目で見ておいて何を言っている。まかり間違って主に手出しなどすれば一期一振に斬り落とされるぞ」
「…初期刀ではなく一期一振なのか」
「あやつは、主に害があるとなれば同族でも斬る」
「…そりゃあ恐ろしいな」
結局見世にいって遊女を抱いた。しかし、こんなものはその場しのぎでしかないと夕鶴にはわかっている。彼は女を抱きたいわけではない。寧ろ主に抱かれたいのである。主に乱され、その腕の中で果てたいのである。望んでも叶わぬことと知ってはいるが。
「夕鶴さん、何のつもりですか」
「何のつもりも何も、見ての通りだ。…俺は君に焦がれているんだよ、主」
「…僕の事など碌に知りもしないくせに、何の冗談ですか。あなたは、別に僕でなくてもいいのでしょう?望む反応さえ得られれば」
「だとしても、俺の望む反応を返してくれる相手を俺は君以外に知らない。俺を全く欲しがらない審神者は、君しか知らない」
眉をしかめ、碧猫は言う。
「あのねえ、一応言っておくけれど、僕だって自分を好いてくれるものには相応の好意を返そうという気持ちはあるし、嫌な奴は嫌いになるし関わりたくない。不仲の関係を維持するのは色々な意味でしんどいしね。…だからさあ、わざと嫌われるような、嫌がらせのようなことをしたり、人の気持ちを試すようなことをするのはやめてくれないかい。鬱陶しい」
「そういう、蔑んだ目で見られるのが一番興奮する」
「変態か」
「勿論、君に蛇蝎の如く嫌われたいとは思っていないとも。ただ…そうだな、俺は君に焦がれていたいんだ。君の物になりたい、君に愛されたい、と」
「けれど愛してくれなくてもいい。俺の望みは手に入らないものだと知っている。万が一にでも手に入ってしまったら、それはもう望むものではない」
「…不毛ですね」
「ああ、不毛なのはわかっている。だけど、俺は、一方的に主に焦がれ、主を愛していたいんだ」
「相当面倒くさいですよ、夕鶴さん。変に愛されることを願うものより余程面倒くさい。マゾか何かですか」
「否定はしない」
「否定してください」
「ところで君は誰かとまぐわった経験はあるかい」
「まぐ…?何ですか?」
「いや、一応聞いただけだ。気配からしてわかることではあるが、一応な」
「あなたに僕の何がわかるというんですか」
「君は童貞処女だろう」
ばちんといい音がした。碧猫が夕鶴の頬に張り手をした音だ。まあ、デリカシーのない発言だったのでその反応も当然なんだろう。
「いや、真面目な話、神は生娘を好むんだぞ。刀剣にはそこまで関わりのない話だが、仕えるものは純潔を望まれるものだ」
「それが、どうかしましたか」