帰る場所   作:ペンギン隊長

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夕鶴の話の一応の決着


オッドアイドキングダム

 

 

「それじゃあ、彼は正式にこの本丸の所属になる、ということでいいのかな」

「はい。…まあ、なんとかやっていけそうではあるので」

碧猫はそう言って苦笑のような表情を浮かべた。夕鶴も嬉しそうに、あるいはほっとしたように、微笑を浮かべている。ちなみに、三日月と数珠丸の天下五剣コンビが碧猫を挟んで座っている。意図してるものかそうではないかは不明だが、威圧感がある。

「じゃあ、手続き上必要な書類を書いてもらっていいかな?刀剣移籍手続きで届け出てもらわないといけないのがあってね…」

「はい。…あ、アナログ書類ですか?」

「うん、デジタル書面じゃないんだ」

 

 

 

指示に従って書類の記入が行われた。

「…はい。それじゃ、この書類は受理されたら、鶴さんは正式にこの本丸の刀剣ということになるので…数日中には受領届けがくると思うので、確認してね」

「わかりました」

「はい、おつかれさまでした」

それまで静かにしていた三日月が口を開く。

「正式な移籍手続きというのは、面倒なのだな」

「基本的には、本丸の運営上の問題とかがない限り移籍は認められないからね。簡単に行える選択じゃないから、手続きも煩雑になるみたい」

「そういえば、俺は正式移籍はこれが初めてだな。これまでは仮所属と違法譲渡ばかりだったからな」

「あれ、鶴さん、歴代の譲渡先でのことは覚えてないって証言してなかったっけ」

「流石に、違法で行った本丸と正規ルートで行った本丸の区別はつくが、いつどこで何があったかは曖昧でな…あまり興味がなかったというか」

「物は言いよう、というやつですね」

「別に嘘をついてるわけじゃないぜ」

「(でも面倒くさがってはいるんだろうな…)」

「でも、鶴さんの行脚したブラックが全部崩壊してるわけじゃないだろう?摘発のためにも証言してくれると助かるんだけどな」

「そもそも、非正規に譲渡された相手の号は聞いてない方が多いんだよなぁ」

 

 

 

 

 

「どうやら鶴さんはこの本丸に馴染めそうだね。良かった」

政府所属の燭台切光忠はそう言ってにこりと微笑した。碧猫本丸の光忠は曖昧な笑みを浮かべる。

「彼なら何処でもそれなりにやっていけそうに見えるけど、違うのかい?」

「うーん…どういったら伝わるかなぁ…あの鶴さん、碧猫ちゃんに出会う前は、鶴丸国永らしくない…見た目のイメージそのままな刀だったんだよね」

「見た目のイメージそのままって言うと…儚い、薄幸そうな感じ?」

「うん。厭世的、っていうのかな。僕の知ってる…昔所属してた本丸の鶴さんとは全然違うから、僕も驚いちゃって…今思うと、刃生に絶望してたのかな、以前の彼は。仕方ないといえば仕方ないだろうけど…」

この本丸では夕鶴と呼ばれているあの鶴丸は、いくつもの本丸を渡ってきた刀である。それは本刃の望むところではなかったし、渡ってきた本丸の大半はいわゆるブラック本丸と呼ばれるものだった。およそ、健やかに育てる環境ではない。

「…想像がつかないなぁ。僕は、この本丸の二振りしか知らないから」

前任は鶴丸を顕現させなかったし、対刃演習の参加経験もほぼない。演練では姿はわかっても人となりはわからない。刀としての面識はあった気もするが、はて、どのような刀だったか。少なくとも、儚い印象を持った覚えはない。

「まあとにかく、碧猫ちゃんに会えたから、あの鶴さんはああして前向きに動こうと思ってくれたみたいなんだ」

「…アオちゃんは良い子だからね」

「良い子というか、多分あの尋常じゃない意志の強さに希望を見出しちゃったんだろうね…碧猫ちゃんにはちょっと災難だったかもしれないけど」

「…え?」

「善良な審神者なら他にも面識はあるはずだよ。元々彼を引き取ることになってた人とかね。でも、善良なら鶴さんの誘惑を退けられるってわけじゃないから」

まあ、彼が自分で能力を制御できれば何も問題はなかったのだが。

「三日月さんもそうだけど、いつでも揺らがず微笑んでいられるのは一つの強さだろうし…まあとにかく、鶴さんが此処に落ち着けそうで僕もほっとしたよ。やっぱり、安心していられる場所が一つでもある方がいいもんね」

「え、うん」

「正直、三日月さんの件もあったり、不安点がなかったわけじゃないけど、碧猫ちゃんはいい子だし。君たちもまだ大丈夫な方だったみたいだし」

「あはは…」

 

 

 

「政府の方の燭台切、か?」

「どうも、お邪魔してるよ。…といっても、そろそろ帰るんだけど」

「そうか」

燭台切をじっくり眺めて、長谷部が言う。

「…練度上限か」

「そりゃあ、一応、これでも元はベテランの主の元に居たからね。今も鍛錬は怠っていないし、刀がさび付いているつもりはないよ」

「まあ、そうだろうな」

「あ、うん」

燭台切は照れたような気まずいような笑みを浮かべる。長谷部は僅かに眉根を寄せた。

 

 

 

 

 


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