「おはようございます」
「おはよう、光忠」
「おはよう、ございます…?」
光忠は目を瞬かせた。三日月はゆったりと微笑する。
「…えっと、誰、かな…?新しく来た審神者の、刀?」
「小狐丸じゃ。そなたの言うとおり、ぬしさまの初期刀になる」
「小狐丸さんだね。僕は燭台切光忠。…厨にいるってことは、当然ご飯を作りに来たんだよね?」
「うむ。ぬしさまは食事に執着や興味がないようでな。管狐めに言われねば食事を抜いてしまいそうであったので、私がぬしさまの食事を用意出来たらと思い、兄上に手伝ってもらおうとな」
顕現したばかりのものが一振りで厨に立つのは勧められんと管狐が言うから、一応知識としては私もそれなりにやり口はわかっているのだけれど、経験のあるものの助けを借りるのだ、と小狐丸は言う。
「三日月さんって、料理できるんですね」
「これでも顕現して長いからな。少し腹を満たす程度のものなら自分で作れるようになったよ。…まあ、根気よく教えてくれるものあってこそだな。ははは」
「ぬしさまに料理の心得はあるのじゃから、私も基礎的な知識はあるのじゃぞ。ただ、力加減味加減等は実際作ってみなければわからんからな」
そういう小狐丸の前には、綺麗な韮炒り卵がある。料理の練習として作ったものなのだろう。
「それが小狐丸さんの作ったものかい?とても初めての
「兄上のやるのを横で見て、真似をしたからな。手本があればそう失敗せんじゃろ」
「…小狐丸さんは器用なんだね」
三日月は若干情けない顔をしているのはそれでか、と光忠は思う。恐らくあちらは、料理を覚えるのに苦労した(或いはさせた)のだろう。光忠も顕現してすぐからそれなりに上手く料理のできた刀ではあるが、手本を真似するというのはまた別の話かもしれない。
「私はぬしさまの初期刀じゃからな」
小狐丸はえへんと胸を張る。
大なり小なり、刀剣男士は己を喚んだ審神者の影響を受けるものだが、初期刀はそれが特に顕著だという。場合によっては、初鍛刀辺りもそれに含まれるが。
小狐丸は三日月と同じく三条宗近の作とするなら1000年の歴史を持つ、老練の付喪神であるはずだが、顕現したばかりということを勘定に入れても随分無邪気と言うか、子供っぽい。おそらく、主の気質が影響しているのだろうが。
「厨のことだったら、僕と歌仙君も詳しいから、聞いてくれていいよ。…といっても、そろそろ朝餉の用意を始める時間だけれどね」
「うむ…その内、いくらか尋ねるかもしれぬな。よろしく頼む」
小狐丸は少し難しい顔をする。
「ぬしさまはどうやら偏食の気があるようじゃからな。
僕らと一緒に取ろうという気はないの、と聞く事が光忠にはできなかった。他の刀剣…特に、打刀から短刀あたりの気弱な刀の中には人を恐れているものもいる。彼らには、少し時間が必要だ。
「偏食か…好き嫌いするのかい?」
「生のとまとは見るのも臭いを嗅ぐのも嫌なぐらい嫌いじゃと仰っていたな」
「
「私は実物を見た事がないので知らぬ」
「トマトだったら、畑で育てたことがあるよ。…といっても、それだけはっきり言われてるなら、出さない方が無難かな。生はダメでも、火を通したりしたら大丈夫…って可能性もあるけど」
「まあ、一度苦手意識を持つと、なかなか克服は難しいともいうしな」
「ぬしさま、お味はどうでしょうか」
「んー…おいしい、んじゃないかな。僕は玉子は甘めの方が好きだけど」
「では、次はそういたします」
残さないからといって、彼女がそれを気に入ってくれたとは限らない。彼女は礼儀として、どうしても受け付けないというのでない限り、口を付けた皿は空にしなければならないと考えているのだ。寧ろ、残されたら相当不味いということである。見るからに地雷であればそもそも口を付けてももらえないだろうが。
「ぬしさまは、好きな料理などはありますか?」
「え?んー…改めてそう聞かれるとなあ…そうだなあ、魚も肉も、脂少なめのやつを煮たり焼いたりしたのは好きだな。後、とろろとかうどんとかあんまり辛くないカレーとかから揚げとか」
「成程…」
「まあ、大体ご飯と一緒に美味しく食べられればそれでいいかな」
「昨今ではぱんというものもあるそうですが」
「パンはすぐお腹すいちゃうからね。小腹を満たす程度ならいいんだけど」
それにご飯の方が好きだし。パンはどちらかというとおやつかな。
「ぬしさまはあまり空腹を覚えない様子でしたが」
「んー、なんていうか、それは無視しようと思えば無視できちゃって、放っとくと感覚が鈍る、て感じかな」
やったらわかると思うよ。おすすめはしないけど。