帰る場所   作:ペンギン隊長

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ドロップ刀は顕現した主の影響を受ける
碧猫が引き継ぎ第一弾なので、他の審神者を拒んだ実績はない 


アオの世界5

 

 

 

小狐丸が彼らに伝令してきたところによると、審神者の一存で処理できないものがあるので、誰か判断のできるものを寄越してほしいらしい。

「具体的には何なんだ?」

「"受け取り箱"じゃ。随分溜まっておったので、とりあえず分類わけをしておくと言っておったな」

「…未顕現の刀、か」

三日月はその場の刀たちに目をやる。何振りかは痛ましそうに表情を歪めていた。

「…審神者はどうしたいって?」

「そこまでは聞いておらぬな。だが…そうじゃな、呆れて、戸惑っておられるように見えたな」

それがどういう意味なのか、彼らには判断しかねた。

「決めるのに時間がかかるのなら私は先にぬしさまの元に戻るぞ。ぬしさまにあまり力仕事をさせたくない」

 

 

 

離れの一室が一時的に大広間ほどに拡張されており、刀剣や資材なんかが並べられている。

「ぬしさま、ただいま戻りました」

「おかえり、小狐丸」

碧猫は簡素な袴姿で、頭に狐面をひっかけている。

「何故面を?昨日は付けていなかっただろう」

「緊張しないで済むおまじないです」

三日月は目を瞬かせる。和泉守と同田貫が部屋の中を見回してげんなりした顔をした。大倶利伽羅は目を眇めただけ、光忠は苦笑している。彼らを改めて見て、碧猫は目を丸くした。

「…えっと、随分大所帯ですね…?」

「小狐丸を含めても一部隊分だ。そう大所帯ということもあるまい」

「そう…ですね」

「思ったより多くてびっくりしたのかな。僕は燭台切光忠。光忠でいいよ。君が新しい審神者なんだよね」

「あ、はい。碧猫です。はじめまして、光忠さん」

「碧猫ちゃんだね」

「…つか、刀剣だけじゃねぇんだな」

「流石に、重要書類は放置されていませんでしたけど、それ程でもない連絡便なんかは放置されているようでしたから…」

僕では、同じものを一纏めにして仕分けるくらいしかできなくて、と碧猫は言う。確かに、同一の刀、道具などが一纏めにして置かれている。

「刀見て同じだってわかるのは小狐丸くらいですし」

「……まさか、あったのか?小狐丸」

「?はい。政府からの支給品を示すラベルがついた状態で」

そっちです、と示された所に、小狐丸と、ついでに三日月宗近が置かれている。

「あの男…!」

「そういえば、先だって俺と小狐丸を条件を満たした審神者の元へ配布する、ということをしておったな。詳しくは知らんが」

「マジかよじーさん」

彼らの反応に碧猫は首を傾げた。

「――主さま、手続き整いましてございます。…おや、やはり荒れましたか」

「うん…」

「やはりこの本丸に顕現していない刀はともかく、被りは何振りか小狐丸に連結してしまって後は刀解してしまえばよろしいのでは」

「でも、これは僕に所有権があるわけじゃないし」

僕のものじゃないのに勝手に処分したらダメでしょ。

「少なくとも、今この本丸の(かんりしゃ)は主さまなのですが…」

 

 

 

全ての負傷刀剣を手入れしたため、本丸の方で所属刀剣を参照できる状態になっている。現在顕現していない刀剣は、ひとまず、他の刀剣たちが落ち着くまでひとまず顕現せず安置しておくことになった。被りはこんのすけの提案通りである。ただし、例外もある。小狐丸と三日月宗近は政府に送り返すことになったし、何故受け取り箱に入っていたのかわからない刀が他にもあったのである。扱いはドロップとなっているようだが。

「…数珠丸恒次と信濃藤四郎、不動行光、一期一振ですね」

「何か特別なの?」

確かに一振りずつしかないけれど。

「信濃藤四郎と、ついでにあちらの後藤藤四郎、博多藤四郎は前任が横着してそのまま忘れたという可能性もありますが…前任は短刀に興味がなかったもので」

こんのすけは数珠丸恒次と一期一振を調べる。

「…ふむ、少なくとも余所で一度顕現された刀ではないようですね」

「…?」

「こんのすけとしては、主さまの守りを担う刀は増やしていただきたいところですが…練度が低ければ役に立つか微妙なところですからね」

刀装を多く持てる分有利で、基礎能力が高めとはいえ…。

「暫く出陣もできないしね」

「連結で上がる能力にも限度がありますからね」

「私一振りではぬしさまの守護が不十分と?」

「練度1の太刀が何を言っているのです。練度の低いものしかいないのなら、数を揃える必要があるのも当然でしょう」

短刀なら室内夜戦での有利という利点もありますが。

「兄弟刀が別の人間に顕現された場合の反応は予想し難いものではあるが…この本丸の刀は確かにそやつと契約を結んではおらぬが、何故そこまで守りに気を使う必要があるのだ?」

三日月を一瞥してこんのすけは言う。

「現在の歴史で、主さまは存在しないはずの人間だからです。…といえば、わかりますか?」

「…!」

動揺したように天を仰いだ後、三日月は少し震える声で言う。

「そのような人間が、何故此処にいる?」

「状況的に、主さまの存在に気付かれれば、今度は直接狙われる可能性がある、と上が判断しました。審神者として優秀な資質を持っている以上、見過ごすのは損失ですので、現在フリーの刀剣男士の中で人に友好的であり実力の高いあなたがいるこの本丸が適切であろう、と」

改変の被害者であれば、修正主義者側に傾くこともまずないであろう、というのもあるかもしれませんね。

「・・・」

三日月は眉を眇めて押し黙った。碧猫はその反応にきょとんとしている。

「…何怖い顔してんだじーさん」

「…和泉守、そなたは昨夜、審神者が夢に魘されて庭をふらついていたのを保護したのだと、言っておったな」

「ん、おう」

「…悪感情がないのであれば、支えてやってくれんか」

「は?何であんたが俺にそんな事頼むんだよ。頼みそのものもそうだが、何で俺に頼むんだ。本人目の前だぞ」

「俺は頭が堅過ぎていかん。…随分酷い事をした。顔向けできん」

武力の意味での守りは担うが、それ以外は務まらん。

「よくわからんがじーさんがすげー動揺してるのは判った。つうか、俺は短刀だと思ったから声をかけただけで…いや、審神者と気付いてても不審者として声はかけたかもしれねぇが」

「…"わるい夢"とやらは実体験だったのか」

大倶利伽羅が口を突っ込む。それに碧猫はびくりと肩を震わせた。それで、和泉守も遅まきながら理解した。

「………わりぃ」

「どういうことだい、伽羅ちゃん」

「どうもこうも、そのまま、それだけの話だ」

「主さま、夢見が悪かったとは、そういう意味だったのですか?…まだ生傷とそう変わらないということではありませんか」

「…だって、そりゃあ、一ヶ月もかからず吹っ切れる程図太くないよ、僕だって」

碧猫の言葉に三日月は完全にうなだれてしまった。

「…一月?何が?」

「・・・」

「…そいつが、突然家族とか家とかそれまで当然のように存在してたはずのもんをなくしてから、ってことだろ」

「!」

大倶利伽羅の代わりに同田貫が直接的に指摘する。光忠は思わず碧猫を凝視した。如何見ても、戦いの心得など欠片もない、ただの一般人である。

「…僕は、"可哀想"なんかじゃない」

碧猫は地を這うような声で言う。

「同情されるに値する、気の毒な状況ではあるんじゃねーの」

同田貫が投げやりに言う。

「だとして、俺の事情を少し知っただけで、勝手にあれこれ考えて態度を変えられても不快なだけだ。…そんな安っぽい同情、くそくらえだ」

その発言に光忠はむっとして何か言おうとして、碧猫の鋭い目つきに怯んだ。"敵愾心を持たれている"。

「人間が信じられない?そんな簡単に相手に共感したつもり(・・・)になれる奴が人間不信だなんて、ちゃんちゃらおかしいね。一番信じられないのは、利害も責任も価値観も一致しないのに力になる、なんて言ってくるやつだろ。いや、半端に責任だけあるやつが一番信用ならない。あいつらは勝手にあっちの都合で最善を決めつけて押しつける癖に、それで俺に実害があっても助けてなんてくれないんだ。俺が悪いって、何が悪いか具体的に教えてもくれないくせに!」

小狐丸が碧猫を抱き上げ、落ち着かせるように背をさする。

「ぬしさま、小狐丸はぬしさまの初期刀で、味方です。ぬしさま一人で何もかもと戦う必要はありません」

「しらない、貴様なんて、おれの知る世界にはいなかった。のこってるのはくーちゃんだけだ。だれも、だれも、だも、だれも、おれのしってるやつは、おれをしってるやつは、だれもっ…だれも、このせかいには、いないって、いないって」

ひっく、ひっく、と碧猫は目にいっぱい涙を溜めてしゃくりあげる。

「私がぬしさまに出会ったのは、改変の後ということになりますから、仕方ありません。…改変がなければ、こうしてぬしさまの初期刀となることもなかった可能性もありましょう」

「じゅじゅつとか、かたなをたたかわせるとか、さにわとか、かみさまとか、ひげんじつてきだ。おれのあたまがくるったといわれたほうが、まだなっとくできる」

「ぬしさまは気狂いではございません。全て現実です」

「だって」

碧猫の瞳から涙が零れる。

「証拠になるものがなにもないんだ。おれの記憶以外に妹弟たちがたしかに存在した根拠になるものがないんだ。おれがうまれている以上、両親はなんらかのかたちで存在してたはずだっていえるけど、妹弟たちは、おれの、とうていしんようできないきおくいがいになくて、どこにもたしかなしょうこはなくって、おれのきおくもかんたんにかわってしまってもおかしくなくって」

「…それは、小狐めには何とも言えませぬ」

「そもそもきさまがいちばんしんようならないんだ。おれのこともほとんどしらないくせに、そんなふうに、おれだからって、刀剣は顕現させたものにほぼ無条件で懐くとでもいわれたほうがまだ納得できる。どうせぼくがしんようしたらうらぎるつもりなんだろう。他に選択肢ができたらそっちにいくんだろう。本当はおれのことなんてなんともおもっていないんだろう。きさまのことなんて、しんじてたまるか」

ぽかぽかと猫パンチしながら泣きじゃくる碧猫に小狐丸は少し困った顔をしつつも根気よく宥める。

「事実なのですがねぇ」

「大体あなたがたの自業自得ですよ」

こんのすけがふんと鼻を鳴らす。

「どう見ても非力な主さまが心細くも誠実に歩み寄ろうとしたというのに、その気になれば腕力でどうにでも出来てしまう刀剣男士が、怖いだのなんだの…契約を結び直してすらいない非力な女性が、どうしたらあなた方の脅威になるというのでしょうね」

こんのすけの棘のある言葉に数振りうっとなっている。三日月のダメージが特に深刻だ。碧猫は眼鏡を取って袂にしまい、袖で目元をぬぐう。

「…いいよ、どうせみかたがいるなんておもってない。いつもどおりだ。かぞくじゃないひとはぼくのことなんてみてない。ふかかちだけだ。わかってもらえるともおもってない。ぼくもわからないし。つごうよくはたらけばそれでまんぞくなんだろ。…なら、おれのことはほうっておけよ。本当はどうでもいいくせに自己満足で同情のまねごとをされてもうっとうしいんだよ」

碧猫は小狐丸に降ろせ、と示すが、小狐丸は静かに首を振る。

「今のぬしさまを一人にはできません。私では力不足かもしれませんが、傍にいることくらいはできます」

「そばにいてほしいなんていってない」

「小狐はあーちゃんが大好きですよ」

碧猫は無言で小狐丸の肩口に顔をうずめた。

「…そんなことじゃ、ごまかされないからな」

「元々信頼関係は一朝一夕に作られるものではないのは承知しています。…失われるのは一瞬でしょうが」

小狐丸は碧猫の頭を撫でる。

 

 

 

「主さまの事情は他言無用ですよ」

「・・・」

「主さまが何故あなた方に何も言っていなかったと思うのです?…言ってはなんですが、ただ協力を得たいのであれば、あなた方が今そう(・・)であるように話してしまった方が早かったでしょう。同情と引き換えですが」

可哀想な子供を見捨てるなど、神としてとうていできる事ではないでしょう。

「けれど、その後あなた方は主さまを主として、采配を振るう相手として、認められるようになると思いますか。あの方を共に闘う仲間と扱えますか。――きっと、できないでしょう。守るべき、か弱い、お飾りの大将にするのが関の山です。それをよしとする方ではないのですよ」

 

 

 

未顕現の刀剣を安置する場所は、離れと母屋の間に新たに一つ社を作った。刀掛において並べられている。一度顕現された刀というわけではないので、そこに意識はないだろう。ただのものだ。

まあ、霊力が溜まってしまえば別だろうが。

 

 

 

社に安置された刀剣の話はすぐ母屋の刀剣に伝わった。それで、そこにいる刀に会いたい、と思うものが出るのも当然の流れだった。ただ、それで碧猫に顕現してほしい、と頼みに行くことは和泉守、光忠、三日月が止めたが。

彼女に真摯に向き合う覚悟もないくせに、そんなことを頼もうというのは、虫が良すぎる。

「…一兄に会いたいです」

「…。…言ってはなんだがな」

三日月は物憂げな瞳をして言う。

「刀剣男士は、己を顕現した主の影響を受ける。あの子との間にわだかまりのある状態で顕現すれば、一期一振はそなたらと主の間で板挟みになって苦しむのではないか」

いや。実の所、板挟みになるくらいならマシというくらいかもしれない。当然ながら、まっとうな主を持つ刀剣は主を最優先するに決まっている。本霊が審神者の元に分霊を送るのは、今を生きる人の子のためである。他の刀剣のためではない。本丸での再会はあくまで副産物である。であれば、彼らが、主と敵対するもの、苦しめるものと見做されればどうなることか。身内での争いほどやりきれないものはない。

「一兄に会えるなら、僕は頑張れます」

「それでは駄目だ」

「駄目?」

「あの子は、他者から向けられる感情に敏感だ。そなたらが表を取り繕っても本心で疎ましく思っていればそれを感じ取って心を閉ざすだろう。それでも、頼みは聞いてくれるかもしれんが、だがな…あの子は呪術師としては素人だが、霊力は豊かだ。無意識に行使できる程度にはな。無意識なのだから当然、"己は嫌われていると感じている"ことを顕現する刀に隠すという事は発想からしてない」

口に出すという事はなくとも。

 

 

 

 

 

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