色々有耶無耶になったりタイミング逃したりで渡せていなかったが、と小狐丸を介して届けられたのは、刀剣男士一人ずつの専用の携帯端末だった。いわゆる多機能おサイフケータイである。携帯に便利なようにバングルに形態変化する機能が付いている。
ちなみに、都合上、三日月のみ仲間外れになる。これは三日月が前の本丸にいた時の出納管理端末をそのまま使っているからである。…というより、本来は前任から刀剣たちに渡されていなければならなかったものだ。これは碧猫の魔改造が施されているが。
「…いや、こんなもんいきなりぽんと渡されても困るぞ」
「それを私に言われても困るな。私はただ届けただけじゃからな。…ああ、そうじゃ兄上、私の端末と兄上の端末のアドレスを交換したいのじゃが」
「…残念ながら、俺はこの手の物には疎くてなあ…」
「では、この件に関しては私が兄上に教える側というわけじゃな」
にぱっと小狐丸が無邪気に笑う。
「…などといいつつ、僕がまとめて面倒を見るのか」
「兄上の端末はぬしさまの用意されたものと全然違ったのです。別物と言ってもよいものでした」
「…まあ、魔改造レベルだしなぁ」
「うむ?そなたが作ったもの、ということか?」
「…なんというか、凝り性なもので」
「拘ってものづくりをするのは良いことだ」
「…で、改造しちゃっていいんです?外見とか残したいものがあったら配慮しますけど」
「思い入れがないわけではないが、強く執着する程でもない。そなたに都合が良い方で構わぬぞ」
「何でも自由って言われるより、一定の制約がある方が楽な場合もあるんですけどね」
などと言いつつ、ちょちょいのちょいでコンバートする。端末形式を整え、アプリを追加し、コンパニオンプログラムを仕込む。
「とりあえずこんな感じですかね」
「まるで魔法のようだなあ」
「実際呪術も使ってますからね。アプリは既製品ですし」
「ふむ…」
コンパニオンプログラムは自作だが。
碧猫は小狐丸にもたれてうたた寝を始めてしまった。
「…なんだかんだ、やはり信頼されておるのだな」
「好き嫌いと信用はまた別の話だとぬしさまは仰っていたがな。ぬしさまは人を信じられぬだけで根本的な心根そのものは素直でいらっしゃる」
好意には好意を、疑念には疑念を、敵意には敵意を返すし、やさしくしてくれた人にはやさしくし返す。何も特別なことなどない。
「…すまなかったなあ」
本人に言ったらキレられることがわかっているので言えない台詞である。特定の分野でしか表に出ないが、現在の彼女の沸点は相当低い。精神的な余裕がないと言い換えてもいい。そもそも、彼女の人間不信はいささか偏執的と言えなくもないのだが。
「現世で何があったかはわからんが、少しでも心の中の澱を取り除いてやれたら良いのだがなぁ」
「まず無理じゃろうなぁ。ぬしさまは何事も、それはそれ、これはこれ、と分けて考えておられる節がある。刀剣男士に関する誤解なら我らにはらす事も出来ようが、人に関することはどうにもなるまいよ」
「我らはあくまでも刀だからなあ」
「きさま…」
碧猫はむにゃむにゃと寝言を口走る。
「きさま、なぜそこでくつろぐ。ノートのうえでねるんじゃない」
うなされているような、そうでもないような。
「みーちゃんきさま…にゃあじゃない」
「…一体どんな夢を見ているんだろうな」
「猫に書き物を邪魔されておるのじゃろ。猫はそういうものらしいぞ」
「にゃあああ!…!」
碧猫は自分の声に吃驚して目を覚ました。
「にゃ、にゃ…?」
「どうされました、ぬしさま」
「だ」
「だ?」
「…、…小狐丸、お前僕の眼鏡何処へやった」
「外した方がいいと思って此処に」
小狐丸から眼鏡を受け取り、掛け直す。
「…すまん、寝落ちした」
「いえ、眠い時は眠るのが一番です故」
「いや…(ふぁあ)べつに、ねるつもりはなかったんだ。…そりゃあ、こんのすけに実践をするならしっかり睡眠取れるようになってからにしろとは言われてるが、細切れじゃそう意味はないし」
「…眠れておらんのか」
「…いや、最低三時間くらいは眠れてますよ」
「…それは短すぎるのではないか」
「…否定はしませんけど」
碧猫は目を泳がせる。
「…目が覚めると、暫く眠れないので、夜中に目が覚めてしまう内はどうしようもないです」
「剣兄上には私がぬしさまと添い寝をするのは倫理的に問題があると止められておるしなあ」
「そもそも僕、猫以外と添い寝する習慣ないからね」