織斑姉弟に父親がいたらこうなると思う(仮)   作:天叢雲

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第二話

 

 

 

「えっ、えっと・・・はじめまして。これから織斑一夏君のクラスの担任をします、山田と言います」

 

「あ。はじめまして」

 

「・・・・・・」

 

「千冬姉? なんで山田先生?を見てるんだ?」

 

「お、お久し振りです千冬先輩。昔と変わらないです・・・ね?」

 

「真耶・・・なんでお前がIS学園にいる? 日本代表になるために訓練してたんじゃないのか?」

 

「え? 千冬姉、知り合い?」

 

 

 数時間後、父親に送られた織斑姉弟はIS学園の応接室にいた。

 黒髪の姉弟とは違う緑色の髪をした女性が彼等を迎え、挨拶をしていた。

 どうやら女性は千冬と知り合いのようで、一夏はきょとんとする。

 反対に、千冬は女性を見て驚いており、女性はあわあわとしながら千冬に頭をペコペコ下げていた。

 

 

「あ、ああ。私が現役時代の後輩だ。IS学園初期の卒業生で、将来有望と言われる日本代表候補生だった奴だ」

 

「マジ? やっぱ千冬姉って顔が広いな」

 

「し、将来有望なんて・・・買い被りすぎですよ」

 

 

 ちょっと照れた様子の女性、山田真耶。

 千冬が現役時代、最強のIS操縦者としてブイブイ言わせていた頃にサポーターの一人だった山田真耶。

 真耶は織斑千冬に次ぐ日本代表候補生の中では強い部類に入っていた。

 次期日本代表として期待されていた彼女が、何故IS学園にいるか不思議で堪らない千冬。

 

 千冬、日本代表のサポーターであった真耶は他にいるサポーターの中でも謙虚だった。

 ISを使えるから男性を見下す他のサポーターとは違い、男性が苦手な真耶は幸いして千冬に気に入られた。

 人を馬鹿にせず、対等に見る真耶。そこが千冬の目に止まった。

 憧れの日本代表である織斑千冬と先輩後輩関係になり、良好な関係を築いていたはずなのに、現役引退してしまった千冬は真耶を気にかけていた。

 会おうと思うにも、日本代表を現役引退してしまった千冬はサポーターであり、日本代表候補生の真耶とは会えなかった。

 それがIS学園で会おうなど、千冬は思いもしなかった。

 

 

「・・・あの、千冬先輩・・・もう大丈夫なのですか?」

 

「何がだ?」

 

「第二回モンド・グロッゾの・・・」

 

 

 話を進める二人に一夏は置いてきぼりになり、ただ話を聞いてるしかなかった。

 “第二回モンド・グロッゾ”という言葉を聞くと、一夏は緊張する。

 千冬もまた、クールな表情を歪めると、目を閉じる。

 その反応を見た真耶は慌てて口を手で覆うと、すまなそうな反応を見せる。

 

 

「正直な話、まだ吹っ切れていない。あれは私が原因で招いた出来事だからな」

 

「違う! 千冬姉は悪くない! あれは俺が、俺が悪いんだ!」

 

「お、織斑君。気持ちはわかりますが落ち着いてください!」

 

「・・・やめよう。真耶、先に私達の説明を頼めるか? 一夏が一年一組の新入生になるのは聞いたが、まだ私はわからん」

 

 

 その第二回モンド・グロッゾは織斑一家に大きな傷を残した。

 第二回も織斑千冬は優勝、制覇したがある事件が起きてた事を知らずに千冬に大きな後悔を刻んだ。

 後悔を刻まれた千冬はいつまでも引き摺り、今回のある意味の現役復帰もかなりの苦難の末に決意したことなのだ。

 

 しかし、最愛の弟の一夏が世界初男性IS操縦者として名を轟かせた事で前から誘われていた教師の仕事をすることになった。

 つまりは様々な思惑が渦巻くISの世界へ。

 

 

「わ、わかりました。説明させてもらいますね?」

 

 

 一夏のクラスの担任である山田真耶は大きな袋の中からいくつかの書類の束を取り出す。

 その多さに顔がヒクつく一夏。明らかに二センチはありそうな厚さがあるから。

 逆に、千冬は真耶から受け取った書類の束を捲って真剣に読み始めていた。

 

 真耶から渡された書類の束を一夏は渋々と受け取ると、重さを感じながら読むことにした。

 書類の内容はIS学園の校則やISに関する協定などを細かく細かく細かく、書かれたものであった。

 そのミミズにしか見えない文字の列がある書類の束を一夏は放り投げたくなった。

 

 

「えっと、このIS学園に関する協定や条約に約束事は全て暗記してくださいね。後はこのISマニュアルも暗記を・・・」

 

「・・・・・・オワタ。俺、死んだ」

 

 

 絶望的な資料の量を前に、一夏は項垂れた。

 広辞苑並の分厚さを持つ教材が合計、四つ。IS運営協定、ISに関するあらゆる条約、ISを動かすための簡易なマニュアル、IS学園の校則らしき校則を渡されたのだ。

 自分から望んだとはいえ、早くもその選択を後悔し始める。

 

 

「(うっわ・・・千冬姉なんかどんどん読んでるし)」

 

 

 姉の様子を見てみれば、パラパラと資料や書類に目を通していた。

 淀みのないその動きは惚れ惚れし、真剣に読む千冬は自然と美しいと感じるようだった。

 

 元々、ISを扱う操縦者のエリート中のエリートである日本代表、それも世界一の実力を持つ千冬だ。

 現役引退からあまり触れなかったとはいえ、まだ覚えているのだろう。

 自分の現役時代で培った経験を生かし、それをどう教えるかが問題だが、ブリュンヒルデとまで言われた千冬なら難なく出来る。

 

 

「山田先生、他の学生ってこんなの読んでるんすか?」

 

「え、ええ。まあ。IS学園はエリート中のエリートが通う特別機関ですから。世界各国から色々な人も来ますし、やはりこれは暗記しないと大変だと思います」

 

「うっへぇ。皆凄いよなぁ・・・」

 

「でも大丈夫ですよ。わからなければ私が教えますし、千冬先輩もいますからゆっくりと覚えていきましょう」

 

「ありがとうございます・・・って千冬姉も一緒?」

 

「はい。織斑君の一年一組の担任は私、副担任は千冬先輩ですよ・・・って織斑君?」

 

「もうやだ・・・身内が同じクラスの教師生徒関係とか一種の羞恥プレイだろ・・・」

 

 

 広辞苑の教材に頭を乗せて項垂れる一夏の心はまさにブルーだった。

 日頃から父親や姉に世話を焼かれる一夏は学校でもそれをされるかと思うと、恥ずかしくて堪らないのだろう。

 まだ思春期の少年にはこれ以上ない位に羞恥プレイを煽り、むず痒い思いをするだろう。

 哀れ、織斑一夏。

 

 真耶と雑談する一夏は所々、勉強を教わりながら緊張感を和らげていった。

 女性しか使えないISの操縦者を育成する学園だ。男性、まだ少年の一夏は不安が残っており、真耶と会話して少しでも慣れようとしていた。

 どこぞのパンダのように見せ物にされた事があるだろうに。と突っ込みたい。

 

 

「待たせたな」

 

「げっ、千冬姉・・・まさか全部読んだのかそれ?」

 

「まあな。IS学園における教師の立場と権限、時間割くらいしか覚えるのは無かったから早く読めた」

 

「うっへぇ。親父に似てるよな。そのずば抜けた理解力。見習いたいぜ本当に」

 

「ふっ、頑張れば出来るだろう。私が教えようか? 手取り足取り、な・・・」

 

「死ぬから山田先生に教わります」

 

 

 千冬に高校受験、一夏がISを動かせる前の頃に勉強を教わった時はまさに地獄だったと本人は語る。

 第一志望の高校はかなりハイレベルの高校だったので勉強を千冬に教わる。

 ハイレベルの見返りに普通の高校よりも学割は半分近く安く、申請すれば奨学金を貰えるという怪しい学校だが、実績は本物だ。

 合格して奨学金を貰って父親の負担を少しでも減らそうという親孝行な一夏。

 実の両親に捨てられて引き取ってくれた恩を返そうと、親孝行の鑑な息子だった。

 

 無事、高校受験は合格した。

 その後、たまたま(・・・・)搬送中だったISの試作機(・・・・・・)に触れた事で今に至る。

 姉からは呆れられ、父親からは爆笑された一夏。不憫である。

 ちなみにだが、父親は嘘の話だと思っており、酔っていたのもあって本気ではないと信じていたりする。

 

 

「なんだ? 本当にいいのか?」

 

「いいって。本当に助けてほしかったら頼むから」

 

「そうか・・・で、山田先生(・・)。一夏に渡すものがあるのでは?」

 

 

 資料や書類を読み終わった千冬は真耶を先生と呼び、何かを聞く。

 真耶はああ。とポンと手を叩いてごそごそとまた何かを取り出して、一夏にそれを渡す。

 一夏はそれ、少し大きめの白い紙の袋を受け取ると頭を横に傾げる。

 心当たりがない様子の一夏を見た千冬は溜め息を吐き、一夏の頭をパシッと叩いた。

 

 

「阿呆。お前は私服で学校に行くつもりか」

 

「あ、制服か」

 

「はい。織斑君が初めての男性IS学園の生徒なので、わざわざオーダーメイドで頼みました。デザインなんか世界の名だたるデザイナーさんがたくさん作ったのから千冬先輩・・・織斑先生や他の先生方も楽しく選ばせていただきました」

 

「ふふん」

 

「なんでドヤ顔? 変なのじゃありませんよね制服?」

 

 

 妙にテンションが高い真耶、ドヤ顔の千冬を見て不安になってくる一夏。

 今は女尊男卑の世。男性の待遇が低いのが当たり前の世の中。

 奴隷のように扱われる男性も少なくなく、IS学園の教師ともなれば人一倍、プライドが高い女性が多いだろう。

 

 そんな不安を見抜いたかは知らないが、真耶は着てみればわかりますよと安心する声色で話した。

 まあ、千冬の事だから裸とか露出多い制服は無いと無理矢理纏めた一夏は別室で着替えることにした。

 またもや妙にソワソワする真耶。千冬は彼女を見て変わらない初心のままだなと感じた。

 

 

「・・・お待たせしました・・・」

 

「ほう・・・似合うじゃないか」

 

「似合いますよ織斑君! 流石は織斑先生の弟さんですね!」

 

 

 数分後、一夏は私服の姿から真っ白な制服に着替えていた。

 長ズボンに長い上着の純白とも言える色合い。彼の黒い髪と整った顔立ちでよく似合っている。

 本人はしっくりこないのか、制服の裾の部分を触っては調子を確かめていた。

 

 千冬と真耶に似合うと言われ、幾分マシになったのか、一夏は白いズボンのポケットに手を入れた。

 まだブスッとしたような顔をする一夏だが、更に真耶から色々な物を渡される。

 極秘と書かれた判子を捺された封筒を渡され、一夏は中を確認する。

 

 

「中には織斑君に用意された学生証、国家安全保証を証明する証明書、IS学園専用の携帯端末、部屋のカードキー等が入っています」

 

「・・・・・・」

 

「紛失した場合にはすぐに申し出てください。普通なら罰金五十万円以下と身柄を拘束されますが、織斑君は日本政府より特例で無料で再発行されます」

 

「なんという待遇の良さ・・・」

 

 

 封筒の中に、ハイテクな道具が多数あった。

 一夏が父親からプレゼントされた最新型携帯電話に似た携帯端末。

 指紋認証システムがあり、セキュリティ万全なシステム。最高機密を扱うIS学園だからこその対応なのだろう。

 他にもセキュリティ対策万全とも言える品揃え(?)で、迎えられる一夏は恐縮するしかなかった。

 

 何故なら、世界初の男性IS操縦者だからだ。

 このような破格の対応と対策は世界で初めてのISは女性しか動かせないという前提を覆した織斑一夏を保護するためのものだ。

 もし、男性がIS操縦者、女性を超える力を身に付けたら? これを機に、男性でISを使える者が増えたら?

 そんな恐れを抱く女尊男卑を掲げる女性に狙われるかもしれないだろう。

 また、男性の権利復権、男尊女卑を願う男性の企みにも利用されるかもしれない。

 

 むしろ、まだ足りない対策だと考えられる。

 

 

「わからない事があれば質問してくださいね? 織斑君は新入生ですが、編入生扱いですので織斑先生と一年一組で自己紹介をしてもらいます」

 

「嫌だー! 女の子しかいないのに自己紹介なんて俺のSAN値が削られるー!」

 

「いい自己紹介を楽しみにしているぞ・・・くくくっ」

 

「笑うな千冬姉!」

 

 

 こうしてIS学園の正式な入学手続きを終える織斑姉弟。

 楽しそうな千冬とは違って一夏はかなり不安になっていた。

 

 このままでは平穏は遠いだろう。と。

 

 

 

 

 

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