「ところで山田先生、ネックレスとか貴金属を身に付けるのは校則的に大丈夫なんすか?」
「んー、大丈夫だと思いますけど・・・あまり過激なのは駄目ですよ? 時計等は大丈夫ですが、耳にピアスとかは駄目・・・でしたっけ?」
「普通の校則と同じだと思え。ネックレスなら大丈夫だろう・・・」
更に時間経過。場所は応接室からIS学園内の敷地の大きな建物、校舎の廊下。
制服を纏い、IS学園に必要な道具を貰った姉弟。
一夏は廊下を真耶と千冬と歩きながら、真耶にファッション的にネックレスはどうかと聞いていた。
真耶はそのファッションの境界線がよくわからず、頭を捻らせる。
代わりに千冬は先程読んだ書類を思い出し、内容を一夏に伝えるが真耶同様にファッションの境界線がわからないようだった。
「取り敢えず勝手にやらせてもらっていいですか? 駄目なら注意をしてくれれば外しますが」
「う、うーん。織斑先生、どうしましょうか?」
「一夏・・・織斑の好きにやらせましょう。もし文句を言う教師は私が黙らせますか。クフフフフ・・・」
「ヒィィィ! 織斑先生が怖いですー!」
ニヤリどころか悪役丸出しの笑顔をする千冬。
その笑顔を見てか、真耶は涙目になりながら叫ぶしかなかった。
義理の父親譲りの鋭い目付きをギラリと光らせるその様子は、真耶だけではなくて他の人間も怖いと思うに違いない。
実質、千冬はブラコンである。
たった二人の家族、一人は血の繋がった弟、一夏がいる。
実の両親に捨てられ、家族の大切さを身に染みて誰よりも知っているのだ。
引き取られる前、千冬は残された一夏を守ろうと必死になっていた時期があり、そこで母方の弟、叔父に出会う。
あまり面識がない叔父と千冬だったが、自分の姉が子供を捨てた事を知った叔父は怒った。
当時、不安定で荒れていた千冬は叔父ですら敵と見て喧嘩を吹っ掛けた。
結果は惨敗。たとえブリュンヒルデとまで呼ばれる最強の女性でも高校生だった彼女は大人の叔父には勝てなかった。
叔父に一夏共々引き取られ、深く傷ついた千冬の心は癒されていく。
だからこそ、千冬は人一倍“家族”を大事に大切にする。
自分の家族、一夏と父親に手を出す者には容赦なく片道の地獄行きキップをプレゼントするというのが信条だ。
もし、一夏にいちゃもんをつける者がIS学園にいれば、たちまちブリュンヒルデからありがたい地獄授業が贈られるであろう。
うむ。楽しみ也。
「千冬姉千冬姉。落ち着かないとまた親父に嫌われるぞ」
「うむ。山田先生、今日の夜に私と飲みませんか? いい酒がある場所を知ってますよ」
「なんですかこの変わり様は! 怖いとか通り越して気持ち悪いです!!」
故に、千冬は家族に嫌われる事を何よりも嫌う。
父親からは常に優雅たる女性であれ。と言われている千冬はそれを目標に己を磨き続けている。
結果、ブリュンヒルデと呼ばれ、世の中の女性は彼女に憧れるほど美しく成長する。
操縦者としての腕も女性の優雅たる態度は世界が認めるものだ。
そんな彼女は父親に好意を抱く。
恋人に向けるものではなく、ただ単に家族としての好意である。
友愛と恋愛を比べると、恋愛寄りに好意があるのは確かだが、それは世の中の男性が父親のようにあって欲しいと思っている。
父親を尊敬するのは一夏も同じだ。
まだ幼かった一夏は実の両親の蒸発を理解できずにいた。
父も母もまだわからなかった彼は叔父を実の両親よりも親として見ている。
刑事だった父を尊敬の眼差しで見、自分も将来はお父さんのようにカッコいい刑事になるという夢を持った。
父親はもう刑事をやめているが、生き様は一夏の何よりの目標となり認められようと一人前の男を目指す。
「あー、山田先生? 千冬姉はこんなんですから気にしないでください。あんまり親父に千冬姉の悪い部分を言うと本気で殺されるから気を付けてくださいね?」
「いきなりの死刑宣告!? 織斑先生が来て私の命に危機が瀕してますよ!?」
「はっはっはっは。山田先生、諦めは肝心ですよ」
「お、織斑君! なんでそんな他人事なんですか! 私が死んでもいいんですか!」
「他人事ですから。千冬姉の扱いは昔から熟知してるからこそ、見捨て・・・こほん。見ているだけが正解なんですよ」
「ヒィィィ! 織斑君の考え方が恐ろしいですー!」
HAHAHAと一夏が笑うのを真耶が見ると、ショックが強かった。
自分よりも年下のはずなのに、その笑い方に諦め、悟りを開いたような感情を感じたから。それはリストラされたサラリーマンのそれに似ていた。
実際に、一夏は波乱の人生を歩んでいる。
家族の姉は最強のISの使い手、ブリュンヒルデと呼ばれる世界で有名な人物である。
更に、父はある意味では姉よりも世界で有名。ブリュンヒルデの娘と世界で唯一、女性しか動かせないISを動かした息子を持つのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。
そして、まだ二人は知らないだろうが、父は世界で行方知れずのISの開発者であり、世界にISという起爆剤を放り投げた世界が何よりも手に入れたがる天才科学者、篠ノ之束とコンタクトが取れる人物であったりする。
幸い、世界にはまだ知られていないため、大丈夫だろうがバレてしまえば大変なことになるのは間違いない。
「つまりですね、千冬姉とはあくまで表面だけ。あんまり突っ込むとこんな風に痛い目にあったりしますので山田先生も気を付けてください」
「あ、あはははは・・・千冬先輩がそんな・・・」
「おい」
「はひぃ!?」
真耶に千冬との付き合いを伝授していた一夏に千冬が間を挟むように割り込んだ。
真耶は一夏の苦労体験を聞かされたせいでかなり千冬に対して恐怖感を覚えており、怯えたような表情をする。あまりの怯えように少しだけ心が傷ついた千冬だった。
せめての憂さ晴らしにと弟、元凶の一夏の頭を脇に抱え込んでヘッドロックを仕掛けていた。締められる一夏は姉の驚異的な母性を持つ胸に挟まれていることに対して苦しさと恥ずかしさを感じてバシバシと千冬の腕をタップする。
「真耶・・・じゃなくて山田先生。少し聞きたいことがあるのだが」
「は、はい! なんでしょうか!」
「私達は身の安全のために今日からここの寮に移るでしょう。それで、この馬鹿弟はどうなるのでしょうか?」
「・・・あ。す、すいません! 説明がまだでした! ・・・あの、放課後にお話することで大丈夫でしょうか。織斑君は渡しましたが、先生はまた特殊なものを用意されていますので」
慌てたようにパタパタと手を振りながら説明する真耶は先へと急ぐ。
今の時刻は午前八時半。IS学園では午前八時五十分から一限目が始まる。更に、初日ということで早めに織斑姉弟を紹介して授業をしなければならないため、真耶は急ぐ必要があったのだ。
世界最強、現役引退をしていた織斑千冬の復帰と世界でただ一人の男性IS操縦者の織斑一夏の入学。話題にならないはずがない。
「むっ。時間が無くなっているな・・・すまない、急ごうか」
「千冬姉タップタップ!!」
「はい、急ぎましょう!」
「山田先生、その前にやるべきことがありますって!」
急ぎながらも騒がしい三人であった。
何故こうなった。と織斑一夏は頭を抱えたくなった。
視界に広がるのは女女女女。女子ばかりで妙に期待の籠った視線を一夏に向けている。というか肉食獣のそれだ。
隣には凛とした態度で胸を張る姉(千冬)が。疲れている様子の一夏とは正反対だ。
IS学園一年一組。そこが一夏の編入するクラスであり、千冬が副担任で真耶が担任を務めるクラスだ。
編入生、新教師として来た二人は自己紹介をすることになったのだが、鋭すぎる女子の視線に心が折れそうな一夏だった。
ただでさえ、ブリュンヒルデの弟なだけで知らず知らず注目されていたのだが、殆どは刑事であった父親の御蔭であんまり有名ではなかった。逆に父親は大きな注目を集めていたが。
今回の事件が切っ掛けで一躍有名になって世に出てしまった。それによって父親と姉の苦労を改めて知った一夏は自分が守られていることを実感した。だからこそ、逃げるわけにはいかないと決意を固めて一歩前に出る。
「は、初めまして。織斑一夏です。あー、よろしくお願いします」
「姉の織斑千冬だ。今日からIS学園の教師、一年一組副担任として皆と一年を送ることになるが、現役引退のブランクがある。迷惑をかけてしまうかもしれんが、よろしく頼む」
吃りながら自己紹介する一夏と堂々とする千冬。二人の差は大きかったが、生徒にはドツボにハマったのか、ドッと湧いた。
キャーチフユサマー!やらオネエサマー!と黄色い声が上がった。ちらほら一夏に対してイケメーン!と言う女子もいた。
織斑千冬復活。これは世界のあらゆる彼女のファンが歓喜した。
IS操縦者を志す者は再び舞い戻った戦乙女(ブリュンヒルデ)に強い憧れを持ち、世界各国の国家代表IS操縦者はライバル認定して腕を磨き続ける。
世界のISに対する熱が再燃した。だが、彼女はあくまでも教師として。現役のように戦うことはあまりしないと考えていた。
余談だが、IS学園に対して留学したいと応募が殺到しているそうだ。そのせいで例年に見ない忙しさに襲われるIS学園教師が目立つのだった。
「(おいなんださっきの不抜けたような自己紹介は。私みたいにできないのか?)」
「(無理無理! 俺、親父や千冬姉みたいに堂々とできないって! というか慣れてる千冬姉もあれだけどな!)」
「(まあ、私はブリュンヒルデとしてよくインタビューは受けていたからな。父さんは汚職高官を逮捕する時の経験で大丈夫と言っていた)」
「(怖ッ! 親父って一課の強行犯係じゃなかったのか!? 汚職とかぜってー別の課だろ!)」
「(・・・それは・・・知らん)」
「(なんだその間は!?)」
ヒソヒソと話す二人。あまりにも騒ぐ女子生徒はそんな二人の様子には気付いていない。
教壇の近くの真耶は騒ぐ生徒を止めようと涙目になっているが、テンションハイな女子は止まらなかった。
担任なのにそれでいいのかオイ。と密かに思う一夏だった。
数分後、あまりにも煩い一年一組に隣の二組の担任の鶴の一声で鎮圧した。ちなみにかなり怖い先生で有名だそうだ。
簡単に(騒ぎまくったが)自己紹介を終えて授業を始めることになるのだが、予習していない一夏は副担任である姉の千冬から適所適所教わりながら授業を受けた。
ISに関する授業だったため、ちんぷんかんぷんな一夏は???と疑問が多く残る授業となってしまったのはご愛嬌。
入学式一ヶ月前にISを動かして政府に保護(という名の監視)されて父親のコネで解放されたかと思えば、すぐに身柄保護のためにIS学園入学を余儀なくされたのだから勉強する時間はないのは仕方がない。
「(親父・・・ゲームがしたいです。久しぶりに親子仲良くやりたい)」
「織斑くぅぅん!? 目が死んでいますよー!?」
早速弱音を吐く一夏だった。
所変わって、織斑家の大黒柱こと親父、織斑春樹はスーツを着て何処かへ向かっていた。
目的はある人物と会うため。わざわざIS学園に子供を送って直行する。場所は少し洒落た喫茶店、そこには紫がかかった黒い髪をした女性と銀髪の少女がお茶を飲んでおり、春樹を見つけると軽く手を振った。
春樹がトトトッと軽やかな足取りで近付くと、女性はにへらと笑った。
「久し振り。会いたかったよ」
「初めましてです春樹様」
「本当にな。たまには連絡を寄越せとあれほど言ったのにすぐ破るクソガキが・・・そいつは?」
「あはははー私達は忙しい(・・・)からね。取り敢えず謝るよ。あ。くーちゃんの紹介は後でね? それより・・・」
女性の名前は・・・変装した篠ノ之束。世界を変えた天才科学者であった。
「あれは?」
「ああ。要望通りに持ってきてやったぞ・・・」
“暮桜と白騎士のコアをな”