織斑姉弟に父親がいたらこうなると思う(仮)   作:天叢雲

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 今まで放置していてすいません。

 ISの再開を記念して書く気力が出てきたのでやりたいと思います。







第四話

 

 

 

 

『親父ヘルプ。俺は心が壊れそう』

 

 

 

『高校生になっても甘えるか己は』

 

 

 

『だって男は俺ひとりだぞ!? 女子だらけで居心地が悪いわ! あと香水が混ざって変な匂いになって気持ち悪い!』

 

 

 

『学園と政府側にはお前の我侭はある程度聞けるようにはしておいた。そこで働く用務員に伝えたら何とかしてくれる。名前は轡木さんだ』

 

 

 

『親父マジ神様!!』

 

 

 

『まあ、頑張れ。帰ってきたら飯でも食おう。楽しみにしている』

 

 

 

『ありがと親父』

 

 

 

 一限目が終わって、時間が空いて一夏は自分の父親の春樹に貰った携帯でメールを送って相談していた。

 授業中も周りの女子からの視線に晒されて精神が疲れ切った一夏は自分の尊敬する父親との短い会話でなんとか持ち直すが、やりとりをしている間にも休憩時間を利用して一夏を見に来た他のクラスの生徒や上級生がいたため、休んだ気分はすぐに破壊された。

 それどころかスマホやアイフォンのカメラ機能でパシャパシャ撮られているので暴れたくなっていた。俺は見世物じゃねぇぞ馬鹿野郎。と。

 気分を変えて視線を横にずらせば、姉の千冬が窓際で父親の春樹からのプレゼントである携帯電話で何かをしていた。それを周りの女子が話しかけたそうにしているが、何せ憧れの人物だ。話しかけたくても話せないようだった。

 

 

「(流石親父がカリスマ持ちと褒めるわけだ。なんか近寄りがたい雰囲気を出してるなぁ・・・)」

 

 

 自分の姉ながらあれだな。と思う一夏は少し昔に彼女に嫉妬していたことを思い出して苦笑していた。

 春樹に拾われてからIS操縦者の才能を遺憾なく発揮して有名になった千冬(あね)。その輝かしい名声の裏には黒い歴史が存在していた。

 

 そう・・・世間の曇った目の評価である。

 

 まだ小学生だった一夏は心無い大人の女性や親に感化された同級生の女子達にいじめられていた。

 お前はあのブリュンヒルデの弟だからこれくらい簡単にできるだろう。と大人に言われ、同じ子供の女子にサインを頼まれて多忙の千冬に頼めずに腹いせに攻撃する・・・そんな事をされて一夏の幼い心は深く傷ついた。

 相談しようにも、当時は千冬は日本代表IS操縦者として家を空けることが多かった。父の春樹は刑事として犯人を追う日を送り、家にいて一夏と過ごす時間が多かったが拾われた恩で話せなかった。

 その度に溜まるストレスと激しくなるイジメ・・・それは一夏の心に病を持たせてしまったのだ。

 

 

「(ほんとになんで悩んでたんだろうな? 親父と千冬姉はいつだって味方でいてくれたのに)」

 

 

 ある日、姉と父の休みが重なって家族が揃って食事をする機会ができたことがあった。

 姉の千冬は世界を飛び回っている時のお土産に珍しい食べ物を持って帰ってきたり、父の春樹は贅沢とばかりに高級寿司を出前で頼んだりと久々の家族団欒だった。

 しかし、一夏の深く傷ついた心はそれを疎ましく思い、鬱憤を吐き出すように父や姉に当たってしまったのだ。

 

 

 ――おれはこんなのうれしくない! ねえちゃんのせいでおれはいじめられているのにねえちゃんのものなんかほしくない!

 

 

 限界を越えた一夏の心からの叫び。それは実の姉を大きく動揺させるものだった。

 まさか自分のせいで弟がいじめられているとは思わず、千冬は混乱した。日本代表操縦者とはいえ、当時はまだ二十歳目前の未熟な子供で選手として手一杯だった千冬はそこまで考えられなかった。

 

 そして・・・春樹といえば。

 後に織斑姉弟は語る。自分の父親を怒らせるとどうなるかを。

 

 

 ――おい一夏。今までなんで黙ってた。

 

 

 その声は今まで聞いた事がないほど冷たく、低い声だった。

 一夏と千冬は雰囲気がガラリと変わった義父に恐怖とも言える感情を覚え、一夏は怯えたまま春樹に包み隠さずに全てを話した。

 千冬が日本代表、ブリュンヒルデとなってから身に襲った理不尽な対応に日常的に起きていた同級生や上級生の壮絶なイジメとは生温い学校全体が敵だったように感じる毎日・・・それらを全て。

 その話を聞いていた千冬は顔を真っ青にして震え、知らなかった自分を大いに恥じた。

 

 一夏は今まで我慢してきた反動なのか、話の途中で泣きながらも全部話した。全てを聞いた春樹はただ一言、そうか・・・と呟く。

 泣いている一夏の体を躊躇いがちに引き寄せると優しく抱きしめる。普段は頭を軽く撫でられるだけだったが、こうして抱きしめられた一夏は父の大きな体と暖かな温もりを感じた。

 それは遠く昔の記憶を呼び覚ます。一夏が赤ん坊だった時代の誰かの大きな手と優しい声を。

 

 

「(・・・うっわぁ。なんか恥ずかしくなってきた。大泣きしたのはあん時だけだけだからな・・・)」

 

 

 恥ずかしくなった一夏は訳もなく机につっ伏して赤くなる顔を隠すように誤魔化した。

 そう。あの時に一夏は生涯で二度大泣きした内の一回目だったのだ。

 ずっと泣いていたな。と懐かしむ彼はその瞬間から父親を大きな目標として尊敬し始めた。

 

 

「一夏」

 

「あ。千冬姉・・・じゃなかった。織斑先生、なのか? 身内なのにムズ痒く感じちまうな」

 

 

 思考に更ける一夏に、千冬が話しかける。途端、ザワザワと教室がざわめいていたのに静かになった。

 まるで二人の会話を聞こうと全員の考え方が一致しているかのように。纏まり方が普通ではない。

 それに鬱陶しく思ったのか、千冬が顎をクイッと動かして右手で何かサインを示して一夏にメッセージを伝えた。

 

 

 “じゅぎょう、おわり、おくじょう”

 

 

 手話。耳が不自由な人の間で使われ、ちょっとした秘密の会話にも使える言語である。

 父の春樹にはそんな親友がいるので会話をするために自然と覚えたもので、他人に聞かれたくない話をするために使うことが多い。

 世界的にも有名な織斑千冬、その言葉の隙を突いて揺さぶって自国に引き抜こうとする輩が少なくないからこそこの会話は当然と言えば当然。

 

 しばらくするとチャイムが鳴って他クラスの女子達は話せなくて渋々帰る者や満足そうに帰る者と様々だったが、ほとんどはいなくなって一年一組の生徒だけが残った。

 授業の始まるチャイムが鳴ると、真耶が授業を始めますねと言葉を出す。その声を聞いた生徒は取り敢えず授業に集中する事にした。

 

 

「(・・・そういや、仕事があるって言ってたけど何やってんだろ? 刑事はやめたから警備員とかかな?)」

 

 

 一夏はここにはいない父を案じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、春樹は。

 

 

「あ、先輩。久し振りです」

 

「おう。待ってたぞ」

 

 

 都内のとある昼下がりのカフェ。そこに父親である春樹と春樹を先輩と呼ぶスーツを着た二十代前半の男性が同じ席で会っていた。

 春樹は珈琲を飲みながらその男性を迎え、迎えられた男性は少し息を切らせて向かい側の席に座る。彼の手には少し大きめの封筒を抱えており、それをテーブルの上に置くと、ふぅと一息ついていた。

 

 

「久し振りですね先輩。元気でしたか?」

 

「ボチボチだ。それより聞いたぞ。お前、前に警部に昇進したらしいじゃねぇか。頑張ってんな」

 

「あはは。まぐれですよ。じゃないと僕みたいなのが警部に昇進しませんよ」

 

「卑屈なのは相変わらずか。勿体無いな。刑事に大事な素質を持ってるからその待遇は正しい・・・で、あいつらは元気にしてるか?」

 

「ええ。織斑班の皆さんはそれぞれの道を行っています。課長は今度、刑事部長になるそうです。実績が半端じゃないですから」

 

「ふぅん・・・頼んだものは?」

 

「こちらです。こんなのを見せるのは先輩だけですよ? 警察内でも機密扱いなんですから・・・ですが、警視総監も許可してるのでそんな事は関係ないですけど」

 

 

 男性は春樹に持ってきていた封筒を渡し、それを春樹が受け取る。封筒の紐を解いて中の書類を取り出して眺める。

 椅子で足を組み、流すように読む。その間、男性はカフェの店員に苦笑しながら水を注文して乾いた喉を癒すがごとく一気飲みしていた。

 書類を読み進める毎に元々鋭かった目が更に鋭くなる春樹の顔は険しかった。しまいには舌打ちする勢いで顔を歪める彼に、気弱そうなウェイトレスが怯えていて男性が慌てて声を掛ける。

 

 

「せ、先輩! 眉間に皺が寄ってますって! 怖いんすから抑えてくださいよ!」

 

「おい」

 

「な、なんすか?」

 

「これ、正確なのか? また偽の情報に踊らされているわけではないよな?」

 

「ま、間違いありませんって! 警察でもトップの情報収集能力を持つエリートが集めたんですから信憑性はあります!」

 

 

 そうかと答える春樹はまだ険しい顔をしていた。気分を落ち着かせるためか、余っていた珈琲を飲み干すと、煙草に火を点けてフーッと煙を吐いていた。

 読み終わったであろう書類は乱雑にテーブルの上に投げられ、男性は慌ててそれを集めると、封筒にしっかりと仕舞う。

 煙草のフィルターを軽く噛んで上下に動かす春樹は器用に灰を手に持つ灰皿に落とす。その様子を見た男性は呆れながらも、懐かしいなと苦笑いしていた。

 

 

「・・・先輩。今回はこの書類を見せるだけではなくてもう一つ、お願いがあって来ました」

 

「ほう。聞こうじゃないか」

 

 

 真剣な顔をする男性はそう切り出すと、周りの目を先程の何気ない仕草の時よりも強めて静かに、それでも力強い口調で彼と話す。

 

 

 

 

「先輩・・・いえ、織斑警部。警察に戻ってきませんか? 俺達、対IS特別捜査本部、通称特務零課は貴方を受け入れる準備があります」

 

 

 

「・・・はん。思いっきった事をするもんだな? あの時は俺を切ったくせに今更戻れと?」

 

 

 

「それでも、です。保身を考えて警部を切った上層部は全て排除しました。俺達、織斑班や所轄の人間は貴方を歓迎しているんです。それに警部は刑事一筋と昔話していたでしょう? もう一度、やってみませんか?」

 

 

 

「魅力的な提案だが・・・断る。俺はもう一度警察をやめた。今更戻ってもいい事はない。俺は子供(あいつら)と共に歩く事を決めたんだ」

 

 

 

 

 ふんと鼻で笑う春樹。その顔は少し穏やかだった。

 その表情に一番驚いているのは他ならぬ男性だった。元警察の刑事の春樹の部下だった彼は穏やかな表情を見た事がないから。

 

 織斑春樹、元警察の敏腕刑事、エースの警部だった。

 解決した事件は数知れず。人より並外れた洞察力と凄まじいまでの体力で事件現場を駆け巡って犯人を検挙してきた。

 鋭い目つきと重苦しい雰囲気の前にはどんな凶悪犯罪者でも尋問には耐えられずに全てを吐かせてしまうとも言われ、警察内では名を知らぬ者はいないほど有名だった。

 警視庁の織斑班といえば彼よりも下の刑事や警官の憧れの対象だった。検挙数と事件の解決した数は計り知れず、その空気に呑まれれば他の場所でも優秀な刑事としてやっていけるというジンクスまであった。

 ある事件で刑事はやめてしまったが、それでも織斑春樹の名は伝説となり、刑事の憧れとなっていた。

 そんな春樹は笑わない無表情の冷たい印象を持たせるような表情を持たない事で有名でもあった。

 仏頂面をすれば元々鋭い目つきが更に鋭くなり、気の弱い者が見れば気圧される。身長も高いため、威圧感がある。それが彼の第一印象であった。

 煙草をよく吸うヘビースモーカーとも有名でその筋の人間と変わらぬ恐怖を抱かせるような男性だった。

 

 そういった印象を持たれていた春樹が穏やかに笑うのは一重に彼が引き取った二人の姉弟のお陰だと男性は思う。

 二人を引き取ったのは春樹が刑事をやめるきっかけとなった世間を揺るがした事件の数年程前だった。

 ある日、捜査の張り込みの時に何気なく「子供を引き取った」と言われて一緒だった刑事が盛大に吹いたのは今も忘れない。

 仕事はしっかりとやる春樹だが、引き取った日からできる限り家に帰るようにして子供との時間を作る事がよく見られるようになった。

 

 

「(やっぱり先輩は・・・)」

 

「話は終わりか? なら俺は行く。一応、この資料だけは感謝しておく」

 

「・・・はい。お時間を取らせてすみませんでした先輩」

 

「クックックック。可愛い成長した後輩の一世一代の提案だ。有意義な時間にはなったよ」

 

「では?」

 

「話はそれとそれとで別だ。悪いが俺は警察には戻らない。特務零課とやらは知らんが、今のお前を見れば俺がいなくても大丈夫だと思うぜ? ・・・それと仕事をしている三人の分も払わせてもらうぞ」

 

「!?」

 

 

 ご馳走様と告げると、春樹は元部下の男性の持ってきた封筒を持って席から離れていく。

 男性は離れていく元上司をただ見る事しかせず、金を払い終え、店から出て行った春樹を確認すると、疲れたように大きく息を吐いた。

 そこに、同じスーツを着た男性の何人かがその男性に近付いた。

 

 

「どうでしたか警部。勧誘の方は」

 

「駄目だった。やはりあの人は衰えというものを知らないみたいだ」

 

「それはどういう?」

 

「・・・俺と織斑春樹が話している間、警戒している素振りを見せていないのにお前達三人がいる事に気付いていたみたいだった」

 

「なっ」

 

「特務零課の精鋭であるお前達の存在に勘付くとは。敵にだけは回したくないもんだな」

 

 

 男性の声には妙な重みがあり、春樹を見張っていた三人の彼の部下はじっとりと背中に嫌な汗を出していた。

 今は遠く離れた春樹の背中を自然と追い、暫くは四人が動けないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふん。後輩は頑張っているじゃないか」

 

 

 人が行き交う道を春樹はゆったりと歩く。世間的に有名な彼は行き交う人々に視線を投げ掛けられるが、春樹は気にせずに交差点で信号待ちしていた。

 ポケットから煙草を取り出して右に禁煙の標識が見えると、取り出した煙草を戻してポケットに乱暴に仕舞うと、胸ポケットの黒いサングラスを掛ける。

 信号が変わると、封筒を持ちながら人ゴミに解けていくように目立つ春樹は消えていく。

 

 ――ついに尻尾を掴んだ。アンタをやっと見つけられる。

 

 人ゴミに消えていく春樹の口は確かに歪んでいた。まるで、何かを待ち焦がれて見つけられた喜びを表すかのように。

 

 

 

 そして数日後、織斑春樹は失踪する。

 

 

 

 

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