東方地恋譚   作:月の海

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第12話

いつものように、気まぐれにペットと対話を試みる。

 

「…………」

 

「ふぅん、あの人がウチに……」

 

最初から私を見た人間……か。

 

「…………」

 

「へぇ、後で挨拶しないとね」

 

無意識が向いたら、だけど。

 

「…………」

 

「え?あぁ、大丈夫大丈夫、いきなり襲ったりしないよ」

 

そんなことしたら私がお姉ちゃんに殺されちゃうかもしれないもの。

 

「…………」

 

博愛主義でもこじらせてるのかな?

 

「まぁそのまま可愛がってもらいなよ。それじゃあね」

 

あはっ、楽しみだな♪早く会えるといいけど。

 

ペットとの対話を切り上げ、いつものようにふらつこうとした。

 

…コツン

 

「あら?こんなところに壁なんてあったかしら?」

 

そう言いつつも私は『これ』が何か分かっていた。

 

「えっと、はじめまして……かな?」

 

「はじめましてだよ、お兄さん」

 

 

 

 

 

環境が変わったことで僕の中で何かが変わったのか、ヤマメさんの家にいた時より早く目が覚めてしまった。

 

『早く起きな!』とヤマメさんに布団を剥ぎ取られていたのがもはや懐かしい。

 

中庭でも散歩しようかな。

 

身支度を整えて、玄関へと足を運ぶ。

 

「…………」

 

「…………」

 

ナ「ん?」

 

エントランスまで来たところで誰かの話し声と動物の鳴き声が聞こえてきた。

 

さとりさんかな?

 

少しだけ悪戯心が芽生えてくる。

 

足音を殺してそっと声のする方へ向かった。

 

廊下の角まで来たがバレた様子はない。

 

「まぁそのまま可愛がってもらいなよ。それじゃあね」

 

話が済んだのか足音がこちらに向かって、来た。

 

…コツン

 

思ったよりも近くで話していたようで足音が聞こえたと思ったら、もうぶつかっていた。

 

「あら?こんなところに壁なんてあったかしら?」

 

しかも、さとりさんではなかった。

 

だが、この子のことを僕は知っている。

 

 

 

パ『どうかした?』

 

ナ『今、帽子をかぶった女の子がいたような…?』

 

パ『見間違いじゃない?いないわよ?』

 

ナ『そうなのかな』

 

『それはきっと私の妹のこいしね』

 

 

 

ナ「えっと、はじめまして……かな?」

 

ちゃんと話すのは初めてなのでとりあえず尋ねてみた。

 

「はじめましてだよ、お兄さん」

 

ナ「こいしちゃん…でいいのかな?」

 

こ「うん、私はお姉ちゃんの妹の古明地こいしちゃんだよ」

 

ナ「さとりさんにはお世話になってます」

 

こ「私の愚姉こそお世話になってます」

 

お互いに頭を下げる。

 

ナ「自己紹介が遅れたけど、僕はナナシ。一応さとりさんの彼氏…です」

 

こ「知ってるよ。私のペットとも仲良くしてくれてるみたいだし」

 

ナ「『私の』?」

 

こ「うん。お姉ちゃんからもらった私専用のペットがいるんだ」

 

いつもお燐ちゃんを手伝ってお世話してるのはさとりさんのペットって認識だったけどどうやら中にはこいしちゃんのペットもいたらしい。

 

こ「疑問を口に出してくれるのはありがたいな。お姉ちゃんと違って私は言葉じゃなきゃわからないから」

 

ナ「え?」

 

こ「ほら、私の第三の目は閉じてるでしょ?というか私が閉じたんだけど」

 

ナ「どうして?」

 

こ「こんなのあったって嫌われるだけじゃない」

 

ナ「…………」

 

事ここに至り、僕はこの目の前の少女の苦悩を、苦痛を、苦境を認知した。

 

そして、それは僕の彼女にも言えることなのだ。

 

こ「言葉にしなきゃわかんないってば」

 

ナ「君の友達になってもいいかな?」

 

こ「え?いいけど」

 

ナ「ありがとう」

 

こ「変な人だね。それはそうと私、そろそろ行っていいかな」

 

ナ「あ、あぁ、引きとめちゃってごめんね」

 

こ「いいよ、それじゃ行ってきます」

 

ナ「いってらっしゃい」

 

今はこれでいい。

 

きっかけが掴めたというだけで三文以上の得というものだろう。

 

こ「あ、そだ」

 

ナ「どうかし――ん!?」

 

尋ね切るよりも先にこいしちゃんの顔が目の前にきていた。

 

ナ「な、なんで」

 

動揺が隠せない。

 

こ「ん~、なんとなく」

 

それだけ答えて今度こそ彼女は見えなくなった。

 

ナ「…………」

 

指が自然と唇に触れる。

 

何が起きたのかを脳が咀嚼し始め、また顔が熱くなる。

 

しばらく僕はその場から動けなかった。

 

 

 

 

 

気が付けばベッドの中にいた。

 

彼に頭を撫でてもらっていたところまでは記憶にあるのだけれど、どうやらそのまま眠ってしまったらしい。

 

……子供ですか私は。

 

確かにこの身体相応の反応と言えばそうなのですが。

 

それよりも問題なのは寝顔を見られたということだった。

 

…………

 

と、とにかく予想外の就寝のせいでいつもよりだいぶ早く目が覚めてしまった。

 

これは彼の寝顔を見に行くしかありませんね。

 

見たいとかそういう感情ではなく、あくまでやられたらやりかえす、というだけのことです。

 

倍返し?それはまぁ、彼次第ということで。

 

私は着替えてから部屋を出た。

 

 

 

 

最初は私の部屋の隣の部屋を彼に宛がおうかとも思ったのだが、気恥ずかしくて元々の客室だった部屋を貸すことにした。

 

それが結果としていいことだったのかは分からない。

 

今、私の視線の先にいるのは、彼。

 

そして、妹だった。

 

 

 

 

なんとなく近寄りがたくて、私は物陰に隠れながらその様子を覗いてしまっていた。

 

そもそも後二人に面識があったことも初耳だったが、なによりこんな時間に逢瀬を交わしていることがもっとも疑念を抱かせる。

 

少しして、こいしが外に出ていこうとする。

 

彼に問いたださなければなりませんね。

 

彼のもとへ出て行こうとしたタイミングでこいしが振り返った。

 

そして、彼の顔に向かって背伸びをした。

 

それはどう考えても口付けだった。

 

彼も激しく動揺していたが意に介さず落ち着いた様子のこいしは何か答えると今度こそ出て行った。

 

こいしは私に一瞥をくれた気がした。

 

私は彼には声をかけず、そのまま部屋に戻りベッドに倒れ込んだ。

 

さ「早起きはもう…したくないですね」

 

誰に言うわけでもなくそう呟いた。

 

 

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