……眠れない。
いつもなら、もう布団に入って寝ている時間なのだがなぜか目が冴えてしまって寝つけなかった。
少し夜風に当たってくるのもいいかもしれない。
寝ているヤマメさんを起こさないように忍び足で外に出た。
この地底街は夜行性の人もいたりと多種多様なので店は基本的に24時間開きっぱなしだ。
そのなかでも一際盛り上がっているところがあった。
近くに寄っていくと案の定その中心にいたのは見知った人だった。
ナ「こんばんは、勇儀さん」
勇「おう、ナナシか。こんな夜更けに珍しいねぇ」
ナ「なんだか今日は寝付けなくて」
勇「そうかい、そんな時は酒飲んで潰れちまうのが手っ取り早い。ほら、まずは駆けつけ一杯だ」
ナ「いただきます」
勇儀さんからもらった盃の酒を一口で飲み干すと周りの人達もワァッと沸いた。
勇「さて、飛び入り参加も来たところだし、夜はまだまだこれからだ!!お前ら、駄目になるまでついてきな!!」
「「「おぉーーーっ!!!」」」
相変わらずのカリスマだった。
それからは、勧められては飲み、基本的には介抱するというごくごくありふれた、いつもの日常を過ごした。
一人また一人と減っていき、最終的に起きているのは僕と勇儀さんの二人だけになる。
勇「まったく情けないねぇ、残ったのが人間だなんて妖怪の名が廃るってもんだ」
ナ「僕は皆さんに比べたら量自体は全然飲んでないですから」
勇「にしてもお前も介抱なんざよくやるねぇ」
ナ「流石に羽とか生えてたり手触りがぐにぐにしてる人はおっかなびっくりですけどね」
勇「……なぁ、ナナシ、こいつらなんで集まってると思う?」
唐突に勇儀さんが尋ねてきた。
ナ「酒が飲みたいとかただ騒ぎたいからじゃないんですか?」
勇「あっはっは、まぁそれもあるんだろうけどな」
笑いながら勇儀さんは酒を飲み続ける。
勇「怖いのさ」
ナ「え?」
勇「恐れているんだよ、鬼の力を」
そう言う勇儀さんは少し哀しそうな顔をしているように見えた。
勇「ここじゃ力が全てと言っても過言じゃない。現にお前が襲われなくなったのは私の威光があったからだ」
ここに来てすぐ襲われかけたのを勇儀さんに助けられたのを思い出す。
勇「まぁ、今となっちゃお前自身の人徳で襲われないだろうけどね」
ナ「そうですかね」
勇「あぁ、そうさ」
あまり自覚はないのだが、勇儀さんが言うならそうなのだろう。
勇「話を戻すが、こいつらの集まりの良さの一因に恐怖心があることは疑いようのない事実だ」
ナ「…………」
勇「だけどさ、お前は違うだろ?」
ナ「そうですね、恐怖心はないと思います」
少なくとも今日は見知った人だから声をかけるなんて当たり前と言ってもいいくらいの行動理由だった。
勇「鬼が人間にビビられないってのはある意味問題なんだが…まぁ、それは置いといてだな…」
ナ「?」
勇「何が言いたいかっていうと、その、あれだ」
勇儀さんは頭を掻くと、僕の眼を見て微笑んだ。
勇「お前のことはダチだと思えるってことだ」
ドクン……
ナ「そ、それは光栄ですね」
心臓が高鳴り、顔に熱がこもる。
勇「なんだい、顔が真っ赤じゃないか。酔いが回ってきたのかい?」
ナ「そ、そうかもしれませんね」
勇儀さんが鈍くて助かった。
勇「ほら、こっちこい」
ナ「え?」
勇「こいつらの面倒見た褒美だ、私が直々に介抱してやるよ」
ナ「わ、悪いですしいいですよ」
勇「黙ってこっちこい」
ナ「…わかりました」
言われるがままにそばに寄った。
勇「硬いかもしれんがこれで我慢しな」
ナ「わっ!?」
力ずくで引っ張り込まれ、膝の上に寝かせられる。
もしかしなくても膝枕だった。
喧嘩なんかで相手を遥か彼方へ吹っ飛ばす蹴りを出している足と同じだとは思えないほど勇儀さんの膝枕は柔らかかった。
勇「こんなこと、してやるのはお前くらいだ。ありがたく思えよ」
ナ「ありがとうございます」
次第に眠気が強くなり、気が付けば、というより気が付かないうちに僕はまどろみの中に沈んでいった。