東方地恋譚   作:月の海

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第16話

朝帰りしたことでヤマメさんに大目玉をくらってしまった。

 

とりあえずほとぼりが冷めるまでは家にいるべきではないと判断したので散歩がてら近くを回ることにした。

 

妖怪A「お、坊主。昨日はありがとよ」

 

酒場の前を通ると昨日の酒盛にいた人から声をかけられた。

 

感謝の言葉は介抱のことを指しているんだろう。

 

ナ「いえいえ、というか坊主って年でもないと思うんですけど」

 

正確な年齢はわからないけれど。

 

妖怪B「俺たちからすれば人間ならジジイだって坊主だぞ」

 

そう言われてようやく年齢差を実感した。

 

ナ「そういえばそうでしたね。見た目のせいでどうにも」

 

妖怪C「あら?見た目だけで中身は婆さんだと言いたいのかしら?」

 

すぐ目の前まで迫られ、少しだけ鼓動が早まった。

 

妖怪A「事実、そうじゃねぇか」

 

妖怪C「あぁん!?」

 

妖怪A「おぉ、おっかねぇおっかねぇ。坊主、こういう女は嫁にするもんじゃないぞ」

 

妖怪C「いい度胸だねぇ」

 

二人はそのまま喧嘩を始めた。

 

妖怪B「あいつらなら心配ない、痴話喧嘩みたいなもんだ」

 

ナ「なんとなくわかります」

 

妖怪D「そんなことより一緒に飲もうよ」

 

見た目で言えばさとりさんくらいの子から酒を勧められるのは違和感がすごかった。

 

ナ「いただきます。ちなみにおいくつで?」

 

妖怪D「えへへ、秘密~♪ただ一つだけ言うなら、この中で一番年上だよ」

 

もう見るものすべて、何も信じられなくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

パ「何?昼間っから飲んでたの?」

 

ふらふらしていると今度はパルスィさんに声をかけられた。

 

ナ「酒臭いですか?」

 

パ「えぇ、とっても」

 

飲んだ量自体は大したことないが結構長いこと付き合ってたので慣れて鼻が利かなくなっているらしい。

 

まいったな、ヤマメさんにまた怒られるのは勘弁願いたい。

 

ナ「あ、パルスィさんこの後暇ですか?」

 

パ「え?えぇ、用事済んだから帰るところだったし」

 

ナ「(酒の匂いを流したいので)風呂を貸してもらえませんか?」

 

パ「は!?ちょ、ちょっと何言ってるのよ!?」

 

ナ「パルスィさんと会えたし、(ヤマメさんに怒られるので)このまま帰りたくはないんです」

 

パ「だ、だからって突然そんなこと言われても…」

 

ナ「ダメですか?」

 

パ「そうじゃないけど…心の準備が…」

 

散らかっていたりするんだろうか?

 

ナ「僕は気にしませんよ?」

 

パ「私が気になるのよ……私達そういう関係じゃないでしょ?」

 

例え掃除が出来ないような人だったとしてもそんなこと気にしないのだが。

 

パルスィさんは気兼ねなく話せる友人だと思っている。

 

ナ「僕はそういう関係だと思ってたんですけど、違いますか?」

 

パ「~~~~~~~っ!?」

 

ボッと音を立てそうなほど、まるで火でも点いたかのようにパルスィさんの顔が赤くなった。

 

ナ「ちょ、落ち着いて!はい、深呼吸」

 

パ「すぅ~……はぁ~……」

 

ナ「落ち着きました?」

 

パ「えぇ……」

 

突然のことで吃驚したがどうやら落ち着いてくれたらしい。

 

パ「もう、わかったわよ……アンタがそこまで言うなら私も……覚悟決めるから」

 

ナ「ありがとうございます」

 

パ「それじゃあ…ほら…」

 

パルスィさんがこちらに手を差し出してくる。

 

ナ「?」

 

パ「そういう関係なら手を繋いだっておかしくないでしょ?」

 

ナ「そうですね」

 

差し出された手を握った。

 

パルスィさんの小さな手は僕の手の中にすっぽりと収まった。

 

ナ(こうして男女で手を繋いで歩くとまるで恋人同士みたいだな)

 

そう思ったときふと勇儀さんの姿が頭をよぎった。

 

あの人の手はどんな感じなんだろうか?

 

膝枕のことも記憶から蘇って顔が赤くなる。

 

赤い顔した二人が手を繋いで歩いている。

 

周りがそれをどう思ったのか、その考えに至るのは少しばかり先の話だった。

 

 

 

 

パルスィさんの部屋はシック調で統一されていて、なんで渋ったのか分からないほど綺麗に片付いていた。

 

パルスィさんって潔癖症だったんだろうか?

 

これで汚いなんて言ったら(ヤマメさんの)ウチなんか……

 

……ビクッ!

 

何故か寒気がした。

 

パ「寒いの?」

 

上目遣いで尋ねてくる。

 

ナ「いや、なんとなく嫌な予感がしたというか」

 

パ「そう?それなら先に浴びてきてもいいかしら?」

 

家主よりも先に浴びるほど切羽詰まった状況ではないので承諾した。

 

パ「それじゃあ先に浴びてくるけど物色とかしたら許さないわよ」

 

ナ「しませんよ!?」

 

ふん、と鼻を鳴らしてそのまま浴場に向かっていった。

 

特にすることもないので少し辺りを見渡すと花瓶に差された花が目に入った。

 

活けられているのはオキナグサという自生が珍しい花だった。

 

なぜそんな花を僕が知っているかというと、以前パルスィさんに頼まれて摘んできたことがあるからだ。

 

たぶん、この花がその時の花なんだと思う。

 

見た目はどう考えてもこの部屋に不似合いな花なのになんでパルスィさんは欲しかったんだろうか?

 

この後訊いてみようかな?

 

そんなことを考えている内に戸口の開く音と共にパルスィさんが現れた。

 

ナ「!!?」

 

出てきたパルスィさんの姿を見て思わず動揺してしまった。

 

襦袢しか身に着けておらず、濡れた髪や上気した肌からは艶めかしさを感じてしまう。

 

ナ「な、…なな……」

 

パ「恥ずかしいからこっち見ないでよ……さっさと次入って」

 

パルスィさんに言われてようやく視線と逸らした。

 

そして入れ替わるように今度は僕がお湯を浴びた。

 

鼻が利いていない今の状況下では酒臭いのかどうか判断しかねるので念入りに洗い流した。

 

浴衣を着直し、息を飲んで戸を開けた。

 

パルスィさんはベッドに座って水を飲んでいた。

 

格好はさっきと変わらない。

 

今度は視線が釘付けにならないように目をそらしたまま話しかける。

 

ナ「寝るんですか?」

 

パ「……えぇ」

 

グラスを置いてパルスィさんはベッドに仰向けに倒れ込んだ。

 

ナ「そ、それじゃっ、僕はこれでっ!!お風呂ありがとうございましたっ!!」

 

捲し立てるように早口でお礼を言って玄関に直行しようとする。

 

パ「え、ちょ、ちょっと待ってよ!!」

 

パルスィさんは何かに驚いたように急に起き上がって僕を呼び止めた。

 

パ「私、何かしちゃった……?」

 

急に震えるような声で尋ねられて驚く。

 

ナ「いえ、その、パルスィさんこれからお休みみたいですし……それに、その、パルスィさんの今の格好は僕にはちょっと刺激が強すぎるので……」

 

パ「え?…………………ぁ」

 

少しばかりの思考の後、何かを理解した様子のパルスィさんは額を押さえた。

 

ナ「具合でも悪いんですか!?」

 

パ「えぇ……とっても頭が痛いわ」

 

ナ「横になってください!えっと薬はどこですか?」

 

パ「薬はいいから、ちょっと席を外してもらえるかしら」

 

僕がいるせいで逆に気を遣わせてしまうのは心苦しい。

 

ナ「それじゃあ外で待機してますから何かあったら言ってください」

 

パ「帰っていいわよ…(そうよね、この鈍感男があんなに積極的に迫ってくるわけないわよね……)」

 

小さい声で何か呟いたようだったが聞き取ることはできなかった。

 

ナ「ゆっくり休んでくださいね」

 

そう言い残して僕はパルスィさんの居室から去った。

 

 

 

 

 

 

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