ナ「ただいま」
ヤ「おかえり」
どうやら怒りも治まったらしい。
ヤ「くんくん……少しだけお酒の匂いがするけど、飲んできたにしては薄いかね」
ナ「え、えぇ、酒場の近くで立ち話しましたから多分そのせいかと」
ヤ「ならいいわ。もし酒でも飲んでくるようなら縛り上げて逆さ吊りにでもしてやろうかと思ってたんだけど杞憂だったみたいね」
ナ「あ、あはは…」
乾いた笑いしか出ない。
パルスィさんのところで風呂を借りて本当に良かった。
……本当に良かった。
ナ「あ、その、一つ訊きたいことがあるんですけど」
ヤ「何よ?」
ナ「勇儀さんのことなんですけど」
ヤ「?」
ナ「ヤマメさんは勇儀さんのこと怖いですか?」
どうしても確かめたくて訊いてみた。
ヤ「ん~…まぁ怖いね」
ナ「そうですか…」
やっぱり勇儀さんの言う通りなのか。
ヤ「それ以上に慕ってるけどね」
ナ「え?」
ヤ「何百年来の付き合いだと思ってるのさ」
ヤマメさんは笑いながら答えた。
ついさっき僕の常識の枠から外れた人達なんだと思い出したばかりなのにまた忘れていた。
ナ「……やっぱり僕とは違うんですよね」
ヤ「なにも変わりゃしないよ。違うとしたらキレたとこを見てないくらいさね。それだけでもだいぶ違うよ?」
確かに見たことがない。
いや、それ以前に勇儀さんについてほとんど僕は知らない。
ナ「…勇儀さんにダチだと思えるって言われたんです」
ヤ「へぇ、珍しいね。でもアンタはそうじゃないんだろ?」
ナ「!!」
ヤ「分からないとでも思った?恋だって熱病、私の領分さ」
ナ「いや、それはおかしい」
ヤ「でも、図星だろ?」
ナ「う……でも、僕は人間だし、勇儀さんのことほとんど知らないんですよ?」
ヤ「人間だからとか妖怪だからとか気にすることはないし、最初から全部知って付き合うやつの方が少ないよ。要はアンタがどうしたいかだ」
ナ「僕は……」
ヤ「答えは私にじゃないだろ?」
ナ「…そうですね」
立ち上がる。
ヤ「いいこと教えてあげる。ここには半妖、あるいはごくごく少量ながらも人間の血が入ってる奴が少なからずいるよ」
ナ「…ありがとうございます」
ヤ「そら、行ってこ~い♪」
背中を叩き出されて僕は勇儀さんを探しに走り出した。
勇儀さんに告白するために。
勇儀さんの家に向かって歩いている。
宴会後とはいえ、勇儀さんが外にいる可能性は大いにあるが。
とりあえず行ってみてから考えよう。
妖怪G「こんばんは」
ナ「こんばんは」
道すがら挨拶されては返すを繰り返す。
キ「こんばんは~、また桶の修理手伝ってもらってもいい?」
ナ「こんばんは」
…………
キ「……あれ?何かあったのかな?ん~、明日でいっか」
…………
勇「おう、ナナシ。今日も飲みに行くかい?拒否権はないよ」
ナ「こんばんは」
…………
………ん?
気が付いたときには頭をガシッと鷲掴みにされていた。
ナ「痛い痛い痛い!!」
勇「いやぁすまない、私の誘いを無視するから加減が効かなくてねぇ」
ナ「すまないって言いながら更に力を入れないで!!頭割れるっ!!割れますから!!」
勇「……ふん」
鼻で鳴らすとすぐに解放してくれた。
ナ「ホントすみません。考え事してたので」
勇「是非聞かせてほしいもんだね」
ここで「貴女のことです」とは言い辛い。
ナ「その……人にはあまり聞かれたくないことなので勇儀さんの家にお邪魔しても構いませんか?」
勇「……あぁ。その様子じゃ端から私の家に向かってたみたいだしな」
仕方ないと勇儀さんは身を翻して帰りはじめた。
僕は勇儀さんの後ろをついて行った。
ナ「おじゃまします」
勇儀さんに時々部屋の掃除を頼まれるのでここにくるのは初めてではない。
ただ、最近は来ていなかったので少し散らかっていた。
勇「まぁ座りな」
酒瓶をどかして場所を確保してくれた。
ナ「失礼します」
勇「それで、何悩んでんだい?」
覚悟を決めよう。
ナ「好きな人に告白しようと思ったんです」
勇「女か。………女か?」
ナ「女ですよっ!?人をなんだと思ってるんですかっ!?」
勇「いやぁ、ヤマメと一緒に暮らしていながら手ぇ出してないみたいなんでな。もしかして相手はヤマメかい?」
ナ「違いますよ」
勇「じゃあ誰なんだ?」
一度深呼吸して、改めて目の前の女性を見つめ直した。
ナ「貴女です」
勇「……は?」
理解が追い付かなかったらしい。
ナ「すみません、ダチだって言われたその日のうちに」
勇「え、は、ちょ、ちょっと待て!私か?星熊勇儀か?」
ナ「はい、僕は星熊勇儀さんが好きです」
勇「……こんなガサツで暴力的な女のどこがいいんだよ」
ナ「さぁ?」
勇「おい」
ナ「どこがと言われればよくわかりません。この部屋見たら、うわぁ…とも思いますし」
勇「悪かったな」
ナ「でも、そんなとこは関係なく…いや、そんなとこも含めた星熊勇儀という女性が好きなんです」
勇「いや、でも、根本的な問題として私達は妖怪と人間じゃないか」
ナ「それなら既に解決済みです。ヤマメさんに言われましたよ、『人間だからとか妖怪だからとか気にすることはない、要は自分がどうしたいのかだ』って」
勇「あいつめ」
ナ「それで、答えをいただけますか?」
勇「…………」
ナ「…………」
勇「……そうだな、ヤマメの言う通りだ」
そう言うと突然勇儀さんは僕を押し倒した。
勇「好物を前に我慢なんて私の性に合わない。だから好きにやらせてもらう」
ナ「っ……勇儀さ、んんっ…」
強引に口を塞がれる。
勇「んっ…………ぷはっ…お前が悪いんだぞ。ダチだって線引いて柵建ててやったのに自分で乗り越えてきたんだ……っ……鬼に、襲われても文句は言えねぇよ」
それからしばらくはキスの雨が降り注いだ。
…………
………
……
…
落ち着くと隣で横になっている勇儀さんが声をかけてきた。
勇「今日も飲みに行くかって言っただろ?」
ナ「?」
勇「覚えてねぇのか、まぁいい、あれはキャンセルだ」
勇儀さんが酒を飲みに行くのをやめるなんてよっぽどだ。
ナ「なにかあるんですか?」
勇「……部屋、掃除する」
照れくさそうな顔をして答える勇儀さん。
これを見られるのは僕だけだろう。
ナ「一緒にしましょうか?」
勇「いや、私がやるからお前は黙って見てろ」
一緒にいるのは確定らしい。
ナ「わかりました。でも、とりあえず今は寝ましょうか」
勇「あぁ、そうだな……おやすみ」
ナ「おやすみなさい」