手放した意識を取り戻した時、初めて見えたのは勇儀さんの寝顔だった。
赤で染まっていたはずの顔も服もまったくのいつも通り。
動かなかった腕も少し痺れる程度で痛みもない。
あれは夢でも見ていて、寝ている間勇儀さんに腕枕をしていたと言われれば思わず納得してしまいそうだ。
視界の左半分が失われていることを除けば、だが。
コンコン……
「入っても大丈夫でしょうか?」
ドア越しに誰かから入室の許可を求められた。
ナ「はい、どうぞ」
「おや……失礼するよ」
最初の敬語とは打って変わってフランクな雰囲気で中に入ってきたの帽子をかぶったツインテールの少女だった。
「どうだい盟友、体の方は大事ないか?」
ナ「え?あ、左目以外はほとんど何もなかったくらいですね」
「まぁ私達の技術と竹林の医者の医学が融合した最先端医療だからね、当然さ」
えっへんと胸を張る。
ナ「盟友?」
「あぁ、人間と私達河童は盟友なのさ」
目の前のこの少女は河童ならしい。
に「自己紹介が遅れたけど私は河城にとり、にとりでもにとりんでも好きに呼んでくれていいよ」
ナ「じゃあ河城さんで」
に「…………」
ナ「あの……何か?」
に「あ、いや、ごめん、ちょっとね。君はナナシ君でいいかな?星熊様のお手付きだし、様付けがいいならそうするけど?」
ナ「君でお願いします」
様なんて柄じゃない。
に「……君はあれと瓜二つなのに中身のギャップがすごいね」
ナ「僕と似てる人がいるんですか?」
に「ぶふっ!!」
ナ「!?」
唐突に吹き出した河城さんに面食らう。
に「ご、ごめっ、……あははははは。き、君が悪いわけじゃないよ……~~っ……ただ、ちょっと……はははははは……あいつが…僕……」
ツボにはまってしまったらしく河城さんはしばらく笑い転げていた。
に「ふ~っ…ふ~っ…、ホントごめんね。さっきも言ったけど君が悪いわけじゃないから」
ナ「大丈夫ですよ」
に「~~~っ!!」
一度決壊してしまったのを立て直すにはまだ早かったらしく、今は僕が何を言っても河城さんの琴線にふれてしまうようだ。
勇「それくらいにしておけよ、笑いに来たわけじゃないんだろ」
隣で寝ていた勇儀さんが不意に窘めた。
に「ひゅい!?星熊様!?いらしてたんですか!?」
河城さんの位置からは僕が妨げになって勇儀さんが見えていなかったらしい。
ナ「おはようございます」
勇「あぁ、おはよう」
に「えっと…その…いつから起きてらっしゃいましたか?」
勇「そうだねぇ、こいつが返事したから私がいないと思って敬語をやめたところからかね」
ナ「つまり、最初からですね」
勇「おかげで珍しいものが見れた」
に「う……」
勇「私の次にあいつと仲良かったのはお前だから、その反応は分からんでもないがな」
僕に似ているというその人は二人の共通の友人らしい。
勇「用件を言ったら一度出ていってくれ。……こいつにあいつのこと話すからな」
に「……体の具合が訊きたかったのはもう済んだのでその左目のことをお伝えにあがりました。失われた左目の再生技術にまだ目途は立っておりません、未熟な我々をお許しください」
帽子を取り頭を下げた。
ナ「頭を上げてください、腕を治していただけただけでも十分すぎるくらいですよ。おかげでまたこうして勇儀さんを抱けるんですから」
顔を上げた河城さんに少しでも伝わってくれるように少々オーバーに勇儀さんを抱き締めて見せた。
に「…………」
河城さんは何も言わず目が隠れるくらいに帽子を深々と被った。
に「必ずなんとかしてみせますから……!!」
力強い意志の表明だった。
に「……それじゃあ、ここは面会謝絶にしておきますから」
河城さんが出ていくと少しためてから勇儀さんが口を開いた。
勇「……今から話すのは遥か昔の話だ」
ナ「…………」
勇「人間に恋した鬼の話」