東方地恋譚   作:月の海

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第20話

よく晴れた秋の日のことだった。

 

私は誰にも知らせず一人で山の中を徘徊していた。

 

白狼天狗の奴らなら気付いているかもしれないがこの私を止めるような奴はいなかった。

 

天狗共は露骨な媚びが私をイラつかせるだけだと分からなかったのだろうか。

 

敢えてやっていたのかもしれないが。

 

とにかくあの時の私は機嫌が悪かった。

 

そして、気を紛らわすために酒を飲みながら何かうまいもんでも…と思っていた私の前に都合よくカモがやってきたんだ。

 

そいつはいもやらなすやらを抱え込んで歩いていた。

 

勇「おい、そこの人間、命が惜しくばその食い物を置いていけ」

 

大抵の生き物ならこれだけで逃げ出すはずだった。

 

だが、そいつだけは違った。

 

「嫌だね」

 

勇「……は?」

 

予想できなかった答えに、思わず疑問で返しちまったよ。

 

「聞こえなかったか?嫌だ、って言ったんだよ」

 

…………

 

「これは豊穣の神様への捧げ物、つまり神様のもんなんでな。俺の勝手でどうこうしていいもんじゃねぇんだ」

 

勇「自分の命が惜しくはないのか?」

 

機嫌が悪かったのも忘れて、純粋に訊きたくなったんだ。

 

「惜しいに決まってるだろ、だからこうして説得してるんじゃねぇか。アンタもしかして馬鹿か?」

 

笑ったね、私を馬鹿呼ばわりしたのは後にも先にもこいつだけだ。

 

勇「名は?」

 

「名無し」

 

勇「名がないのか?」

 

「違う、俺には親がいないんでな。誰も俺の名がわかんねぇからナナシって名前なんだよ」

 

勇「ナナシ、私はお前のその度胸が気に入った」

 

ナ「そりゃあどうも」

 

勇「お前とはもっと話をしたい、酒でも飲みながらな。だからまた明日ここに来い」

 

ナ「俺が従うと?」

 

勇「好きにしろ、私はお前が来ようが来なかろうがここで飲んでいる」

 

ナ「…………」

 

勇「それじゃあ、また会おう」

 

ナ「……待てよ」

 

私を呼び止めて投げてきたのは手にしていたさつまいも二つだった。

 

勇「……神への供物ではなかったのか?」

 

ナ「なぁに、一つや二つくらいばれやしねぇよ。言っとくが一つは俺のもんだからな、食うなよ」

 

その日はこれで別れた。

 

これが忘れもしない「ナナシ」との出会いの日だ。

 

 

 

 

 

 

 

ここからはちょっと飛ばすぞ。

 

あんましだらだら話すようなもんでもないしな。

 

私達はそれから幾度となく逢瀬を交わしていった。

 

互いに酒と食いもんを持ち寄って語り合った。

 

里のこと、山のこと、笑い話、泣ける話、自分の生い立ちに至るまで話せることは何でも話した。

 

何度目かの会合で、私がナナシを襲おうとしてると思ってにとりが割って入ってきてからは三人でも飲んだ。

 

にとりは酒が入ってようやく緊張が解けるタイプだったな。

 

さっきみたいな素面であんなにテンション高かったのを見たのは初めてかもしれん。

 

鬼と人間と河童、周りから見れば相当におかしなメンツだったろうが私は気にも留めなかった。

 

そう、気にも留めなかったんだ。

 

私らの寿命の感覚じゃ、あの頃の日々なんて一瞬と言ってもいいくらいだったがその瞬間は私にとっては輝いていたんだ。

 

だからそれに目が眩んで道を踏み外した。

 

時は流れ、私の正面で飲んでたあいつが隣にいるのが当たり前になった頃のことだ。

 

唐突にあいつは山に来なくなった。

 

それまでだって毎日会っていたわけじゃなかったし、私だって行かなかった日もある。

 

だが、次の日、また次の日と、待ち続けてもあいつは現れなかった。

 

雨の日も、風の日も、雪の日も……

 

とうとう痺れを切らした私は天狗を使ってあいつの動向を探らせた。

 

帰ってきた天狗はどう話すべきか迷っている様子だった。

 

『里に女でもできていたのか?』

 

それならば、まぁ私に構っている場合ではないか。

 

私をその気にさせておきながら別の女に手を出したとなれば黙っちゃいないが。

 

その程度に楽観視していた。

 

だが、天狗の進言はそんな幻想を容易くぶち壊した。

 

『その男は既に死亡していました』

 

意味が分からなかった。

 

『つまらない冗談はよせ』

 

衝動的に天狗の襟首に掴みかかっていた。

 

『ど、どうやら妖怪と行動を共にしているところを他の村人が見かけ、人の皮を被った化物だと粛清の憂き目に遭ったようです』

 

つまり、私らと会っていたことが脅威とみなされて殺されたんだ。

 

あいつの場合、他の妖怪にも顔が利いてもおかしくはないが。

 

『その男は一切口を割らなかったそうです』

 

この辺りからもう天狗が何を言っていたか覚えていない。

 

頭の中にはあいつが死んだことと殺した里への憎悪しかなかった。

 

意識が戻ったときに残ったのは、私は一つの村を潰したという事実だけだ。

 

力の勇儀が聞いて飽きれるよな。

 

私は惚れた男一人も守れもしなかったんだ。

 

この一件以後、私は妖怪の山を去り、地底へと潜った。

 

 

 

 

勇「これが私の初恋の末路だよ」

 

話し終えた勇儀さんは一息ついた。

 

勇「終わったはずだったのに、そのツラでこんなとこまで来やがって」

 

ナ「あはは…すみません」

 

勇「中身は全然違うのによ、結局また好きになっちまった。私って面食いだったのかねぇ」

 

ナ「僕にとってはありがたい話ですけどね」

 

勇「馬鹿」

 

短く罵ると勇儀さんはいつもより加減なく痛いほど強く抱き締めてきた。

 

勇「もう私の前からいなくなったりしないでくれよ…」

 

…………

 

ナ「当り前なこと言ってんじゃねぇよ、馬鹿。死ぬまで一緒にいてやるから覚悟しとけ」

 

耳元で囁いた。

 

勇「…………」

 

ナ「……こんな感じですか?」

 

勇「…………」

 

何も答えてくれないと恥ずかしいんですが。

 

勇「ははっ……似合わねぇ」

 

 

 

Fin




あとがき

作「勇儀編終了です、いかがだったでしょうか?」

勇「まず、アンタ的にはどうなんだい?」

作「想定してた区切りだと1000文字にいかなくなって次の話とつなげたりしてしまったので長さがまちまちになってしまいました、すみません」

ナ「メモ帳の数はこれまでで一番多かったね」

作「友人からは『このままお燐、ヤマメに進むにつれて数増やしていかないとなww』とプレッシャーかけられてます」




勇「それにしても私がこいつの告白を受け入れると思わなかったんだが」

ナ「僕も自信なかったですね」

作「私も予想外でした」

勇「……は?」

作「いや~、ダイスの女神様が微笑んでいたとしか思えませんね」

勇「つまり、ダイスで決めたと?」

作「えぇ、最初は姉御的立場から一度は断るとかいろいろ考えてたんですがまさかの一発成功だったのでそれに見合った理由を作らなきゃならなくなったんですよ」

勇「人の告白をそんなもんで決めるんじゃねぇ!!」

ピチューン

ナ「作者さんが一回休みとなったところで今回はお開きです」

勇「こんな適当な作者だが、まぁ(こいつが)ダメになるまで付き合ってやってくれよ」

ナ「お疲れ様でした」
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