さとりさんのところで働き始めてから早数ヶ月の時が流れた。
仕事の方にもすっかり慣れて、仮にお燐ちゃんと一緒でなくとも十分にこなすことができるだろう。
だが、そんなことよりも(というとさとりさんに怒られそうだが)僕は今、一つの問題を抱えていた。
お燐ちゃんが気になって仕方がない。
一緒に働いているとこれまで知らなかった、見たことがなかった彼女が見えてきて惹かれてしまう。
思えば、働き始めたあの頃から既にそうなっていたかもしれない。
あの屈託のない笑顔を見てからというもの、この女の子を意識してしまっている。
僕の膝の上で寝こけているこの子を。
今日はさとりさんが自分でやると言って僕達は休みをもらっていた。
でも、特にすることのなかった僕達はこうして縁側でまったりと過ごしていた。
好きな子に膝枕してるこの状況は役得だとは思う。
しかし、このまま先に進むこともできない諦観めいたものも感じてしまう。
僕の葛藤など知る由もなく、お燐ちゃんはお昼寝中だ。
すぅすぅと寝息を立てるお燐ちゃんはやっぱり可愛かった。
ナ「ねぇ、お燐ちゃん」
頭を撫でながら声をかけるがもちろん返事はない。
顔をそっとお燐ちゃんの顔のそばに近づける。
ナ「好きだよ。僕と付き合ってくれないかな」
耳元でそう囁いた。
直接言う度胸のない自分にできる精一杯の告白。
返事なんか期待していないただの自己満足。
顔を離して、お燐ちゃんの寝顔を眺める。
顔を真っ赤にして、眼を見開いていた。
こちらを見るその瞳に映るのは、慣れないことをした恥ずかしさから同じように顔を赤くした自分の姿。
ナ「…………」
燐「…………」
お燐ちゃんの口はパクパクと開いてはいるものの声にはなっていない
ナ「……聞いてた?」
コクンと小さく頷いた。
ナ「あ……その……ごめん、忘れて」
燐「…………」
お燐ちゃんは無言で跳ね起きるとそのまま戸口を開けた。
燐「……お兄さんがあたいなんかでいいなら……喜んで」
ナ「え」
訊き返そうにもお燐ちゃんは走って出ていってしまってもう影も形もない。
ナ「えっと……告白成功…?」
実感が湧かない。
今すぐにでも追いかけてちゃんと話したいけれどきっと無理だろう。
だから、明日はちゃんと話さないと。
全速力で走り帰ってきたあたいは真っ先に自分のベットに飛び込んだ。
ありのままさっき起こったことを話すよ!
まどろみの中名前を呼ばれたと思って目を覚ましたらお兄さんに告白されていた。
な…何を言ってるのかわかんないと思うけど、あたいもどうしてこうなったのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
夢だとか妄想だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったよ…
だから捨て台詞みたいにOKの返事だけして逃げ帰ってきてしまった。
燐「お兄さんに変な子だって思われたよね……」
でも、お兄さんがあたいのこと好きって……
燐「~~~~~っ!!」
枕に顔を埋めて落ち着こうと努めるけど、嬉しさのあまりそのままベッドの上をごろごろと行ったり来たりしてしまう。
さっきは起き抜けでそこまで頭が回らなかったので嬉しさが今になって押し寄せてきた。
でも、だからこそさっきの別れ方は不安が残ってしまう。
今からでもちゃんと話に行きたいけど―
燐「どんな顔すればいいかわかんないよぉ~…」
さ「笑えばいいと思いますが」
燐「に゛ゃっ!?」
部屋の入り口にいつのまにかさとり様が立っていた。
燐「さとり様…あの…いつからそこに…?」
さとり様は珍しくも満面の笑みを浮かべた。
最初からだ!!絶対この笑顔は最初からだよっ!!
恥ずかしさで死ねる、灼熱地獄なんかよりも熱いこの熱で融けてしまえればいいのに。
さ「あの方を遺して逝くつもりですか」
心の声にツッコミを入れられる。
さ「だいたい何があったかは察しが付くというか察しました。お燐、あの方と会うのは明日にしなさい」
燐「どうしてですか?」
さ「だって貴女、今の顔のままだと……いえ、恋人達には些細なことなのでしょうね」
燐「ちょっ、あたいの顔どうなってるんですかっ!?」
さ「鏡を見てきたらいいでしょう?それと、帰ってきたらちゃんと手を洗いなさい」
それを言いに来たのだろうさとり様は退室した。
流し場に行ったあたいが見たのはにやけが止まらないだらしのない笑顔だった。
明日までにはきっと落ち着くはずだ。
そう、明日はちゃんとお兄さんに……