ナ「僕が送りたいだけだよ」
燐「まぁ、それならいいけど。お兄さんと散歩してるみたいでこれはこれでいいしね」
正直に言ってしまえば、下心がある。
楽しんでくれてるお燐ちゃんには悪いと思う。
僕はただ、さとりさんに相談したかったから送るのを建前にしているだけだ。
思考がどんどんマイナスになってしまうから、今、あの家で一人でいたくなかった。
時折話しながら地霊殿への道程を歩いて行った。
~Side さとり~
今日も屋敷から出ず、蔵書の整理と読書とペットとの戯れで一日が終わろうとしていた。
退屈とは言わないけれど、変化がないのは確かだった。
机に頬を乗せ、くたぁ~、と脱力する。
自堕落にも思うが誰に見られる訳でもない。
その思考が間違いだった。
燐「さとり様、ただいま帰りました」
さ「おかえりなさ~い…」
入ってきたお燐に手を振って答える。
ナ「おじゃましま~す」
さ「!!!」
ひょこっと顔を出したナナシを見て心臓が跳ね上がる思いだった。
さ「ちょ、ちょ、ちょっと外で待ってなさいっ!!」
ナ「は、はいっ!!」
勢いよく扉を閉め彼は出ていった。
さ「お燐、客人がいるならそう言いなさい」
燐「すみません、さとり様」
さ「まぁ間髪入れずに入ってきてしまったのだからどうしようもなかったわね」
燐「さとり様、あんな声出せたんですね」
さ「忘れなさい」
燐「はぁ~い」
もはや心を読まなくても良いレベルだった。
さ「まったく………」
燐「それであたいも外に出てた方がいいですか?」
さ「…その…髪梳いてもらえるかしら…?」
燐「お任せくださいさとり様」
彼が中に入ってこれたのはそれから四半刻後のことだった。
さ「すみません、お待たせしてしまって」
ナ「
さ「いいのですよ」
私があんなにふやけてたのも悪いですし。
さ「……見ました?」
ナ「
しっかり見られてました。
さ「何でもないです」
ナ「?」
私にしてみれば恥ずかしいところとしか言いようがないですが、彼が気にしてないようですから触れないでおくのが吉ですね。
さ「それで、今日はどうしたのですか?」
ナ「
思いがけない台詞に顔が赤くなる。
さ「!!お、お燐は楽しんでいたようですし…それに…その…貴方なら、好きにいらしてくれてもいいのですよ…?」
あれ?今、恥ずかしいことを言ってしまいましたか?
ナ「
彼の鈍さに救われたような残念なような…
ナ「それで、その、相談なんですが」
?
…………あ
彼の言う「会いたい」というのは「相談がある」ということだったのですか…
さ「はぁ…」
頼って来てくれたというのに違うものを期待した自分に嫌気が差す。
ナ「?」
さ「いえ、ちょっと自己嫌悪してしまっただけですから…続けてください」
きっと、私に話すことと言えば星熊さんのことくらいのことでしょう。
ナ「では改めて。その、実は…好きな人がいまして―」
さ「ッ!!」
油断していた私に彼の言葉が鈍く突き刺さる。
彼に好きな人がいる。
言葉だけを受け止めるのならまだ淡い期待を持つことが出来たのかもしれない。
だが私は「さとり」。
心を見るもの者。
彼の心に映し出されたのはあの嫉妬妖怪だった。
ナ「僕、どうにもその人には嫌われてるみたいで…」
それはないですよ…
だって、あの妖怪は貴方がここに来たときからずっと―
さ「…それを私に相談してどうしたいのですか…?」
ナ「え?」
さ「だってそうでしょう?私はどうしてあげることもできないのですよ?」
ナ「それは…そうですが…」
さ「なら、なぜ!?」
私らしくもなく声を荒げてしまう。
ナ「…楽になりたかったのかもしれません」
…………
ナ「好きな人が自分のことを嫌っている事実から目を背けたくて慰めてほしくてさとりさんに話したのかもしれません…」
さ「…嫌いに…いえ…諦めることは…できないのですか…?」
ナ「…出来ません」
本心からの否定だった。
さ「私の完敗…ですね…」
ナ「
さ「それ以上は考えないでください。私のためにも…そして、貴方のためにも…」
ナ「
さ「少し外に出ませんか?」
私は彼を誘い中庭に出た。
さ「手を」
彼に向けて差し出す。
ナ「こう…ですか?」
彼は恐る恐るといった様子で私の手を掴んだ。
さ「えぇ」
彼の手を引き、並んで歩く。
私の考えがわからず彼は動揺していた。
ナ「あの…さとりさん…?」
さ「今だけは…このままで…」
そう、今この時だけは…
ナ「…………」
彼はそのまま、拒絶せずにいてくれた。
さ「…ありがとうございます」
これが私の彼への最後の我儘。
それから庭を半周程して、ベンチに腰掛けた。
ここが私達の終着点。
さ「今日は色々とすみませんでした」
ナ「こちらこそ、無神経ですみません」
さ「なんだか眠くなってしまったようです」
ナ「なら、そろそろ中に…」
さ「いえ、ここで」
彼の肩に寄り掛かる。
正直に言うと鼓動が早くて寝るどころではない。
それでも目を閉じ寝るフリをする。
ナ「さ、さとりさん!?」
さ「夢の中で寝るとは初めてですね」
ナ「夢?」
さ「そう…夢ですよ。ここは私が見た夢。だから目が覚めれば貴方はここにはいないし、私もいつもの私に戻っていますから…」
あなたの望む頼れる私に。
さ「ですから…その…また来ていただけますか?」
ナ「…………」
…………
さ「そう…ですか…」
ナ「頼りにじゃなく遊びに来ます。と、現実の僕なら言うと思います」
さ「では、友人の来訪を楽しみにすることにしましょう」
ナ「
さ「
目を瞑ったまま、私は呼び捨てで呼び合うようになった友人を見送った。
燐「さとり様~?」
どこを探してもさとり様の姿が見当たらない。
外は既に雨が降り始めている。
燐「どこに行ったのかねぇ?」
ふと窓から中庭が目に入った。
燐「!?」
基本的に外に出ないさとり様がこんな雨の中、外にいるとは思わなかった。
それにあたい雨苦手だし。
あたいが外に出てもさとり様は見た時と変わらずベンチに座ったままだった。
燐「さとり様っ!!」
さ「あぁ、お燐。濡れますよ」
燐「さとり様が言うことじゃないですよ!!」
さ「私はいいのです。濡れたい気分なのですよ」
さとり様の頬を雨が伝う。
あたいはさとり様の隣に歩み寄ってベンチに腰掛けた。
スカートに雨が滲みて冷たい。
燐「あたいも今日は濡れたいです」
空「うにゅ?二人とも何してるの?水浴び?私も私も~」
背後から現れたお空があたい達に抱きつく。
三人とももうぐっちょりだ。
さ「まったく、貴女達は……風邪引いても知りませんよ?」
そう言うさとり様は笑顔だった。