インスタントな魔法使い   作:しょうゆらーめん

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私のための簡単な魔法

人は、生まれながらに平等じゃない。

個性が発現すれば嫌でもわかってしまうことだ。

はじまりは中国、発光する赤児が生まれたというニュース。

以降各地で「超常」は発見され、原因も判然としないまま時は流れる。

いつしか「超常」は「日常」に…

架空(ゆめ)」は「現実」に。

世界総人口の約八割が何らかの特異体質である超常社会となった現在…

 

「諦めなさい」

 

薄暗い病院の診察室で、私は現実を突きつけられた。

そう、「無個性」という現実を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れ、私は無個性のまま、中学三年生にまで成長した。

 

「星羅、そろそろご飯よー?」

 

「母さん、今行く!」

 

今まで弄っていたパソコンを閉じる。

まだだ。…まだ、研究が足りない。

焦る気持ちを抑えながら、私は席を立った。

 

「無個性」。

私がその言葉を受け入れるようになったのは、そう遅くなかった。

あの日、診断を受けてから、私は自分がトクベツな人間じゃないんだということを認めた。

それでも諦めきれずにいた私に訪れた転機は、簡単に私をすくい上げた。

こんな私でも、無個性でも、強くなれる…!

 

「ほら星羅、今日は雄英に行く日でしょう?早く用意しないと」

 

「うん、わかってる」

 

朝ごはんは食パン(練乳がけ)と、ハチミツ入りホットミルク。

うわぁ、とでも言いそうな顔でこちらを見てくるのは母。

胸焼けしそう、とでも思っているんだろう。

 

「いつも思うけど、食パン一枚に練乳かけすぎじゃない?どっちがメインなんだか……それに、私はそれをハチミツ入りホットミルクとは呼べないわ。ミルク入りホットハチミツよ」

 

ちょっと言い過ぎじゃなかろうか。

確かに練乳は一昨日買ったばかりのやつなのにもうほとんど無いし、ホットミルクだってミルクとハチミツはほぼ同量くらいになってしまっているが。

まだセーフのはず。

 

「ほら、早く食べて行ってきなさい。…うぇ」

 

小さく言ったって聞こえてるんだからな。

「うぇ」ってなんだ「うぇ」って。

 

「行ってきます」

 

さっさと食べて、カバンを手に取る。

携帯、筆記用具は入れた…財布も入れたっけな。

玄関先でつま先をトントンと叩いていれば、行ってらっしゃい、という声がかすかに聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

言っておくが、私が雄英に来たのは入学や受験のためではない。

()()()()で目をつけられただけである。

あらかじめ渡されていたゲストIDで雄英バリアーを突破し、陰気な教師らしき人に声をかける。

というか雄英の教師ならこの人もプロヒーローなのか?

こんなくたびれた人が?

 

「あの、茶海(さみ) 星羅(せいら)ですけど」

 

「話は聞いてる。俺は相澤消太だ」

 

行くぞ、と促され、その背中について行く。

雄英の中は思ったより広くて、キレイだった。

生徒は道に迷ったりしないんだろうか、なんて考えていれば、今までついて行っていた背中が急に停止した。

少し離れて歩いていたおかげでぶつからずに済んだ。

相澤さんが少しだけ背筋を伸ばして、大きな扉をノックする。

 

「入っていいよ」

 

「失礼します」

 

相澤さんは扉を開けて、さっさと中に入ってしまう。

 

「こんにちは」

 

私は部屋の前で一礼し、頭を上げてから違和感に気づいた。

上座に座ってるの、ネズミ?

それにしては大きいけれど、そうとしか思えない。

 

「やあ、君が茶海 星羅さんだね?私は雄英(ここ)の校長さ」

 

ネズミが喋った。一番偉い地位にいるらしい。

上座にいたから予想はついていたが、やっぱり自己申告されるまでは信じきれなかった。

 

「は、はい。茶海 星羅です」

 

どうしても緊張してしまう。

それに、さっきはネズミにばかり気を取られていたが、他の席に座る教師(ヒーロー)の視線が痛い。

その中にナンバーワンヒーロー、オールマイトの姿もあって、余計に身を固くしてしまった。

 

「緊張しなくてもいいよ。私たちが聞きたいのは、君の持つ力についてだ」

 

校長先生の表情はにこやかだが、まとう雰囲気は真剣そのもの。

 

「説明よりもまず、その力を少し見せてくれないかい?」

 

「はい」

 

できれば見せびらかすような真似はしたくなかったが、やむを得ない。

 

私はカバンからケータイを取り出し、左目をしっかり閉じて、まぶたの上から手を添えた。

そして、『スピンコイン』と題されたある動画を再生する。

画面いっぱいに、幾何学的な極彩色が表示される。

煩雑な模様が、画面を踊り狂った。

むちゃくちゃに動き回る模様は形や色を変えながら、ゆがんで円になり、ねじれて明滅し最後に円が重なり合って消えた。

側から見れば、いかにも目に悪そうな動画だ。

 

「ふぅ」

 

頭の奥に、何かが引っかかるような違和感。

これはインストールが完了した証だ。

ゆっくりと目を開く。

さっきまでは見えなかった、立体的な光の模様が視界に現れる。

私はポケットから硬貨を一枚取り出し、机に置く。

今の私にだけ見える光が、硬貨にまとわりついていた。

その光の模様を、私は指でひねる。

きっと先生たちには、私が空中で指を動かしたようにしか見えていない。

 

ギィンっ

 

硬貨は、机を削らんばかりの勢いで回り出した。

指で弾くだけでは、絶対に出ない速度。

ぐるぐると回り続ける硬貨を、先生たちは一様に驚きの表情で見つめていた。

 

「茶海少女の個性ではないんだね?」

 

オールマイトは、硬貨から視線を外して私を見た。

 

「ええ、幼い時の病院の診断書だってありますよ。…正真正銘、私は無個性です」

 

やがて、頭の違和感が薄れてくるのを感じた。

すると、硬貨が失速しゆっくりとした回転になって、しまいには机に倒れてしまった。

使用後の、心地良いような怠さ、倦怠感が訪れる。

それを表情に出さないようにしつつ、私は無言で硬貨を回収した。

 

「インスタント・マギ。略してIM。私はこれを、そう呼んでいます」

 

無個性の私が、個性持ちに追いつくために作った魔法。

 

「映像を眺めるだけで、視覚から脳を刺激し、一時的にこういう能力が使えるようになります」

 

映像のドラッグ。

いや、ドーピング?

 

「その歳で、一人でこれを完成させたのか…すごいね!」

 

パチパチ、と一人で拍手する校長先生。

でも私は、素直に喜べない。

この力がすごいものだと、まだ自分で思っていないからだ。

この能力は、まだ弱い。

所詮「インスタント」にすぎないのだ。

インスタントラーメンなんかのインスタントーーーー“簡単”で、“便利”で、“下手なヤツの料理よりは美味”で、“料理人の敵”。

IMは、確かに手軽に能力が得られる。

でも、それはまだトップヒーローたちの強い個性に比べたら全然弱い。

今後の研究次第では、その限りではないが。

 

「今、これを扱えると保証されているのは私()()です。私が無個性だから、能力と個性が反発せずに済んでいるだけかもしれない。ずっと使ってきたから万全に扱えますが、素人がいきなり使うと周りへ被害を及ぼしかねない」

 

これは、()()()()()のためのインスタントな魔法なのだ。

 

「しかし、それが(ヴィラン)に奪われると、大変なことになる。だから、君にはその力で…ヒーローに、なってもらいたい」

 

校長先生は、その黒い目で私を真っ直ぐに見据える。

他の教師たちも、私の返答を待っているようだった。

 

「雄英高校ヒーロー科の特待生として、ここに通わないかい?」

 

ああ、そうだ。

大人たちは、恐れているのだ。

無個性(弱者)強個性(強者)に抗えるようになる、この力を。

この映像がヴィランに漏れたら、ヒーローとヴィランの均衡は簡単に崩れさるかもしれない。

私ごと監視して映像漏洩を阻止しようとしている。

そして私がヴィランにならないよう、私自身の人生を制限しようとしている。

 

「いいんですか、そんなの」

 

「君は成績も優秀なようだし、向上心もある。問題無いさ!」

 

ヒーローは、誰もが一度は夢見る職業だ。

当然私もその一人で、武術を習ったりして無個性なりに努力していた。

 

雄英高校、ヒーロー科。

 

「入学、します」

 

その名を出されて、断れるわけないじゃないか。

 

「ひとつだけ、要望が」

 

「なんだい?」

 

「あるものを、用意して欲しいんです。インスタント・マギを最大限実践に使うために、必要不可欠なものです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったんですか、勝手に特待生とかで入学決めちゃって」

 

茶海の立ち去った部屋で、相澤は校長に話を振った。

校長は、少し俯く。

相澤からはちょうど影になり、校長の表情が伺えなくなった。

 

「私じゃない。もっと、上の意向なんだ」

 

上。

その言葉がさす意味を理解できないほど、相澤は馬鹿じゃない。

 

「彼女、このままだといいように利用されるかもしれないね。…だから、君のクラスにした。君なら彼女を守ってくれるだろう?」

 

校長は、いつもの笑顔で相澤にそう言った。

何から守るんだ、なんてのは野暮な質問だ。

ヴィランと、上。

厄介なモンを作ったな、と相澤は茶海に少しだけ同情した。

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