OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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寝物語


 ある日絵本が語ります

 

 古い古いお話です

 

 ある日、ある時、ある街に、光に包まれながら六人の神様が降りたちました

 

 六人の神様は言いました

 

 光の子らよ、もう何も心配する事は無い

 

 邪悪なる神は我らが煉獄の地に封じて来たと

 

 人々は喜び神様に感謝しました

 

 そして八人の欲深き王が現れました

 

 八人の欲深き王は罪と言われるありとあらゆる事を行いました

 

 人々は嘆き悲しみます

 

 だが八人の欲深き王は言います

 

 我らを止める事が出来る者など皆無だと

 

 それが出来る煉獄の王は此処には居ないと

 

 そして非道の限りを尽しました

 

 人々は涙を流して言いました

 

 なぜ煉獄の王は我らを助けてはくれないのかと

 

 誰が語ったお話なのかは解りません

 

 誰が書き記した物語なのか解りません

 

 嘘なのか

 

 本当なのか

 

 それは誰にも解りません

 

 しかし吟遊詩人は唄います

 

 キラキラと輝く長い金色の髪と全てを見抜く金色の瞳を持ち、空に浮かぶ虹の糸で織られたドレスを纏って暗闇の中を走る光を従えてかの者は有る

 

 これは昔の物語

 

 それは未来の物語

 

 そして歯車は回り出す

 

 ゆっくりゆっくり回ります

 

 二つの歯車は近づいて

 

 そして歯車は重なり合う

 

 もうすぐカチッと音がする

 

 終りが訪れ、始まりが産声を挙げる

 

 それはたぶんもう少し

 

 死者の王が目覚めるまでの僅かな時間

 

 そして二人は踊り出す

 

 へたくそな笑顔を浮かべながら

 

 不器用にステップを踏みながら

 

 二人はワルツを踊ります

 

 愛しき子らと世界を巻き込みながら

 

 愛の音で踊ります

 

 友との絆で踊ります

 

 そしてその後もう一つ

 

 二人は踊り続けます

 

 絶望か

 

 それとも希望か

 

 それはあなたの選択次第

 

 それは世界の選択次第

 

 あなたは何を望むのでしょう

 

 世界は何を望むのでしょう

 

 二人は何も知りません

 

 ふたりはただ踊ります

 

 あなたの為に

 

 友のために

 

 世界のために

 

 そして世界は歪みだす

 

 世界は誰の為にある

 

 あなたの為にあるのでしょうか

 

 二人の為にあるのでしょうか

 

 世界はクルクル回り出す

 

 ふたりはクルクル回り出す。

 

 これから先のお話は神様でも知らぬ事

 

 そう言って絵本は口を閉じた

 

 

 

 

 夜の帳が落ちた山間の村で姉は妹に本を読み聞かせていた。妹はベッドの中で眠気を忘れて姉の語る物語に聞き入っている。

 

 姉が一行一行ゆっくりと読み上げるお話に妹は一つ一つ質問を口にする。その都度姉は答えが解らない質問に困った様に「さあ」と首を傾げ返事をしていた。

 

 誰が最初に語ったのか解らないお話。誰が書いたのか解らない絵本。でもその本は古くから読み聞かされ続けていた。

 

 姉も幼い頃によくこうやって寝物語として母に読んで貰っていた。そして妹と同じ質問をしていた。あの時の母も自分と同じ顔をしていたのだろう。そう思うとなぜだか可笑しくなり、自然と姉の顔に微笑みが浮かぶ。

 

 その表情を見て安心したのだろうか、口を尖らせていた妹も同じように笑顔を浮かべ姉に問いかけた。

 

「ねえ、お姉ちゃん。王様は何て名前なの?」

 

 問われた姉は一息吐く様に押し黙ると唇に指を一本立て「内緒だよ」と念を押すとこう言った。

 

「王様の名前はね………………ビクトーリア・F・ホーエンハイム」


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