OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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最初のドミノ

 スタッファン、サキュロントの首筋に刃物を突き付け、ヤエモン、クレマンティーヌは屋敷を後にする。扉を開け外に出ると、門前に飾りっ毛の無い黒い馬車が停車していた。おもむろに馬車の扉が開き、茶色のローブ姿の男が降りて来る。

 

「お待ちしておりました。場所は確保済み、との事です」

 

 そう言う男に、クレマンティーヌ、ヤエモンの二人は小さく頷くと、乱暴にスタッファン、サキュロントの両名を馬車へと放り込んだ。

 

 スタッファンは、事の成り行きに驚愕しガタガタと震えるに留まっているが、サキュロントはと言うと視線鋭く、隙あらば逃走の機会をうかがっている。その目の動きに気付いた髑髏の仮面の少女、ヤエモンは、短く力ある言葉を紡ぐ。

 

麻痺(パラライズ)

 

 その瞬間サキュロントは一瞬痙攣し、ぐったりと身体を横たえた。

 

「静かにしてください。これは、ご主人様の決定なのですから」

 

 ヤエモンの口からは、冷たく事務的な言葉が発せられる。

 

「平常運転だねぇ」

 

 それを聞いたクレマンティーヌからは、茶化す様な言葉が漏れた。詰まらなそうな表情で。

 

「ええ。私がデレるのは……陛下の前だけ」

 

 ヤエモンの答えにドン引きしながらも、クレマンティーヌは馬車へと乗り込むのだった

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 暫しの時間をかけ、馬車は一軒の邸宅の前で停車する。御者がチリンと小さくベルを鳴らすと、邸宅のドアが開き四名程の男が現れ、スタッファンとサキュロントを屋内へと連行する。

 

 二人が連れて行かれた場所は、二階の一部屋だった。家具も何も無く、只椅子が一脚と男が一人居るだけの部屋だった。白い法服を着こみ、冷たく何の感情も映してはいない、それだけが特徴と言える男が。

 

「ほ、法国の者か!?」

 

 ガタガタと震えながら、スタッファンが叫んだ。だが目の前の男は、涼しい顔で何も答えない。そればかりか、右手に持っていた黒い何かの引き金を引いた。

 

 その瞬間、パンッ! と言う乾いた音と共に、スタッファンの左太ももに一センチ程の穴が空く。穴から流れ出す赤い体液は、ダラダラと床を濡らし、それと共にスタッファンの絶叫が邸宅内に響き渡った。

 

「叫び声ですか………………存分にお上げ下さい。この邸宅には認識阻害の結界を張っていますので、声は外に漏れませんので。あ、そうそう、初めまして、お巡りさんです」

 

「お巡りさんって何ですか?」

 

 謎の言葉を口にした男、イサブロウに対し、いつの間にか背後に陣取っていたヤエモンが疑問の言葉を口にした。その行動に対し、驚く事も気分を害す事も無く、只事実のみをイサブロウは口にする。

 

「陛下が仰っていた御言葉ですよ。お巡りさんとは、法の番人の名称であると」

 

「成程。流石は陛下」

 

 妙な事で意気投合する聖典隊長二人であった。

 

 呑気な隊長二人とは異なり、床の上でスタッファンは血を流し続け、サキュロントは驚愕の表情を浮かべていた。その光景を冷めた瞳に映しつつ、イサブロウは部屋に残る隊員の一人へと命令を下す。

 

「このまま死んでしまっても良いのですが、まだ聞きたい事がありますので、取り合えず止血をしてあげてくれますか」

 

 その言葉に隊員はすぐに反応し、スタッファンの股関節辺りを縄できつく縛りあげた。その一方でイサブロウの視線は、サキュロントへと向けられる。

 

「さて、そろそろ麻痺(パラライズ)の効果も薄れて来ていると思うのですが、どうですか? えーと、目つきの悪い方」

 

 イサブロウの軽い挑発に、サキュロントは唸り声で返す。その仕草で術からの回復を悟り、別の部下に捕縛を命じた。ぐるぐるに縄を掛けられ、芋虫の様になったサキュロントの横にイサブロウは腰を落とす。そして、見下す様な視線で見降ろし

 

「話して頂きましょうか? あなたが何者で、後に誰が居るのかを。話して頂け無いのなら……」

 

 イサブロウは言葉を切り、再びスタッファンに向け引き金を引いた。同じ様に乾いた音を響かせ、左足に風穴が開く。目を見開くサキュロントに対し、イサブロウは何事も無かった様に右手に握る物に視線を向け

 

「ああ、これですか。これは魔動拳銃(スペル・ハンドガン)と言う物ですよ。魔法を貯め込み、引き金を引くと発動する。便利な物でしょう。あ、ちなみに今込められている魔法は風属性の物です」

 

 淡々と自分の得物を紹介した。

 

 その後、視線はスタッファンを捉え

 

「さて、このままだと、アチラの方が亡くなってしまいますが、どうでしょうか? あなたの背後を話して頂けませんか?」

 

「俺の、背後、だと?」

 

「ええ、そうですよ。六腕のサキュロントさん」

 

 イサブロウが自身の名前を言った瞬間、サキュロントの表情がひきつった。目の前に居る連中は、不味いヤツラ、だと。自分が所属している組織を知っていて、それを承知で拉致したのだと。

 

「……何故だ」

 

 ポツリとサキュロントの口から、こんな言葉が漏れた。

 

「はい?」

 

 意味が解らないと言うイサブロウに対し、サキュロントの口は同じ言葉を繰り返す。

 

「何故、こんな事をする。貴様ら、法国の者だろう? 俺達とは、何も関係が無いはずだ」

 

 サキュロントの問いに、イサブロウは表情を歪め、困った様に一度天井を見つめた後

 

「いえね、それはそうなのですが……陛下の機嫌を損ねてしまったのですから………………全く運が悪い」

 

「何の、事だ?」

 

 イサブロウの言う事が、サキュロントには一切理解が出来なかった。それを理解しているのか、または不憫に思ったのか、イサブロウは続けて言葉を紡ぐ。

 

「せっかく陛下が、折り合いが付く様に譲歩して下さったのに……欲をかき過ぎましたね」

 

 譲歩、欲をかき過ぎた、二つの言葉がサキュロントの頭の中をぐるぐると回る。そして辿りついた答えに、血の気が引いて行った。あの時、あの屋敷で自分達の前に居た人物こそが……。そして、彼の人物はこう言った「戦争の始まりじゃ」、と。

 

 サキュロントは、知らずドラゴンの尾を踏んでいたのだ。自分達が強者であり、捕食者であると言う思い上がりの元、国家と言う化け物に喧嘩を売ったのだ。気付けば嫌な音が脳内で鳴り響く。それが、自分の歯がガタガタと鳴らす音だと言う事を気付くのでさえ、数分を要した。

 

「納得いただけた所で、再びお伺いします。あなたの背後を教えて頂けあすか?」

 

「は、八本指だ! 俺は! 八本指のメンバーだ!」

 

 許しを乞う様にサキュロントは叫ぶが、イサブロウはスタッファンに向け引き金を引く。三度乾いた音を立て、今度は左肩に風穴が空いた。

 

「そんな事は知っていますよ。あなたは私を馬鹿にしているのですか? 名前を聞いているのですよ。ヒルマさんですか? コッコドールさんですか? それとも、他の方達ですか?」

 

 サキュロントは口をパクパクと開閉するだけで、何も言葉が出てこなかった。

 

 この者達は知っているのだ。組織の事を。

 

 知っていて聞いているのだ。穏便に事を治める為に。ピンポイントで関係者を吊るし上げる為に。

 

「口を割りませんか。えーと、そこのアナタ。その肥え太った御仁の手当をお願いします。このままでは死んでしまいますから」

 

 イサブロウは部下に、スタッファンの回復を指示した。

 

 サキュロントは窮地の中でも、僅かに安堵した。この者達は、命まで取るつもりは無いのだと。だが、すぐにそれは間違いだと知る事になる。

 

「さて、あちらの方が回復したら、事情をお聞きしますので、あなたは黙っていてくださいね」

 

 そう言うや否や、サキュロントの右太ももに風穴が空いた。

 

「ぎゃあああああ!」

 

 サキュロントから絶叫が漏れる。

 

「五月蠅いですよ」

 

 冷たい言葉と共に、二発、三発と魔弾を撃ち込む。それに伴い、サキュロントの絶叫は続く。

 

「ああ、もう、五月蠅いですね。仕方が無い。この方の治療もお願いします」

 

 溜息と共に、イサブロウは別の部下へと指示を飛ばす。

 

「さて、どうしますか?」

 

 困った様な表情で、イサブロウはヤエモン、クレマンティーヌと視線を交わす。ヤエモンは、どうした物かと首を傾げるが、クレマンティーヌは顔に半月を創る。

 

「んー。ここは一つ、陛下に習うってのは?」

 

 楽しそうなクレマンティーヌの言葉に、イサブロウは些か嫌な気配を感じたが、リリー・マルレーンの名前を出されては聞く以外の選択肢は無い。隣に視線を移せば、ヤエモンも同意見なのか、僅かに頷いて見せた。

 

「それで、陛下はどんな方法で尋問を?」

 

「んーとねぇ。軽い方のヤツだと……質問する毎に、指を一本ずつ潰して行ったとかぁ」

 

 クレマンティーヌの言葉に、イサブロウ、ヤエモンの二人は「ほう」と感嘆の声を漏らす。そうすると気になって来るのは、重い方だ。

 

「それで疾風走破、重い方は何ですか?」

 

 イサブロウの問いに、クレマンティーヌは少し表情を歪め

 

「生きたまま、スライムのご飯になるってヤツだけど……」

 

 思い出したくない、そんな顔色で呟く。

 

「成程。流石は陛下。意地が悪い。しかし……スライムは手配が必要ですから、ここは……」

 

 そう言ってイサブロウは、部屋の隅に置いてあったバッグから金槌を二本取り出す。

 

「どちらがやりますか? あ、もちろん一本は私用ですが」

 

 そう言いつつクレマンティーヌ、ヤエモンに視線を向ける。

 

 嬉々として手を挙げたのは、クレマンティーヌだった。二人は金槌を持ち、部下にサキュロントとスタッファンを拘束させ、両の手を床に固定させる。

 

「さて、これからあなた達に質問をします。答える答えないは自由です。しかし、その場合は……」

 

 イサブロウは、そこで言葉を切り金槌を掌で遊ばせる。

 

「最初の質問です。あなた達の背後に居る者の名は?」

 

「「コッコドールだ!」」

 

 二人の言葉が重なった。

 

「はい?」

 

「あらー」

 

 あまりにもあっさりと白状した事に、イサブロウとクレマンティーヌは拍子抜けした様だった。

 

「仕方ありません。次の質問です。どうやら、件の子兎は、色々な薬物を投与されていたそうです。出所――」

 

「「ヒルマだ!」」

 

 またしても速効で答える二人。

 

「ぶー! つまんなーい! なんかこうさ、キサマ、裏切るのか! みたいな展開を希望してたのにぃ」

 

 ぶー垂れるクレマンティーヌに、イサブロウは溜息混じりに言葉を掛ける。

 

「仕方ありませんよ。その程度の繋がりなのでしょうから。さて、次の仕事です。コッコドールさんと、ヒルマさんの捕縛と連行。どういたしますかねぇ」

 

「んー。じゃんけんで良いじゃない?」

 

 呑気なセリフを言うクレマンティーヌに、ヤエモンが頷きで答える。それを確認し

 

「そうしますか」

 

 イサブロウの声と共に、三人はじゃんけんを初めた。

 

「それでは、最初に勝ち抜けした疾風走破がコッコドールさんを。次の勝者の私がヒルマさんを。負け残りのヤエモンさんは、ここで二人の見張り、と言う事で」

 

「んー?」

 

 話が収まった所で、クレマンティーヌが妙な呻き声をあげた。

 

「どうしましたか?」

 

 それに対応する様に、イサブロウが口を開く。

 

「標的を捕まえるのは解ったけどさぁー。他の奴はどうすんの? 部下もいるだろうし」

 

「ああ、その事ですか。始末してかまいませんよ。それと……コッコドールさんの所は、娼館ですので、お客様も同議です。娼婦の方々は、保護して頂けるとありがたいですね。神の信徒になられるかもしれませんので」

 

 冷静な声で指示を出すイサブロウだが、言っている事は、酷く物騒な事だった。それに対し、クレマンティーヌは満面の笑みを湛え了承する。

 

 後に、王国を揺さぶる出来事の、最初のドミノが今、ゆっくりと倒れて行った。

 

 




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