OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

106 / 115
OVERLORD~王の帰還~最終章スタートです。


王の帰還
くすむ楼閣


 城塞都市エ・ランテル。そこに存在する宿の中で、一際威厳と格式を誇る黄金の輝き亭。その一室のドアが、控え目に、礼を持って叩かれた。

 

「入れ」

 

 部屋の中からは、低く、重みのある言葉で入室許可の声が響く。

 

「失礼します」

 

 凛とした硬質な声と共に、女は敷居をくぐった。

 

「モモンさ――ん。書簡が届いていました」

 

「…………たまに出るな、それ」

 

「すみません」

 

「いや、良い。それで、書簡とは?」

 

「こちらになります」

 

 そう言って女は、全身鎧(フルプレート)の男に数枚の巻物を渡す。入室して来た女、名はナーベと言う。

 

 書簡を受け取った全身鎧(フルプレート)の男はモモン。このエ・ランテルを中心に活躍している冒険者である。その実力は折り紙つきであり、僅かな期間で冒険者の最上位クラス、アダマンタイトまで上り詰めた者達だ。

 

 男、モモンは書簡を受け取り、封蠟を外し目を通す。

 

「ふむ」

 

「どうか致しましたか? モモンさん」

 

「依頼だ」

 

「依頼?」

 

 ナーベは首を傾げる。

 

 自分達は冒険者だ。依頼書が回って来る事など日常茶飯事のはず。なのに、目の前のモモンは、それを不自然に感じている様に見える。

 

「あ、あの、モモン様」

 

「モモンだ!」

 

「モ、モモンさん。依頼書には何が?」

 

 問いかけるナーベに、モモンは僅かに口を噤みながらも依頼書の内容を口にする。

 

「ナーベ。王都の東に位置する、エ・レエブルと言う都市を知っているか?」

 

「は、はい」

 

「そこの領主である、レエブンなる人物からの依頼でな、何やら近く物騒な事が起こるから、我々に来て欲しいそうだ」

 

 モモンはゆっくりと言葉を紡ぐが、その言い回しは懐疑的に見えた。だが、一方のナーベには、字面通りの依頼に聞こえた。

 

「モモンさんは、この依頼に裏があると?」

 

 ナーベは思い切って、問いかけてみる。その言葉に、モモンは若干緊張感を解いた様な口調で答えて来た。

 

「そうだなぁ。二つほど可笑しな点が見受けられる」

 

「二つ、ですか?」

 

「そうだ。物騒な事が起こる場所が、自分の領地では無く王都、と言う事だ」

 

「王都、ですか?」

 

「ああ。それに加えて、最も疑わしいのがコレだ」

 

 そう言ってモモンは、数枚ある羊皮紙の内の一枚をナーベに渡した。

 

 受け取るとすぐに、懐から解析眼鏡を取り出し、書簡を読み進めて行く。最後の行を読み終えたナーベだったが、首を横に傾げた。何も可笑しな点は見つからなかったのだ。

 

「モモンさん。不敬を承知でお聞きしますが、私には不審な点が見当ら無いのですが?」

 

 そう言うナーベに、モモンは僅かに笑う様に息を漏らし

 

「文字では無い。書簡の一番下に有る紋様だ」

 

 そう言われて、ナーベはそこへと視線を向ける。

 

「これは……蝶、でしょうか?」

 

 そう、そこには蝋の上に、指輪だろうか、に刻まれた蝶が転写されていたのだ。封蠟の印とも違う印象が。

 

「うむ。これは恐らく暗示だな」

 

「暗示、ですか」

 

「ああ。何者かがレエブンなる人物を使い、我々を王都に導こうとしている。……いや。王都で起こる騒動に、加担させようとしているのだろう」

 

「では、その者が敵、と言う事でしょうか?」

 

 ナーベの言葉に、モモンは沈黙で返す。そうだ、とハッキリと言い切れる理由が見当ら無いからだった。

そしてもう一つ。書簡に押された蝶の印象。

 

「蝙蝠、狼、狐、猫、蜘蛛、そして蝶」

 

「モモンさん、それは?」

 

「うむ。この六つの動物は、聞けば何て事無い様に思うが、私達の世界、そうYGGDRASILでは別の意味を持つ物なのだ」

 

「別の意味、ですか?」

 

 思い出す様に語るモモンに、それを興味深そうに聞き入るナーベ。

 

「そうだ。この六つの象徴は、ある集団の一員である事を意味する」

 

「……集団? それは?」

 

「魔女の夜明け、だ」

 

 魔女の夜明け、その言葉にナーベは鋭く反応する。

 

「そ、それは、ビクトーリア様の……」

 

「そうだ。そして、蝶はビッチさんを意味する紋章でもある」

 

「では?」

 

 ナーベの問いに、モモンは右指をそのフルフェイスヘルメットのあご部分に寄せ、暫しの間考えると

 

「来い、と言っているのだろうな。あの魔女が」

 

 そう結論を下した。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

~王都・某所~

 

「集まりが悪い様だな」

 

 薄暗い部屋の中に置かれた、円卓の一席に座る男が、不機嫌そうに呟く。

 

「ああ。奴隷部門と薬物部門が欠席だ」

 

 最初に言葉を発した男の、隣に座る男が端的に答える。

 

「理由を知る者は?」

 

 最初の男が口を開く。どうやら、この男がこの場、王国の裏を支配する組織、八本指の定例議会の議長の様だ。

 

 しかし、この問いに答える者は存在しなかった。だが僅かな事実と、それから推察される事柄を語る者は居た。

 

 見事な褐色の体躯。その肌に描かれた、数多くの刺青。剃り上げられた頭髪に、鋭い眼光。警備部門を統括する男。名は、ゼロ。

 

「ウチの所のサキュロントが姿を消した。その絡み、じゃねえのか?」

 

「巡回使のスタッファンも同様だと聞いたが?」

 

「ふむ。コッコドールにヒルマ。六腕のサキュロントに巡回使のスタッファン、か。繋がりは……」

 

「あの商館、ですな」

 

 ゼロの言葉に導かれる様に、他の者も自分達が知っていた情報を開示して行く。それによって、バラバラだった積木が徐々に形になって行った。

 

「では、そのバラした従業員と執事服の男のトラブルが原因だと?」

 

「そうでしょうな。それを起因として、小銭目当てで動いたスタッファンに、コッコドールとサキュロントが同調した、と」

 

「しかし、何故ヒルマまで?」

 

「お忘れですか? あの商館の商品達に言う事を聞かせる薬は、何所から仕入れているのかを」

 

「成程。そう言う事か」

 

 議長である男が、結論に行きついた、と口を開く。

 

「どう言う事ですかな? 議長」

 

「我々八本指に敵対する勢力、もしくは組織が、この王都の市場を狙っていると言う事だろう」

 

「その根拠は?」

 

「最も金になる部署の責任者が狙われている事だ」

 

「では、賭博部門が無事なのはどう言う理由だ?」

 

この問いに、議長は少し口を噤み考えると

 

「賭場は大々的に設置すると、露見しやすい。そちらは何れ、と言う事かもしれん。もしくは、我らの賭場を狙っているやもしれん」

 

 議長の言葉に、場の全員が成程、と頷く。

 

「じゃあ、どうするんだ? 黙って指をくわえているのか?」

 

 これはゼロの言葉だ。警備部門、荒事を主とする彼としては当然の言葉。このいちゃもんとも言える言葉に、議長は首を振る事で答える。

 

「いや。それでは我らが舐められる。原因となった商品を取り返し、奴らの裏を引き吊り出す。頼めるかな? ゼロ」

 

「ああ。六腕に任せておけ」

 

 そう言ってゼロは口角を上げた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「聞いたか? デミウルゴス」

 

「はい」

 

 夜の闇に染まる王都を一望に出来る神殿の鐘付き塔に、二人の姿はあった。

 

 先の言葉を発した人物、ビクトーリア・F・ホーエンハイムの表情は険しい物だ。

 

「あれだけの注意喚起をして置いたのに、この始末じゃ。我らはそうとう甘く見られておる様じゃな」

 

「誠に嘆かわしい事で御座います。矮小な組織同士の小競り合い、とでも勘違いしたのでしょうか?」

 

「多分、の」

 

 言葉短く肯定したビクトーリアの瞳が、爬虫類を想像させる物へと変化する。最早慈悲は尽きた、と。

 

「アインズは何と言っておる?」

 

「同じで御座います。今のビクトーリア様と」

 

「ゲヘナを速める。出来るか?」

 

 出来ないとは言わせない。そんな空気を纏いながら、ビクトーリアはデミウルゴスに命令を下す。だが、そんな事はデミウルゴスにとっては織り込み済みの事であった。

 

「セバスから連絡を受けた時に、何時如何なる時にも対処出来る様にしております」

 

「ほう。人間の方はどうじゃ?」

 

「そちらも抜かりなく。本日の昼間に発情期のクソガキの手筈で、冒険者を集めたそうです」

 

 デミウルゴスの采配に、ビクトーリアは満足げに首を縦に振る。

 

「決行は残されていた紙切れに記されていた時間、で宜しいですね?」

 

「無論。して、人員はどうなっておる?」

 

 デミウルゴスの迅速の対応に、ビクトーリアは少し気が晴れたのか、日常会話でもする様な気軽さで問いかける表情を見るに、デミウルゴスも同様の様だ。

 

「はい。今回、事に当たる人員は、シャルティア、マーレ、プレアデスに私。そしてセバスとなります。ですが、セバスは下等生物(ニンゲン)を奪還しだい撤退となりますので、先に言ったメンバーが事に当たります。その後、愚か物(八本指)達を清掃致しましたら、それらの連行と物品の運送にマーレが当たりますので、ゲヘナへの参加は実質プレアデスと私、と言う事になります」

 

「うむ。良き配置じゃな。流石はデミウルゴス」

 

「いいえ。この人選は、アルベドの物です。御褒めの言葉ならば、是非アルベドに」

 

「そうか。後で声を掛けよう」

 

「アルベドも喜ぶ事でしょう」

 

 確認作業とでも言うべき一連の会話が終了するのだが、ビクトーリアには一点腑に落ちない事柄があった。

 

「しかしデミウルゴスよ。シャルティアの名が出てはおらんかったのじゃが、あ奴の役目は何じゃ?」

 

 単純な疑問。そんな調子でビクトーリアは聞いたのだが、デミウルゴスの表情は暗く、固まった。その顔を読み取るに、言いにくそうな事情がある様に思える。

 

「はっきりせえ。何を言われても妾は怒らんぞ?」

 

 そう言われ、デミウルゴスは渋々、と言った感で口を開いた。

 

「……ゲート要因、です」

 

「はあ?」

 

「……退去時と、ビクトーリア様の盛上げ時でのゲート要因、となっております」

 

 この言葉を聞いた瞬間、ビクトーリアの表情は、絶望を現したかの様に歪む。それは、悲しみから来る物では無く、哀れみを映す物だった。

 

「あ奴は、それで良いのか? 納得しておるのか?」

 

「……い、いえ。納得は……どうなのでしょうか?」

 

 煮え切らないデミウルゴスの言葉に、ビクトーリアは盛大に溜息を吐き、右の指をこめかみに当てる。

 

伝言(メッセージ)

 

 魔法を発動すると、すぐに相手と繋がった。

 

「あら? お姉様ではありんせんか? それで、どこへ転移門(ゲート)を繋げれば良いんでありんすか?」

 

 一言目でこれだった。

 

「う、うん。まあのう。転移門(ゲート)の注文では無い」

 

「ほれ? それでは何用でありんしょう?」

 

「うむ。ゲヘナに当たり、少々シナリオの変更があった。うぬは戦闘要員として、アインズの側に立ってもらいたい。良いか?」

 

 ビクトーリアの言葉が終わるが、シャルティアからの返事は無かった。

 

 暫しの沈黙。さて、シャルティアは何と答えるか?

 

「ぐすっ。ずずっ。あ、あじがどうごじゃいまじゅー! ぐしゅ! じゃるでぃあ・びゅらっどぼーじゅん、いのじがげでぎゃんばりましゅ! あじがとう、おねえじゃまー!」

 

 大泣きだった。絵に描いた様な大泣きだ。自分のキャラクター性でもある郭言葉を忘れてしまう程の。

 

「う、うん。詳細はデミウルゴスに伝えておくからの。ま、まあ。頑張りなんし」

 

「あじがとう、おねえじゃまー! あじがとう! あじがとうごじゃいまじたー!」

 

 そんな感じでビクトーリアは伝言(メッセージ)の呪文を終了した。

 

「妾の手札を三枚切る。シナリオの修正はこうじゃ」

 

 この後、三十分程を掛け、ゲヘナのシナリオは再度修正された。

 

 王国を舞台にした茶番劇まで後僅か。

 




感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。