OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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反逆者

「さあって、どーする? 蜘蛛子ちゃん」

 

 コロンビーヌの問いかけに、エントマは気分を害したとでも言う様に袖を振りまわし

 

「不敬ー。蜘蛛子って不敬ー」

 

 抗議の声を上げる。

 

 その反応に対し、コロンビーヌは困った様に首を僅かに傾げ

 

「んー。でもさぁあ、名前言っちゃうと、あたしの主人にも蜘蛛子ちゃんの主人にも迷惑かけちゃうじゃない? 一応隠密任務な訳だし?」

 

 諭す様に正論を口にした。

 

 この言葉に、エントマは「ぶー」と不満げな声を上げるが、そこは戦闘メイド プレアデスの一員。すぐに気持ちを切り替え、コロンビーヌに指示を出す。

 

「それじゃあねぇー。あのちんちくりんの魔法詠唱者(マジックキャスター)をおねがいぃ」

 

「りょーかぁあい」

 

 場にそぐわない軽い口調でそれぞれの分担を決め、二人? は攻撃の態勢を作る。

 

「あちらさんの話し合いが終わったみたいだぜ」

 

「ああ。私の相手は、あの仮面の女の様だ」

 

「仮面同士お似合い。妖しさ大爆発」

 

 ガガーラン、イビルアイ、ティアは言葉を交わし、相手同様に得物を構えた。どちらかとも無くゆっくりと歩き出し、徐々にスピードが増し、武器と魔法が交錯する。

 

水晶騎士槍!(クリスタル・ランス)

 

 イビルアイが魔法を放つ。だが、コロンビーヌは、飛来する水晶騎士槍(クリスタル・ランス)を見つめながら口角を上げる。

 

「……流水加速」

 

 呟く様に囁かれた言葉と共に、コロンビーヌの姿が掻き消える。

 

「……即応反射」

 

 囁く様な声と共に、イビルアイの放った水晶の槍が一本、また一本と霧へと消えていく。

 

「な、何が……」

 

 イビルアイの口から、驚きの言葉が漏れる。目の前で起こっている事象が、理解出来ても、許容出来ないのだ。魔法を防ぐのでは無く、切り刻む、などと言う事は。

 

 そんな、状況に困惑するイビルアイの眼前に、嘲笑うかの様にコロンビーヌが迫る。

 

 相対する仮面と仮面。

 

「信じられない、って? ざぁーんねんだねぇ、ちびっこ」

 

(まぁ、種も仕掛けもあるんだけどねぇ)

 

 そう言って胸に揺れる九本指の首飾り(ナイン フィンガー ネックレス)を揺らしながら、挑発、としか思えない言葉をイビルアイに浴びせ掛ける。

 

「舐めるな! 二重最強化(ツインマキシマイズマジック)―― グフッ!」

 

 イビルアイが再度魔法を行使しようとした瞬間、腹部に鋭い痛みが走った。一瞬の内にコロンビーヌが近付き、イビルアイの腹部に蹴りを入れたのだ。

 

「遅い」

 

 冷めきった声が、コロンビーヌの口から洩れた。それと同時に、イビルアイは後方へと吹き飛んだ。

 

「蒼の薔薇だかアダマンタイトか知らないけど……なめんじゃねえぞ。クソガキ。さーて、蜘蛛子ちゃんの方はどうかなぁ?」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「何だよこいつは? ナリの割にカテェぞ!」

 

「……たぶんあのメイド服、ガガーランの鎧並の強度がある」

 

「マジかよ!」

 

 ガガーランのぼやきに、ティアが冷静な分析を返す。

 

 一方エントマは、相手の分析を第一とし防御に徹していたが

 

「こんなもんかぁ。じゃあ、これいらなーい」

 

 そう言って右手にある剣刀蟲を開放する。そして、それと同時に

 

「おいでぇ!」

 

 エントマの呼びかけに応じ、一匹の巨大な蟲が這い寄る。

 

 長さが十メートルを超えるムカデが姿を現し、エントマの右腕に絡みつく。千鞭蟲、と言われる蟲である。

 

「うわぁ! にょろにょろは苦手なんだよ」

 

 弱音を吐くガガーランに

 

「ドラゴンも裸足で逃げだすガガーランに、苦手な物が? 大丈夫。それを克服すれば、新たなる進化の可能性が産まれる」

 

 ティアが茶化す様な合の手を入れた。

 

 余裕、などは無い。

 

 だが、それでも馬鹿な会話で気持ちを落ち着かせようと、冷静さを保とうと心得る。

 

 絶えずメンタルを最適化する。こう言う行動が、彼女達を最上級冒険者、アダマンタイトと言う地位に昇りつめた理由かもしれない。

 

 しかし、それは冒険者としての話だ。今、目の前にいる存在は彼女達が今まで相手にして来た者達、化け物達とは桁が違う。ナザリックの最終防衛線を守る戦闘メイド プレアデスが一人なのだ。

 

「ティア!」

 

「解った。爆散符!」

 

 ティアはエントマ目掛け、数枚の符を投げつける投擲させた符は、一直線にエントマ目掛け直進し爆発を起こす。

 

「今だ!」

 

 爆発により煙幕の様な煙に包まれたエントマ目掛け、ガガーランがウォーピックを振り下ろす。

 

 だが、その判断は少し甘かった。

 

 振り下ろされるウォーピックよりも早く、煙を突き破り千鞭蟲が姿を見せる。そして、その強靭な頤はガガーランを銜え込む。その勢いのままガガーランを上空へと持ち上げ、しなる鞭の如く地面へと叩きつける。

 

「グフッ!」

 

 その衝撃で息が詰まりガガーランの動きが止まる。その瞬間を、エントマは見逃さなかった。

 

「雷鳥符ぅ!」

 

 放たれた符は、空中で青白い放電を放つ鳥となり、ガガーランを襲う。

 

「くそっ! 間に会え! 不動金剛盾の術!」

 

 エントマが放った符術は、すんでの所でティアによって阻まれる。

 

「うーん。なんで邪魔するかなぁ」

 

 苛立ちを顕にするエントマを余所に、ティアはガガーランに駆け寄り声を掛ける。

 

「すまねぇ、助かったぜ」

 

「遠慮無用」

 

 御互い視線を合わせ、状況を確認するが、決して良い方向へ向いているとは言えない。

 

「イビルアイは?」

 

「苦戦している様だ」

 

 ガガーランの問いに、ティアが答える。エントマに注意しながらも、その瞳にイビルアイを映す。二人が見つめる先では、地に伏せるイビルアイの頭部を踏みつけるコロンビーヌの姿があった。

 

「う、嘘だろ?」

 

「イビルアイが……」

 

 ボーゼンと見つめる事しか二人には出来なかった。だが、そんな甘い状況を許す者など此処には居ない。

 

「何をボーっとしているのかなぁ」

 

 千鞭蟲をユラユラとうねらせながら、エントマが迫って来ていた。

 

 ふざけた格好をしたメイドと、コロンビーヌと言う仮面の女。

 

 圧倒的な強者二人を相手に、アダマンタイト級の冒険者は手も足も出なかった。最早此処まで。ガガーラン、ティアは元よりイビルアイですら死を覚悟した。

 

 その時、コロンビーヌの頭上に影が射す。その異変に気付き、コロンビーヌはバックステップで回避する。

 

 ズドン! と言う衝撃音と共に何かが落ちて来た。いや、何者かがこの戦いに参戦したのだ。

 

 漆黒のフルプレートアーマーを着込み、二本の大剣を背負いし者。アダマンタイト級冒険者。名は漆黒のモモン。

 

「こんな夜更けに随分と楽しそうだな。はて、俺の相手はどちらかな?」

 

 威風堂々と、それでいて飄々とした感じでモモンは口を開く。

 

「おま、いや、あなたは、漆黒のモモンとお見受けする。私は同じアダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇のイビルアイ。頼む、力を貸してくれ!」

 

 言葉を掛けられ、モモンはイビルアイに視線を向ける。

 

「ほう。あなたが有名な蒼の薔薇の……。じゃあ、お前達が敵、と言う事だな?」

 

 そう言ってモモンは、右手に持ったグレートソードをコロンビーヌに向ける。

 

「へぇ。アダマンタイト級冒険者ねぇ」

 

 モモンの言葉を、コロンビーヌは嘲笑う様に受け止める。

 

「何がおかしい?」

 

 モモンが、気分を害した様にコロンビーヌに言葉を返す。

 

「えぇ? だってさぁー、あなたが冒険者なんておっかしいんじゃなーい」

 

「どう言う事だ?」

 

 コロンビーヌの意味深な発言に対して、モモンは回答を持ってはいない。この女が何を言っているのか、全く意味が解らない。一つだけ解るのは、あの魔女が、ビクトーリアが何かをたくらんでいる、と言う事ぐらいだった。

 

「どう言う事だぁ? ふざけてるの? それとも……」

 

 コロンビーヌは言葉が終らないまま一即座にモモンに切り掛る。キン! と言う金属音を響かせ二人の(やいば)が交錯した。

 

「いきなり、だな」

 

「ふーん。前よりは出来る様になっているじゃない。魔界の反逆者さん」

 

「!」

 

 モモンは言葉に詰まる。

 

 魔界の反逆者? 一体ビクトーリアは何をしようとしているのだろうか? どんな絵図面を書いているのだろうか。

 

 コロンビーヌを視界に収めながら思考するモモンの前に、この茶番劇の、もう一人のシナリオライターが姿を現す。バサリ、バサリと蝙蝠の様な翼をはためかせ、その者はこの地に降り立つ。赤い、見た事も無い衣装に身を包んだ仮面の者が。

 

「お久しぶりですね、魔界の反逆者モモン。いえ、こう言いなおしましょうか。裏切り者、アインズ・ウール・ゴウン」

 

 




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