「ふふっ。かかっ! ぎゃーはっはっはっ! ならば掛って来るが良い。我ら仮面の悪魔を打ち滅ぼして見せよ。そのアンデッドが、キサマラの英雄だと証明して見せよ」
インゴット・ナインテイルが、高らかにその言葉によって戦いの火蓋を切る。
この言葉に呼応し、仮面の悪魔達は得物を見定める。
「
ガントレットを着用した悪魔、
「ならばアタシは、あの白いのっすねー」
軽い言葉遣いで赤い髪の悪魔、
「それなら私は、あのポニーテールの美人を」
ナーベの相手は、ボンデージ衣装の様なメイド服を纏った
「それでは私の相手は、あの髭面の男ですね」
ヤルダバオトが、ガゼフに視線を向ける。
「では、
身の丈ほどの鉈を持った和装の女が一歩を踏み出し
「あなたですわ!」
言葉と共に、モモンへと切りかかる。
「何!」
虚を突かれる形となり、モモンは振るわれる刃を受ける事で精一杯となる。
「
何合も振るわれる鉈の光刃と共に、白蓮が自分の事を言葉にする。
その言葉で、モモンは、いや、アインズは目の前の人物が誰かを知った。記憶の片隅に仕舞い込んだ、かつてゲームの合間にビクトーリアから聞いた話を。
「……お前は……ミトラか? 確かビッチさんの――」
呟く様なアインズの言葉に、白蓮は攻撃する事で正解と告げる。
最初は互角、と思われた勝負だったが、ハッキリとモモンが劣勢に回って行くのが解る展開となる。
白蓮の振るう鉈のスピードに、回避が間に合わなくなって行ったのだ。
幾らアインズが100Lvのプレイヤーだったとしても、それは
奥の手、パーフェクト・ウォーリアーの魔法を使うか? アインズは僅かに思考する。だが、その一瞬が命取りとなった。
僅かな距離を一気に詰め、白蓮の鉈が上段から振り下ろされる。
ガツン!
金属同士がぶつかり合う音が響く。
しかし、それはモモンと白蓮が出した音では無かった。距離を詰め、襲い来る白蓮とモモンの間に、何者かが割り込んだのだ。
「何者かは知りんせんが、至高の御方に刃を向けるとは。死を持っても償える物ではありんせんぇ」
深紅の、血を写し取った様な鎧で身を固めた少女。
真祖、シャルティア・ブラッドフォールンの姿がそこにあった。
「シ、シャルティア……」
「はい、そうでありんす。英雄であられるアインズ様、命を救って頂いた恩、返させて頂くでありんすぇ」
命を救った? アインズにとっては寝耳に水である。
この件が無事終了した暁には、一度じっくりと話をするべきだと判断した。自分の遙か向こうで、いやらしい笑みを浮かべている
そんな思いを胸中にしまい込むアインズの目の前で、芝居は次の展開へと移る。
「……吸血鬼、ですの?」
白蓮がポツリと呟いた。
「正解、でありんす。真祖シャルティア・ブラッドフォールン」
「そう。運命の出会い。戦う宿命と言う物ですわね」
「ほう。それでは、あなたは
「いいえ。
「なるほど、なるほど。では……」
「ええ」
「殺し合うしかありんせん!」
「殺し合うしかありません!」
同じ言葉を口にし、お互いの得物が衝突する。
次の瞬間、驚きの言葉を発したのはシャルティアであった。自身の得物、ナイトランスを弾かれたのだ。
「な、なに!」
その声を聞き、白蓮の口角がニヤリといやらしく歪み
「何を驚いておりますの?」
まるで茶化す様な言葉を口にする。
「もしかして、あなたのランスが弾かれた事を驚かれていますの?」
「ぐ!」
図星を突かれ、シャルティアの口からは呻き声のみが漏れる。
「簡単な事よ。力の差、と言う物でしょうに」
「そんな事はありんせん! わたしは100Lv! ナザリックの一番槍でありんす!」
シャルティアの言葉に、白蓮は「ほほほ」と笑いの声を上げる。
「識っていますわ。ですが、100Lvと言っても、強いとは限りません事よ」
「ど、どう言う意味でありんすか」
「
言って鉈を横に薙ぐ。
その斬撃を、シャルティアはバックステップでかわし
「清浄投擲槍!」
スキルを発動させる。
極太の光はシャルティアの手を離れ、高速で白蓮に向け飛来し爆散した。
仕留めた。シャルティアは胸中でガッツポーズを作る。
だが、煙の晴れた向こう側には、鉈を正眼に構えた白蓮が立っていた。
「なっ!」
再度驚きを顔に張り付けるシャルティアに対し、白蓮の口が開かれる。
「成程。信仰系の
再び交わされる鉈とナイトランス。
ガキン! と金属音が響く中、シャルティアから疑問の言葉が飛ぶ。
「わたしでは勝て無いとは、どう言う意味でありんすか!」
怒りを顕わにするシャルティアに、白蓮は飄々と言葉を返す。
「そのままの意味ですわ。
語尾と同時に最大限の力で鉈を振るう。
「うきゃー!」
シャルティアの身体は、その衝撃で弾かれ、悲鳴と共に家屋を突き抜けて行った。
「あら? 遠くへ行ってしまいましたわ。創造主様、こちらはお任せしても?」
「うむ。彼奴の相手は任せる。しかし、やり過ぎるでないぞ。あれはうぬの……」
叔母の様なもの。インゴット・ナインテイルは、暗にそうほのめかす。
「お任せを」
その言葉を最後に、白蓮はゆっくりとシャルティアの下へと歩き出した。
インゴット・ナインテイルはぐるりと周囲に視線を巡らせる。
その先では、至所で戦闘が繰り広げられていた。仮面の悪魔の相手をしていないガガーラン、ティア、ティナも同意である。彼女らは、冒険者へと迫る下級悪魔の相手をしている。
今、この地獄、とも言える場所で、戦闘に参加していない者は二名のみ。
インゴット・ナインテイルとモモンだ。
「さて、やはり妾の相手はうぬのようじゃのう」
気楽に、何の気負いも無く、まるでフォークダンスの相手を決めるかの様にインゴット・ナインテイルは語りかける。
「こんな戦いに、意味はあるのか?」
モモンが根源の疑問を投げかけた。
インゴット・ナインテイルの答えは?
「無論。妾とうぬ、二人で陽の下を歩くための、の。さあアインズ、本気のPVPじゃ」
言ってインゴット・ナインテイルはフラッグポールを手に納める。同時にモモンもグレートソードを引き抜いた。
そして次の瞬間、悲鳴、とも取れる金属音を響かせ二人の得物が邂逅する。
だが、結果は先程と同様。力負けしたのはモモン。
「奥の手は使わぬのかや? 今のままでは、妾には勝てぬぞ? それとも……みじめたらしく、地に這いずるのが御望みかや? アインズ・ウール・ゴウン!」
アインズ・ウール・ゴウン。
インゴット・ナインテイルは、いや、ビクトーリアはその名を持って挑発して来ている。
ならば答えなければならない。なぜならば、その名は、その名を名乗った時から、モモンガは背負ったからだ。四十人の思いを、プライドを、歴史を。
「挑発もいい加減にしろ! このクソビッチがぁ! パーフェクト・ウォーリアー!」
アインズは魔法を発動し、再びインゴット・ナインテイルと切り結ぶ。
アインズの剣激を、インゴット・ナインテイルは何事も無かった様にかわして見せる。右、左、と身体を捻り、時には後ろへとステップバックし攻撃を逸らす。
(凄い。これがビッチさんのプレイヤースキル。だが!)
モモンの剣が、徐々にだが一撃事のスピードが増して行く。
そして……モモンの剣が止まる。インゴット・ナインテイルが、自身の得物、フラッグポールで受け止めたのだ。
「見事。見事妾に得物を使わせた。褒美じゃ」
「グッ!」
モモンから呻き声が漏れる。言葉と同時にインゴット・ナインテイルの左の掌打が腹部に打ち込まれたためだ。
「褒美として……妾の土俵で相手をしてやる」
次の瞬間、モモンの左側頭部に衝撃が走る。右脚のハイキック。
だが攻撃は終わらない。ハイ、ミドル、右、左。コンビネーションの蹴り。
モモンも何とかガードを試みるのだが、慣れとスピードにかけては、インゴット・ナインテイルが一枚上手だ。
防戦一方、だが着実にモモンの視線はインゴット・ナインテイルの動きを捉えて行く。しかし、それを許す程インゴット・ナインテイルは甘くは無い。
一瞬の間、インゴット・ナインテイルが背を向けた。
いや、身体を回転させたのだ。攻撃は上段廻打、頭部への後回し蹴り。
グラリ、とモモンの視界が歪む。
だがこのままでは終われない。
無意識の中、モモンが右腕を振るう。普通なら只の打撃となる行動だが、距離が違っていた。
攻撃を終え、インゴット・ナインテイルが着地した瞬間、それは不意撃ちとして襲う。
モモンの拳はインゴット・ナインテイルの頭部の後方に。しかし、その二の腕は? 肘は? 腕はインゴット・ナインテイルの首元を捉え、顎を引っ掛け、勢いのまま撃ち抜かれた。
ラリアット。
インゴット・ナインテイルの身体は、モモンの腕を支点に一回転し頭部から地面に叩きつけられる。
「返せた、のか?」
モモンは、囁く様に言葉を漏らす。
「妾から、一つ忠告じゃ。相手に背は見せん方が良いぞ」
声が聞こえた瞬間、肩が重くなる。そして、一気に背後へと引き抜かれた。
リバース・フランケン・シュタイナー。
足を使っての投げに分類される技だ。
地に伏せるモモンの、その骸骨の頭部を掴み立ちあがらせると、その巨体を肩に担ぐ。
「な、何を!?」
モモンは驚きの声を上げるが、疑問は早々に解決される。
インゴット・ナインテイルは、モモンを担いだまま走りだし、三階建ての建物の壁へと叩きつける。それは投擲、と比喩した方が良い程のスピードで。
打ち付けられたモモンは壁を突き抜け、その衝撃で建物は埃と轟音を残し崩れ去った。
土煙が漂う中、冒険者達は絶望に襲われる。
アダマンタイトを冠する者が、英雄と呼ばれる者が、………………まるで子供扱いでは無いか。
真皇と呼ばれる者と、ここまでの力の差があるのか、と。
その時、瓦礫の中から僅かな音が聞こえた。灰燼の中から産まれ出でる様に。地獄の底から蘇る様に。
「全く、酷い事をしてくれる」
闇夜を写し取った様なアカデミックガウンを纏った異形が、呆れた様に言葉を紡ぐ。
感想お待ちしております。