「全く、酷い事をしてくれる」
アインズは疲れた様に呟き、インゴット・ナインテイルを視界に納める。
「ふふん。やはり傷一つ負っておらぬか」
茶化す様な言葉に、アインズは詰まらなそうに僅かな呻き声をあげる。
それに続き、言葉を紡ごうと口を開くが、それを邪魔する者達がこの場には数多く存在する。ハッキリと指し示すと、上空を覆うガーゴイルや地を徘徊するモンスター達である。ギャーギャーと騒ぎたてるモンスター達に、アインズは軽く舌打ちの様な声を漏らし
「騒がしいぞ!
地面から火柱が立ち上がり、地面と上空に居たモンスター達を焼き尽くす。
「全く、ピーチクパーチクと騒がしいにも程があるぞ」
憤慨するアインズに、ガゼフが声を掛ける。無論視線は破壊された街並みに向けられているのだが。
「ゴ、ゴウン殿……」
「ん?」
「ま、街が……」
そこまで言われて、改めて気が付いた。今襲撃事件で、一番の破壊行為を行ったのが自分だと言う事を。
「あ、ああ。気にするな。修繕なら任せて貰おうか。優秀な人足も居るしな。何せ疲れもせず、食料も要らず、文句も言わない者達がな」
(全く。あのクソビッチ。せっかく用意した、モモンと言うアンダーカバーが台無しだ。…………ああ、もういいや。俺も、好きにやらせて貰う)
アインズは、メイスを片手に瓦礫の中から歩み出る。
「良くもまあ追って来た物だ。暇なのか? ナインテイル」
挑発の言葉を口にする。
「暇? そうじゃなぁ。
言葉を返し、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
相対する異形と異形。
その時、遠くで叫び声が上がった。アインズは、その方角に視線を向け溜息を洩らす。冒険者達が、モンスターに襲われていたのだ。
「はぁーぁ。騒がしいと言った側からこれか。
アインズのかざしたメイスの先から、巨大な火の玉が発射され上空のモンスターを焼き尽くす。
「おい、冒険者」
急に自分達に声がかかり、冒険者達は声を失う。だが、そんな事など気にする事でも無いとアインズは言葉を続ける。
「もういい。下がれ。サモン・アンデッド・6th!」
力ある言葉に呼応し、石畳を割りアンデッドが出現した。グールが、スケルトン・ウォーリアーが、デス・ナイトがアインズに膝ま付く。
「お前達、モンスターを清掃しろ。それと……ニンゲンには手を出すな。行け!」
号令一過、アンデッド達は散りモンスターへ攻撃を仕掛けて行った。
「やっと落ち着いて話が出来るな」
「ほう。話、とな?」
「ああ、話だ。肉体言語、と言うヤツでな」
短い会話の後の、僅かな沈黙。
「「
言葉と共に、二人の身体は上空へと飛翔した。
距離を置いて混じり合う視線。
そして、どちらかとも無く
「
「
第九位階の魔法を発動する。
天から放たれた豪雷はアインズの身体を貫き、爆発する様に産まれた炎はインゴット・ナインテイルを飲み込んだ。
突如として昼間を超える明るさに包まれた王都。
爆音が響き、衝撃波が建物を倒壊させる。
その圧倒的な暴力に、誰もが立ち止まり言葉を失う。
それは仮面の悪魔も、冒険者達も同様だった。
そして、全ては恐怖した。インゴット・ナインテイルと言う悪魔に。アインズ・ウール・ゴウンと言う異形に。
夜の帳が戻った夜空に、二つの影が浮遊していた。
あれだけの熱量の中であっても、全くの無傷で。
身に纏う衣類さえ、僅かな綻びも無く。
「流石に簡単には行か無いか」
ポツリとアインズが胸の内をさらす。
「左様。うぬらが恋焦がれた存在は、そうであろう?」
「ああ。ああ、全くだ。行くぞクソビッチ! 今日は俺が勝つ!」
「やれる物なら、やってみるが良い! この、ボッチ骸骨がぁ!」
御互いが、同じタイミングで右手を水平に掲げた。それと同時に、アインズの周りには赤い、インゴット・ナインテイルの周りには黄色の玉が十数個出現する。
「スカーレット・クラスター!」
「フォトン・シューター!」
「「ファイア!」」
浮遊していた光球は、追尾弾となり相手へ向け射出される。
しかし、この攻撃は相撃ちとなり、お互いの光球を消滅させるに留まる。
だがアインズにとっては、それが狙いでもあった。
対消滅によって上空は煙に包まれ、視界が霞む。その中で、アインズの虚空の瞳は揺れる人影を捉えた。
「
再び王都の空は、白く染められた。
煙る向こうで、アインズは人影がボロリと崩れ去るのを視界に留めた。
「な、何?」
「
地上から上り来るように、二匹の龍がアインズを飲み込む。
中央広場にあった銅像によっての撹乱。
それからの魔法攻撃。
だがアインズは知っていた。恋焦がれ、見ていたからこそ解っていた。この攻撃の全てが、次の一手への布石だと言う事を。
瞬間、二の腕に衝撃が走る。
インゴット・ナインテイルの上からの攻撃。
勢いを乗せた地上へ向けての蹴りだ。
轟音を立て、アインズは地上に叩きつけられる。
いやらしい笑みを湛え、視線を地上に落とすインゴット・ナインテイルだが、一瞬の内にそれは驚きへと変わる。
「チッ!」
インゴット・ナインテイルを囲む様に出現した幾つもの魔方陣から鎖が伸び、インゴット・ナインテイルを拘束したのだ。
次の瞬間、地上から声が響く。
「
片翼の火の鳥がインゴット・ナインテイルを襲う。
魔法防御。
インゴット・ナインテイルの脳裏に、その言葉が浮かんだ刹那。
「
無慈悲な言葉が夜空に響いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
~ナザリック地下大墳墓 玉座の間~
静寂が支配する玉座の間にクリスタルモニターを展開し、王都での成り行きを見守る二つの影があった。
「まずはアインズ様が優勢、でしょうか? ビクトーリア様」
白き淫魔、守護者統括アルベド。
「そうね。でも、あれで終わるかしら」
そう言って黄金の魔女はクスクスと笑う。
「ですが、あのドッペルゲンガー……」
強い。
白き淫魔は最後の言葉を濁しながら、心の内を吐露する。
「そうね。でも、そうでなければ、彼にバレてしまうわ」
「はい。………………ビクトーリア様?」
「なに」
白き淫魔は言葉を掛けるが、続きを発言するかで迷っていた。言葉にする事は、不敬、に当たるのでは無いかと。
しかし、黄金の魔女は再度問いかける。それは、心の内を隠す事は無い、と言う慈悲深い言葉に思えた。
「あ、あの、ビクトーリア様」
「なに?」
「不敬な事だとは承知でお聞きしますが」
「ええ」
「普段と言葉遣いが違う様ですが?」
「ああ、その事。ここにはあなたと二人しか居ないから。それに……演技を止める様言ったのは、アナタじゃないかしら?」
そう言って、顔を綻ばせる。
その少女の様な笑顔に、白き淫魔の下腹がキュンと疼く。何時もの高圧的な態度のビクトーリアも良いが、今の様な少女なビクトーリアも良い。もうこのまま、押し倒しても良いのでは無いかと白き淫魔の息は上がって行く。
しかし、それを押しとどめる様に黄金の魔女の口が開く。
「この映像は、ナザリック全域に?」
「はい。御指示通りに」
「そう」
黄金の魔女の瞳は、再び画像へと向けられた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、どれほどのダメージを奪えたか」
アインズは、そう思いながら石畳の上に降り立つ。
思考するアインズの聴覚に、瓦礫の崩れる音が聞こえた。
自分と同じ様に、瓦礫の中からインゴット・ナインテイルが立ち上がって来る。黄金の髪を紅く染めながら。
「ハァ、ハァ、流石じゃな。妾の戦法をそっくり返されるとは思わなんだ」
「アンタが言った事だろう。アンタは、俺達が恋焦がれた存在だと」
「そうか、そうじゃったな。ならば、負ける訳には行かんのう」
アインズ、インゴット・ナインテイルは、軸足を引き力を込める。そして、爆発する様に駆け出し、得物同士が再び激突した。
何十号と打ち合い、相手の得物を弾き、弾かれる。撃ち合いの中、インゴット・ナインテイルは妙な違和感を覚える。
鍔迫り合いの中、インゴット・ナインテイルが口を開く。
「アインズ。キサマ、まさか……」
「良く解ったな、クソビッチ。パーフェクト・ウォーリアーだよ。無詠唱での、な!」
「!」
叫び、胴回し蹴りを決め、インゴット・ナインテイルを上空へと跳ね上げる。
アインズは、即座にメイスを捨て、自身の手にグレート・ソードを創り出す。
「
胸のペンダントが言葉に反応し、アインズの身体を猛スピードで上空へと飛翔させる。
アインズとインゴット・ナインテイルの距離が徐々に縮まって行く。
このままインゴット・ナインテイルの胸を、剣で貫けば戦いは終わる。
だが、インゴット・ナインテイルは、いや、ビクトーリアは、この世界でたった一人の友だ。都合が良い事に、自分が纏うアカデミックガウンのおかげで、地上からは上空で何が起こっているのかは見え無い。ならば、ビクトーリアの脇腹に剣を通し貫いた様に見せる事が出来る。
アインズは狙いを定め、剣を構える。
その行動を見て、インゴット・ナインテイルが僅かに微笑む。
アインズは理解した。ビクトーリアも同じ考えなのだと。
ならば、と勢い良く剣を前に突き出す。
「え?」
剣に重さが感じられる。
自分の顔に、温かい何かが降り注いでいる。
「ビ、ビッチさん?」
何が起こったのだろうか?
自分は、何をしたのだろうか?
自分の剣は、何を貫いているのだろうか?
インゴット・ナインテイルの、いや、ビクトーリアの優しい指が自分の頭部に回される。そして、埋める様に自分を胸に抱きしめた。
それは、深く剣が貫く事を意味する。
ズズッと嫌な感触がアインズの掌に伝わって行く。
「ビ、ビッチさん……。あんた、なんで」
「ふふっ。モモンガさん、あなたの勝ちです」
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