OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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回想

 事後処理は淡々と進みアインズは村長宅で情報の確認を行っていた。そしてビクトーリアはその場には居ない。

 

 最初はビクトーリアもこの場に参加するつもりでいたのだが、ネムが離れてはくれず、姉のエンリを伴って葬儀の場へ出席していた。

 

 アインズの情報収集もつつがなく終え、村長に礼を言い外に出る。そこにはセバスが直立不動で待機していた。そして隣には、体育座りで待機するデス・ナイトの姿が。

 

「お疲れ様で御座います。モモンガ様」

 

 セバスから労わりの言葉が発せられる。

 

「アインズ・ウール・ゴウン。アインズと呼べ」

 

「は」

 

 セバスは簡潔に返事を返すが、「しかし」と言葉を続ける。

 

「しかしアインズ様、何故お名前を変えられたので御座いますか?」

 

 セバスの疑問は当然の事だった。それを理解しているアインズは、一つ一つ順を追って説明する。

 

「まずは、此処が我々の居た世界では無いと言う事だ」

 

 この言葉にセバスは沈黙のまま頷きで返す。

 

「これは私達が異世界へと転移した事を示している。そして今の村長の話でそれは真実だと確認出来た」

 

「成程。しかし、それとお名前を変えられる事の繋がりが、わたくしには……」

 

 言い淀むセバスに、アインズは慌てるなと言う様に右手を上げると、話を先に進める。

 

「この転移が我々ナザリックだけの物なのか、それとも他に転移してきている者達が居るのか解らない状況で、我らの情報を完全に隠ぺいするのは愚策と判断した」

 

 セバスはアインズの話す言葉を一言も聞きもらすまいと耳を澄ませている。

 

「もし転移してきている者達が居た場合、我々は何者かも解らない存在に対して防衛手段を構築しなければならない。しかし、それが何者か解っていれば最善の策が取れる。だからこそ私はアインズ・ウール・ゴウンを名乗ったのだ」

 

「成程。お話は解りますが、お名前を変える事とどう繋がるのでしょうか?」

 

「うむ。まずはモモンガと言う一プレイヤーの名よりも、ギルドとしてのアインズ・ウール・ゴウンの名の方が情報としては解りやすいと言う事。そして二つ目は個人の名前を出してしまうと、我らが何名居るのかを相手に教える事になるからだ」

 

 セバスは目を瞑ると

 

「流石はアインズ様。深いお考え、私共には到底至る事は出来ませぬ」

 

 この最上級の世辞にアインズの機嫌はこれでもかと高まって行く。上機嫌のアインズを前にして、セバスは疑問に思っていた事を聞いてみる事にした。

 

「アインズ様。不敬だとは思いますが質問をよろしいでしょうか」

 

「許す」

 

「ビクトーリア様は、何故これほどまでにこの村に固執するのでしょうか?」

 

 この問いにアインズは押し黙る。

 

 その事を自分の口から話しても良いのだろうかと言う疑問からだ。

 だが、話す事でビクトーリアを囲い込んでいる敵意を、少しでも薄める事が出来るかも知れない。可能性はほんの僅かな、分の悪い賭けだったが、アインズはあえて手を打ってみる事にした。

 

「それは、ビッチさんの種族から来る物と思われる」

 

「種族?」

 

「うむ。ビッチさんの種族は、荒ぶる神として知られている物だが、もう一面では農耕の神でもあるのだ」

 

 アインズは敢えて種族名をぼかして語る。それは、もしビクトーリアが何か窮地に陥った時に切り札となる物だったからだ。

 

 セバスもそこの所を追及する事無く、納得の意を示している。そして二つ目の疑問を口にする。

 

「しかし、何故私はビクトーリア様の中に、我が創造主であるたっち・みー様の面影をあれほど感じるのでしょうか?」

 

 アインズは一度頷くと、星が煌く空を見上げ

 

「それは恐らく時間なのだろう。思い出と言っても良いかもしれん」

 

「時間、思い出で御座いましょうか?」

 

「我ら四十一人の中で、ビッチさんと最も長い時間を共有していたのは、たっちさんだからな」

 

 懐かしむ様に話すアインズの口調は優しげな物だった。

 

「我らアインズ・ウール・ゴウンの歴史は、あの二人が出会った事で始まっているのだ」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ビクトーリアとたっち・みー、二人の出会いはYGGDRASILと言うゲームの黎明期まで遡る。

 

 二人とも、強さを求めるプレイヤーであり、ソロで活動するプレイヤーだった。ある時は経験値の為にモンスターを狩り、ある時は技術向上の為、プレイヤー同士での戦闘を行っていた。

 

 そして、そんな二人が出会うのは必然だった。

 

 何度も何度も戦いながら、二人は技術を、力を付けていった。

 

 そして、たっち・みーはワールドチャンピオンへと駆け上がっていった。一方のビクトーリアは力の証明と言わんばかりに、数々の難関クエストへの挑戦を繰り返していた。

 

 そんな時にYGGDRASIL内で流行し出したのが、人間種プレイヤーによる異形種プレイヤー狩りだった。

 

 そして二人は異形種プレイヤー達の救済を開始する。

 

 なんの見返りを求めない二人の周りには一人、また一人と仲間が集まって行った。そして、それがアインズ・ウール・ゴウンと呼ばれるギルドへと発展して行く事になる。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「何故、ビクトーリア様はアインズ・ウール・ゴウンに入る事は無かったのでしょうか?」

 

 セバスがポツリと呟いた。

 

 それは質問などでは無く、ただ、ただ疑問を口に出しただけの様に見てとれた。アインズも答える訳では無く、ただ呟く様に

 

「あの人は、あの神は自由を愛する神だからな。もしかしたら、アインズ・ウール・ゴウンもあの神から見て、子供達の秘密基地遊びの様な微笑ましい物だったのかも知れない」

 

 だからこそ見守り続けてくれたのかもとアインズは語る。

 

 物想いにふけっていたアインズとセバスの下に、何者かが足早に近寄って来た。

 

 今までの優しさを纏った様な雰囲気を、セバスは一瞬にして警戒を強めた物へと変化させた。守る様にアインズの前に出ると、セバスはその声を挙げる。

 

「止まりなさい! 何事ですかな?」

 

 問われたのは村の若者であった。その者は息を切らせながら悪報を口にする。

 

「む、村の近くに、先ほどの者達と同じ様な鎧を着た者達が迫って来ています」

 

 その報を聞いたアインズとセバスは視線を合わせると村の入口方向へと歩を進めた。

 

 


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