OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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考察

 村の入口に向け歩みを進めるアインズとセバスに、報告を受け急いで駆けて来た村長が合流していた。村長は不安を隠そうともせず、アインズに話しかける。

 

「アインズ殿、一体何者なのでしょうか?」

 

 この問いかけに対してアインズは首を横に振るのみで何も答えなかった。

 

 今、アインズの頭の中を支配しているのは、今後のナザリックでの対応策の事だったからだ。先ほどの村長との会話の中で、この村の近隣には三つの大きな国家が存在するのが解った。

 

 この村、カルネ村から見て北にはリ・エスティーゼ王国、バハルス帝国が存在し、南にはスレイン法国が位置する。

 

 ナザリックが今、どこの位置にあるのかは不明だが、もしこの村の近くに転移していたとすると、ナザリックは三つの大国に包囲された形となってしまう。相手の情勢、戦力がまだ不明な今の状態では、取りあえず敵対は避けたいと言うのがアインズの本音だった。

 

 鎧を着た者達とは王国か、帝国か、法国か、どんな対応が望ましいのだろうかと、頭の中でシィミュレートしていたアインズの視線の先に件の者達の姿が映る。

 

 先発隊なのだろうか、人数は五名程で馬に跨り、それぞれバラバラな装備を纏っていた。まるで取り急ぎ装備を整えて出発して来た様に見える。アインズは僅かに進む速さを緩和させると、時間を掛けながら男達を観察した。

 

 一人、また一人と視線に収める中で、一人の男が眼に留る。短く刈り込まれた頭髪に、顎髭を生やした男。目の前の男達の中で、その男だけが一歩抜きん出ている様に見えた。アインズはこの男が隊長、もしくはそれに準じた者だろうと推測する。

 

 したがって、他の者達には目もくれず、一直線に男の下へと歩を進めた。

 

「何用ですかな?」

 

 鎧を着た者達に対して、先ほどまでの記憶がフラッシュバックしたのか、緊張で言葉が上手く出てこない村長に代わりアインズが男に対して問いかける。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ……」

 

 男、ガゼフがそこまで名乗った時、上空からアインズとガゼフの間に何かが落下して来た。

 

 それはドスンと言う音と土煙を上げ、二人の間に突き刺さった。土煙が徐々に晴れて行くと、それの正体もぼんやりと判明してくる。

 

 それは、アインズにとっては見知った物であり、ガゼフにとっては初めて目にする物だった。

 

 アインズが、それがフラッグポールだと認識した瞬間、背後から不機嫌そうな声が聞こえた。

 

「喋らんで良い。相手にする必要も無ければ、何かに答えてやる必要すら無い」

 

 そう言いながら、声の主は近づいて来た。苛立ちをまき散らせながら。

 

「何処の誰かは知らぬが……いや、王国戦士長だったか? 他人の家にずかずかと土足で入り込んできて何様のつもりか」

 

 この言葉に、ガゼフと共に来た者たちは一斉に腰の剣に手をかけた。

 

「剣を抜くよりも、先に馬から降りるのが礼儀と言うておるのじゃが?」

 

 ビクトーリアは苛立ちを隠す事もせず、フラッグポールを引き抜くと先端をガゼフへと向ける。一触即発、アインズにはその言葉しか浮かんでこなかった。だが、アインズの考えは覆る事になる。良い方の意味で。

 

「こ、これは申し訳ない。先ほども言ったが、私はガゼフ・ストロノーフ。王国戦士長の名を戴いて居る者」

 

 急いで馬を下り、腰を折る。

 

 共に来た者達には僅かに動揺が広がるが、順にガゼフ同様馬を降り、腰を折った。

 

 戦士達のこの行動にビクトーリアは軽く拍手をすると

 

「良く出来ました。仮にも王国の名を戴く者が礼も出来ねば国王の顔に泥を塗る事と覚えよ。例えそれが敵であってもな」

 

 そう言ってビクトーリアは、興味が失せたと言わんばかりにアインズの隣で視線を遠くへと向けた。

 

「それで……この村で一体何が?」

 

 そう言ってガゼフは辺りをぐるっと見渡す。そこには何も無く、ただ平らな土地が広がっているだけだ。

 

 だが、注意して見てみれば、その地面のいたる所に黒いしみが点在している。ガゼフとて数々の戦場を生き抜いてきた男、それが何かはすぐに理解出来た。

 

 そして僅かに香る鉄の様な臭い。それがこの場所で、先ほどまで戦闘が行われていたと有言に語っていた。

 

 ガゼフはおおよその予想は出来ていた、だからこそ当事者達から聞きたかったのだ。

 

 アインズの仮面に包まれた双眸を無言のまま、ガゼフは見つめる。その時、今まで沈黙していた村長がおずおずと口を開いた。そしてゆっくりとだが、丁寧にこれまでの経緯をガゼフに語る。

 

 一つ、一つ、事実が明るみになって行く。話が進めば進むほど、ガゼフの顔はこわばって行った。

 

「成程。ならば、相手は法国、もしくは帝国……」

 

 ガゼフはそう呟くが、その言葉には異議が出される。

 

「そうかのぅ。彼奴等の鎧はヌシと同じような物に見えたが?」

 

 ビクトーリアだった。

 

 しかし、このビクトーリアの言葉は、ただの言いがかり、いちゃもんだ。だが、何も見えて無い現状では、僅かでも情報を引き出したかった。アインズの考えも同様であったらしく、言葉を遮らず沈黙を守る。この言葉にガゼフは戦士長としての立場から冷静に反論を開始した。

 

「確かに仰る事はごもっとも。だが、それが正しいならば、我々は、いや、王国は只の間抜けな集団になってしまいますな」

 

「ほう」

 

 冷静な言葉遣いにビクトーリアは感嘆の意を表す。

 

「成程。成程。だが、あえて矛盾を突く……と言う事は?」

 

「それこそ面倒と言う物でしょう」

 

「そうよな。やはり相手は法国か、帝国か……」

 

 会話の内容が一歩進んではまた戻る。その事に痺れを切らしたのかアインズが口を開いた。

 

「戦士長殿はどうお思いで?」

 

「ガゼフで結構。私の判断からすると、恐らくは法国だと」

 

 この発言にビクトーリアとアインズは「ほう」と相槌を返すに留める。いっその事捕虜を尋問でもして見るかとビクトーリアは思案するが、真実の確認が面倒だと言う感情もわき出して来る。

 

 その時、村の外から何者かが馬を駆って来るのが眼に入った。ビクトーリアがガゼフに合図を送る。背後を確認したガゼフは、慌ててその馬の下へ駆け寄り、二言、三言、言葉を交わすと再び元の場所へと戻って来る。

 そして

 

「何者かが部隊を率いてこの村に進軍中との事だ」

 

 簡潔に告げた。

 

 アインズは表情こそ解らないが、面倒な事になったとゲンナリしている様に見える。だがビクトーリアはニヤリと笑みを浮かべ

 

「馬鹿が勝手に喰いついた」

 

 そう楽しそうに呟いた。


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