OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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出陣

 何者かが近付いて来ている。だが、その何者かが誰なのか解らない。ガゼフにとっても、アインズ達にとっても。

 

 では、自分達を狙って誰かが軍を動かした。そう言う理由ならば、ガゼフにもアインズ達にも思い当たる節はある。

 

 しかし、あるからと言って、それが誰で何の目的かまでは解らない。

 

 ならば、この村が目当てなのだろうか?現実問題として、この村には何の価値も無いだろう。せいぜい遠征中の小休止につかえるくらいだ。

 

 消去法で行けば目当てはガゼフかアインズ達のどちらかに絞られる。

 

「…………」

 

 ガゼフが口を開くが、第一声で躊躇した。アインズは一瞬不思議に思ったが自分がまだ名乗っていない事に気づく。

 

「アインズ・ウール・ゴウン。旅の魔法詠唱者(マジックキャスター)ですよ、戦士長殿」

 

「ではゴウン殿、そちらには何か心当たりは?」

 

 心当たりなら腐るほどある。

 

 だがそれはこの世界では無い場所での事だ。万が一に自分達と同じように転移して来たプレイヤーがいたとしても、自分達、もしくはナザリックの所在がバレルのが早すぎる。

 

 視線を横に向けるとビクトーリアが一度頷いた。自分と同じ考えに至ったと教えていた。だからアインズはこう返す。

 

「我々では無いでしょう。我々は旅の者、それ以前もずっと魔道の研究に時間を取られ、あまり人とは接していませんので。心当たりの方ならば戦士長殿の方が御有りでしょう」

 

 この言葉を受けたガゼフは顎髭を摩りながらしばし思いを巡らせた後

 

「そうですか……ならば、目的はやはり私なのでしょうな」

 

 そう言って詰まらなさそうな笑みを浮かべた。

 

 だが、時は待ってはくれない。実際に敵と思われる一団が迫って来ているのだから。部隊の全貌は未だ不明。ガゼフは一考を案じる事にした。

 

「ゴウン殿。どうだろうか、我々に雇われてみないか?」

 

 先程の村長の話を聞く限り、この村を襲った敵はかなりの人数が居た物と推測された。

 ならば、それをたった二人で片付けた者達を味方に引き入れない手は無い。だが、この行動は不発に終わる。

 

 アインズが丁重に断ろうと口を開いた瞬間、隣から怒りの声が響く。

 

「馬鹿者!」

 

 あまりの怒声にガゼフの顔は若干引き攣っていた。ビクトーリアはズカズカとガゼフに近寄ると、ガゼフの胸に人差し指を突き付け不満を爆発させる。

 

「貴様は妾の話を聞いておったのか。貴様は何者じゃ! 戦士長と言う肩書は只の飾りか! 貴様達は何の為に存在しておる! 国王の為か! 貴族の為か! 違うじゃろう! 貴様らは国の為に存在しておるはず……違うか!」

 

「う、うむ。貴殿の言う通りだ……」

 

 ガゼフはたじろぎながら何とか答える。ビクトーリアのあまりの剣幕に一緒に居る他の戦士達も口を挟む事が出来ないでいた。

 

「では.ガゼフ・ストロノーフ。国とは何ぞや」

 

「く、国?」

 

 ガゼフは言い淀む。

 

 国とは君主が治める場であり、また、土地である。しかし、本当にそうなのだろうか?

 

 目の前の婦人の怒りの源はそこなのだろうか?

 

 ガゼフは記憶を辿り、答えを探す。五年前、十年前、記憶を辿って行く。国とは何か、何故自分は戦士になろうと思ったのか。自分が戦士になろうと、憧れた時まで遡った時ガゼフには答えが見えた気がした。

 

「国とは………………民だ」

 

 ビクトーリアは納得がいったのか怒りを収め笑顔を浮かべる。

 

「そう、国とは民である。民がいなければ、国王だろうが貴族だろうが何の意味を見出す事は出来ぬ」

 

 ビクトーリアは、そこで一度言葉を切ると、ガゼフの後ろに控えている者達へと視線を向ける。

 

「だが、そなたらは守れなんだ。この村は蹂躙された……。そなたらが遅れたせいで無辜の民は殺され、守るべき民は悲しみの底へと沈んでいった」

 

 ビクトーリアの辛辣な言葉に、兵士達の表情は怒りとも悲しみとも取れる物に代わって行く。

 

 だが、ビクトーリアの言葉は終わらない。

 

「無念は尽きぬだろう。じゃが、本当に無念なのは、本当に悲しいのは誰なのかを知れ。そなたらは、もう解っているはず。」

 

 此処で一旦言葉を切り、ガゼフを含めた全員の顔を見つめた。

 その表情は先ほどとは少し違って見えた。

 怒りとも悲しみとも取れる表情は同じなのだが、そこから向けられる敵意は、今はビクトーリアには向いていない様に感じる。

 

「しかし! 悲しみは終わってはおらぬ! 今、まさに今! 再びこの地を、そなたらが守るべき民を! 悲しみの底へと導こうとする者達が迫っておるのじゃ!」

 

 両手を高々と上げると、まるで戦士達の君主であるかの様に言葉を続けた。

 

「じゃからこそ、そなた達自身の手で守らねばならぬ。この国に住まう全ての者達の信頼を胸に受け、その脅威を屠るはそなた達の使命。さあ、行くがいい。勇敢なる者達よ!」

 

 ビクトーリアの言葉が終わった瞬間、その場に居た戦士達は剣を抜き雄叫びを挙げる。

 

「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」

 

 ガゼフは内心驚いていた。

 

 この場に居る者達は少なくとも一度は戦を共にした者達だった。だが、ここまで高揚感を、戦意を高らかにした姿は見た事が無かったからだ。

 

 正直恐怖を覚える程だった。目の前に居る貴族の令嬢の様な女性は、言葉だけで男達を死地へと送りこむ事が出来る者なのだから。

 

 そんな事は露程も知らないビクトーリアは、満足そうに頷くと背後にアイテムボックスを開き、そこから革袋を取り出した。

 

 その革袋をガゼフに渡し

 

「その中の物を皆に。幸運のアミュレットじゃ」

 

 言われてガゼフは中の物を取り出し、その場に居る者達に一つずつ渡して行く。

 

 四角いガラスで出来た掌に収まるほどの物だった。アインズの目にもそれは見えた。だが、アインズは首を捻るのみだった。

 

 ビクトーリアが配ったアイテムは幸運、つまりはluckのステータスが上がる様な代物では無いからだった。ビクトーリアの真意が解らない。

 

 だが、今その事を問いただす時でない事もアインズは理解していた。

 

 アミュレットを受け取った者達は口々に「女神の守りだ」と言いながらそれを懐にしまっていった。ガゼフは乗馬の指示を下した後、ビクトーリアに一礼すると

 

「あなたの名は?」

 

「妾の名はビクトーリア。行け武士達(もののふたち)よ、大義を示せ」

 

「感謝する。ゴウン殿、ビクトーリア殿。何卒この村を」

 

 その言葉を最後にガゼフ達は戦場へと駆け出した。その姿を満足げに見つめた後、ビクトーリアは踵を返しながら村長に声をかける。

 

「村長、戦が始まるやもしれぬ。村人を一ヶ所に」

 

 この言葉を聞いた村長は一目散に走って行く。村長との距離が離れたのを確認したアインズは疑問を問いただす事にした。

 

「流石は情報操作による人心掌握はお手の物ですね。それからビッチさん、あのアミュレットって……」

 

「うむ。そうじゃ。モモンガさんの想像通りの物じゃ」

 

「アインズと呼んで下さい。アインズ・ウール・ゴウンと名乗る事にしましたから」

 

 そう言ったアインズの顔を、仮面をビクトーリアは一睨みすると

 

「いやじゃ。拒否じゃな。じゃがまあ、表向きはそう呼んでやろおかのう、モモンガさんや。さて、彼らは妾の期待に答えられる者達か否や………………」

 

 そう言って村長の向かった先へとゆっくりと歩みを進めた。

 


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