OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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開戦

「いかがですか?」

 

 しばしの間沈黙を守っていたセバスが口を開く。

 

「何がかな?」

 

 何に対しての質問なのか解りきっているのだろうに、ビクトーリアはおどけた様に言葉を返した。

 

「戦況の事で御座います」

 

「歩が悪いのう。八、二、と言った所かの」

 

  悲しむ訳でも焦る訳でも無く淡々とした口調でビクトーリアは告げる。

 

「戦士達の剣撃に対して相手は魔法詠唱者……相性は最悪ですな」

 

「そうじゃなぁ。近接戦に持ち込めれば……」

 

「出来ますか?」

 

「無理じゃろう。じゃが、妾が見たいのはそこでは無いからの」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ガゼフ達が赴いた戦場、そこは死地であった。

 

 純然たる戦士達で構成されたガゼフ達は、最初の一歩ですでに躓いていたのだった。

 

 スレイン法国、陽光聖典。

 

 それがガゼフ達の敵の名だった。

 

 遙か昔にスレイン法国に降り立ったと言う、六人の神に由来する六色聖典と呼ばれる秘密部隊の一つである。

 

 法国による非合法な活動を一手に引き受ける部隊であるが故、その姿は法国に生きる人間にも噂レベルでしか知る者は居ない。

 

 そしてその中の一つ、陽光聖典は特殊工作部隊の中で最も戦闘行為が多い部隊ではあるが、それを構成する人員は驚くほど少なかった。予備兵も合わせて約百人少々と言う物だ。だがこの人数の少なさが陽光聖典の優秀さを表してもいた。

 

 陽光聖典に入隊する最低条件、それは第三位階の魔法が唱えられる神官戦士でなければいけないと言う事だ。第三位階の魔法とは、およそ人間が到達できる最高の階位魔法であり、それが唱えられる者はエリート中のエリートである。

 

 そんな連中が、ガゼフを除けば何の特殊能力を持つ事も無い只の戦士達の前に立ちはだかったのだ。もうこれは戦闘行為なのでは無く、只の虐殺、蹂躙と言ってもいい物だった。

 

 だが、目の前の敵が陽光聖典だけだったならば、もしかしたら、万に一つ、億に一つでも突破口があったかも知れなかった。

 

 敵はそれだけではなかったのだ。

 

 目の前に展開する陽光聖典の戦士達の上に絶望と言って良い物が浮遊していたからだ。炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)、天使と呼ばれるモンスターがそこにいた。

 

 レベルとしては下級に位置するモンスターだが、普通の人間にとっては、おおよそ相手が出来る代物では無い。それが数十体、上空に待機していた。

 

 陽光聖典リーダー、ニグン・グリッド・ルーインは、眼前に迫りくる土煙りを見つめながらニヤリといやらしい笑みを浮かべた。

 

 その土煙りを上げ迫り来る者達の先頭に目当ての人物、ガゼフ・ストロノーフを見つけるとニグンはすぐさま攻撃の指示を出す。流石と言うべきか、陽光聖典は良く調練された部隊だった。ニグンの号令が終わるか否や、部隊員二十数名とそれに召喚された炎の上位天使達から無数の魔法の矢が放たれる。

 

 空に向けて放たれた魔法の矢は、まるで豪雨の様にガゼフ達に降り注いだ。

 

 勝負はたったそれだけで決してしまったかの様に見えた。ガゼフ達、戦士だけで無くその馬までもが地に伏せる格好になっていた。

 

 しかし、ガゼフ達戦士団は傷こそ負っているものの死者は皆無だった。乗っていた馬は全て絶命しているのにも関わらず。これはビクトーリアが渡したアミュレットの効果なのだが、この場に居る者達は、まだ誰も気づかずにいた。

 

「お前達、無事か?」

 

 ガゼフは後ろに居る仲間達に声をかける。その声に弱々しいがはっきりした返事が返って来た。

 

「どうやら俺達は、とんでもない者達を相手にしなければならぬ様だ。お前達、俺が時間を稼ぐ、走れる者はこの戦場から離脱しろ」

 

 何とか一人でも多く生き残ってほしい、そう願いを込めてガゼフは命令を告げた。だが、部下達の答えはそうでは無かった。

 

「隊長、我らは一度失敗しております。ここで逃げて何が王国兵士ですか!」

 

「そうです隊長! あの姫さんも言っていたでは無いですか! 此処で引いたら我らは国民に顔向けが出来なくなります!」

 

 部下達は口々に、此処が戦いの時と叫ぶ。この声を聞きガゼフの顔には笑いが浮かんできた。

 

「どいつもこいつも。行くぞ! 俺が道を切り開く、キサマらは一人でも多くの術者を討て!」

 

「「オオーーーーー!」」

 

 戦士団は立ち上がり陽光聖典へ向け駆け出した。

 

 しかし陽光聖典も甘くは無い、第二派、第三派と魔法の矢を打ち込んで来る。ガゼフは先頭に立ち、自らの全力で魔法の矢を打ち払う。

 

「武技、能力向上! 流水加速!」

 

 武技、この世界に存在するゲームに例えるならスキルの様な存在。

 

 ガゼフは能力向上で身体能力を底上げし、流水加速で精神と攻撃速度を速め魔法の矢を打ち払う。だが、これだけでは終わらない。

 

「武技、即応反射」

 

 剣を振るい終わった瞬間、即応反射を発動し再度剣を振るう態勢に持って行く。そして上空に向け

 

「六光連斬!」

 

 とっておきを爆発させる。

 

 六光連斬、一度に六つの斬撃を繰り出すガゼフの持つ最終奥義。

 

 死兵と見紛う兵士達、ニグンの精神は徐々にじれったさを感じていた。

 

「炎の上位天使を前へ! 一気に彼奴の首を取れ!」

 

 号令一過、炎の上位天使はその手に光剣を出現させ、ガゼフめがけて突貫を開始した。

 

「一人で相手にするな!」

 

 ガゼフは絶えず一対ニ以上で炎の上位天使に対応する様に激を飛ばす。

 

「即応反射、流水加速、急所感知、………………四光連斬!」

 

 周囲に居た炎の上位天使三体を巻き込む様にガゼフの斬撃が走る。二体の炎の上位天使が光の砂へと変わる。

 

「即応反射!ウォラァァァ!」

 

 残りの一体の腹部めがけ剣を横に薙ぐ。だが、ガゼフの斬撃は炎の上位天使の防御力で革一枚の所で防がれる。

 

 しかし、そんな事は予測済みだと言う様に、ガゼフは剣に力を込めて行く。ゆっくりとだが刃は喰い込んで行き、炎の上位天使は光の砂と消えた。

 

 だが、戦いは終わってはいない。目の前の絶望は消えてはくれず、逆に増えていた。

 

 炎の上位天使を倒しても、すぐに再召喚され数は一向に減って行かない。

 

 それにも増して不味いのは、武技の連続使用によりガゼフ自身の精神も体力も限界に近付いていた。

 

 後ろを振り返れば、仲間の半数が地に伏せっている。生きているのかも今の状態では判別は不可能。

 

 もし、この状況を覆せる手段があるとするならば、敵のリーダーの首を取り、戦場を混乱に導く事だろう。しかし、前衛に炎の上位天使、中衛に陽光聖典、これを突破しなければ大将と思われる者には到達は出来ない。

 

 ガゼフは悟った、これは負け戦なのだと。だが、一人でも多く部下を撤退させねばいけない。ガゼフはその事を最優先とし行動を開始する。

 

「スレイン法国と言う場所は、随分と小物ばかりを飼っているのだな」

 

 この安い挑発で敵司令官の足が一歩前に出るのが見えた。

 

「これだけの人数をもってしても、私一人殺せないのだからな。これは、お笑いか何かか?」

 

「殺せ―! 全ての天使をガゼフ一人に集中しろ!」

 

 ニグン・グリッド・ルーインは激昂する。

 

 エリートばかりがそろえられた六色聖典であって、その中でもリーダーにまで上り詰めた男だ。プライドの高さも窺い知れると言う物だろう。

 

 全ての炎の上位天使がガゼフに向け攻撃を開始する。

 

 剣を突き立て、魔法の矢を穿つ。ガゼフは最後を覚悟した。自分の戦いはこれまでだと。願わくば一人でも多く仲間が生き残ってくれることを望みながら。

 

 これで終わり、その言葉がガゼフの脳裏に浮かんだ瞬間、耳を劈く雷鳴と共に二匹の龍が空を駆けた。

 




アニメの中でガゼフと天使のつばぜり合いのシーンを見て、魔法の矢も弾けるのでは?と思いシーンに反映してみました。

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