OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

17 / 115
参戦

「こちらはどの様に?」

 

「そちらは……草原が広がっておりますが」

 

 アインズは板に描かれた簡略的な地図の上で、指を走らせながら村長らと脱出経路の確認作業をしていた。

 

 しかし、この地、カルネ村は街道に点在するごく普通の村であり、守るに難く攻めるに易い構造だ。南北を貫く街道と、西に平原、東に森林と言う構造は、逃亡にはお世辞にも適しては無く、森に身を潜めるやり方でも、モンスターや野生の獣達からの襲撃を考えなくてはいけない。

 

 結論から言えば、このカルネ村と言う場所は、力ある守護者か強固な防衛施設などが無ければ、いとも簡単に落ちる場所だと言う事だ。

 

 アインズはため息しか出なかった。ナザリックと言う物を隠しながら、ましてや自分の実力も隠さねばならない。そして、一番アインズを悩ましているのが、この世界の魔法詠唱者の実力が解らない事だった。

 

 デス・ナイトが、伝説級のモンスターだと言うこの世界、恐らく魔法自体もあまり高い位階までは使用されてはいないだろうと考察は出来る。出来るのだが、それが第五位階なのか、第三位階なのかが解らない。村長や近くに居た男衆に聞いても、彼らの魔法知識はサッパリだった。

 

 アインズは机を指で叩きながらどうした物かと思いを巡らせる。一度ビクトーリアとすり合わせを行うかとアインズが腰を上げたその時、まさにその時、昼間と見紛う閃光と大地を揺るがす程の轟音が響いた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ガゼフ・ストロノーフが死を覚悟した瞬間、周りは昼の明るさと激しい衝撃に包まれた。

 

 光で眩んだその瞳をゆっくりと開き、周りを確認する。眼前に陽光聖典は居た。だが、上空を舞っていた炎の上位天使はその姿を金の砂粒へと変えていた。

 

「何だ? 魔法……なのか?」

 

 今起こった事象はガゼフにとって理解を超える出来事だった。

 

 ガゼフだけで無く陽光聖典側でも同様であったらしく皆凍った様に固まっていた。

 

 そんな異常な混乱の中、ガゼフ達の後から拍手の音が戦場に木霊する。

 

 小さな、草を踏み締める音が徐々にだが近付いて来るのも解る。

 

 パチパチと拍手をしながら戦士達の横をすり抜けガゼフの隣まで来ると、その者は振り向いた。

 

 何時着替えたのか、先程の赤を基調としたドレスでは無く、緑を基調としたドレス姿のビクトーリアが、満足そうな笑顔を浮かべながら戦士達と向き合った。

 

「戦士達よ、先ほどの非礼を詫びよう。貴殿らは真の意味で、この国の守護者である。」

 

 ビクトーリアは戦士達から視線を外すとガゼフと目を合わせた。

 

「戦士長殿も。お疲れであろう、後は妾に任せるが良い。セバス!」

 

「は!」

 

「負傷者の方々を後方へ」

 

「承知いたしました」

 

 ビクトーリアの登場によって、ガゼフの思考はさらなる混乱に陥った。そもそもガゼフにはビクトーリアの話している意味が解らなかった。

 

 ビクトーリアが言う事を要約すれば、自分達戦士団全員よりも、彼女の方が強いと言っている事になる。

 

 そんな事があるのだろうか、確かに女性でも強い者達は存在する。冒険者として最強の称号、アダマンタイトを冠する蒼の薔薇などがその代表的存在だ。

 

 しかしそんな彼女達でも、たった一人で陽光聖典の連中と、次々と召喚される炎の上位天使を相手に出来るのか? 答えは否だろう。だが、目の前の女性、見た目には貴族の令嬢にしか見えない者がそれをやると言うのだ。

 

 確かに、この女性の志は尊敬に値する物だろう。彼女の演説で、兵士達の士気は上がった事は間違いない。だが、これはどんな冗談なのだろう。

 

 そこに考えが行きついた時、一つの答えが導き出された。この女性はパトロンか何かなのだろうと。

 

 魔法詠唱者だって人である以上生活がある。こんな辺境の村まで執事を連れて来る様な人物だ、多分、あのアインズ・ウール・ゴウンなる魔法詠唱者の研究成果を、自分の事の様に自慢しているのだろう。

 

 そう結論づけたガゼフは、視線を動かしアインズを探す。しかし、いや当然そこにはアインズの姿は無い。そして、隣に居たビクトーリアの姿も無かった。

 

 ガゼフは慌てて振り向く、そこにはゆっくりと陽光聖典へと歩を進めるビクトーリアの姿があった。ビクトーリアは戦士団と陽光聖典の中間程の位置で立ち止まると、スカートを摘み令嬢然と腰を折る。

 

「初めましてスレイン法国の者達よ。此度の戦、見せて貰うた。この戦で王国戦士達は、妾の期待以上の輝きと、その有り様を見せてくれた。貢には報いてやらねばならぬ。よって妾はこの者達の味方をしようと思う。怨むな、とは言わぬ。痛みは一瞬じゃ、覚悟せい」

 

 ビクトーリアは無防備な姿勢で死を宣告した。

 

 陽光聖典リーダー、ニグン・グリッド・ルーインは、この滑稽な演説を披露する道化師を見つめながら、笑いが込み上げて来ていた。すでに死に体の王国戦士団と共に、目の前の女は戦うと言っているのだ。これが笑わずに済ませられるだろうか。ニグンは部隊の前に出ると、ビクトーリアを嘲う様に口を開く。

 

「これはこれは、笑わせてくれる。どこのお嬢様か知らんが、冗談はお父上にでも披露していたらどうかな?」

 

「冗談、か。うぬらの様な脆弱な者達が勝てるとでも? 先程の天使の消失は見たのであろう?」

 

「ふははは! どんな手段を使ったのかは知らぬが、無駄な事だったな。お前達、天使を召喚しろ」

 

 ニグンの号令一過、再び天使が召喚される。

 

「どうだ! 死に体の戦士団とキサマの様な女一人で、この軍勢を倒せるとでも言うのか!」

 

「戦士団? うぬは何を言っておる。遊ぶのは妾一人よ、そんな事も解せぬか……それに、そんな小鳥では妾は倒せんよ」

 

 ビクトーリアは、ニヤリと相手を馬鹿にする様な笑みを浮かべた。

 

「ほう。痛みは一瞬、だったか。あの女へ攻撃を集中しろ! 布切れ一片すら残すな!」

 

 ニグンの檄が飛ぶ。その直後、炎の上位天使達が一斉にビクトーリア目がけ飛来した。

 

 事象を目の当たりにして、慌ててガゼフは飛び出そうとするが、その行動はセバスによって止められる。

 

 迫り来る炎の上位天使達を前に、恐れる訳でも無く、慌てる素振りすらせず、ビクトーリアは力有る言葉を口にした。

 

ワイデンマジック(魔法効果範囲拡大化)エレクトロ・スフィア(電撃球)

 

 ビクトーリアの身体を包みこむ様に出現した雷球は、一気にその範囲を増し、炎の上位天使達を巻き込んだ。

 




ビクトーリア・F・ホーエンハイム

種族
 アンドロギュノス  Lv 1
 雷獣(らいじゅう) Lv15
 雷侯(らいこう)   Lv10
 鳴神(なるかみ)   Lv 5
 ??   Lv 1
 ※種族特性・風属性魔法へのLvブースト

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。