OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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今話は、コメディよりの回となっております。


戯れ

「平気か?」

 

 ビクトーリアの問いに、番外席次は首を縦に振る事で答えた。目には生気が戻り、僅かに疲れが見えるが、表情も自然な物に見える。

 

 もう大丈夫だと確信したビクトーリアは、次の行動へと移るべくその場で立ち上がった。その行動を、追いかけようと番外席次も追従するが、若干まだ力が入らないのか膝立ちの状態でポスンとビクトーリアに寄りかかる。しかし、場所が悪かった、いや、番外席次にとっては良かったと言える。

 

 まさに今日、彼女は当たりを引き当てた。

 

 番外席次の頭部は、その愛らしい頬は、ビクトーリアの足の付け根あたり、つまりは股間部にすっぽりと収まった。

 

「はうっ」

 

 ビクトーリアから奇妙な声が漏れる。そして、番外席次も微妙な表情を浮かべた。そして、何かを確認する様に、番外席次は顔を左右に振る。それは愛おしい物に頬ずりする様に見えた。

 

 しかし、場所が問題である。

 

 人の股間部に頬ずりする、これは乙女のする行動では無い。しかし、番外席次はそれを続け、首を捻る。

 

「……陽光聖典」

 

 番外席次はニグンに声をかけた。これは、ニグンにとっても意外だったのか、どもった様に返事を返した。

 

 しかし、驚きはこれでは終わらなかった。番外席次の爆弾発言は投下される。

 

「なんか、ぐにぐにした物がある。この感触は私には無い物。ニョッキみたいに柔らかい。これは何?」

 

 そう言って番外席次は、より一層強く股間部に頬を擦りつける。問われたニグンも、番外席次の質問の意味が解らず首を捻るばかりだ。

 

 それよりもニグンの視線は、ビクトーリアに注がれる。ニグンにとってビクトーリアとは、崇拝の対象であり、恐怖の具現者なのだ。それが今は、頬を赤く染めながら、番外席次と戯れている。

 

「おおさま、おおさま、これは何? これ、これ」

 

 ニグンからの返答は諦め、番外席次は本人から聞き出す事にした。

 

「や、止めんか! こ、これ、止めよ!」

 

「ぐにぐにぐにぐに、これは何?」

 

 ビクトーリアは、必死に番外席次を引き離そうとするが、番外席次もLv90オーバーの強者(つわもの)、簡単には離れない。その間も、番外席次はビクトーリアの股間部に頬ずりを続ける。

 

「わかったから! 答えるから!」

 

「うんうん。ぐにぐに。これは何?」

 

「じゃから、まずは止めよ!」

 

「拒否。ぐにぐにぐにぐに」

 

「………………止めんかー!」

 

 怒りの言葉と共に、バチンと雷が跳ね、番外席次の頭頂部に拳が振り落とされた。ハァハァと息を荒げるビクトーリア、番外席次はその場で突っ伏す様に蹲った。

 

「ま、まったく。何と言う小娘じゃ、少しは恥じらいと言う物をわきまえんか。」

 

 注意を促すビクトーリアだが、その頬は羞恥で赤く染まり、両手は股間部をガードする様に前で重ねられ、その腰は若干引かれている。最早、王の威厳とか、強者の態度とかそんな物は微塵も無かった。ビクトーリアの脳内に、番外席次はどこぞの守護者統括と並ぶ危険人物として記憶された。

 

 そしてビクトーリアは、片足を若干引き、いつでも逃走出来る状態を保ちながら口を開く。

 

「娘よ。こ、これは……アレじゃよ」

 

「アレ?」

 

「そうじゃ、アレじゃ」

 

「アレって何?」

 

「言うなれば、………………せ、せいしょく」

 

「せいしょく?」

 

「あーもう!」

 

 ビクトーリアは髪を掻き上げると、真実を口にする。

 

「妾は、両性具有じゃ! したがって、アレはアレじゃ!」

 

 ビクトーリアのこの言葉に反応する様に、番外席次はゆっくりと顔を上げると、その艶やかな唇をニィッと上げ、邪悪な笑みを浮かべる。

 

「両性……具有。………………だーりん。だーりーん!」

 

 叫びながら番外席次はビクトーリアへ向け突撃を開始した。スレイン法国の国宝が眠る地で、緊張感の無い追いかけっこが始まる。

 

「だーりん! 子作り!」

 

「何じゃ! いったい、何じゃ!」

 

「こっずっくり! こっずっくり!」

 

 番外席次の秘めた思いは、自身の持てる全ての能力を解放しビクトーリアへと迫る。

 

 ビクトーリアは、番外席次の右腕を取ると、払い腰の要領で地面に叩きつける。ドスン! と言う音をたて、またしても番外席次は地面に寝転がる事になった。

 

 番外席次と視線が交差する。だが、此処で予想外の出来事が起きた。ビクトーリアを見つめる瞳から、涙が溢れて来たのだ。それは、先ほど見せた悔しさの涙では無い。

 

 その真意は番外席次の口から語られた。

 

「だーりんは私の事が嫌い?」

 

 ビクトーリアはがっくりと膝を付く。そして、こう誓った。この娘に、もう少しまともな恋愛観を叩きこもうと。そして、こんな歪な教育をしたスレイン法国上層部に、文句を言ってやろうと。

 

 番外席次を立たせながら、ビクトーリアはニグンに視線を向ける。

 

「ニグン、案内せえ」

 

「は?」

 

 あまりの突然の発言に、ニグンは付いて行けず間抜けな返事が口から洩れた。だが、それ以前に「何処へ?」と言う疑問がニグンの頭をよぎる。

 

「じゃから、案内せえ」

 

 声から推測すると、非常にいらついた感じを受け取るのだが、目の前で起こっている事象を見れば、ニグンは安心して恐怖の大王と会話が出来る。それは何故か?その理由は、真面目に話を進めようとする煉獄の王に対して、事もあろうか横から番外席次がちょっかいを出している為である。

 

 ビクトーリアが、自分から目線を外しているのをいい事に、お尻やら、胸やらを指で突いているのだった。その度に手で払われ続けているのだが、負けずに?何度も繰り返している。

 それはそれは楽しそうに。

 

「じゃから、ふん! ニグンよ、ふん! 妾を、ふん! 此処の、責任者の、ふん! 下へ、ふん! 案内せい。ふん!」

 

 此の頻度で番外席次は悪戯を続けている。

 

 だが、言いたい事は解った。残るはその理由だけだ。

 

「王よ、何用で最高神官長に?」

 

 ニグンの問いにビクトーリアは「それはのう」と呟くと、後を振り向き番外席次に一撃を入れると

 

「この国について、一言言いたい事があっての」

 

 と、いかにも憤慨した態度で言い切った。

 






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