OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿
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エ・ランテルまで行けませんでした。
今話も書斎でお話の回です。


王の思考

 ナザリック地下大墳墓 第六階層、星青の館内にある書斎でビクトーリアは椅子に座り、一冊の本に目を通していた。机の上には、羊皮紙の束と共に、もう何冊か書籍が積まれている。パラパラと紙を捲る音だけが支配するその部屋には、二人の人物がいた。

 一人はビクトーリア、そしてもう一人は、ナザリック地下大墳墓、守護者統括アルベドだ。

 活字に視線を落とすビクトーリアの姿を、アルベドはうっとりと見つめていたが、本を閉じ一息吐いた頃合いで、その艶やかな口を開く。

 

「ビッチ様。熱心に目を通されていましたが、その書籍に何か重要な情報が?」

 

 この問いかけに、チラリとアルベドに視線を向け、手に持った本を差し出した。それを素直に受け取ったアルベドは、静かに、ゆっくりとページを開いて行く。開かれたそのページには、僅かな文字と思われる物と、一面に絵が描かれていた。

 いわゆる一般的に、絵本と言われる物だ。

 開かれたページには、一体のスケルトンと、五人の光で包まれた人の姿が描かれていた。次のページには、その六人が人々に囲まれている絵があった。三ページ目には、天から降りて来る光輝く女性と、泣き叫ぶ人々が。

そして、最後のページには……スケルトンと、五人の光で包まれた人が、天から降りて来る光輝く女性を槍で突き刺している姿が。

 アルベドは首を捻ると、ビクトーリアに詳細を問う。だが、ビクトーリアは言葉を発する事はせず、掛けていた眼鏡を差し出した。解析眼鏡を掛け、アルベドはもう一度絵本に視線を移す。今回は、解析眼鏡のおかげで、文字を読み取る事が出来た。

 そして、読み進める内に、アルベドの表情は緊張に満ちて行く。

 

「ビッチ様。これは?」

 

「うん。それはスレイン法国で、普通に流通している絵本だ。そんで、これが活字だけの物、こっちが法典」

 

 そう言って、二冊の本を指差す。アルベドは、慌ててその二冊を手に取ると、ざっと目を通す。

 活字を読み取るその表情は、緊張した物から、うっとりとした妖艶な物へと変化していった。

 

「さすがは煉獄の王ビッチ様。異世界でも御名が轟いていらっしゃるのですね」

 

 そう言うアルベドは、どこか誇らしげだった。だが、ビクトーリアの次の言葉によって、その表情は一変する。

 

「私の成した事で、名が残っているのなら誇る事も出来るけど、これは非常に不味い事態だよ。」

 

「不味い事態、ですか?」

 

「そう。煉獄の王、と言う名を残したとされる六大神、もしくは八欲王。後、十三英雄とかも入れておこうか。これらの者達は、どこで私の名を知った? 私達がこの世界に転移して来たのは、つい先日だぞ。それなのに、昔から我が名はこの世界にあった。六百年も昔から。」

 

「そ、それは、ビッチ様の偉大なる……」

 

「違うな。この謎の答えは一つしか無いだろう」

 

 言葉を遮られたアルベドは、キョトンとした表情で目をパチクリさせているが、ビクトーリアは構わず言葉を続ける。

 

「彼らは恐らく、私やモモンガさんと同じ存在だ。そして、転移したこの世界で、私の名を口にした」

 

「ですが、その者達がそうであったとして、何故ビッチ様の御名前を? やはり、ビッチ様が偉大だからでは無いでしょうか?」

 

 アルベドの酔っているかの様な、上げ感想にビクトーリアはクスリと自虐的な笑みを見せると、こう続ける。

 

「恐らくは語感だろうね。」

 

「語感?」

 

「そう、語感。YGGDRASIL内で最強のプレイヤーは、ワールドチャンピオンだ。たっちさんがそうだね」

 

「はい」

 

「ならば、それを現地の人に聞いて見よう。Come on 小娘!」

 

 ビクトーリアはおもむろに立ち上がると、呼び声と共に指を弾く。その瞬間、ドアが勢いよく開かれ、何者かが猛スピードで進入して来た。アルベドが警戒態勢をとるが、それは瞬時に解除される。

 ビクトーリアの横で、笑顔を見せるその者は、全く邪気を感じさせなかったからだ。

 少女、番外席次は、アルベドと向き合うと丁寧に腰を折り

 

「おはようございます。おおさまのお嫁さん―――」

 

 その瞬間、アルベドからドス黒い何かが吹き出した。

 

「ビクトーリア様、そのゴミ……、その娘をしばしお借りしてもよろしいでしょうか? ……よろしいでしょうか?」

 

 確かに聞こえたゴミ、と言う言葉と、にっこりとほほ笑むアルベドから感じる黒いオーラに気押され、ビクトーリアは首を縦に振る。アルベドは、番外席次の首根っこをむんずと掴み、まるで大型の猫を運ぶ様に、引きずりながら部屋を出て行った。ビクトーリアは、番外席次の無事を願いながらも、この状況は、絶対絶命ならぬ、彼女の名が示す通り、絶死絶命だ、と不謹慎な考えを浮かべる。

 時間にして約十分、二人が帰って来た。それはもう、にこやかな笑顔で。「アルベド様の髪は奇麗ですねぇ」「そんなあなたの耳も愛らしいわ」などと女子トークを交えながら。

 一体、空白の十分間に何が起こったのだろうか?

 確認したい気持ちは十二分に有るのだが、先ほどのドス黒いオーラがそれを躊躇わせる。

 しかし、確実に解った事がある。それは、アルベドの視線。ビクトーリアの股間部を凝視しながら、唇を湿らせる様に舌が蠢く。そう、ビクトーリアは完全に狙われていると言う事だ。

 何とかこの状況を回避するために、頭脳をフル回転させる。しかし……何も良い案は思いつかなかった。アルベド一人なら、何とかなったかもしれない。しかし、此処にはもう一匹の淫獣、番外席次がいるのだ。

 二人の雰囲気からして、何らかの同盟が成ったと思って間違いは無い。

 では、ビクトーリアに出来る事は?

 

「は、はい! 仲直りした様でたいへんよろしい。では、話を戻そう」

 

 強引に軌道修正する事だった。

 そう言った物のビクトーリアの心中は半信半疑だ。普段ならば、こちらの言う事を真面目に聞いてくれる二人だが、淫獣化している場合の暴走度は身を持って知っている。ドキドキしながら二人の返事を待つことしか、今のビクトーリアには出来なかった。

 はたして結果は?

 

「了解しました、ビッチ様」

 

「はーい、おおさま」

 

 なんとか綱渡りは成功した。

 ビクトーリアは安堵の溜息を突きながら、話を再開する。

 

「では小娘、これから妾の言う事に、素直に反応せえ」

 

 番外席次は、この意味不明の言葉に、首を傾げながらも了承する。

 

「実はのう、妾はワールドチャンピオンに勝利した事があるのじゃ」

 

「ええっ!」

 

 ビクトーリアの言葉に、驚きの声が重なる。だが、これはアルベドの発した物だった。

 対象となる番外席次の反応はと言うと、無反応だ。まるで興味が無い様に。

 これを確認したビクトーリアは、満足げに一度頷くと、次の言葉を口にする。

 

「もう一つ秘密の話じゃ。妾はな、冥界の王にも勝利した事があるのじゃ」

 

「「ええっ!」」

 

 今度の言葉には、アルベドと共に、番外席次も反応を示す。してやったりと何度も頷きながら、実験結果の総括であるとアルベドに視線を向ける。

 

「な。言った通りじゃろ」

 

「一体どう言う事なのでしょうか?」

 

 結果に満足するビクトーリアと、真偽の説明を求めるアルベド。

 ビクトーリアは、天井を見上げながら持論をぽつぽつと語り出す。

 

「恐らくは、六大神……彼らの転移場所は人々の目に付く場所だったのじゃろう。そして、人々との邂逅の中、此処が異世界と知って不安になり、口から出た言葉が煉獄の王、そして封印」

 

「ですが、何故ビッチ様の御名前を? それに、倒した、では無く封印、と?」

 

 アルベドが根源の疑問を口にする。

 そもそもこれが疑問の始まりなのだ。

 だが、ビクトーリアの浮かべる表情は、苦笑いを伴ったあきれ顔だった。

 

「ハッタリじゃ。誇張と言ってもよいな。ワールドチャンピオンと言う言葉よりも、煉獄の王と言う言葉の方が派手じゃ。それに加えて、言葉が重く聞こえる。封印も同様じゃな。倒したよりも、難しげに聞こえるからの。小娘の反応が良い例じゃな」

 

「成程。しかし――」

 

 アルベドの言いたい事は解る。なぜ、煉獄の王と言う名が、此処まで恐れられているかの説明がついてはいないからだ。

 

「それはのう、彼奴等が神格化されたからじゃよ」

 

「神格化? でしょうか」

 

「そう。月日が経つにつれ、彼らは神になった。そして、神々が封印した者は、神々でも封印がやっとの者に変化した」

 

「では、八欲王や十三英雄の話は?」

 

「尾ひれじゃな」

 

「成程。ビッチ様はそれを知るために――」

 

「違う。妾が調べておったのは、敵の存在についてじゃ」

 

「敵、でございますか?」

 

 ビクトーリアの発言に、アルベドは緊張気味に声を絞り出す。それは、まるで失念していた事を指摘された様だった。

 

「そう。妾達、プレイヤーを打倒できる者。そなたら100Lv NPCに匹敵する者。YGGDRASIL製のアイテム。ギルド武器。最後に……ワールドアイテムの存在」

 

 そこで一旦言葉を止め、表情を柔らかい物に変えつつ、ビクトーリアは言葉を続ける。

 

「今回の精査では、あまり有益な情報は得る事が出来んかったが、一つ希望を見つける事は出来た。」

 

 満足げに言うビクトーリアに、アルベドは首を傾げる。それを見たビクトーリアは、絵本の一ページ目を指で叩きつつ

 

「アンデッドが、人々に受け入れられる可能性を見つけた」

 




作中で、ビッチさんがワールドチャンピオンとかに勝利したとか言っていますが、反応を見るための嘘ですので、誤解なされない様お願いします。

ビッチさんの強さは、良くて上の下。
もしくは、中の上、と言ったところです。







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