OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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救国

 番外席次がクレマンティーヌを連れ、闇に消えた事で、モモンは一息吐く。

 

 その瞬間、昼間と見紛う光と、爆音が場を支配した。

 

「あれは? まさか、ナーベが!」

 

 ナーベには、第三位階以上の魔法の使用を禁止していた。ならば、今の魔法はナーベでは無い事になる。では一体誰が?敵か、味方か?モモンは急ぎ、霊廟へと向かった。

 

 生身の身体だったら、確実に息を荒げていただろうと言う速度で走り、モモンは霊廟へと辿り着く。

 

 現場は見るも無残な状態だった。大地は草木一本残らず、土は焦げブスブスと煙が立ち昇っていた。何かの爆心地か?と思える場で、その中にあって無事な霊廟には、メイド姿のナーベラル、敵であるはずのローブ姿の男達、そして、愉快げに高笑いを上げる…………金ぴか馬鹿が一人。

 

「見事じゃったぞナーベラル。今のがこの世界での、力の使い方じゃ。うぬも感じたであろう? 力の本流とも言える光を?」

 

「はい」

 

「この世界での魔法の効果は、前の世界とちいと違う様じゃ。前の世界では、魔法は只それだけじゃった。じゃがこの世界では、魔法はあらゆる物に影響を受ける。うぬの様に強化される場合もあれば、恐らく弱体の方へ行く事も有るじゃろう。これからは、それを意識して魔法を行使せよ。良いな。そして……それをナザリックで共有せい」

 

 ナーベラルは、この言葉に驚きと感銘を受け

 

「畏まりました、ビクトーリア様」

 

 そう言葉を返すナーベラルの表情は、支配者に向けるそれでは無く、憧れの何かに向ける、花が咲いた様な表情だった。

 

「うむ!」

 

「うむ、じゃないでしょうに! 駄巨乳ビッチがぁ!」

 

 満足げに場を閉めようとしたビクトーリアに、強烈なツッコミが入れられる。

 相手はもちろん、モモン。

 

「ひゃう! な、なに、かな?」

 

「何ですかこの状況! でっかい花火まで打ち上げて! 衛兵にどう説明するんです!」

 

 モモンの怒りはもっともな物だった。

 

 この世界、この転移した世界では、火薬、と言う物は存在しない。よって、大規模な爆発を起こす事が出来る事象は、魔法のみである。しかし、一般的に第三位階以上の魔法を行使出来る者は、僅かであり、そのほとんどが英雄、もしくはそれに類する者だ。

 

 ならば、この事象をどう説明すべきなのか。

 

 モモン自身か、ナーベが使った、と説明するのはどうだろう?仮にモモンが使った場合、優れた戦士であり、またマジックキャスターだと言う事になる。それは、超英雄の誕生と言われても仕方が無い。まだ、何も功績を挙げていない今の状況で、それを背負うにはリスクが大き過ぎる。

 

 では、ナーベラルではどうだろう?第三位階の魔法が使えると言っただけで、驚かれる様な世界だ。その倍以上の位階魔法が行使できるとなれば、それもまた超英雄の誕生となりかねない。

 

 したがって、どちらも採用できない愚策なのだ。

 

 だが、ビクトーリアは余裕の態度でモモンと向き合う。

 

 そして

 

「ふふん。それならば、妾に解決案があるぞよ」

 

「さすがです、ビクトーリア様!」

 

 上機嫌で提案をするビクトーリアに、自分の良い所を見せられて、浮かれているナーベラルが賛辞を贈る。モモンは、無い頬がひきつる思いだった。大抵の場合、ビクトーリアが上機嫌で披露する提案には、碌な物が無いからだ。

 

 つまりは、状況を楽しんでいるのだ。

 

 モモンはため息を吐くと、ビクトーリアに解決案を提示させる。

 

「うむ。この場合モモンにしろナーベラルがやったにしろ、悪手じゃ。それは、うぬらも解っていよう」

 

 この前置きには、モモンも素直に首を縦に振る。

 

「そう。じゃからな、二人でやった事にすれば良いのじゃよ。」

 

「はあ? 何を言ってるんだ? この駄巨乳は」

 

「駄巨乳とは失礼な。それで、妾の提案を聞くのかや? 聞かぬのかや?」

 

 ビクトーリアの問いに、モモンは一瞬の沈黙の後

 

「とりあえず聞いて置こうか」

 

 重々しく、そう答えるのだった。

 

「さようか。まずは、じゃ。モモン。うぬのその剣、魔法の剣じゃな」

 

「いや、魔法で創った剣ですよ。コレ」

 

「うんにゃ。それは魔法の剣、なのじゃよ」

 

「どうしました? 胸がデカすぎて、馬鹿になりました?」

 

 言った瞬間、モモンの足もとにフラッグポールが突き刺さる。

 

「うぉら骨、妾の話を聞く気が無いのか? えぇ?」

 

 凄い剣幕だった。

 

 さすがのモモンも、ふざけている場合では無いと姿勢を正す。

 

「それで、ビッチさん。これが魔法の剣、と仮定した場合どうなるんです?」

 

「うむ。その剣の能力は、魔法を貯め込み、倍加させるのじゃよ」

 

 ビクトーリアの発言に、モモンは言葉を失う。

 

 魔法を貯め込み倍加させる? そんな都合の良い物など存在するのか?

 

「でも、都合良すぎませんかねぇ。それってチート武器じゃ無いですか」

 

「そうじゃ。じゃが、それがどうした? まずは伝説からじゃよ」

 

「伝説?」

 

「そうじゃ。伝説じゃ。どこからとも無く現われた、伝説の剣を持った漆黒の戦士。その名はモモン! どうじゃ?」

 

 伝説と言う言葉と、ビクトーリアの言い様に、モモンの厨二病がうずき出す。

 

 だが、先ほどの愚策の件が頭をよぎる。ビクトーリアが言っている事は、先ほど自分自身が愚策と切って捨てた案と、同じでは無いかと。モモンは、素直にソレを口に出して見る事にする。

 

「しかしビッチさん、ビッチさんが言っている事って、さっきの愚策と同じじゃありませんか?」

 

「そう聞こえたかや? 同じように聞こえるかも知れんが、ビミョーに違っておるのじゃよ」

 

「はあ。解るか、ナーベラル」

 

「至高の存在である、モモンさ――んが解らない事を、私などが、理解できる筈がありません」

 

「そ、そうか」

 

 モモンは口を噤み、一度頭の中で整理してみる。

 

 しかし、答えは一行に出はしなかった。

 

 そんな様子を楽しげに見ていたビクトーリアは、コホンと咳払いを一つし、回答を提示する。

 

「コレと先ほどとの違いは、アイテムを使う事じゃ」

 

「アイテム?」

 

「そうじゃ。この話には、三つの物が揃わねばこの功績は残せなんだと言うておる。まずは一つめ。これは魔法を貯え倍加させる剣じゃ」

 

 この言葉に、モモンもナーベラルも頷く事で肯定する。

 

「そして二つ目に、第三位階の魔法が使える、ナーベラルの存在じゃ。倍加出来ても、第一位階の魔法では意味が無いからの。そして三つ目。それを扱う事が出来る、戦士の存在じゃ。それだけの力を振るう事が出来る者、じゃな」

 

 ビクトーリアの話しに、頷く事は出来る。だが、これが愚策以上の効果があるとも思えない。しかし、ビクトーリアの話は、まだ終わっていなかった。

 

「これはのう、受け取る者によって違った表情を見せるのじゃよ。ある者はこう思う。剣とマジックキャスターが居なかったら、戦士はたいした事は無い。またある者はこう思う。剣とマジックキャスターを使いこなせる、戦士は凄い。そして、またある者はこう思う。戦士にそれだけの力の切っ掛けを授けた、マジックキャスターは凄い。またまたある者はこう思う。戦士とマジックキャスターは、剣が無かったらたいした事は無い、とな」

 

 ビクトーリアは、こう言っているのだ。取る者によって、違う顔を見せる話によって、名を上げつつも、上げ過ぎない様にすると。

 

 だが、モモンは疑問に思う。

 

 誰にも言ってはいないが、自分が名声を得たいのは、この世界に転移してきているかも知れない、ギルドメンバーにあててだ。では、ビクトーリアはどうなのだろう?

 

 彼女は何故、こうにも?

 

「ビッチさん。何故ビッチさんは、こうまでしてくれるんです?」

 

「うん? 名声を得ることかや?」

 

「ええ」

 

 モモンの問いに、ビクトーリアは暫し無言の後

 

「うーむ。救国の英雄、と言う物を創ってみたくてのぅ」

 

「救国、ですか?」

 

「そうじゃ。どこの国でも良いのじゃが、その国の英雄。いや、英雄を超えた英雄が、妾の計画に必要になるかも、と思うてな。それの下準備として、救国の英雄、漆黒のモモンを創ろうと思うて」

 

「計画って。一体何です?」

 

「秘密じゃ」

 

 ビクトーリアは、そう言ってほほ笑むのみだった。

 

 それに対し、モモンはじっと視線を向ける。絶対に何か、良からぬ事を考えている、と。

 

 だが、当のビクトーリアは、パンッ!と一つ手を打つと

 

「さて、さらわれた王子様は、この中じゃ。妾は行く所が有るゆえ、ここらで失礼するぞよ」

 

 そうふざけた言葉を残し、フリントロック短銃を発射する。

 

 そして、開いた暗闇に、ローブ姿の者達と消えて行った。

 

「ビクトーリア様は、一体何をお考えなのでしょうか?」

 

 ナーベラルが、ポツリと呟く様に口を開く。

 

「解らん。だが、あの魔女の事だ、ナザリックの不利益にはならんだろうが、碌な物では無いだろうな」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ローブの男達、カジットの一味が闇を抜けた場所は、すり鉢状の石造り場所だった。

 

 その一番低い場所で、カジット達は立ち尽くし、その場所から階段状に三段程上がった場所で、ビクトーリアが腰を降ろす。

 

「こ、ここは一体?」

 

 カジットは不安げに声を漏らす。

 

「そう怯えるでは無い。取って食ったりはせぬわ」

 

 ビクトーリアは、そう呟くのみ。

 

 沈黙が支配する中、時間にして五分程度だろうか、人の気配が生まれる。

 

「王よ、お待たせして申し訳御座いません」

 

「よい。時間を取らせてすまんな。ニグンよ」

 

 現れた人物は、スレイン法国最高次官、ニグン・グリッド・ルーイン。

 この登場に、目を見開き驚きを顕にしたのは、カジット。

 

「ほ、法服、じゃと。で、では此処は?」

 

「ええ。スレイン法国ですよ」

 

 カジットの感情など露にも関せず、ニグンが淡々と事実を告げる。

 

「王から、あらましは聞いています。まずは、名は?」

 

「何?」

 

「名を聞いているのですよ。答えなさい」

 

 ニグンは、冷静に、それでいて圧を掛ける様に言葉を口にする。カジットの顔に、汗が浮かぶ。押されているのは、有々と解った。

 

「カ、カジットじゃ」

 

「ほう。フルネームで答えなさい」

 

「ぐ。カ、カジット・デイル・バダンテール」

 

「洗礼名があると言う事は……あなた、法国の人間ですね。」

 

 確認を終え、ニグンの視線はビクトーリアへ。

 

 それに相対する様に、ビクトーリアは小さく頷く。

 

「それではカジット、これからが本番です。あなたの目的を、聞かせて頂けますかな?」

 

「り、理由じゃと。そんな物、言う必要――」

 

「王が聞いているのです。答えなさい」

 

 きっぱりと言い切るニグンの言葉には、得も言われぬ重さがあった。

 

「わ、儂は、幼い頃――」

 

「そんな事は聞いてはいませんよ! 目的を言いなさい!」

 

 ニグンの言葉は、こう言っていた。

 

 カジット達には、何の興味も無い、と。

 

「目的を」

 

 ニグンは再度、質問を繰り返す。

 

 冷たい目が、じっとカジット達を睨みつける。

 

「儂らの、目的は、あ、新たな蘇生魔法の開発……」

 

 カジットが、その言葉を口にした瞬間、ビクトーリアが立ち上がる。

 

 そして、ニグンへと近寄り

 

「成程のぅ。ならば、望みを叶えてやろうでは無いか。ニグン、彼奴等の事は任せる」

 

「王の御心のままに」

 

 そう言うと、ビクトーリアは法国を後にした。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

〜ナザリック地下大墳墓表層階〜

 

 その場所に、番外席次と意識を失ったクレマンティーヌの姿はあった。

 

 二人の出迎えとして、ユリ・アルファとデス・ナイト一体が。

 

「絶死絶命、それが?」

 

「そう。コイツ。」

 

 ユリがクレマンティーヌを見降ろす。その視線は、まるで興味が無い様であった。ただ、自分の主人を煩わせた者を、確認しているだけに見える。

 

「アルベド様の方は?」

 

「ええ。ビクトーリア様の指示通り、準備は出来ているそうよ」

 

「そう。それじゃあ」

 

「ええ」

 

 確認を終え、クレマンティーヌをデス・ナイトに預け、ナザリック地下大墳墓へと帰還する。

 

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