OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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白き鎧

 チャイナドレスを纏った、カイレと言う老婆と、シャルティアを交互に見つめながら、ビクトーリアは呟く様に唸りを漏らす。場の者達は、全員それに気づくが、誰も口を挟もうとはしなかった。

 

「これで全てでは、無いのであろうな」

 

「どう言う事で御座いましょうか、ビッチ様?」

 

 沈黙を破り発せられたビクトーリアの言葉に対し、アルベドが疑問を口にする。

 

「良く見てみよ。シャルティアは、今だ武装をしておらん」

 

 アルベド、ニグレドは息を飲む。そうだ、そうなのだ。現状のシャルティアは、完全武装の状態だ。しかし、闇夜の中戦うシャルティアは可憐なドレス姿のままなのだ。画面の中のシャルティアを見つめるビクトーリアの黄金の瞳は、決して逸らされる事無く、その額には汗が浮かぶ。アルベドは、愛ゆえにかビクトーリアの僅かな変化に気付いた。そして、声を震わせながら問いかける。

 

「ビ、ビッチ様、いかがなされましたか?」

 

「うん? いやのう、ふふっ。探し物はなかなか見つからぬ物なのに、危惧する物は容易く姿を現しよる。世は上手く回らぬ物じゃ。かかっ」

 

 ビクトーリアは自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

「ビクトーリア様。危惧する物とは、以前仰られていた?」

 

「そうじゃ。一つ目はワールドアイテム。もう一つは………………妾と同格、もしくはそれ以上の存在」

 

「ちょ、ちょっと待って。ビクトーリア様と同格って、そんなん居るの?」

 

 ビクトーリアの発言に、クレマンティーヌが慌てて異議を唱える。だが、当のビクトーリアは落ち着きを保ちながら

 

「おるよ。妾程度の者など、妾がおった世界では腐るほどな。恐らく、雌猫の国が信仰する神もまた、妾やアインズと同じ存在じゃろうて」

 

「じゃ、じゃあ、ビクトーリア様は、ぷれいやー、なの?」

 

 クレマンティーヌの言葉に、ビクトーリアの眉が跳ねる。

 

「ほう。雌猫、うぬは知っておるのか、プレイヤーと言う言葉を」

 

「うん……いや。はい。法国に降り立った六大神が、ぷれいやーなる物と伝えられています。あの絶死絶命の祖もぷれいやーだと」

 

 ビクトーリアは、クレマンティーヌの言葉に「さようか」と短く答えるに留まる。

 

「二グレド、時間を先へ」

 

「畏まりました、ビクトーリア様」

 

 二グレドの手が動き、画面は高速に再生されて行く。暗かった画面が、徐々に明るくなり、端には太陽が見える。日が昇り、周りが昼の明るさになった頃、それは起こった。だらんと力を抜いて佇んでいたシャルティアだったが、その頭がゆっくりと起き上がる。その可憐な少女の様な顔が正面を向いた瞬間、その姿がかき消えた。そして、画面外から金属と金属がぶつかり合う音が響く。

 

「ニグレド、巻き戻せ。人物を中央へ」

 

「畏まりました、ビクトーリア様」

 

 すぐさま二グレドは、指示を実行する。シャルティアが顔を上げ、姿を消した瞬間画面は停止し、その姿を追う。停止した時間の中、映るシャルティアはすでに武装した姿だった。ビクトーリアは、その状況に驚愕を現し、ゴクリと喉を鳴らす。ゆっくりと画面が動きだし、シャルティアと敵対する者の姿が映し出される。

 

 それは、龍を思わせる純白の鎧を着た戦士の姿。鎧の戦士は、シャルティアの一撃を受けても、ノックバックするに留まっていた。ダメージとしては、右肩装甲の損傷のみ。

 

 勝負は一瞬の事だった。鎧の戦士は、上空へ飛翔すると、自身の周りに十数本の剣を出現させる。その刃を矢の様にシャルティア目がけて発射したのだ。それは、シャルティアの命を奪う攻撃では無い事をビクトーリアは感じ取る。だが、その威力は凄まじく、シャルティアを墜落させるだけの力を持っていた。魔法の武器か、それとも鎧の男の魔法か、もしくはスキルによる物か。現状ではそれを確認する事は無理である。しかし、一つだけはっきりと解った事があった。鎧の男が強者、である事だ。

 

 ナザリック地下大墳墓が先兵。守護者最強のシャルティア相手に、無事逃げ切る事が出来るだけの力を持っている、と言う事が。ビクトーリアは、拳を強く握りしめる。プレイヤーか、この世界の者かは解らない。だが、自分やモモンガを脅かす存在は、確かに居ると言う事を心に刻みながら。

 

「ニグレド、あの者を追えるか?」

 

「申し訳ありません。離脱直後に反応がかき消えました」

 

「転移か?」

 

「恐らくは……」

 

 事実を確認し、一つため息を吐きながら、ビクトーリアの視線はクレマンティーヌへと注がれる。その視線に、クレマンティーヌはふとももを擦り合わせながら身をよじる。

 

「二人、いやニグンを含めて三人か。………………手が足りぬ、な」

 

「ビッチ様。足りぬ、とは?」

 

 呟きにも似たビクトーリアの言葉に対し、すぐにアルベドが反応を示す。その声色は、どこか寂しげであった。

 

「言葉通りの意味じゃ。妾の手足、いや、眼となる者が足りぬ。現状、妾が動かせる者は、小娘、雌猫、ニグンの三名のみじゃ。魔女っ子の力不足は否めんし、何とか言うつるピカは魔法研究に専念させておるしな。いや、実質ニグンは動かせんから、二人か」

 

「ビッチ様! 私達を! 私達ナザリックの僕をお使い下さい」

 

 アルベドは悲痛な叫びを挙げる。だが、ビクトーリアは黙って首を横に振る。

 

「何故です!」

 

 アルベドの瞳に涙が浮かぶ。

 

「妾が、うぬらの主では無いからじゃ」

 

「ですから何故ですか! ビクトーリア様は、ナザリックが神、それならば私達の主では無いですか!」

 

「違うのう。うぬらは自らをナザリックが僕と言うが、正確には、うぬらはギルド アインズ・ウール・ゴウンが僕じゃ。妾は、ナザリック地下大墳墓が神。例えるなら、空っぽの城を治める墓守よ」

 

「そんなぁ! ビクトーリア様は、私の愛と忠誠を受け取って下さいました。それが、何故!?」

 

 ビクトーリアは、涙で濡れるアルベドの瞳をじっと見つめ

 

「確かに妾はうぬの心を受け取った。うぬらの愛は、それぞれ愛する者へと向けるが本懐。じゃが、忠を捧げるは唯一人、モモンガのみと覚えよ。アインズ・ウール・ゴウンなる物では無く、モモンガのみ、と。解るな、アルベドよ」

 

「は、い。畏まりました、ビクトーリア様」

 

 アルベドは、その表情に影を落とし、何とか言葉を絞り出す。

 

「ふふっ。そんなにしょげんでも良かろうに。うぬが、妾の妃である事には、何ら変わりは無きゆえに」

 

「ビ、ビッチ様?」

 

 アルベドの表情に、明るさが戻る。

 

「疑うか? 疑うなら、ユリかナーベラルに聞くが良い。村での妾とモモンガさんの会話を、な」

 

「は、はい!」

 

 その時、アルベドの脳裏に言葉が飛びこむ。

 

「ビクトーリア様、アインズ様がお戻りになられました。すぐに、こちらにいらっしゃるそうです」

 

「さようか」

 

 ビクトーリアは、短く肯定の言葉を口にすると、虚空から一枚のカードを取り出す。

 

「アルベド、これを」

 

 アルベドは、それを受け取ると、表面に書かれた文字を見つめ、顔をひきつらせた。

 

「ビッチ様、こ、これは……」

 

「そうじゃ。使い所は解っておるな」

 

「はい。畏まりました」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 氷結牢獄に足音が響く。足音の間隔が狭い。走っている、もしくは相当急いでいる事が推測される。足音の主は、恐らく、いや、確実にアインズだろう。その音は、段々と大きくなりドアを蹴破る様に開く。

 

「「あ」」

 

 ビクトーリアとアルベドの声が重なった。

 

「え?」

 

 その声に答える様に、アインズもまた声を上げる。

 

「おまえおまえおまえ、こどもをこどもをこどもを、さらったなさらったなさらったなぁーーー!」

 

 ニグレドのお約束が発動した。ビクトーリアとアルベドは、アインズの手を確認する。だが、そこに人形の姿はなかった。

 

「アルベド! 姉を押さえよ!」

 

「はい!」

 

 ビクトーリアの号令一過、アルベドが素早く行動を開始する。アルベドは、ニグレドを羽交い絞めにするが、その力は凄まじく、じりじりとアインズとの距離を詰めて行く。

 

「アインズ、早よう人形を!」

 

 ビクトーリアの叫びとも取れる言葉に、喝を入れられた様にアインズは即座に反応する。

 

 

 

 ……………………

 

 

 

「何とかなりましたねぇ」

 

「アホか! うぬはこの地の支配者であろうが!」

 

 ビクトーリアの烈火の如き怒りを受け、アインズは申し訳無いと縮こまる。その姿を見、幾分溜飲が下がったビクトーリアは、溜息を一つ吐き場の空気を変える。

 

「それでアインズ。精査の結果じゃが……」

 

 ビクトーリアの重い言葉に、アインズは無いはずの喉が鳴った様な気がした。

 

「ワールドアイテムじゃ」

 

「え?」

 

「シャルティアを精神支配したのは、ワールドアイテムじゃよ」

 

 告げられた事実に、アインズは言葉を失う。存在する可能性は、アインズとて頭の片隅にはあった。しかし、それを現実として突き付けられ、アインズは混乱の渦へと沈みこむ。

 

「じゃ、じゃあ、ナザリックのワールドアイテムで相殺すれば……」

 

「解らぬ。それが良策なのか、下策なのか」

 

「何故です?」

 

 アインズの言葉を受け、ビクトーリアはニグレドへと視線を向ける。ニグレドも、その意を汲み取り、クリスタル・モニターに映像を映す。場面は、当然あの鎧の戦士とシャルティアの戦闘場面。その光景を目にしたアインズは、一人唸りを漏らす。

 

「そう言う事、ですか」

 

「ああ」

 

「あの様な者が居るとなると……今、ワールドアイテムを使うのは、特に二十を持ち出すのは危険ですね」

 

「うむ。最早、取れる手段は一つ、じゃな」

 

「直接シャルティアを、ですね」

 

 アインズ、ビクトーリア、共に直接的な言葉を避けてはいるが、結論的には、シャルティアの打倒である。一度殺し、復活させる、と言う事だ。

 

「ビッチさん。その前に……」

 

「何じゃ?」

 

「階層守護者達に、ワールドアイテムを持たせようと思います」

 

 アインズの言葉に対し、ビクトーリアは一度頷き

 

「対ワールドアイテム用、か」

 

「ええ」

 

 御互い言葉は少なく確認すると、アインズは視線をアルベドに向ける。

 

「アルベド。ユリとシズを呼べ。今から私とお前、四人で宝物庫へと向かう。ビッチさん、引き続き監視をお願いします」

 

「了解した」

 

 

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