OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

59 / 115
時代は膝。


Grand Symphony

「煉獄の王と呼ばれた御方が、惨めな物ですねぇ。あは、あはは、あはははは!」

 

 シャルティアは、ビクトーリアの顔を踏みつけながら、優越感に浸る。だが、その踏みつける右足に違和感を感じ、シャルティアは視線を落とす。その視線の先では、ビクトーリアがシャルティアの足首をつかんでいた。

 

「くすっ。哀れですねぇ、お姉さま。王と呼ばれた御方が、縋りつきますか……ぐぎゃー!」

 

 余裕を見せるシャルティアの声が、悲鳴に変わる。足に縋りついていたと思われたビクトーリアの行動が、シャルティアの勘違いだったのだ。踏みつける右足を、ビクトーリアは右手で掴み力の逃げ場を奪い、左拳でシャルティアの踝を打ち抜いた。シャルティアの鎧が、いかに強固と言っても、関節部はそうは行かない。そこを狙った攻撃だ。バランスを失ったシャルティアは、後方へと踏鞴を踏む。その光景を見つめながら、ビクトーリアはゆっくりと起き上った。

 

「まったく、少しばかり優位に立った程度ではしゃぎおって。クソガキが……あまり舐めるでないぞ」

 

 ビクトーリアの瞳が、爬虫類を思わせる物に変化する。よろめくシャルティアに向け、ビクトーリアの蹴りが飛ぶ。右左、ハイ、ミドルとフェイントを交えつつ蹴りつける。シャルティアは、胸の前で腕を交差し何とかガードを固めた。だが、ビクトーリアの連檄は終わらない。次第にシャルティアの腕がしびれ始め、ガードが下がる。それを見逃さず、シャルティアのガードを跳ね上げる様にビクトーリアは蹴り上げた。今度は、シャルティアが無防備にその身体を晒す。ビクトーリアは、そのまま振り上げた左足を、シャルティア目がけ振り下ろす。その左足は、深々と右肩に食い込み、シャルティアは膝を付く。

 

 ビクトーリアの攻撃は続く。踵落しの状態のまま、左踝を九十度回し、足の甲でシャルティアの首を固定すると、空いた右足でシャルティアの顔面を踏み抜く。それも、空中でだ。

 

「グォッ!」

 

 前にも後ろにも力を逃す事が出来ず、シャルティアは力なく蹲る。

 その姿を見つめ、ビクトーリアは意地の悪い笑みを浮かべ

 

「さて、そろそろ本番と行こうかのう……クソガキ」

 

 ビクトーリアは眼を閉じ、右腕を上空に向け、高らかにその名を呼んだ。

 

「ミョルニル!」

 

 その声に呼応する様に、ビクトーリアに極太の雷が降りかかる。光が霧散した後、そこには黄金の光を放つ女性が立っていた。金色の髪を頭頂部と襟足で二つずつ、計四つのポニーテールに結び、身に纏うは、鈍い光沢を放つ布で出来たビキニとパレオ。深い輝きを湛えた金色のガントレットにグリーブ。そして、右手には身の丈を超える、巨大なハンマー。

 

 シャルティアは、その存在を眼にし、本能的な恐怖を感じた。

 

「せ、清浄投擲槍!」

 

 清浄投擲槍の、最後の一投を放つ。黄金に包まれた女性は、眼を瞑ったままハンマーを振るう。その軌道は、まるで見えているかの様に、清浄投擲槍を捉えた。その結果、槍を黄金の砂粒へと変える。

 

「何を呆けておる……クソガキ」

 

 女が瞳を開く。その黄金を湛えた怪しく光るその瞳は、圧倒的な力を持つ捕食者の物だった。

 

「お、お姉さま?」

 

「ん? 何じゃぁ。ちいと髪型を変えただけで、判別出来んか? あほうな妹じゃ」

 

 ミョルニルを肩に担ぎ、ビクトーリアはゆっくりとシャルティアに近づく。その歩調は徐々に速度を増し、走る速度でシャルティアと向き合い、ミョルニルを振るう。シャルティアはスポイトランスを掲げ、ビクトーリアと相対する。

 

 両者の得物が激突した。

 

「え?」

 

 火花を散らすと思われていたスポイトランスが、何の抵抗も無く、金色の砂へと変わる。

 

「な、何が!」

 

 動揺するシャルティアに、ビクトーリアは回し蹴りを入れ吹き飛ばすと、意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「これはのう、ミョルニルと言うて、攻撃力ゼロのゴミアイテムじゃ」

 

「攻撃力……ゼロ?」

 

 シャルティアの驚きに、ビクトーリアは頷きで返すと

 

「左様。じゃがな、一つだけ良い所もあってのう、それは……こいつでぶん殴った魔法、アイテム、装備を破壊出来ると言う事じゃ。つまり、アイテム破壊に特化した物じゃといえるのう」

 

 ビクトーリアは楽しそうに説明するが、シャルティアには何が良いのか解らなかった。ビクトーリアも、それを承知と補足を口にする。

 

「こ奴の利点、解らぬと見えるのう」

 

 言って、ミョルニルでシャルティアを攻撃する。これにより、シャルティアの兜が、鎧が、光の砂へと消えた。

 

「これで理解出来るか? ……出来んか。つまりはじゃ、何の制限も守る物も無く、一対一の殺し合いが出来ると言う訳じゃ」

 

 言い終わったビクトーリアの表情は、見た事も無い愉悦を湛えていた。

 

「まあ、デメリットも多くてのう、これを呼び出すためには赤ゲージ、つまりは瀕死の寸前まで自分を追い込まなならん、と言う事じゃな。そして、妾の纏っておるこの装備……防御力はゼロじゃ。ここまでせな、これは使えん。つまりは……クソガキ、うぬは強者、と言う事じゃ」

 

「う、うああああああー!」

 

 シャルティアは声を上げ、ビクトーリアに向け走り出す。だが、シャルティアを見つめるビクトーリアの瞳は、どんよりとした物だ。その理由は、シャルティアにあった。鎧を破壊されたシャルティアの身体は、インナー一枚の姿となっていた。だが、そのインナーが原因なのだ、紺色の木地に、左右の胸の頂点辺りを走る二本のシーム。胸に貼られた白い布には“しゃるてぃあ”の文字。ビクトーリアの記憶が正しければ、あれはスクール水着、と呼ばれていた物だ。それも旧型の。非常に趣味的な物だった。

 

「あんのエロ鳥がぁ」

 

 最早、ビクトーリアの口からは、この言葉しか出てこなかった。

 

 両者の拳が交錯し、お互いの顔面を捉える。左手で互いの襟足を掴み、ノーガードで殴り合う。ガントレットが赤く染まり、周りの空気も鉄の匂いを含んで行く。純粋な殴り合いの勝負、膝を着いたのはシャルティア。荒く息つき、その眼は焦点が合ってはいない。

 

「しっかりせんか!」

 

 檄を飛ばしながら、横蹴りでシャルティアの顎を打ち抜く。力が完全に抜けていたシャルティアは、この攻撃によって、後方へと吹き飛ぶ。本能とでも言うのか、シャルティアはすぐに身体を起こす。しかし、このチャンスを逃すビクトーリアでは無い。視界の揺れが収まったシャルティアの眼前に、三本の飛来物が迫る。煙管の形にリデザインされた、ダガーだ。シャルティアは、ダメージを最小限とする為、顔の前で腕を交差する。しかし、その行動は失敗に終わった。直撃するかと思われた煙管は、シャルティアの直前で爆散したのだ。その煙によって、シャルティアの視界が奪われる。焦り、その場を飛び退こうとするシャルティアの左肩に、激しい衝撃と痛みが走る。急ぎその場所に視線を向ける。そこには、赤い旗が揺らめくフラッグポールが突き刺さる。シャルティアは其れを引き抜こうと手を掛けた。

 

 だが、ビクトーリアの攻撃は終わってはいなかった。フラッグポールに意識を取られ、シャルティアは失念した。敵であるビクトーリアの存在を。それに気付いた時には、もう遅かった。フラッグポールに続き、シャルティア目がけてビクトーリアが飛来する。まるで正座をするかの如く、ビクトーリアの両膝がシャルティアの顔面に食い込んだ。これによって、シャルティアはさらに後方へと吹き飛ぶ。急ぎ立ち上がろうともがくが、シャルティアの足は震え、言う事を聞いてはくれない。ビクトーリアはゆっくりと近付きながら、力有る言葉を口にする。

 

「スキル。運命の三女神(ノルン)

 

 力の解放により、ビクトーリアの姿がブレる。そのブレは徐々に大きくなり、最後には三人のビクトーリアの姿が。

 

 ――運命の三女神(ノルン)。シャルティアが使う死せる勇者の魂(エインへリヤル)の上位互換とも言えるスキル。十五秒間の制限で、過去と未来の自分を呼び寄せる――

 

 三人のビクトーリアは、シャルティアを中心に、前二人、後一人の三角形を作り、同時にシャルティア目がけ走り出し、膝を突き立てた。同時に、二人のビクトーリアは姿を消す。頤を左右から、そして襟足に膝を叩きつけられ、シャルティアはぐったりと座り込む。その様子を探る様に、ビクトーリアは周りを一周し、シャルティアの正面に立つ。ビクトーリアは、ゆっくりと、優しくシャルティアの両手を取る。その行動は他者から見れば、敗者を讃える者に見えるだろう。だが、この戦いは殺し合いなのだ。シャルティアを救う為に、シャルティアを殺す戦いなのだ。ビクトーリアは、シャルティアと両手を繋ぎながら、右足を引く。そして、力ある言葉を口にする。

 

「超位魔法Grand Symphony(勝利への賛歌)

 

 二人の周りに多重魔方陣が展開される。

 

「怨むなとは言わぬ。全ては妾の責じゃ。復活した後、殺したければ殺せ。……良いな」

 

 ビクトーリアはシャルティアに向け、膝を突き上げる。勝負は決まった。シャルティアは、その姿を黄金の砂粒へと変える。

 

「流石でありんすぇ、お姉さま……」

 

 消えゆく中、シャルティアの呟きがビクトーリアの耳に、胸に傷を残した。

 

 




次話にて、シャルティア戦終了となります。
最後の超位魔法については、次話で説明が。
ミョルニルの見た目は、某ゴルディオンハンマーを想像して頂ければと。

この章終了後の、新章については、完全オリジナル ”一顧傾国編” と続きます。

いかがでしたか?
感想お待ちしてます。
補足
ビクトーリアのフィニッシュ技は、プロレスラー飯伏 幸太選手のカミゴェと言う技です。

お付き合い頂ければ幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。