OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

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衝突

 モモンガはナザリック地下大墳墓第九階層、通称円卓の間でブツブツと愚痴めいた言葉を呟きながらぐったりと頭を垂れていた。

 

「はぁー、解ってはいたけど、ビッチさんへの好感度は凄い事になってるなぁ。何とかなりそうなのはコキュートスぐらいか……。それにしても悪い事したな、最初は冗談から始まった事なんだよなー」

 

 自分達の過去の行いを悔むモモンガだったが、部屋の扉をノックする音で現実への帰還を果たす。

 

「うむ。入れ」

 

 魔王ロールで入室を許可する。

 

「第六階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラ」

 

「同じくマーレ・ベロ・フィオーレ」

 

「「入ります」」

 

 緊張した双子の声が響いた後、軽い音を立て扉が開き二人は姿を見せる。

 

 今モモンガが何をしているかと言う事をまずは説明すべきだろう。

 

 現在モモンガは円卓の間で新入社員の面接宜しく僕達を一人ずつ呼び寄せ自分とビクトーリアの好感度調査を行っている最中である。

 

 最初は第六階層に皆を集め、一度にすませてしまおうと思っていたモモンガだが、細心の注意を払うべきと言うビクトーリアの助言を受け、一人ずつの応対とした。

 

 最初に結果を話してしまえば、結果は想像の通りだったと言う事だ。モモンガへの好感度はストップ高と言ってもいい程の物で、方やビクオーリアについては語るのも悲しい程の散散たる物でだった。

 

 そして最後に呼び出されたのが、先ほど部屋へ入って来たアウラとマーレである。

 

 モモンガは二人に腰かける様促すと、レモンの入ったグラスに水を入れ差し出した。

 

「モ、モモンガ様!」

 

 アウラはモモンガの行動に驚き声を上げ、マーレは口元に手をやりながら言葉を失った。

 

「どうした二人とも? 冷たいうちに飲むと言い」

 

 モモンガが笑顔?でそう促すと二人は元気よく返事を返しグラスに口を付ける。水を飲み終え二人が一息付いたのを確認すると、モモンガは口を開いた。

 

「アウラ、そしてマーレ。私は二人にとってどう言う存在だ」

 

「お優しく、偉大な御方です」

 

 アウラは元気よく答える。

 

「すっごく優しい方だと思います」

 

 マーレは緊張からか若干小声だが迷いなく答えた。ここまでは今までの僕達と同じ。本題はここからだった。

 

「ではもう一つ質問だ。ビッチさん。いや、ビクトーリア・F・ホーエンハイムと言う人物はどうだ?」

 

 モモンガにとってこの質問は非常に悲しい物だった。自分達の冗談から始まり、自分の作り話で大切な友を非情な立場に追いやってしまったのだから。重い気持ちで双子の言葉をモモンガは待った。

 

 アウラとマーレの方はお互いに目を合わせると、何かを確認する様に一度頷き口を開く。モモンガに質問して見ると言う絶好の機会が今訪れているのだ。アウラとマーレは、思い切って先程のユリとの話の中で出て来た案件を聞いてみる事にした。

 

「モ、モモンガ様。ビクトーリア様は、茶釜様がおっしゃっていたビッチさんなのでしょうか?」

 

 アウラが代表して口を開く。

 

 この問いにモモンガは何故そんな事を? と疑問に思いながらも素直に答える事にした。

 

「そうだ。私達がビッチさんと呼ぶ者はビクトーリア・F・ホーエンハイム唯一人だ」

 

 この答えに二人は声には出さなかったがその表情は「やっぱり」と言った物だった。

 

「では、ではモモンガ様、なぜビクトーリア様は至高の御方達を、茶釜様を殺したんですか! 茶釜様、餡ころもっちもち様、やまいこ様は、その、楽しそうに、まるですごく、すごく感謝している様にあの方のお話をなさっていました。そんな方が何で! 何で茶釜様達を……」

 

 アウラは涙を隠すこと無くモモンガに詰め寄る。隣ではマーレも目に涙を貯めている。本当の事を話すべきなのか、モモンガは困惑する。本当の事を話せば、少なくともビクトーリアへの風当たりは少しは緩和される。

 

 だが、至高の四十人はお前達よりも別の物(リアル)を選んだと言ったらどうなるんだろうか? お前達は捨てられたのだと言ったらどうなるんだろうか?

 

 彼ら、彼女らはもうお人形さんでは無いのだ。単なる拠点防御用の駒では無いのだ。

 

 自らの意志を持って動く事が出来る者達なのだから。そんな自分達の子供を悲しませる様な行為を進んでしたのなら、自分はビクトーリアに見捨てられるだろう。

 

 いや、最初の九人と呼ばれる前からずっと見守って来てくれた恩人から、アインズ・ウール・ゴウンと言うギルドは見捨てられるだろう。二度とビクトーリアを友と呼ぶ事が出来ないだろう。だからモモンガは嘘を吐き通す事を決めた。ただ努力だけはして行こうとも思う。あの照れ屋で優しい友人と共に歩んで行く為に。

 

 モモンガはそう決意をし口を開いた。

 

「アウラ、マーレよ、ビクトーリアさんの言う事は真実だ。だが少々誇張的でもある」

 

「「誇張、ですか?」」

 

 二人の声が重なる。

 モモンガは一度大きく頷くと

 

「そうだ、ビクトーリアさんの身体を封じた封印はYGGDRASILには無かった。それはお前達の居る世界の外、リアルと呼ばれる世界にあった。その世界はお前達の知っている至高の四十一人の姿、つまりはお前達が今見ているこのモモンガの姿では行けぬ場所にあった。そこで我らは一行を案じた。別の入れ物を用意し私以外の至高の四十人はリアルへと旅立ち封印を破る事にしたのだ」

 

 アウラとマーレの喉がゴクリと鳴った。

 

「しかし封印を見つける事が出来たが、それは非常に悪意に満ちた物だった。その封印はsyain と呼ばれる物で、そこから誰かが脱出に成功してもその中に誰かが入らなければ災厄が起こると言うものだった」

 

「「syain」」

 

 二人の額に汗が滲む。

 

「モモンガ様、syainを空にするとどのような災厄が?」

 

 アウラが質問を口にする。モモンガは顎に手をやると一泊置いて答える。

 

「各々、syain一つに対して一つの社会が破滅の危機に陥る。つまりは四十の社会が、四十の世界が破滅の危機を迎える」

 

「「!」」

 

「その為に皆は、ビクトーリアさんの身体の一部と引き換えにsyainへと身を捧げたのだ」

 

「で、では茶釜様達は……」

 

「生きていると言う事だ。だが、次元の壁は壊れ世界に帰還は不可能となった」

 

「それではビクトーリア様の言った血肉を食らったと言う言葉は……」

 

「自分が犠牲の上に成り立っていると言う意味だ」

 

 モモンガの言葉にアウラは言葉を失いマーレは茫然としていた。

 

 しばしの沈黙の後やっとの事でアウラは口から言葉を吐き出す。

 

「それほどまでにビクトーリア様は必要な方なのですか?」

 

「必要だ」

 

 モモンガははっきりとした言葉でそう言い切った。

 

 恐らくこれはアウラが言っている事とは意味が違うのだろう。だが、モモンガにとってビクトーリア・F・ホーエンハイムと言う人物は何よりも必要な人だった。

 

 誰も居なくなったナザリック地下大墳墓と言う場所で、何も語る事は無いNPC達との日々の中で、ただギルドとナザリック地下大墳墓を守る為に、維持をする為にすごしていた日々の中、連絡をくれ続けていたのは、冒険に誘い続けてくれていたのは、話し相手になってくれていたのは、笑いかけてくれていたのは、彼女一人だけだったのだから。

 

 だから断言できる。

 

 だから断言する。

 

「アウラ、マーレよ、あの方は、あの御方は、ナザリック地下大墳墓が王、煉獄の王ビクトーリア・F・ホーエンハイムである」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 モモンガが僕達と面接モドキを実行している同時間、ビクトーリアは執務室と呼ばれる部屋で遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)をいじっていた。

 

「こうかな? それとも……こう!」

 

 両手と上半身を使ってアレコレと試すその姿はお世辞にも上品とは言えず、まるでタコ踊りを踊っているようだった。

 そんな呑気に踊る彼女の背後から声がかかる。

 

「ビクトーリア様」

 

「なにかな?」

 

 背後から声をかける人物、それはナザリック地下大墳墓執事セバス・チャン。

 

「私が背後に居てあなた様は襲われるとは思わないのですか?」

 

「襲いたければ襲えば良い。私はそれだけの事をしたのだから」

 

 セバスの問いにビクトーリアは飄々と返した。まるで何の危機感も感じていない様に。セバスと言うNPCがそんな事を決してしないと知っているかの様に。

 

 その言葉を最後にビクトーリアの動きが止まり金色の瞳、その瞳孔が爬虫類を思わせる形に変わり遠隔視の鏡をじっと見つめる。急激な雰囲気の変化にセバスは疑問を持ちビクトーリアの背中越しに遠隔視の鏡を覗き見た。

 

「祭り、ですかな?」

 

 セバスは素直に見たままを口に出す。

 

 二人が見つめる遠隔視の鏡には小さな集落の中を走り回る人間達が写しだされていた。

 

 ビクトーリアはセバスの問いに小さな笑みをこぼすと

 

「違う。これは虐殺だ」

 

 小さな声で呟いた。

 

 セバスはコホンと咳払いを一つ吐くと

 

「いかがなされますか?」

 

 平坦な声で問いかける。その声には何の感情も込められておらず、ただ指示を待つ人形の様だった。

 

「セバス」

 

 凍える様な声色で自分の名前を呼びながらビクトーリアが振り返る。その姿は先ほどまでの気の抜けた様な姿では無く、遙か上位から見降ろす支配者の物だった。

 

 その爬虫類を思わせる黄金の瞳に射抜かれたセバスは身動きが取れなかった。いや、本能的とでも言えば良いのだろうか、セバスの中の何かが動いてはいけないと判断していた。

 

「セバスよ、お前がそれを言うのか? アレを見てナザリック地下大墳墓の誰でも無いお前が、お前の口が言うのか」

 

 そう言うとビクトーリアはアイテムボックスを開くとスクロールを一枚取り出し展開させる。その瞬間ビクトーリアの前に闇が浮かんだ。ゲートの魔法を発動させたのだ。

 

 その闇に向けビクトーリアが一歩を踏み出そうとしたその時。まさにその時

 

「御一人では危のう御座います。このセバス・チャン御供を務めさせて頂きます」

 

 そう言って胸に手を当て執事然とした礼をする。その言葉、その仕草を見たビクトーリアは嬉しそうに、心から喜びを表す様に

 

「許す。やはり彼の魂は君と有る様だ」

 

 そう言って微笑みを向けた。そして二人は闇へと歩み出した。

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