OVERLORD~王の帰還~   作:海野入鹿

61 / 115
新章開始
最初からかなり物騒な話です。


一顧傾国
終末の訪れ


 スレイン法国、首都ニース。だが、人々は首都とは呼ばず、聖地ニースと呼んでいた。

 

 南北、東西に大きな水路が十字に貫き、それを繋ぐ様に幾つもの小規模の水路が円環上に造られている。非常に水に恵まれた都市である。

 

 その中央には、城とも取れる、六つの塔で構成された神殿がそびえ立ち、街は非常に明るく、品物が溢れ、道行く人々は敬虔な六大神信者として、皆礼儀正しく暮らしている。

 

 その中央にそびえる神殿の、中心に位置する塔の上層階には、最高神官長の執務室がある。現在その部屋には、二人の人物が居た。一人は、この部屋の主人である最高神官長。もう一人は、スレイン法国の暗部、漆黒聖典の隊長だ。

 

「先ほども聞いたが、もう一度説明して貰えるか?」

 

 包帯でガッチリと固めた両手で頬杖をついた姿勢をとり、最高神官長は尋ねる。

 

 机を挟み、正面に立つ漆黒聖典隊長は、背筋を正し、微塵も億劫さを出さずに、口を開く。

 

「はい。破滅の(カタストロフ・)竜王(ドラゴン・ロード)捜索の下り、謎の吸血鬼(ヴァンパイア)と遭遇。戦いとなり、カイレ様が重傷。第八席次、巨盾万壁(きょじゅん ばんへき)、第九席次、神領縛鎖(しんりょう ばくさ)が死亡致しました。吸血鬼(ヴァンパイア)は、カイレ様の傾城傾国が命中。ですが、部隊の損害を鑑み撤退を選択致しました」

 

 最高神官長は、「うむ」と短く相槌を打つと、漆黒聖典隊長の手に握られた、古ぼけた槍を見つめた。

 

「お主程の者でも、その吸血鬼(ヴァンパイア)には対処出来なかったのか?」

 

「解りません。ただ、総当たり、と言う事であったなら……私一人の生存、と言う形で終われるかも知れません」

 

「………………神殺しの槍を持ってしてもか?」

 

「はい」

 

 最高神官長は、この言葉を受け暫し口を閉じ

 

「ならば、その槍は、神を殺す事が可能か?」

 

 突然、物騒な言葉を聞かされた漆黒聖典隊長は言葉を失う。言葉を発する事が出来ない眼の前の人物を見て、最高神官長は再び口を開いた。

 

「神、と言っても、我らが信仰する神ではない。その槍は、神を、煉獄の王を殺す事が可能か? と言う事だ」

 

 煉獄の王、と言う単語を出され、漆黒聖典隊長は、自身の腕にある槍を見つめる。

 

 その時、僅かに塔が揺れた。

 

「地揺れ、か?」

 

 そう最高神官長が推測をした時、下級神官が慌てて部屋に入って来た。

 

「何事か! ノックもせずにドアを開けるなど……」

 

 重罰物だ、と言葉を続けたかったのだが、下級神官はそれを許さないとでも言わんばかりに口を開く。

 

「し、神殿の地下で爆発が、謎の爆発が起こりました!」

 

「何! 異端(ニグン)が連れて来た魔法詠唱者(マジック・キャスター)の仕業か!」

 

「ち、違います。爆発と共に、何者かが侵入したと思われます!」

 

「――――」

 

 最高神官長は、再度何が起こったのか確認しようと口を開くが、それは、漆黒聖典隊長によって止められる。

 

「最高神官長様、今は現状の確認が先かと」

 

「解った。礼拝堂へ向かう」

 

「はっ!」

 

 返事を合図に、三人は階段を足早に降りて行った。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 最高神官長と、漆黒聖典隊長が急ぎ階段を降りると、その者は居た。

 

 神殿の一階部分、外と地続きの場所に巨大な空間があった。そこは、国民が礼拝する為の礼拝堂。入口は大きく、大人が五人横並びで入っても十分な余裕があるほどだ。奥には、六大神を祭る豪華なオーナメントが多数。石壁ゆえか、そのひんやりとした空気は、まさに神殿、神の住まう殿である。だが、今此処に流れる風は、災厄を運んで来たようだ。

 

 清らかだった空気は、鉄の匂いを含み、白く輝いていた壁は、所々赤い汚れが張り付き。敬虔な信者達が歩む床は、ドロリとした赤黒い液体が濡らしていた。

 

 漆黒聖典隊長は、最高神官長を庇う様に前へと歩み出る。一瞬、自分の眼に映る物が理解出来なかった。床は、首を胴を両断された死体で埋め尽くされているのだ。身に付けている物を確認すると、この場を守っていた神官戦士と思われる。その中には自分の部下、漆黒聖典のメンバーの姿も何人か見てとれた。

 

「漆黒聖典は何処(いずこ)におる。答えよ。まだ、屍が足りぬと申すか?」

 

 涼やかな声が礼拝堂に響く。漆黒聖典隊長は、声の主に視線を向ける。その者は、入口を背に立っていた。逆光であるが、はっきりとその姿は見てとれる。赤いドレスには、所々黒い染みが広がり、黄金の髪は、赤く濡れている。右手には棒の様な物を持ち、左手には何か丸い物をぶら下げている。

 

「漆黒聖典は何処(いずこ)におる」

 

 その者は、もう一度同じ言葉を繰り返した。

 

 喉がヒリヒリと乾く中、漆黒聖典隊長は名乗りを上げる。

 

「わ、私だ! 私が漆黒聖典隊長だ!」

 

 言い終わり、目の前の人物を睨みつける。その者は自分から視線を外し、壁際へと視線を向けていた。その視線を辿ってみる。そこには見知った顔の者が頷いていた。その者は最高次官ニグン・グリッド・ルーイン。異端者だ。

 

 漆黒聖典隊長は、全てを理解した。いや、目の前の人物が誰なのかを理解出来たと言った方が正確だ。

 

「こんな場所で、煉獄の王にお目通り願えるとは。今日は良い日、なのですかね?」

 

「さあの。うぬがそうであるならば………………土産じゃ」

 

 そう言って煉獄の王は左手を掲げる。その手にあった物は

 

「カ、カイレ様!」

 

 その首だった。

 

「な、何故に! 何故カイレ様を!」

 

 漆黒聖典隊長の声が荒い物へと変わる。

 

「何故? 何故じゃと。解らぬなら、解らぬまま死んで行け」

 

 その言葉を聞き終わるや否や、漆黒聖典隊長の腹部に、衝撃と痛みが走った。それが理解出来ぬまま、その身体は石壁に叩きつけられる。煉獄の王が持っていた頭部が投げつけられたのだ。息が詰まり、身動きがとれない。敵の足音は、ゆっくりとだが近付いて来る。死ぬのか?そんな疑問が脳裏をかすめる。その時、自分を呼ぶ声が聞こえた。

 

「隊長!」

 

 漆黒聖典第五席次の声だ。

 

「クワイエッセ?」

 

 その瞬間、礼拝堂が赤い光に包まれた。魔方陣の光だ。

 

 クワイエッセ・ハゼイア・クインティア。召喚魔法の使い手。その呼びかけに応え、場には三体のギガント・バジリスクが現れる。石化の視線、毒を持つ体液。戦士系の者ならば、強敵となるモンスター。

 

 クワイエッセは、モンスターに指示を出し、煉獄の王へと向ける。だが、囲まれているはずのその者は、息を乱す事無く右手の得物を振り下ろした。二度、三度振るうそれは、確実にギガント・バジリスクを捉える。僅か数分の後、一体は頭を潰され、一体は腹を裂かれ、もう一体は部位が解らぬほど破壊されていた。

 

 だが、煉獄の王の行動は、それで終わらなかった。手にした得物を、クワイエッセ目掛け投擲する。その得物は、クワイエッセの頭部を貫き、壁を破壊する事で行動を終える。残されたクワイエッセの胴体からは、真っ赤な鮮血が吹きあがり、礼拝堂を飾る噴水となった。

 

「ク、クワイエッセ!」

 

 叫びと共に、漆黒聖典隊長は自身の槍を煉獄の王へと向ける。突き出されたその切っ先を、僅かに身体を捻る事でかわすと、槍を持つ漆黒聖典隊長の右手首を掴む。

 

「な、何を!」

 

「何を、では無いわ」

 

 煉獄の王は、空いた左手で首筋を掴む。その瞬間、漆黒聖典隊長は浮遊感と窒息感に襲われる。煉獄の王は、その細腕で男一人を高々と持ち上げたのだ。拘束から逃れようと足をばたつかせ、もがいてみるが、その力は一行に弱まる事は無い。息が詰まり、意識が薄らぐ。力が抜け、その手に持つ槍が床へと落ちた。

 

 槍が床にぶつかる、カランと言う軽い音に反応し、意識が戻ったかの様に煉獄の王は、漆黒聖典隊長を投げ捨て、槍に手を掛けた。槍を手に、煉獄の王は、獲物を見定める様に礼拝堂の奥へと視線を向ける。薄暗がりのその場所には、腰を抜かしたのか尻もちを付く最高神官長の姿があった。

 

「そこに居ったか。この阿呆(あほう)が」

 

 そう呟くと、瞳に憎しみの色を浮かべ、槍を投げつけた。槍は、光の軌跡を残し、最高神官長の腹部を貫通し、背後の石壁を破壊する。

 

 そして、煉獄の王の視線は再び漆黒聖典隊長へ。ゆっくりとした動作で、その頭部を踏みつけた。ギリギリと万力の様に込められる力と痛みに、漆黒聖典隊長の意識が蘇る。

 

「うぬが、隊長じゃったな?」

 

「くっ!」

 

「質問しておるのじゃ。答えい」

 

「ぐっ! うっ!」

 

「答えい、と言うておる」

 

 そう言いながら、踏みつける足に力を込める。

 

「うぬが答えぬならば………………他の者に聞くまでじゃが」

 

 煉獄の王の言葉だけ取れば、実に平和的な物だ。だが、煉獄の王はこう言っているのだ。答えなければ………………殺戮を続けると。

 

 漆黒聖典隊長も、スレイン法国最強の部隊を率いる者。煉獄の王の言い分が解らぬ訳が無い。痛みと苦しみの中、何とか言葉を絞り出す。

 

「そ、そうだ! 私が隊長だ!」

 

「ふうん。左様、か。随分と妾の妹を可愛がってくれたそうじゃな」

 

 妹? 漆黒聖典隊長には、全く心当たりが無かった。それを見越した様に、煉獄の王は言葉を続ける。

 

「解らぬか。ならこう言えば良いかのう。うぬらが放置した吸血鬼(ヴァンパイア)の事じゃ」

 

「!」

 

「解った様じゃな。では、御機嫌よう」

 

 その言葉が、漆黒聖典隊長の聞いた最後の言葉だった。グシャリ、と言う不愉快な音を立て、煉獄の王の靴底は床に着く。赤い足跡を残し歩きながら、煉獄の王はニグンへ向け口を開く。

 

「ニグンよ、槍を持ってまいれ」

 

「畏まりました」

 

 ニグンは、床に散らばる人であった物など、意にも解さず足早に槍の下へと駆け出した。暫しの時間を有し、ニグンは煉獄の王の下へと帰参し、手に持つ槍をうやうやしく差し出す。それを手に取り

 

「コレとアレは、妾が頂く。異論は?」

 

「御心のままに」

 

「うむ、後は任せる。少しじゃが気は晴れた。そこらの物は蘇生させるなり、捨てるなり好きにせえ。では、またの」

 

 そう言って煉獄の王は展開した暗闇へと姿を消した。

 それを見送るニグンの顔には、歓喜の色が滲み出ていた。

 




ほぼ壊滅状態のスレイン法国。

だれが蘇生可能かは、次話以降で。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。