ビクトーリアのセリフ、及び地の文を一部変更致しました。
姿を現した人型を、リリー・マルレーンは興味深げに見つめていた。その行動は他の者達も同様であり、皆一様に視線をその人型へと集中している。
(ふむ。身体的には人間種と変ら無いな。乳房も二つだし……乳首も存在しているっと。手足の形状も同じ。顔つきも同様。違う個所わぁ…………頭部から生えた一対の羽。尾骶骨辺りから生える鳥の様な尻尾? くらいか? いや、意外に下の毛が濃いな。個人差か? まぁ、観察はこのくらいか。眼や歯なんかは目覚めてからしか解らんし)
人型を観察し終え、視線はレイナースへ。
「娘。蘇生は成功した。意識が戻るまで暫し待て」
「は、はい」
レイナースは緊張を滲ませながら、短く返事を返す。どれくらいの時間が経過したであろうか、人型が瞳を開いた時には、空は茜色を映していた。人型はゆっくりとその瞳を開く。瞳孔は髪と同じく黒であり、人間と変わり無く見える。特別夜目が利くようには見えない。しばらくは、蘇生の影響だろう、ボーっとしていたが、視界にレイナースを確認すると、意識が一気に覚醒する
「■■■■■■■■!」
敵を見定めた為か、人型、いやモンスターは金切り声を上げ威嚇行動を取った
「うるさいのぉ。鳥娘、少し黙らぬか」
「■■■■■■■■!」
「黙らぬか」
「■■■■■■■■!」
「黙れ」
「■■■■■■■■!」
「うるさいわぁぁぁぁ!」
リリー・マルレーンはモンスターの後頭部を掴むと、地面に叩きつける。いわゆる兜割り、と言うヤツだ。
「まったく、ピーチク、パーチク騒ぎよって、発情期か!」
リリー・マルレーンは憤慨しながらも、地に伏せるモンスターの前に腰を降ろす。
「こりゃ! 鳥娘よ、人語は解せるかや?」
「だ、誰だ……」
リリー・マルレーンの問いに、モンスターは言葉を返す。どうやら言葉は通じる様だ。
「誰だとは不作法じゃのう。まあ良い。妾はリリー・マルレーン」
「リリー・マルレーン? 知らない」
「そうじゃろうな。あまり名乗らぬ名じゃからな」
レイナースは寒気を覚えた。今目の前に居るスレイン法国 法皇は何と言ったのか? リリー・マルレーンと言う名をあまり名乗らぬ名前、と言った。では、この者は誰なのか? この者の真の名は?
それに、目の前のモンスターを易々と組み伏せた力。このモンスターは、人間で言う英雄の領域、難度九十には届かないであろうが帝国四騎士の自分がかなり手こずった相手だ。ギリギリの勝利と言っても良い。それを、ああも簡単に。レイナースの頭脳は、疑問で満たされて行く。しかし、現場はたえず前へと進む。
「鳥娘。名は何と言う?」
「………………シーリィ」
「ふむ。種族は?」
「………………セイレーン」
種族に対して自身の推測が当たり気を良くしたのか、リリー・マルレーンは満足げに何度も頷いた。
「さて、シーリィとやら。妾から一つ頼みがあるのじゃが……」
「断る」
「はぁ?」
「断る!」
リリー・マルレーンの眉がピクリと跳ねる。
「いやいや、話ぐらい聞いても……」
「断ると言っている!」
取り付く島も無いとは、まさにこの事だ。リリー・マルレーンの中で、何かがパチンと弾けた。
「下手に出ればふざけおって…………力で言う事を聞かせても良いのじゃぞ。ええぇ、この鳥がぁ!」
リリー・マルレーンの瞳が爬虫類を思わせるソレに変化し、バチバチと音を立てながら、その身に
そして、もう一人。シーリィの態度は一変する。今までの態度は何処へやら、膝を付き、頭を下げたのだ。そしてその瞳には、どこか崇高の色さえ見える。
「その雷。あ、あなたは……我らが神、
唇を震わせながら、シーリィはそう呟いた。
(サンダー・バード……リアル世界では、アメリカ大陸に伝わる伝承。雷を起こすとか、雷と共に現れるとか言われる、でっかい鳥だったはず。ゲーム内では……隠し種族である一つを除けば、ビクトーリアの最高種族 鳴神の解放クエストのボスだった。それだけだ)
リリー・マルレーンは「うーん」と唸りを漏らしながら答えを探るしかし、答えなど出様が無いのだ。ひとえに、セイレーンの風習、信仰を知らないのだから。だからこそ、リリー・マルレーンは素直に白状する事に決めた。嘘を言っても仕方が無い。
「えーとぉ、シーリィよ。妾は
「そんな! それほどの力持つ御方が、
シーリィは驚きを顕にする。セイレーンと言う種の中では、
「確か
「ま、まあの」
そう聞かれては、答えるしか無い。しかしこのタナトスの言は、場を好転させる切掛けとなる。
「
信じられないと、シーリィが呟く様に声を漏らした。
「その証拠として、ビクトーリア様は
(え? タナトスの奴、なんでそんな事言うの? それも自慢げに。あれか! 妾のナザリックでの地位が低すぎて、ストレスが溜まっていたのか? それとも放置しすぎてスネたか?)
リリー・マルレーンの思いなど周りの者達は露程も感じず、只々驚愕するばかりであった。
「うむ。それでじゃ、シーリィよ。もう一度聞くぞ? 妾の頼みを聞いてはくれぬか?」
リリー・マルレーンの言葉は優しく包み込む様であった。だがその視線は冷たく、それでいて鋭く、反論をしよう物ならその場で殺されそうな雰囲気を隠しもせず垂れ流す。最早脅し。悪党の手口だ。そんなプレッシャーに、この世界のLvの者が耐えられるはず無く、シーリィはうやむやの内に首を縦に振る事となった。
やっと場が収まった。さあこれからが本題だとリリー・マルレーンが口を開こうとした時、上空から羽音が響いた。それを一早く察知したタナトスは、上空を仰ぎ見る。
「ビクトーリア様、敵襲です」
「うん?」
続けてリリー・マルレーンも上空へと視線を向ける。茜色に染まる美しい空に、複数の異形の姿があった。言葉にするならば、それは三千世界の朱鴉か、それとも死肉に群がるハゲタカの群れ。上空を支配するその群れから、二体のモンスターが降下して来るのが見えた。徐々に高度を落として来るそれは、セイレーンだった。
「
そう言ったのは、アルビノだろうか白きセイレーン。その隣には雀の様な茶に白が混じった羽色のセイレーンが控えていた。その白きセイレーンの来訪に一番驚いたのは、シーリィ。
「サ、サイレン様!」
その呼びかけに、サイレンと呼ばれた白きセイレーンは一つ頷くと
「左様。どう言った経緯かは知らぬが、復活喜ばしい事」
「勿体なき御言葉、シーリィ感謝で身が引き裂かれる思いです」
鳥たちの会話が続く。リリー・マルレーン達は蚊帳の外。だが、それを良しとしない者がこの場には居た。
「何を勝手に囀っているのですか? 不敬ですよ」
タナトスが一歩前に出ると、そう言葉を放つ。この上からの言に、サイレンの眉がピクンと跳ねる。どうやら挑発と受け取った様だ
「低俗なる者よ、そなたこそ不敬である。我を誰と心得る」
「鳥の身分に興味はありません。いきがるのは、もっさりした下の毛だけにして頂けませんか?」
サイレンの白い肌に朱が混じる。それは羞恥からか、それとも怒りからか。
「そなた…………死にたいらしいな」
「死にたい? 何を言っておられるのです? 冗談はもっさりした下の毛だけにして頂きたいものです。そうですよね、ビクトーリア様」
タナトスからパスが渡される。しかしこれは、危険球である。
だが、リリー・マルレーンも引く事は出来ない。何故ならば、目の前のもっさりとした下の毛を持つ白いセイレーンの態度にイラッとしたからだ。DQNギルドのギルド長が聞いたら、何を言うと言われそうだが、上から目線の態度が気に入らないのだ。
「のう、もっさり下の毛。妾はそこの小鴉と話の途中じゃ、邪魔をするでない。黙っておれ」
「なんだと? 貴様こそ黙っていろ。我は
御互いの眉がピクンと跳ねる。
「ふふっ。無礼な口利きじゃのう。素直に引けば下の毛にトリートメントを施し、しっとり艶々にしてやるぞ」
「ふん。貴様こそ此処で引けば、我の抜け羽でそのみっともなく膨れ上がった乳を隠す物を進呈してやるが?」
「「良く言った。褒めて遣わす」」
二人の言葉が重なった。御互いに不快感を顕わにし、距離を縮めて行く。
「だいたい一族皆裸族とは、一体どう言う種族じゃ!」
「はん! そのような布切れを纏わねば身を守れぬとは、悲しき種族よ!」
その声を始まりの合図とし、お互いの顔面を拳が襲う。その勝者は、当然の事にリリー・マルレーンである。屈辱の中、尻もちをつかされたサイレンは怒号の様に、目の前の人物を探る。
「貴様は誰ぞ! 我を地に伏せるなぞ!」
怒りを顕わにするサイレンに対し、リリー・マルレーンはいつものいやらしい笑みを浮かべると
「妾が何者か、じゃと? 知れたことよ、うぬを折檻する調教師よ!」
言って倒れるサイレンの両足を掴むと、自身の足を絡みつかせる。フィギィア・フォー・レッグロック。古典的な間接技、四の字固めである。
「■■■■■■■■!」
サイレンは声にならない叫び声を上げる。過去に味わった事の無い痛みの為である。刺された事はある。切られた事も、殴られた事も。だが、この痛みは別種の物だ。じわじわと骨が軋む痛み。その事が解っているのか、リリー・マルレーンは徐々に腰を浮かせ絞りをきつくさせて行く。同時に、侮蔑の言葉を掛ける事も忘れずに。
「ほーれ、ほーれ、早よう解かんと骨が折れるぞ。下の毛を剃って謝罪するならば、許してやるぞよ」
「だ、誰が!」
「強情じゃのう」
リリー・マルレーンはそう呟くと、サイレンの左足をロックしていた自身の左足を僅かに浮かせると、その踵でサイレンのふとももを蹴りつける。
「ぎぃ!」
「ほーれほーれ」と軽口を叩きながら、何度も蹴りつける。
「き、貴様、卑怯ぞ!」
懇願とも取れる非難の言葉に、リリー・マルレーンはさらに笑顔を増し
「卑怯で何が悪い。こう言う戦い方もあると知らぬうぬが悪いのじゃ!」
爪先程も悪びれず、言葉を返す。羽をばたつかせ、痛みを堪えながら何とか脱出を図ろうとするサイレンに、同族から応援の声がかけられる。
「サイレン様!」
「頑張って下さい、サイレン様!」
方やリリー・マルレーンサイドのタナトスは、安心したかの様に冷静に声を掛ける。
「まだ甘い様です。ビクトーリア様、もっと締め上げた方がよろしいかと」
そんなやり取りが交わされる中、リリー・マルレーンは溜息を一つ吐く。このまま締め上げても、サイレンは負けを認めないと言う考えに行きついたのだ。
リリー・マルレーンは足の拘束を解く。サイレンはチャンスと見るが、足が痺れ上手く身体が動かない。それを承知とリリー・マルレーンは再度サイレンの足を取ると、左足、右腕、右足、左腕と重ねて行く。その行動が終了すると、サイレンをコロンと転がした。
「!」
サイレンには何が起こっているのか理解出来ない。自身は解放されたはずなのだ。だが、身動きが一切出来ない。土下座する様に転がされたまま動けないのだ。麻痺系の魔法か?最初サイレンはそう思った。だが違う。指先や片口、顔の表情筋などは動くのだ。例えるのならば、縄で縛り上げられた様な感覚だ。
「き、貴様! 一体何をした!」
「うん? 妾は何もしておらんぞ。うぬは自分の体重で動けんだけじゃ。惨めじゃのぉ」
そう言ってカラカラと笑う。リリー・マルレーンが仕掛けた技、それはパラダイス・ロックと呼ばれる意地の悪い固め技。リリー・マルレーンはサイレンが動けないのを確認すると、その背中に跨り、サイレンの白く張りのある尻をペチペチと叩く。その虐めるような行為はエスカレートして行き、最後には8ビートを刻む。
「ク、クソッ!」
「ふふふーん。悔しいじゃろぉ。妾は楽しいぞぉ。止めてほしかったら、負けを認め、妾の言う事を聞くのじゃ。どうじゃ?」
「だ、誰が!」
尚も反抗するサイレン。そんな事などお見通しだと、リリー・マルレーンの白魚の様な指はサイレンの尻たぶを掴む。
「何を!」
サイレンはすぐに反応する。
「うん? 反抗的な鳥の尻を開いて、皆に見て貰おうと思うてなぁ。楽しいぞー。新たなる性癖の世界へレッツ・ゴー!」
そう言って指に力を込める。
「解った! 我の負けだ! 貴様に、貴方様に従う! 止めて! もう止めて!」
セイレーンの女王、サイレンは煉獄の王の軍門に下る事になった。
全く酷い話である。
セイレーン種族の容姿は、デビルマンのシレーヌに酷使した物です。
遊戯王などのハーピーが腕に翼であった為、近親主のセイレーンはこうしました。竪琴を弾くと言う逸話もありますし。
男女比50対1で、ほぼ女性となっております。
当然サイレンも娘さんです。
感想お待ちしております。